第71話 成人式
1月の成人の日を迎え、澄香はいつものスーツではなく晴れ着姿でとどろきアリーナへ行く。
それも新成人のパフォーマンスにも選ばれているので澄香は張り切っていた。
スペシャルゲストライブにもアルコバレーノが来るので、澄香はかつてアイドルだった名残で盛り上がるだろうという見込みだ。
澄香は付き合っている専務でマネージャーの晃一郎と共にとどろきアリーナへ向かう準備をする。
「それじゃあみんな、会場で会いましょう」
「はい! 水野さん、すごく似合ってます!」
「えへへ、ありがとうございます♪」
「それじゃあ水野さん、いってらっしゃい! 夜月くんも送迎お願いね!」
「お任せください。じゃあ澄香、行こうか」
「はい! いってきます!」
晴れ着姿で見送られ、車に乗ってとどろきアリんーなへ向かった。
車の中で澄香が成人を迎えたことで付き合った頃の思い出話で盛り上がり、年の差ながらかつての推しアイドルと付き合えたことに今も信じられないくらいだと晃一郎は話す。
駐車場に着くと晃一郎は駐車をする。
車を止めて送ろうとしたら澄香から提案がくる。
「じゃあ澄香、成人式を楽しんでこいよ」
「はい♪ でも素敵な彼氏さんを自慢したいのでついてきてくださいね?」
「わかったよ。成人になっても甘えん坊は変わんないな」
澄香は晃一郎ともっと一緒にいたいからか、ついてくるように言ったのだ。
晃一郎も成人になっても変わらない甘えん坊に可愛いと思いながらついて行った・
会場に着くと新成人の人々が楽しそうにはしゃぎ、中には紋付き袴姿で盛大に盛り上げたりしていた。
会場に入る前に澄香が個人的に待ち合わせしている人の元へ晃一郎と共に行く。
待ち合わせしているとしばらくして待ち合わせの人たちが合流し、澄香は大きく手を振って合図を送る。
「澄香ー! お待たせー!」
「あの人たちか、澄香の待ち合わせって」
「はい。ネットアイドル時代に撮影をしてくださった牧野ゆりさん、作詞作曲をしてくださった七海一恵さん、振り付けや衣装を製作してくださった伊倉真奈美さんです。全員幼稚園からの幼馴染みなんです」
澄香の幼なじみたちを紹介され、晃一郎は軽く頭を下げて会釈をする。
幼なじみたちは晃一郎に少しだけ見惚れ、いかに晃一郎はイケメンかがわかった。
そして幼なじみの一人が声をかける。
「あなたが澄香がいつも話していた夜月晃一郎さんですね?」
「はい、澄香さんとお付き合いしています」
「何だかすごいオーラを感じるね! カリスマ性が溢れているよ!」
「しかも超イケメンじゃない? 澄香も隅に置けないねえ」
「それはどうも。それより皆さんは成人式を楽しんでください」
「「はい!」」
「行こう、澄香」
「はい」
中に入るために晃一郎と一度別れ、幼なじみたちとアリーナの中に入る。
中に入るとたくさんの人々が写真撮影をしたり、かつての同級生と世間話をしたり、同い年の夫婦と思われる二人が子どもを抱っこしてあやしたりしていた。
アリーナにはたくさんの椅子が並んでいて、ちょうど4席空いている場所があり、そこに座る事にしました。
澄香たちは今まで何をしていたのか、彼氏や恋人はいるのか、仕事や大学はどうしているのかという会話で盛り上がりながら成人式の始まりを待つ。
そして成人式が始まり、川崎市長のお祝いの言葉が始まった。
「新成人の皆さん、おめでとうございます。これからは新たな大人の一員として責任を果たし、そして新しい人生を歩み、将来の日本の未来のために頑張ってください」
「いよっ! 市長!」
「かっこいいー!」
「うふふ、皆さんお元気ですね」
「成人式なんて一生体験できないもの」
「男子なんて楽しそうだね」
「澄香、そろそろ出番でしょ? 久しぶりのライブ、頑張って」
「はい、では行ってきます」
澄香が引退してからもう数年、すーみんというアイドルの話題はなくなり『消えてしまったアイドル』といわれている。
今までファンだった人々も記憶から消え、新しいアイドルたちを応援しているだろうと澄香は準備しながら少し諦めていた、
ライブの準備が完了し、澄香は晴れ着姿のままマイクを握る。
「それじゃあ水野さん、準備は大丈夫ですか?」
「はい! 大丈夫です!」
「よし! それじゃあ……頑張ってね」
「はい」
澄香は新成人を代表して舞台に上がり、自分に出来るパフォーマンスをしっかりすることだけを考えた。
アイドルを引退して約3年経っていて、澄香も『もう自分のことを誰も覚えていない』と覚悟を決めた。
すると澄香にとって予想外な出来事と光景を目にすることになる。
客席を見渡すと、そこにはかつて見えていた水色一色のサイリウムが美しく光っていた。
