第6話 病院でライブ
さくらたちはアイドルのレッスンと同時に、戦いでの格闘による戦闘をプロの方に学ぶ。
警察の父を持つ千秋と殻て全国優勝経験者橙子、実家が忍術の道場をしているゆかりは格闘に慣れている様子だった。
不良っぽいと言われているほむら、 フェンシング道場に通う海美、アーチェリー部のみどりはまだ武器しか扱ってなく、素手での格闘に苦戦をしていた。
さくらは覚醒をしたため本格的なレッスンと、国際大会の映像で新体操のリボンの動きを取り入れたトレーニングをする。
そして1週間が経ち、病院でのライブ当日になった。
「着いたわ、ここが聖マリア医科大学病院よ」
「相変わらずでけぇなー」
「社長はよくここでリハビリをしています」
「水野さん、いつも送迎ありがとう」
「いえいえ、これが私の仕事ですから」
「最先端の医療や愛の精神にあふれた病院ですね。社長はここでリハビリをしていたんですね」
「海美ちゃん詳しいね」
「近くに小杉の分院があるの。でも本院に行くのははじめてよ」
「さぁ院長さんと看護主任さんに挨拶に行くわよ。ライブはそれぞれ別々で行われるわ。思う存分歌ってらっしゃい」
「「「はい!」」」
さくらたちは病院長と看護主任に挨拶をし、それぞれの病棟に配置される。
晃一郎は事務所の野球部の練習試合があって来れなかったが、ライブが成功するように応援してくれた。
さくらは産科、ほむらは小児科、橙子は別館で内科の消化器科、千秋は整形外科、みどりは精神科、海美は内科の心臓専門病棟、そしてゆかりは認知症リハビリセンターになった。
純子と院長は個人的な話があるので、さくらたちは私服のまま病棟に移ることとなった。
「しかし君が無傷のまま足が動かない状態で運ばれたときは驚いたよ。あれから少しは歩けるようになったかい?」
「まだ少しも歩けないですね。歩こうとすると心臓が絞めつけられるような痛みに襲われるんです」
「話は灰崎記者から聞いたよ。あの時は君たちは中学3年生だったね」
「はい。でも不自由ですが将来有望なあの子たちに出会えました。あの子たちが私の無念を晴らしてくれると信じています」
「そうか。アルコバレーノか、いいアイドルだね。君も様子を見に行ってらっしゃい。水野さん、いつも介護している彼は試合かい?」
「はい、夜月さんは社会人野球でも有名な選手ですから」
「そんな彼の代わりに介護なんてすごいよ」
「いえいえ、私も社長を支えるのがお仕事ですから。では社長、まずは整形外科から行きましょう」
「黄瀬さんのところね、行きましょう」
「整形外科か……。実はだね、ちょっと私も苦戦している患者さんがいてね――」
院長室で純子と澄香は病院長と話をし、足が不自由ながらも仕事が順調で病院長も喜んでいた。
しかし話をしていく中で整形外科に入院している患者に何か訳ありなことを聞かされる。
一方整形外科ではそうとは知らずに千秋がライブをしている。
「みんな、今日は来てくれてありがとう! 事故や怪我で入院しちゃったけど、笑顔を忘れないでリハビリに励んでください! 私も応援してます!」
「千秋ちゃん可愛い!」
「私ファンになりそう!」
「いい笑顔で励まされるよ!」
患者たちは千秋の天真爛漫な笑顔に癒され、とくに高齢者に人気になっていた。
若い患者たちは千秋の可愛さに惚れ、男性たちは付き合いたいと言いだすくらいだった。
「何が笑顔だよ、くだらない……」
千明は患者たちと笑顔で接していると、明るい茶髪で襟足が長いウルフカットショートヘアの高校生くらいの男の子が車椅子に座りながらそっぽを向いていた。
その男の子は右足を骨折していて、千秋の笑顔を見る度に渋い顔をしていた。
「あの……あなたはどうして笑顔がくだらないって思うのかな……?」
