第78話 アイドルサマーライブ
8月末さいたまスーパーアリーナにて、アイドルサマーライブが行われる。
アルコバレーノはアイドルサマーライブのためにレッスンを重ね続けてきた。
他にも新暦のトップアイドルグループであるSBY48。
京都のローカルからメジャーデビューし欧米で人気の月光花。
全員幼なじみのガールズバンド系アイドルのアフタースクールズ。
かつて日本で一番人気だった古豪のスマイリング娘。という人気グループが勢ぞろいする。
ソロでは雪子や茶山、暁子も出演し、元暴走族で不良に人気のアイドル藤沢拓海なども数多く出演する。
楽屋の中でみんなとワイワイ話し、合図を誰が仕切るかの話をする。
「ここはやっぱりSBY48のセンターであるあかりちゃんがいいって思うよ」
「私はさくらちゃんがいいかなって思うよ。あの厳しい戦いを乗り越えたんだから」
「このままでは二人の譲り合いが終わらんぞ」
「あかりさんも遠慮しやすいですから」
「一生終わんねぇから、いっそのことじゃんけんにしたら? 負けた人が合図を仕切るってのがいいな」
「そうするね。いくよ、じゃんけん――」
「「ポン!」」
さくらがチョキを出し、あかりがパーを出してさくらが勝利する。
「負けちゃった」
「それじゃあ合図をお願いします、あかりちゃん」
「わかった。それじゃあ――私が『アイドルー!』って叫んだら、みんなは『サマーライブ!』って叫んでね。円陣組んで右手をVサインにして円を作り、そのまま頭の上まで手をブイサインのまま上げてね。いくよ! アイドルー――」
「「「「サマーラーイブ!」」」」
最後を飾るSBY48のあかりが合図を仕切り、先頭である今川メイドリーミングが双子姉妹の息の合った歌声で魅了する。
綺麗なハモリとお菓子をプレゼントするというサプライズで、今川メイドリーミングというメイドらしい夢を与えた。
次の藤沢拓海はいきなりバイクの大道具に乗って大きな旗を掲げてステージに立つ。
ファンの中にはたくさんの不良の『姉御ー!』という叫び声が聞こえ、暴走族の仲間だった人も今は更生してファンクラブの設営をしていた。
「先輩、いっちょ派手にいきましょう!」
「うん……。見てて……」
「いってらっしゃい♪」
茶山の番が回り、さくらたちは茶山とハイタッチをしながら見送る。
茶山はポーカーフェイスだが口元は微笑んでいて、このライブが楽しみで仕方なかったのだ。
「彼女が茶山くるみさんだね。先輩方から話を伺ったよ」
「そうなんだよ。あかりわかってんじゃんか」
「彼女のアイドルとしての才能は『SBY48の歴代最強メンバーが束になっても勝てない』って言われてたんだ。同い年だけどすごいなって思う」
「そんなすごい人が先輩ってアルコバレーノヤバすぎ!」
SBY48のギャルアイドルの板野麻里奈、清純派アイドルのあかり、永遠のセンターと言われている天才の秋山加奈子がさくらたちに声をかけ、茶山がどれだけ偉大なのかを知る。
茶山はステージで何かコソコソしていて、観客はなんのことかわからずサイリウムを一瞬振るのをやめる。
「おおっ! 先輩がクラッカー鳴らしてお客さんに紙吹雪を!」
「サプライズ好きは社長そっくりですね♪」
茶山はポケットからクラッカーを取り出し、客席に向かってクラッカーを鳴らす。
茶山は純子に負けないくらいのサプライズ好きで、観客をどれだけ喜ばせるかをずっと考えていたようだ。
あらゆる音楽の先輩方のライブを参考にし、世界中を回ってライブを数多くこなしようやく天才と呼ばれるようになった経緯がある。
今までの努力と好きという気持ちでソロではトップになり、アルコバレーノの憧れのアイドルの一人でもある。
アフタースクールズのパフォーマンスでは日野鈴香がボーカルギター、沖田つかさがリーダーでベースを担当する。
