第79話 天国にて
アイドルサマーライブの最後の挨拶で雪子は心臓病が悪化し、そのまま息を引き取ってしまった。
雪子は亡くなってからすぐ身体が宙に浮いているような感覚になり、痛みも全く感じなくなる。
雪子は周りを見渡し、さくらたちが雪子の死を悲しんでいるのが見え、雪子は『自分は死んだんだ……』と自覚するようになる。
「あなたが白銀雪子さんですね。天国からお迎えに来ました」
「あなたは……天使さんですか?」
「亡くなられた方はみんなそう呼ぶか、あるいは死神と呼びますね。ですが私はただの神の使いです。あなたに会いたがっている人がいます。私について来てください」
「はい」
自分の死を悲しんでいると神の使いが雪子のところへ迎えに来て雪子の左手を引き、ゆっくりと天に昇っていく。
少し時間が経ち着いた場所は美しく澄んでいる川があり、世界中から死者がその川を渡っていた。
死者の胸には白い魂と黒い魂があり、それぞれ川を見た反応があった。
「なんて美しい川なんだ……。こんな川は見たことないや……」
「ああ? 俺には汚え川にしか見えねえがな……。しかもこの臭いはなんだってんだよ!」
「あの、どうして人によってこの川を見た時の反応が違うのですか?」
「あれは人間界で言う三途の川です。魂が清く白い者には美しく心地よい川に見え、魂が穢れて黒い者には汚く不愉快な川に見えるのです。あなたはこの川をどう思いましたか?」
「とても澄んでいて美しいです」
「さすが雪子さん、あなたの魂は白く、そして心が清い方です。ではあなたは死者なのでもう一つ案内したいところがあります。ついて来てください」
神の使者は三途の川で雪子を試し、雪子の魂が白くて純粋であることがわかった。
神の使者は雪子のある施設へと案内し、そこにはまるで映画館のような建物があった。
「ここは……?」
「ここは亡くなられた人間がこの世で行った事や、心に思った事を鏡に映し出す、現代でいう『その人の人生』という名の映画を本人に見せるものです」
「閻魔王による最後の裁判に近いものでしょうか?」
「その通りです。ただ今は閻魔王はこのやり方では現代に合わないとし、このような映画館の形にしています。ただあなたは特例でここを通過してもらいます」
「どういう事でしょうか……?」
「詳しくはあなたに会いたいと仰った方に聞くといいでしょう。彼女は天国のさらに高いところにいます。私の手を握り、力を抜いて宙に浮くことを想像してください」
「わかりました。では――」
人生という名の映画を見ることで自分が死後、天国か地獄の行先を決める最後の裁判をする場所へ案内され、雪子は自分もこの映画を見るのではないかと覚悟をした。
しかし特例で人生という映画を見ることなく天国へ行くことになり、神の使者の手を握って天国よりも上の世界へ行きたいと魂から強く願う。
重力に逆らうのではなく心を無にし、無駄な考えを捨てて天国より上の世界へ行きたいという純粋な気持ちでい続けることで雪子は一気に昇っていった。
上に昇るほど光が眩しくなり、雪子は心が浄化されていくような気持ちになる。
「着きました。あなたに会いたがっている方は、おそらくあなたもよくご存じでしょう。あちらで歌声を披露しているのがあなたの母親である、シロガネ・ビアンコです」
天国よりも高次元の天国へ着き、神の使者が雪子にシロガネという女性に会わせる。
シロガネは今も歌い続けていて、雪子は歌声を聴いて何かを思い出す。
「この声はもしかして……!? お母さま!?」
「その声は……雪子? 雪子なの!?」
「お母さまっ!」
シロガネはなんと雪子の亡くなった母親で、母子の再会で雪子は子どものように甘え抱きついた。
雪子は今まで母親に会えなかった寂しさを出し、シロガネは雪子の成長を喜んで頭を撫でる。
「こんなに大きくなって……! 成長したのね……!」
「シロガネさま、私はこれにて失礼します」
「ええ、ありがとう」
「お母さま……申し訳ありません……。私にはまだやるべきことがあるのに……この世を去ってしまいました……!」
「そう……でももう大丈夫よ。あなたは私の想像よりも成長したのだから。あんなに心臓が弱かった雪子が14年以上も生きていてくれた。それだけでも立派な事よ」
「お母さま……!」
雪子は自分に何か使命があることを知りながら死んでしまったことをシロガネに泣きながら謝罪し、シロガネは体が弱かった雪子が14年も生きてくれたことを労う。
「さっき歌っていた歌をあなたは覚えてる?」
「はい。いつも私に歌ってくださった子守歌ですね。懐かしさのあまりに飛び出してしまいました」
「この歌はね、実は私がいた国では聖歌なの。この歌を聞いた人は悪しき心が浄化され、心の闇をなくすといわれている古い歌なのよ」
「え……? でもその歌は教科書にも載ってませんが……?」
「それもそのはずよ。あなたやお父さんが生まれた世界の歌じゃないもの。私は異世界の人間で、王族の王女だったのよ」
「どういう事ですか……?」
シロガネは人間界の人間ではないことを雪子に話し、雪子は整理がつかずに困惑する。
何も知らない雪子に優しくため息をついたシロガネは、今まで起こったことを説明する。
「この歌はね、私が生まれる何千年も前に絶望の女王が世界を絶望に陥れたの。ところが神様が『そうはさせまい』と絶望の女王を地獄に封印し、7人の使徒に聖歌を与えて封印を維持させたの。その神様の末裔が――レインボーランドの王族よ」
「それってさくらさんたちが救った異世界ですね。という事はお母さまは……!?」
