第74話 新たな一歩
アルコバレーノはお笑いコンビの通天閣の新番組からオファーが来て、最初の出演者になる。
その番組は通天閣が選んだタレントの一度やりたかったことをテレビを通じてやってもらうという番組で、その光景を動画にする。
さくらたちは中学卒業記念に去年出来なかったカラオケオフ会をすることになり、溝の口のカラオケの達人で予約しカメラ越しに歌う。
コミュニケーションを取るために雪子と先輩である茶山も誘い、7人が9人になってより賑やかになりそうだ。
残念ながら暁子は翌日が大事な試合で調整があるらしく欠席となった。
そしてついに、収録の時が来た。
「さあ始まりました!通天閣の――」
「『やりたい事やってみよう!』」
「この番組は私たちが選んだタレントさんが、挑戦したかった事、出来なかった事、もう一度したい事、企画があって進めたい事をテレビの前の皆さんにお送りする番組です!」
「いやぁワイもやりたい事あんねんけどなぁー」
「それは何や?」
「結婚や」
「いや嫁も子もおるやんけ!」
「「「あははははははw!」」」
「まぁそんなボケはさておき、今回の最初のゲストは、ワイら日本人にとっての誇りである魔法少女アイドルの――」
「アルコバレーノさんです!」
『はーい! 私たち――』
『『アルコバレーノです!』』
『茶山くるみです……』
『えっと……白銀雪子です』
「おお、先輩と後輩も誘ったんか。本当に仲ええなぁ」
『私たちは今カラオケの達人溝の口支店のカウンターにいます』
『今回のルールはわたくしたちがデビューする以前の曲のみ歌います』
『そしてこのカラオケを私たちがたくさんの歌を歌うところを見てもらいます』
『茶山先輩、雪子ちゃん、今日はよろしくお願いします』
『うん……。よろしく……』
『よろしくお願いします!』
カラオケの達人溝の口支店で中継が入り、アルコバレーノと茶山と雪子の9人でカラオケが始まる。
雪子は偉大な先輩たちに囲まれて緊張しているが、リラックスするように上下関係はナシと事前に話しているので雪子も少しはやりやすそうだった。
中継を繋いでいると順番がやってきて店員が海美を呼ぶ。
「お待ちの青井海美さーん、お待たせしましたー」
「では早速、中に入ります」
海美は受付を済ませて部屋番号を渡され、その番号のある階に移動する。
702号室に移動し、中の広いカラオケルームに圧倒された。
ここでデビュー前からあった曲を歌うのだが、テレビ番組という事で特別ルールがあった。
それは――
『そういや今回番組だから特別ルールがあるらしいな。青井さん、教えてくれまっか?』
「はい、今回の特別ルールは、カラオケの採点とリアルタイム視聴者さんの投票で、100点満点中の合計平均点数を競うゲーム式です。優勝したらそれぞれにあった豪華賞品があります。なお最下位の場合は、カラオケのフリータイム料金全員分を払ってもらいます」
「うわぁ……負けられないな」
「絶対に優勝するぞ」
「負けない……」
「それではオフ会――」
「「「スタート!」」」
オフ会が始まり、先頭を切るのはほむらだった。
「まずはアタシが先頭をいくぜ!」
「ロックかな? いつものハードロックかな?」
「いいえ、これは……」
「まさかの球団歌!?」
「へへっ、横浜ハムスターズの球団歌、『星の戦士たち』を歌うぜ!」
「僕たち横浜ハムスターズも歌います」
「うわっ! ビックリした!」
ほむらはプロ野球の球団歌を歌い、自分のキーに合わせて熱唱する。
『この番組で歌うから一瞬だけでも来てほしい』とほむらから事前に教えられた横浜ハムスターズの主力選手たちが突然駆けつけ、特別ゲストとして一緒に歌った。
次にみどりの『恋の色は淡い色』というフォークソングを歌い、母親世代より前の世代の雰囲気が溢れていた。
千秋は大好きなDJ☆AIKOの『コスモス☆スター』を歌い、いつものボイスチェンジで可愛く歌う。
ゆかりはいつもの演歌ではなく、和楽器とバンドを活かしたボーカリスト、前田圭次の『吹雪』という曲を熱唱する。