二人を中心に5人で活動し、幼なじみの仲のよさと息の合ったパフォーマンスで深い絆を感じるライブだった。
他にもそれぞれの学校からスクールアイドル、ネット界で活躍するネットアイドル、外国から海を渡った外国のアイドルなど世界中のアイドルが集結してライブは盛り上がった。
「遅くなってごめんなさい! チェリーブロッサムです!」
「ああ、海外ツアーから帰ってきたんですね! 早速ですが衣装にお着替えください!」
「わかりました!」
さくらたちは楽屋で待機していると関係者専用の出入り口からさくらにとって聞き慣れた声が聞こえる。
そこにはかつて世界中を沸かせた姉妹デュエットで、世界一のアイドルとして伝説を残したチェリーブロッサムの二人だった。
「お母さん! 花音叔母さんも間に合ったんだね!」
「さくら! また会えて嬉しいわ!」
「えっ!? チェリーブロッサムもゲストだったの!?」
「嘘ぉっ!? ボクそんなの聞いてないよ!」
「ごめんね。実はファンだけじゃなく出演者全員をサプライズしようってなったの。私が推薦したんだけど、まさか本当に採用されるなんて思わなかったよ」
チェリーブロッサムの出演は出演者の誰も聞いておらず、知っていたのはさくらのみだった。
実は伝説のアイドルとして名を馳せたチェリーブロッサムを推薦していたのはさくら自身で、あの伝説をもう一度世界中に届けたいと思って推薦したのだ。
「何だ、お前もサプライズするようになったな!」
「チェリーブロッサムの次とは……恐れ多いですね」
「雪子ちゃんなら大丈夫。お母さんたちも雪子ちゃんの事を注目してたんだよ」
「そうなんですか……?」
「あなたが氷のソプラノ姫の白銀雪子ちゃんね。さくらちゃんから聞いているわ。あなたの美しい歌声、期待しているね」
「はい……!」
さくらの母である花恋のエールに雪子は恐縮していて、どれほど偉大なアイドルだったかがわかった。
チェリーブロッサムがサプライズで登場するとアリーナはしばらくざわつき、慌ててピンク一色にしていた。
伝説のアイドルが帰ってきたとなると会場は過去一の盛り上がりを見せていた。
楽屋や待機室でもその様子が見られ、出演者たちも嬉しそうに目をキラキラしながら見ていた。
歌い終えると雪子がいつもの発声練習をし、堂々とステージに立つ。
声楽で世界を経験している雪子はマイクを持たずにアドリブでオペラ風の歌を披露する。
「何あの子……! めっちゃ歌が上手い……!」
「あんな子今までいたか……!?」
「白銀雪子……覚えておこう!」
雪子はオペラ風の歌声でインパクトを残し、会場は白一色に染まっていた。
ネットでは『オペラ歌手のようなアイドル現る』と話題になっており、世界中で大きな話題を呼んでいた。
晃一郎の妹で女子高校野球選手の二刀流をしている暁子もパワフルな歌声と持ち前の運動神経を活かしたダンス、さらにコールアンドレスポンスの声量が大きく、観客も負けじと声を出すなど熱くさせていた。
そしてライブも最後に近づきスマイリング娘。と月光花のパフォーマンスを終え、アルコバレーノの番が来る。
「みんな、殺陣は練習したかしら?」
「まぁ、アタシたちがモノクロ団と戦った時の動きだぜ」
「確かにそうですね。でも……それを攻撃ではなくダンスで見せるのははじめてですね♪」
「ファンのみんなをいっぱい笑顔にしようね!」
「それじゃあいくよ! 希望を導く7つの光! 輝け!」
「「「アルコバレーノ!」」」
アルコバレーノは結婚式で歌ったあの曲とモノクロ団との戦いをモチーフにした健太が作曲したアルコバレーノの応援歌、新曲であるほむらがセンターを務める夏の高校野球の青春ソングを歌った。
