第70話 また会える日まで
モノクローヌとの戦いを終えたアルコバレーノは、応援してくれた人々の元へ走り、祝福されながら喜びを分かち合った。
純子が歩けるようになった事、灰崎の過去の無念を晴らした事、シロンの王国を救えた事が同時に起こり、アルコバレーノは世界を救ったのだ。
さくらたちはお礼を言うために一列に並び、一度静かになってもらう。
「みんな! 聞いてください! 命がけの戦いにみんなはここまで駆けつけ、私たちが諦めかけた瞬間に応援してくれたおかげで、私たちはもう一度戦えました! そしてついに……この戦いを勝利に終え、世界を救う事が出来ました! 本当に――」
「「ありがとうございました!」」
「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」」」
お礼を言うともう一度温かい拍手をもらい、凱旋パレードを行って握手を交わし合う。
灰崎はその光景をカメラに収め、マスコミを仕切って早速記事にしていた。
純子と澄香はアルコバレーノの凱旋を見守り、笑顔で涙を流していた。
その瞬間、また黒い雲が現れて突然黒い雷が落ちてきた。
雷の堕ちた先に瀕死状態のモノクローヌの姿があった。
純子は自ら意識を確認しに行き、脈と呼吸があるかどうかを確認しに行く。
するとモノクローヌは瀕死の状態で死を決意する。
「私の完敗よ……。あなたたちはこの世界も……レインボーランドも救った……。今の私には……もう生きる価値のない……ただの敗北者よ……。情けをかけずに殺しなさい……。いつだってモノクロ族は……いてはいけないものなのよ……。さあ……早く……」
今にも死にそうな状態でモノクローヌは『自分を殺せ』と投げかけ、完全な勝利を明け渡そうとしていた。
それでもさくらたちは手を出す事はできなかった。
ここでで殺してしまえば救えたかもしれない命を救えなくなるからと殺すことをためらったのだ。
今の言葉をすぐそばで聞いていた純子はモノクローヌの胸ぐらを掴み、感情的になって頬を思いきり叩いた。
「っ……!?」
「あなたね……自分は消えるべき存在だなんて言わないでよ! 過去の因縁が何……? 王国への復讐……? この世界が醜いから侵略ですって……? いい加減にしなさいよ! あなたはどうしてそんなにネガティブな事しか浮かばないのよ! あなたにだって命はあるんでしょう? モノクロ族にだってやるべきことがあるはずでしょ! あなたにはまだやるべきことがあるんだから簡単に死ぬなんて言わないでよ!」
「黒田純子……。あなたはどうしてそこまで……私に本気になれるの……?」
純子はモノクローヌに説教をし、モノクローヌは今まで自分に本気で叱る人がいなかったことで純子の行動に驚く。
モノクローヌが純子に質問をすると純子は質問に答える。
「あなたは仲間に恵まれなかったときの私によく似ているの。仲間に恵まれなかったらおそらく私は世界に絶望し、そして世界を黒く染めようと反社会的なことをしていたと思うわ。だけど私には従姉妹の真奈香や、私を慕ってくれる後輩の夜月くん。そしてそんな彼と共に私をサポートしてくれる水野さん。みんながいたから私は立ち直ることができた。あなたたちモノクロ団の侵略にも対抗することができた。先祖の因縁なんかより、私は見んなと一緒に平和な世界を築きたかったの。また昔みたいにギスギスした世界より、笑顔に満ちた優しい世界を目指すためにね」
「そう……。あなたは本当に優しいのね」
「ええ、それも支えてくれたみんながいたからこそよ」
純子はもし自分に仲間がいなかったら今も孤独で、世界を絶望に染めようとしていたかもしれないと話す。
さくらたちは今の純子しか知らなかったので驚いたが、灰崎は純子の正義感の強さで孤立していたことを知っている。
晃一郎も歩けなくなった純子が卑屈だったら自分と出会うことがなかっただろうと下を向いて考え込む。
そして純子はさらにモノクローヌを説得する。
「それに人にはもちろん悪い心もあるわ。暗くて醜いところもある。でももし見方を変えたり言葉や心理、体調などを逆転の発想をすると欠点が利点に変わることもあるのよ。挫折なら試練、根暗なら空気が読める、短気なら感情豊か、見た目が醜くても、心が美しい人だっているの。もしよかったら私の事務所で心理学習ってみない?」
「それもいいかもしれないわね……。ありがとう、おかげで目が覚めたわ。まずは王国の解放と謝罪、今までのマイナスエネルギーをプラスエネルギーに変え、この世界を元通りにするわね」
「ええ、お願いするわ」
「純子、あなたとは――」
「ご先祖様が一緒でも、さっきまでは敵同士でも、もう過去の話じゃない。昨日の敵は今日の友達ってことで、今から友達になりましょう」
「ありがとう……。それじゃあこの世界を元に戻すわ」
モノクローヌは改心して今までの壊してきたものを直す時間魔法を唱え、巻き戻して元に戻していった。
その光景を目にした人々はモノクローヌの改心と今後の健闘を祈り、それに感動したモノクローヌは『人間も悪くないわね』と言葉をこぼしていった。
こうして平和を取り戻し、シロンがモノクローヌを王国まで送る事になった。
シロンは帰り際に笑顔で挨拶を交わす。
「僕は一度王国に戻り、モノクロ団の野望を止めたことを報告するよ。同時にモノクローヌの罰を軽くした上で、闇魔術に対する防衛術の研究という仕事を与えるように父上に申し出てみるね」
「そうですね。その方がモノクローヌのためにもなります」
「それじゃあ皆さんにも報告を……僕の正体はモノクローヌがかつてモノクロ団として侵略し、その希望のためにこの世界に来たレインボーランドの王子です。今後は王国の復興のために王子として支えていかなければならないでしょう。よって今日、マジシャンとしてのシロンは……芸能界を引退し、王国の復興のために尽力を尽くします。どうか皆さんお元気で、さようなら――」
別れの挨拶を終えようとすると、さくらは何かを思いついたようにシロンを呼び止める。
「待ってシロン!」
「さくら……?」
「また会えることを信じて、あえてさよならは言わないよ。だから私たちはこう言うね。せーの――」
「「「またね、シロン!」」」
「みんな……そうだね。さっきのさようならは撤回します。また会えることを信じて――皆さん、また会いましょう!」
シロンは旅の扉に入っていき、モノクローヌを送っていった。
今後は王国の再建のために頑張り、王子としての責任を果たす。
一方アルコバレーノははテレビでも大きく話題になり、たくさんのマスコミによるインタビューが行われた。
あれから数週間が経ち、世界の国々でも話題になり、世界ツアーのオファーも来た。
そして同時に、澄香にとって最高のイベントの日が訪れました。
つづく!