「マジで……!? 水野澄香じゃん!」
「すーみん……!? すーみんが帰ってきたの!?」
「俺、大ファンなんだよ! マジで待ってたぜ!」
「澄香ちゃーん! おかえりなさーい!」
新成人たちはすーみんの事を全員覚えていて、水色一色のサイリウムの形式が澄香の目に映り、歌う前から涙がこぼれてそのまま少し泣いてしまう。
その応援を耳にして感動し、澄香は最初の1曲目であるアニメ『ライブ・オブ・ソング』の主題歌『私はアイドル!』を歌って踊る。
2曲目にはゲーム『ドキドキ恋ヶ崎学園』の主題歌『恋のドキドキリトミック』を歌う。
そしてMCに入り応援のお礼をアドリブで言葉にする。
「皆さん! 私の事を覚えてくれて……ありがとうございます!」
「「「「おかえりー!」」」」
「ただいま! 今の私は……アルコバレーノを筆頭に、風間祐介さん、栗山真希さんと沙希さん、Phantomさん、通天閣さんなどが所属する虹ヶ丘エンターテイメントの社長の秘書をやっています。アイドルを引退してから歌うことがなくなりましたが、今は虹ヶ丘の社員として皆さんを支えていますので、虹ヶ丘エンターテイメントをよろしくお願いします!」
「「「「すーみーん!」」」」
「ですが……アイドル水野澄香はこのライブを最後に……またただの秘書に戻ります」
「そんなー!」
「復活してよー!」
「また引退なんて寂しいよー!」
「ありがとうございます……。なので皆さん、今日の成人式を最高の思い出にしましょう! 最後の曲、聴いてください! 私のデビュー曲! アニメ『ワールドピース』にて、『Believe』!」
澄香のメジャーデビュー曲であるBelieveは、世界の平和を願う海賊団が権力で平民を苦しめる海軍と、力で世界を支配しようとする悪の組織の二つと戦う冒険物語の曲だ。
この曲で澄香と純子は出会い、アニメソングアイドルとして確立された。
新成人の笑顔を見て感動と嬉しさのあまりに退場後に涙が止まらず、引退したのが惜しくなってきた。
すると遅れて準備を終えたアルコバレーノが一斉に囲い、ほむらは澄香の肩をポンと叩いて感想を述べる。
「水野さん、最高のライブでした! 今度はアタシたちのライブを見ていてください!」
「アイドルの先輩として憧れていました。今度は私たちの番です。みんな、いくよ!」
「「うん!」」
アルコバレーノのライブを見た澄香は、もう自分がアイドルをやらなくても大丈夫だと思いアイドル界を託す決意をする。
成人式を終えて幼なじみたちと別れ、晃一郎の待つ車へ向かった。
帰りの車の中で澄香と晃一郎は成人式の話をする。
「澄香のライブを特別に見せてもらったぞ。アルコバレーノのみんなと一緒に見てた社長からの伝言だ。『もう一度アイドルをやりたいって気持ちあるなら、またアイドルをやってほしい』と。澄香さえよければ、もう一度俺がプロデュースするし、俺のせいで引退にまで追い込まれたなんて言わせない。だから――」
晃一郎は純子からの伝言を伝え、澄香にもう一度アイドルをやってほしいと気持ちを伝える。
しかし澄香の気持ちは固まっていて、澄香の本心を高1折るに伝える。
「晃一郎さん、お言葉ですが……私は自分の意志で社長について行くと決めました。私が引退しても社長は見捨てることなく、私の事をずっと気にかけていましたね。そんな社長だから私は支えてあげたい、裏方としてもう一度この人の役に立ちたいって思ったんです。アイドルには未練がないと言えば嘘になりますが……今はあの子たちの活躍する姿を見て、世界中で輝けるアイドルにさせる事が今の私の夢なんです。だから私は、アイドルとしてではなく、同じ虹ヶ丘の一員として、あの子たちを支えます♪」
「そうか……わかった。なら俺も全力で澄香と一緒にサポートするよ」
「はい♪」
澄香の本音を聞き、晃一郎はアイドルの再デビューを強制することはなかった。
それを電話越しに聞いていた純子は少し残念がっていたが、それでも自分をしたってついてきてくれることに感謝の言葉を伝えた。
すると晃一郎は思い出したようにスカウトの話をする。
「そうだ、スカウトに回ってたら、またいい逸材が見つかったんだ。しかもその子はあの名門の音楽大学付属の子でね、その子は来週には来るんだ。でもその子は――」
晃一郎はスカウトに成功し、素晴らしい逸材を見つけてくれた。
話を聞いた限りでは純子にはもう知らせていて、歌については完璧な子という情報だった。
しかし彼女にはある事情があるらしく、澄香は話を聞いて衝撃を受けていた。
その彼女が来週、虹ヶ丘エンターテイメントに来ることが楽しみとなった
つづく!