この曲は男子だけでなく女子高校野球の夏の甲子園をモチーフとしていて、暁子が一年生ながらエースに選ばれたことで作られ、女子高校野球の甲子園で活躍するように応援するためのものだ。
暁子は控室ですぐに自分への応援歌だとわかり、お守りとして持ってきたグラブを手にはめて型をつけて気合を入れる。
最後のSBY48は48人という圧倒的人数でファンを魅了し会場は大熱狂だ。
ライブを終えるといつものアンコールが響き渡り、シークレットゲストを除く出演者全員がアイドルサマーライブのTシャツに着替えてステージまで走る。
ライブのテーマは未来がテーマで、未来のためにみんなで革命を起こすというのがモチーフになっている。
そのテーマソングを歌い終え、一人ずつファンのみんなに感謝を込めて一言マイクに込める。
順番にファンにお礼を言い、雪子の番になる。
「次は白銀さんです――白銀さん……?」
「はぁ……はぁ……!」
「白銀さん……! まさか……!?」
「雪子ちゃん!」
「しっかりしろ! 誰か救急車を呼ぶんだ!」
「皆さん落ち着いてください! 白銀さんは今、体調を崩してしまい、病院まで搬送します!」
「まさか持病が悪化した……!? 雪子ちゃん! しっかりして!」
雪子にマイクが渡ると突然雪子は呼吸が乱れ、ステージ上で倒れ込んだ。
雪子の容体は悪化し、強く左胸を押さえていた。
医者を目指していた海美はすぐに持病の心臓病とわかり、雪子の体を心配して声をかけ応急処置をする。
最近は落ち着いていてたくさん仕事をこなしていたが、ハードなスケジュールで無理が祟り心臓に負担をかけていた。
雪子のお世話係だったアルコバレーノはライブの残りを他の出演者に託してマネージャーに昇格した澄香に報告する。
澄香が純子に電話で報告し、緊急事態でアルコバレーノは付き添いに入る。
するとすぐに救急救命士が到着し、急いで救急車に乗り近くの救急病院へ運ばれた。
そして雪子の緊急治療が行われた。
遅れて晃一郎と純子が駆けつけ、雪子を心配して病院から帰らずに見守った。
それから3日が経ち、雪子は集中治療室へ移動し容体の様子を見る。
「黒田さん、白銀雪子さんの件ですが……。残念ですが、ご臨終です……」
「嘘……!? そんな……!」
雪子はそのまま帰らぬ人となり、さくらたちはショックで涙を流した。
病院の先生は精一杯治そうと頑張ったが、雪子の意識が戻ることなく亡くなったのだ。
「俺がスカウトしたせいだ……! 俺のせいであの子はかなり無理をしてしまったんだ……! あの時に世界を掴もうなんて言わなければ! 俺のせいで……俺のせいでっ!!」
「あなたは悪くありませんっ! あなたが白銀さんと出会ったから彼女はここまで来れましたし、悔いのないように努力してこられました……。だから自分を責めないでください……」
「澄香……」
「晃一郎くん、あなたが彼女を見つけていなければ彼女はきっと孤独死していたかもしれないわ。あなたが彼女を見つけたから、心臓も持ちこたえたはずよ」
「社長……はい……。取り乱してすみませんでした……」
「誰だってスカウトした本人ならそう思うのも無理もないわ……。最後に決断したのも私なのだから……私にも責任はあるもの……」
雪子をスカウトした晃一郎は自分のせいで雪子を死なせてしまったと自分を激しく責め、怒りと悲しみを自分自身に向けて取り乱れる。
澄香は晃一郎を慰めるために押さえ、晃一郎は澄香の言葉に冷静さを取り戻した。
純子は雪子と出会わなかったらもっと早く亡くなったかもしれないと諭し、晃一郎は悔しがりながらも落ち着く。
最後の判断を下した純子も自分を責め、雪子の死に純子たちは責任を感じてしまう。
しかし悲しんでいても雪子は生き返ることはない。
さくらたちは雪子の隣で悲しみのあまりにわんわん泣き、雪子の死を悲しんだ。
つづく!