「笑顔なんてくだらないんだよ! どうせ心がけても治らない怪我や病気だってある! 精神病にかかってたら笑顔なんて絶対なれるわけがないんだから、そんなくだらない妄想言うんだったらお前が治せよ!」
「あっ……!」
千秋が男の子に優しく声をかけるも、男の子は千秋に怒りをぶつけ笑顔の現実を突きつけて去っていった。
病院はシビアなところで治らない怪我や病気の人、心の病気にかかって笑顔になれない人もいる。
「私には考慮が足りないのかな……。笑顔ってやっぱりくだらないのかな……?」
「お前さん、もしかして黄瀬警部の娘さんかの?」
笑顔について考え事をしていると、かなりの高齢ながらどこか威厳のある男性が千秋に声をかける。
何やら千秋の父のことを知っているようで、千秋はなぜ知っているのかと疑問に思う。
「はい……。でもどうしてそれを……?」
「黄瀬警部は笑顔が眩しい人でのう。お前さんの笑顔は黄瀬警部そっくりじゃ、顔と髪の色を見れば話わかる。実はあの子は覚醒剤を密輸した上に飲酒運転でのひき逃げ事故に遭っての。骨折をして今や10ヶ月、もうさすがに治っているはずなんじゃが、『まだ治っていないし二度と治らん』と思い込んでいるんじゃよ」
「そうなんですか……」
千秋の父のことを知っているおじいさんは男の子のことを話し、ずっと入院しているが心の問題だということも話してくれた。
千秋は病院がシビアなところだとわかっていたので、自分の笑顔はあの男の子には届かないと自信を失ってしまう。
「いたっ!?」
「これこれ、お前さんは笑顔を心掛けているのじゃろう? それなのにそんな曇った顔をするでないぞ。黄瀬警部から教わらんかったかい? どんな困難でも笑顔を忘れない限り乗り越えられる可能性はあると」
「そうでしたね……。私、ちょっとネガティブになってました。おじいさん、ありがとうございます」
おじいさんは千秋が落ち込んでいると軽く頭をポンと叩き、笑顔を取り戻すように助言をする。
千秋は父に『笑顔でいれば乗り越えられる可能性はある』と教わっていたことを思い出す。
『笑顔になれば何でもできる』と言えば確かに綺麗言にはなるだろう。
それでも大切な顔の一つであることには変わらない。
千秋はおじいさんに人生経験として大切な事を教わり、お礼を言った後に男の子の後を追った。
「他人のために悩めるなんて優しい子じゃのぅ……。あれは将来素晴らしいアイドルになるに違いないわい……」
おじいさんが千秋に将来性を感じ、遠くで千秋を見守っていた。
一方売店では先ほどの男の子が高校サッカーの雑誌を見つめていた。
「………。」
「おいテメェ、随分悩んでいるな。何かあったのかよ?」
男の子が千秋の笑顔を思い出してイライラしていたところに、フードを被った乱暴な口調の謎の少女に話しかけられる。
「突然声をかけたと思ったら随分馴れ馴れしいな。そんなに俺の治らない足が哀れか? それとも事故で治らない足を笑いに来たか?」
「なるほどなあ、そんな事情だったわけかよ。だったら憎い事故の犯人を思い浮かべてみな? 心の闇を解き放てばいいんだよ……」
「憎い犯人を……思い浮かべる……! うっ……! うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
少女は男の子に心の闇を解き放つように促し、ついに男の子はマイナスエネルギーに染まってしまった。
そのことで突然病棟の電気が消え、他の病棟でも大騒ぎになる。
売店の方に黒い霧が発生し、千秋は胸騒ぎがして駆けつける。
そこには車椅子が壊れたまま放置され、点滴もはずれていた。
周りを見ると足に鎖が繋がれている人型のゾンビの魔物がそこにいた。
虹のネックレスの反応を見ると、さきほどの男の子が魔物になっているのがわかった。
