第69話 勝利の瞬間
アルコバレーノに最後の力が宿り、モノクローヌとの戦いに決着をつけるときが来た。
危険を顧みずに駆けつけてくれた人々の応援を背に戦おうとすると、先ほど力を与えてくれた女性がさくらにだけ聞こえるように心に話しかける。
「あなたは……ローザさん……?」
「はい、私がローザです。あなたたちの勇姿をずっと見守っていました。あなたたちのプラスエネルギーは皆さんの応援で覚醒しているはずです。私たちが編み出した究極魔法をあなたたちなら使えるかもしれません。黒の魔女の野望を止め、1000年前の因縁に終止符を打ちましょう」
「はい!」
ローザという女性がさくらに力を与え、ほむらたちもローザの声に優しさを感じて安心し、無駄な力が抜けて心に火が着く。
「あの声がローザさんね……」
「さくらちゃんのご先祖様って優しい感じがする……」
「そんな偉大な方に応援されたんだ、決めていくぞ!」
「ああ! ネバーギブアップだぜ!」
「みんな! いくよ!」
「「うん!」」
今までの痛みも嘘のように消え、体が軽くなって思うように動ける感覚になる。
モノクローヌも究極闇魔法を発動させようとするがアルコバレーノのスピードに追い付けず、ついにアルコバレーノの攻撃が通じた。
さすがにモノクローヌも焦ってきたのか、今度は深呼吸をして目を閉じる。
さくらたちが近づくとモノクローヌは目を開け究極馬法をもう一度使う。
「いい加減に倒れてちょうだい! ミラーカウンター!」
「くっ!」
「うわっ!」
「危ねぇー!」
「お姉ちゃんたち頑張れー!」
「モノクローヌなんてやっつけろー!」
さくらたちはギリギリ避けきれず顔にかすり傷を負ってしまうものの、今までよりも究極魔法の動きが見えるようになり、顔にかすり傷程度で済むほどパワーアップしていた。
そして秘密があるかもと考えていたみどりがついにモノクローヌの究極魔法の秘密を見抜く。
「皆さん! モノクローヌの究極魔法は相手の動きをあらかじめ未来予知し、相手の呼吸と心拍数、魔法の属性に動きのクセを一瞬で見抜いて覚えている技をコピーして一気に跳ね返すように見せています! そして隠された弱点はコピー技だからこそオリジナルの成長まではコピーできないことと、体力と魔力の消費が激しいことです! ローザさんの力を使って成長したわたくしたちの力を見せましょう!」
「「うんっ!」」
みどりがついにモノクローヌの究極魔法を見抜き、モノクローヌも徐々に焦り始める。
しかし戦いの中で成長していくのはモノクローヌも同じで、追い詰められた状態でパワーアップするのだった。
「はぁ……はぁ……! ここで決めさせてもらうわ! はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」
「みんな!」
追い込まれたモノクローヌの究極闇魔法は前よりもパワーアップしていて、さくらたちもモノクローヌの成長速度の速さによって被弾する。
カウンターのはずなのに先制攻撃されたことに驚いている間にもモノクローヌはさくらたちを目掛けて攻撃をしてくる。
しかし直撃したはずなのにアルコバレーノは痛みも少なく、元気そうに立ち上がっていった。
「ふっふっふ……。この究極魔術はカウンターだけでなく先制攻撃も可能なのよ。これであなたたちは――何っ……!?」
「あれ……?」
「私たち……無事だ……?」
なぜアルコバレーノは無事だったのか、それは直撃する直前にさくらが得意のリボンで盾を7人分作り、リボンの回転で攻撃の衝撃を吸収していたのだ。
一番リボンに近いさくらは無傷で、ほむらたちもさくらの方へ視線を向け自分たちが無事だった理由を知ることになる。
「みんな! 大丈夫?」
「さくらさん!」
「攻撃をリボンで吸収するってマジかよ!」
「とにかくあなたのおかげで助かったわ!」
「それじゃあみんな! いくよ!」
アルコバレーノは状況に応じて武器を使い分け、先制攻撃によって疲れ果てたモノクローヌの隙を突いて攻撃を仕掛ける。
いくら自動で回復するモノクローヌでも、疲労まではさすがに回復させることができず次第に呼吸も乱れていった。
モノクローヌはついにあの技を出すのをやめ、最後の切り札らしき魔法を唱えてきた。
「もうこれで終わりにしましょう! あなたたちの進化を見破れなかったのは私の失敗よ……! でも――この最終奥義で地獄に落としてあげるわ! ダークマタープロミネンス!」
「今だ! アルコバレーノ最終奥義――」
「「レインボーアルテマバーストォォォォォォォォォォっ!」」
お互いの最終奥義がぶつかり合い、一歩も退かない押し合いになった。
さくらたちはすべての魔力を出し惜しみせずに並んで構え、モノクローヌは両手を前に突き出して魔法を放った。
あまりの魔力のぶつかり合いに岩山が崩れ落ち、無防備な純子たちが心配で視線を向けてしまう。
しかしシロンの防御魔法で守られ、さくらたちは安心して魔法を撃ち続けられるようになる。
よく見るとシロンよりも前に晃一郎が仁王立ちをしていて、男性として女性たちを守ろうとしていたのだった。
純子たちが心配で視線をそらしているとモノクローヌの魔法が押していき、ついに絶体絶命の状態になった。
「あなたたちのその甘さが命取りなのよ! 周りの事を気にして集中できなかったあなたたちの負けよ! これでアルコバレーノの伝説は終わる……さぁ死になさい!」
「うう……それでも負けない……! 負けるもんかっ!」
さくらたちはモノクローヌに優しさを指摘されて追い詰められる。
それでもさくらたちは負けるもんかと叫び、モノクローヌの最終扇に抵抗する。
すると純子たちはシロンの前に飛び出し、応援してくれている人々に応援を煽る。