雪子は西暦時代のクラシック、シューベルト作曲の『魔王』を高らかに歌い、レベルの高さを感じさせた。
茶山は持ち歌ではなく童謡の『いぬのおまわりさん』を優しく歌い、いつもの無表情が小さい子どもを相手にするような優しい笑顔を浮かべる。
海美はアニメソングにもなったバラード、『その瞳を閉じて…』を歌い、聴いた人を魅了する声で恋を歌う。
橙子は歌ではなくラップを披露し、ヒップホップで紅白にも出た|Passion boyzの『頑張リーヨ10代』で得意の押韻と節回しを使い、暫定一位の高得点を取った。
さくらの番になり、さくらが入れた曲は――
「最後はさくらの番だ。どの曲を歌うか楽しみだぞ」
「もしかしてお母さんの曲かしら?」
「うん、チェリーブロッサムの名曲の『微笑み』だよ」
「この曲は歌手に転向する前であるアイドル時代最後の曲ですね。さくらさんがまさかチェリーブロッサムの血を引いていたなんて……」
「彼女の歌をよく聴いてて……」
「それじゃあいきます!」
さくらは自分の母と叔母がかつて組んでいたアイドルユニット曲の振り付けを完璧に躍り、歌も感情をいっぱい込める。
あまりにも完璧で通天閣の二人も『チェリーブロッサムの再来』と騒ぐほどだった。
さくらが歌い終えると、順番で次の曲でまた精一杯楽しく歌う。
雪子の声楽の時とポップスの時の発声が上手く変わっていて、アイドルと声楽の二刀流アイドルはダテではないとスタジオを震わせていた。
他のみんなも厳しいレッスンのためか最初の頃よりもレベルが上がっていて、アイドルのレベルは年々上がっていた。
そしてついに、最後の結果発表の時が来た。
「ほな集計が終えた様やで! 結果発表といきましょか!」
「まず第8位――紫吹ゆかりさん!」
「くっ……!」
「7位、黄瀬千秋さん! 6位、赤城ほむらさん! 5位、桃井さくらさん! 4位、青井海美さん! 3位、白銀雪子さん! 2位、柿沢橙子さんです!」
「うわー! ボクが2位かー!」
「橙子ちゃん発声が素直だもんね!」
「さすが柿沢先輩です」
「いよいよ1位――」
「茶山先輩を追い越してみせます!」
「いよいよ第1位です! 第1位は――茶山くるみさんです! おめでとうございます!」
「嬉しい……」
「さて9位の葉山みどりさんは、今回のフリータイム9人分を全額お支払いになります。」
「悔しいですね……。わたくし、もっともっと皆さんを追い抜けるように頑張ります!」
「じゃあそろそろ出ましょう。みどりちゃん、お会計よろしくね」
「やっぱ茶山先輩は天才アイドルだからなー、敵わねぇや」
「うん! 白銀さんも凄かった♪」
「私たちも油断してられないぞ」
「今日は楽しかったです。お誘いいただいてありがとうございました」
「こちらこそ来てくれてありがとう。茶山先輩もおめでとうございます」
「楽しかった……。また行きたい……」
カラオケは勝敗こそつけられたが、9人全員が楽しめてオフ会は成功した。
あまりにも楽しかったのか退室するのが惜しまれていて、勝ち負け関係なくもう少し歌いたい気持ちでいっぱいになった。
みどりが全員分の会計を済ませ、夕食を食べることが決まってどこに行くか話し合う。
「皆さんお待たせしました。ではご夕食に行きましょう。わたくし、イタリア料理店に行きたいです」
「それならおススメのイタリア料理店があるよ。ついて来て♪」
「パスタ! パスタ!」
「みんな楽しそうでええなぁ……。俺らも何かやろうか?」
「結婚を?」
「ちゃうわ! もう俺は結婚して二児の父やわ!」
「せやったなw アルコバレーノさんありがとうございました! では来週のゲストは、元プロ野球選手で俳優の、長嶋和重さんです!」
「次回のやりたい事は、アメリカの野球部のコーチです! ほなまた会いましょう! さいならー!」
さくらたちはカラオケの後にイタリア料理でパスタとイタリア風ピザを食べる。
このみんなと一緒にカラオケで遊べるのは最初で最後かもしれない。
その幸せな瞬間を噛みしめ、ずっとこの友情が続けばいいなとさくらは願う。
そして4月になり、新たなアイドル道が開かれた。
つづく!