「そんな……! どうして……!?」
「俺の足は二度と治らない……! こんな理不尽な事……間違っている! 今すぐ理不尽なこの世界をぶっ壊して……この足を破壊してやる!」
魔物はまた自暴自棄になっており、自分の足を治らないと思い込んで引きちぎろうとしていた。
千秋は魔物の叫びを聞いて涙を流し、悲しみを受け止めることができない自分が悔しくなった。
「千秋ちゃん!」
「ネックレスに反応があったから駆けつけたわ!」
「これは……! あの時と同じ魔物ですね!」
「みんな! さくらちゃん! あのお兄ちゃんを助けて!」
「わかった! 美しい虹色の世界よ、与える愛で私に力を与えたまえ! マジカルチェンジ! ピンクのハートはときめく気持ち! 愛を与えて幸せを! 桃井さくら! まずはあなたを――」
「邪魔するなぁっ!」
「きゃぁっ!」
「さくら! クソッ! 今アタシたちが行けば巻き添えだ……!」
千秋は男の子を助けてほしいとさくらにお願いし、さくらはすぐに変身して浄化を試みるも、魔物の絶望は上条の時と同じくらいに大きく、さくらでは太刀打ちできなかった。
ほむらたちも助けたいところだが、今の自分が行っても魔物に返り討ちにされるだけだと判断して身動きが取れなくなる。
千秋は恐怖で上条の時みたいに何もできできず固まってしまう。
魔物は右足を気にしていて、引きちぎろうとしても未練が大きいのか急にためらい、また引きちぎろうとするのを繰り返していた。
「あの医者も看護師も……俺の足を知らないくせに笑顔で治ってると言いやがって! 治ってないのを隠すために平気で嘘をついて! 笑顔なんてなくなればいいんだ……! そうすれば無理に頑張らなくて済む! この右足ごと病院を吹き飛ばしてやるっ!」
「やめてぇっ! 先生も看護師さんも……あなたの足を本気で治そうと頑張ったんだよ!? あなたに笑顔で退院してほしいから、ずっと気にかけていたんだよ! お父さんやお母さんだって……毎日お見舞いに来て励ましていたよね……? リハビリをしたらきっと……違った結果が出るかもしれないんだよ……? あなたはまた怪我がするのが怖いのかな……? わかるよ、その気持ち。だからこそ……あなたには笑顔になって、前に進んでほしい!」
魔物は右足を引きちぎろうとするも、引きちぎれない足に絶望してマイナスエネルギーを最大にして病院ごと爆破すしようとする。
千秋はじっとしてられず魔物を説得し、笑顔になることの大切さと前へ進むために励ます。
すると千秋は黄色い光に包まれると心がポカポカして笑顔になれる気がした。
ネックレスが大きく反応し、しばらくしてから車椅子で慌てて駆け付けた純子が千秋に叫ぶ。
「はあ……はあ……! 黄瀬さん、まさか……! いいえ、それよりも……黄瀬さん! 早く呪文を唱えて!」
「は、はい! 美しい虹色の世界よ、与える愛で私に力を与えたまえ! マジカルチェンジ!」
黄色い光は千秋を魔法少女の衣装へと変身し、インディゴのデニムショートパンツ、黄色いスーツジャケット、茶色の指貫グローブとカラーレスベスト、アイボリー色のブラウス、そして黄色いウエスタンブーツの西部開拓時代のガンマンスタイルとなった。
虹のネックレスはハート形のバッジとなり、左胸に付けられた。
腰には茶色いホルスター付きのベルトがつけられ、ピースメーカーと呼ばれる黒い拳銃を手に持った。
「黄色い笑顔は心の希望! みんなも一緒にスマイルスマイル! 黄瀬千秋! 待っててねお兄ちゃん……あなたの希望を現実にしてみせるよ!」
千秋は拳銃を手でクルクル回しながら拳銃をホルスターへしまい、にっこり笑顔で微笑み両手の人差し指を頬に優しく突き刺す。
そのまぶしい笑顔にさくらたちは見惚れ、千秋を見守るのだった。
つづく!