「純子さん! 飛び出すのは危険です!」
「だとしても私にできることをやりたいの! あの子たちの勝利のためにも!」
「純子さん……」
「俺たちもいくぞ!」
「はいっ!」
純子が危険だとわかっていながらシロンよりも前に出て、それに続いて晃一郎と澄香、そして灰崎もシロンの前に立つ。
そして応援している人々を煽るだけでなく、心配しているアルコバレーノにも声をかけるために叫ぶ。
「みんな! 今この状況が見えてるのならアルコバレーノにエールをお願い! ファンであるあなたたちの力も必要なの!」
「アルコバレーノの皆さんは私たちの事は心配しないでモノクローヌにとどめを刺してください!」
「僕からもお願いです! 魔法少女たちに力をください!」
「灰崎記者! この瞬間を記録にしてください! アルコバレーノ! 俺たちも一緒に戦うぞ!」
「わかったわ夜月くん! アルコバレーノのみんな! 負けないで!」
「アルコバレーノ! 頑張れー!」
「負けるな! 俺たちがついている!」
「あなたたちに救われた分、私たちも戦うわ!」
「「「「いけーーーーーーっ!」」」」
「何よ……!? この無限の力はっ……!?」
「みんな! ありがとう!」
「くだらない! プラスエネルギーなんて! マイナスエネルギーでかき消してあげるわ!」
「「ううっ…!」」
モノクローヌが全力を出した瞬間、シロンが僅かな魔法でモノクローヌの目に光を当てた。
するとモノクローヌは目がくらみ、突然目を瞑って顔をそらす。
「うっ……!?」
「何だ……? あいつが目を瞑って顔を逸らすなんて……?」
「あれを見るのだ! シロンが……!」
「えっ……?」
「僕だって……レインボーランドの王子だ! 彼女たちだけで戦わせるわけにはいかない!」
「シロン!」
「シロンさん! ありがとうございます!」
シロンはアルコバレーノの戦いを見て奮起し、光魔法で視界が不安定になったモノクローヌはバランスを崩し魔法攻撃が徐々に弱まってきた。
灰崎はこの瞬間を捉えようとカメラを構え、純子は応援しているファンを代表して叫んだ。
「みんな! アルコバレーノコールよ! 彼女たちに私たちの力を与えましょう!」
「「うおーーーーーーーーー!」」
「せーのっ!――」
「「「「アルコバレーノ! アルコバレーノ! アルコバレーノ!――」」」」
「みんな……! 私たちは……希望を導く7つの光っ! 輝けぇぇぇぇっ!!」
「「「「「アルコバレーノぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」」」」」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
最終奥義が人々の応援の力でより大きくなり、ついにモノクローヌに直撃した。
モノクローヌは跡形もなく消え、魔力を探るも感じることはなくなった。
モノクローヌが消えたことで戦場は一気に崩れかけ、全員吸い込まれるように外の世界へはじき出された。
旅の扉から出ると勝利を喜んだ応援してくれた人々が集まりアルコバレーノの元へ駆け寄っていった。
「よくやったみんな!」
「本当に希望をありがとう!」
「先輩! モノクロ団との戦いお疲れ様でした!」
「お疲れ様……。先輩として嬉しい……!」
「あなた方の活躍は忘れまセン!」
「君たちは虹ヶ丘の女神やで!」
「父さんは君が世界を救って誇らしいよ!」
「桃井さん! みんな! おめでとう!」
「ありがとう……! みんなのおかげで勝てたよ!」
「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」」」
「よっしゃ! みんなで胴上げだ!」
「ついに……レインボーランドの因縁が終わったんだ……」
「シロン、今までよく頑張りましたね。王子さまの役目を果たし、そして王国に平和が戻りました。あの子たちを支えてくださって、ありがとうございます」
「澄香さんっ……! うわあーーーーーーんっ!」
「シロンも王子さまだけど、甘えん坊さんですね……」
晃一郎がアルコバレーノの胴上げを呼びかけ、応援に来てくれた人々が一斉に集まりアルコバレーノの7人を胴上げした。
純子は涙ぐみながら見守り、灰崎はカメラで写真を撮ってメモをし、シロンも安心して王国で過ごせるようになったと安心のあまりに澄香に頭を撫でられながら泣きじゃくる。
やがて空が明るくなり、枯れていた木々も元に戻り、本当の平和な世界が帰ってきた。
さくらは胴上げを終えて周りを見ると、こっそり木陰に隠れて微笑みながらピースサインを送る高飛車きららがいた。
きららは両親に見つからないように応援に駆けつけてくれていて、あの自分勝手で高飛車な態度は嘘で本当は優しい子なんだとさくらはきららの誤解を解いた。
さくらの視線を見たほむらとみどり、ゆかり、橙子、千秋、最後に海美ときららを見つけ、ピースサインを見てきららの誤解が徐々に解けていった。
きららはさくらたちの視線に気付いた瞬間に何も言わずに去っていき、すぐに姿を消した。
その様子を見てさくらたちはそれぞれ思ったことをつぶやく
「アイツ、素直じゃねえな」
「本当の姿を見せればいいのに」
「でもきららちゃんの笑顔、可愛かったなあ」
「きららさん、本当はお優しい方だったのですね」
「そうなると何か事情がありそうね」
「引き続ききららを見てみるとしよう」
「きららちゃん、応援ありがとう……」
「さあみんな! 世界の平和を取り戻した記念に、みんなで記念写真を撮るわよ!」
灰崎はカメラを構えて写真を撮り、モノクロ団との勝利を記事として早速取り上げようとした。
この瞬間ついにアルコバレーノはモノクロ団に勝利したのだった。
つづく!