「ええ、そうよ。元モノクロ団の総帥モノクローヌが絶望の女王にそそのかされて封印を解き、洗脳されて王国を襲ったの。それを弟である今の王さま、ビアンコ王から神話を聞き、私はプラスエネルギーが強く、いつかトップに立てる逸材である人間なら止められると考え、黒田純子を選んだ。アルコバレーノが過去を解くまでモノクロ族の末裔だったなんて思わなかったけれどね。だけど結果は残念ながら止められず、私はこれ以上被害を大きくしないために命を犠牲に封印した。そして私は死んだのよ」
「そうだったんですか……。ではお父さまとはどうやって知り合い、結ばれたのですか?」
「私はあの時、レインボーランドに災いが訪れるって予感がして、異世界に王家の血を残すことで災いに対抗できるって思い、今は亡き私のお父様に勇気を出して『異世界に旅をしたい』と言ったの。そしたらすぐに許してくださったわ。異世界に行った私は不安ばかりで、その不安を拭うためにいつもあの聖歌を歌っていたの。その時にあなたのお父さんは私の歌を聴いて一目惚れして、彼が作曲した歌を歌わせてくれたわ。あの時彼は大きなスランプに陥って、作曲家を引退しようとまで考えていたの。それを見て私は『この人の支えになるのなら歌い続けたい』って思ったの。そしてお父さんと結ばれ、あなたを妊娠し、あなたがこの世に生まれた。そしていつ来るかわからない絶望の女王の襲来に備え、あの聖歌を子守歌として覚えてもらった。雪子、あなたはレインボーランドだけでなく、人間界に降り注ぐ災いから守る最後の希望なのよ」
シロガネはこれまでの出来事を全て話し、雪子には大きな使命があることを雪子は知る。
シロガネは純子とパートナーだった、それだけでも驚く事実だが歴史は今までつながっていたのだ。
それも絶望の女王、アンゴル・モアの討伐をするという使命を雪子は背負うことになる。
「そうだったのですね。今の話を聞いてようやく私の使命がわかりました。でも……私は心臓病で死んだはずでは……?」
「確かにあなたは死んだという形になったけれど、本当に死んで天国へ還るのは今じゃなさそうね。今あなたの身体が徐々に重くなっているでしょう?」
「確かに身体が少し重いような……」
「あなたはアルコバレーノを支える使命があるの。だからお母さんとは一旦お別れね。あなたが本当に死んだ時、また会いましょう」
シロガネは雪子の死は今じゃないと言い、雪子は一瞬困惑したが、徐々に体が重くなっていくのがわかった。
すると雪子は体がズシンと重くなり、下へと引きずりおろされるように這いつくばる。
雪子はシロガネとの別れが寂しくなり、涙を流しながら別れを告げる。
「お母さま! 本当は別れたくないのですが……与えられた使命のために絶望の女王を倒してみせます! だから……この天国で見守っていてください!」
「そこまで言えるほどにたくましくなって……。別れるのが名残惜しいわね……。さぁもうお別れよ。あなたの心臓の病気は特別な力でなくなったはずよ。また会いましょう、雪子」
「はい! その時はまた、歌を聴かせたり抱きしめてください!」
シロガネから雪子の心臓病は克服したと聞き、雪子はその言葉を聞いて安心したのか笑顔を浮かべて別れを告げる。
同時に使命を果たすと約束を交わし、自分はまだ生きてもいいんだと希望を持つようになった。
使命を知り役目を果たすべく、雪子はこの世に戻るのだった。
「目覚めなさい白銀雪子。汝の使命を果たすために……目覚めなさい――」
「ううっ……! この声は一体……!?」
雪子の耳に温かく優しい女性の声が聞こえ、雪子はこの世へと戻っていった。
シロガネは雪子を優しく見送り、雪子の姿が消えると上を見上げる。
「平和の女神、エイレーネ様……。成すべき使命を果たしました。どうかあの子に……あなたのご加護がありますように――」
シロガネは雪子の無事と安全、そして使命を果たして平和を取り戻すことを平和の女神エイレーネに願う。
雪子はこの世に戻りながらさくらたちに天国デキた話をすべて話そうと心に誓った。
こちらは雪子が亡くなった病院、さくらたちは霊安室で雪子を供養し、泣きながら雪子の死を悲しんでいた。
病院の先生と看護師も申し訳なさそうにさくらたちを慰め、雪子のために生きていこうと誓ったのだ。
その瞬間、雪子が眠っている棺から物音がし、安全のために先生が中を確認する。
「白銀さん以外は入れてないはずだから物音なんてありえないんだが……どうなってっるんだ?」
「先生、何かわかりましたか?」
「そんな……! これは奇跡だ……! 意識が戻っているぞ!」
「えっ……!?」
先生が雪子の意識が戻ったことを確認し、驚いたさくらたちは雪子の棺を囲って確認する。
「雪子……ちゃん……?」
「さくら……さん……。ただいま……戻りました……」
「嘘……? 雪子ちゃんが……生き返った……の……?」
「はい……。ご迷惑おかけしました……」
「白銀さん……!? あなた……生き返ったのね!」
「社長……ご迷惑をおかけしました……」
「よかった……! 本当によかった……!」
「皆さん、念のため白銀さんの体を精密検査します。おそらく臨死体験をしたのだろうから精神科でカウンセリングもします。皆さんもお付き合いください」
「もちろんです! ありがとうございました!」
雪子は息を吹き返し、奇跡的に生き返ることができた。
さくらたちは雪子に何があったのかは知らないが、雪子は自分の使命と今後訪れる最悪の事態を知り、さくらたちにいずれ伝えなければならない。
純子は検査を待っている間に仕事で離れている晃一郎と澄香に連絡し、晃一郎に至っては試合中だったのでベンチで男泣きをしたそうだ。
雪子の完全復活に事務所のみんなは喜び、もう一度アイドル活動をするのでした。
つづく!




