第66話 絶望の魔物
モノクロバレーノを倒したアルコバレーノが鏡の世界から戻り、勝利ムードとなった中でモノクローヌが召喚した魔物は高層ビルと同じくらい大きく、その周りを人型の小さな魔物の群れがたくさん湧いてくる。
大きな魔物は雄叫びを上げてアルコバレーノを威嚇し、小さな魔物の群れは希望に満ちた人を見つけては絶望に落とそうとうなりながら向かってくる。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「「「うあぁ~…!」」」
小さな魔物の群れは目が見えてないのか、辺りをウロウロするだけだったが、プラスエネルギーを察知するとゆっくり一直線に向かってくる。
大きな魔物は雄叫びを上げながらゆっくり歩き、その歩いた後に大きな地震が起きて足元のバランスを崩す。
その様子を見たシロンが恐怖を感じ、その魔物の正体を話す。
「あれらは絶望の魔物と呼ばれていて、大勢の人間が絶望のマイナスエネルギーに染まった時、多くのマイナスエネルギーの魔力で作り上げた魔物だ! ここまでのマイナスエネルギーはおそらくレインボーランドだけでなく、この世界にも大きな絶望を与えたのだろう……」
「何ですって……!?」
「とくにあの巨人はレインボーランドの10年間の、小さな魔物の群れはこの世界の人々の絶望で作られているんだ……」
「じゃあ俺たちがモノクロバレーノに襲われてた時もマイナスエネルギーとして利用されたのか……! くそっ!」
「あなた……」
モノクロバレーノはアルコバレーノを倒すだけでなく、人々の絶望を集めて絶望の魔物を作るために利用されていた事実を知った晃一郎は悔しさのあまりに電柱を殴る。
それを見守るしかなかった澄香は涙を流しながら晃一郎の背中を抱きしめ、シロンも打つ手はないのかと考え込んだ。
それでもゆかりは魔力を使って鑑定を始める。
「私の鑑定だと、おそらくどんなに倒しても新たに地獄から生えてくるだろう。だがあの巨人を倒すことが出来れば、無限に湧いてくることはあるまい」
「じゃああの巨人をさっさと倒そうよ!」
「そして最も強いプラスエネルギーが必要で、あの巨人の心臓部にプラスエネルギーを当てれば消滅するようだ」
「一番魔力が高く安定しているのはやっぱり――」
「そうですね。彼女でしたら――」
ゆかりの鑑定の結果、強いプラスエネルギーが必要とされ、最も安定して強いプラスエネルギーを持っているのはさくらだと思い、ゆかりたちはさくらを見つめた。
さくらは自分がプラスエネルギーが強いという自覚がなく、みんなに見られてビックリする。
「え……? 私……?」
「アタシたちじゃあ一撃は強くても魔力では敵わねぇ。今のところ、さくらしかいないぜ」
「プレッシャーかもしれないけど、私たちがあなたを援護するわ」
「心配しないで。私たちも一緒に隙を狙って攻撃するよ」
「ありがとう。みんなで一緒にモノクローヌの魔物を倒そう」
「ふっふっふ、人間共のマイナスエネルギーに勝てるかしら? あなたたちの心の中のマイナスエネルギーよりも膨大で強いわ。せいぜい苦しみなさい。さぁ絶望の魔物たちよ! あの子たちを葬りなさい!」
「「「あ~う~……」」」
「いくよ! みんな!」
「「うん!」」
さくらたちは絶望の魔物たちを止めるべく立ち向かい、何もできないシロンは涙を流して見守る。
澄香と晃一郎はさくらたちを応援し、自分たちにできることを始める。
「みんな……すまない……!」
「私たちは見守っています!どうかご無事で!」
「この世界を頼んだぞ! 俺たちは一般人がいたら避難させるぞ!」
「「はい!」」
澄香と晃一郎、そしてシロンは逃げ遅れた人々を誘導するためにさくらたちから離れる。
絶望の魔物には目も鼻もなく、ただ暗い視界の中でウロウロと闇雲に探すだけだった。
それでも無限に湧いてきてキリがないと瞬時に判断し、ただあの巨人に向かって一撃を決める事にする。
たった一撃だと倒せないと判断した海美は少しずつ弱らせるように促す。
「これほどのマイナスエネルギーだと一発だけじゃ足りないわ! みんなであの巨人を攻撃して弱らせましょう!」
「それならアタシに続けぇっ! おらあぁっ!」
「ボクの拳は岩をも砕くよ! それぇっ!」
「援護は任せて!」
「あの巨人を弱らせるのはわたくしがやります! はぁぁぁぁっ!」
「私たちの絆は絶対に壊れたりしないわ!」
「奴の弱点は……目と心臓と見た!」
「私の最強魔法のリボンだ! いくよ!」
さくらは絶望の魔物の群れから道を作るために杖の魔法で避けさせ、近づかれたらこん棒で叩く。
さくらはほむらから習った野球のスイングを活かして打ち、ほむらたちはそれぞれの武器で援護攻撃をする。
それでもモノクローヌは余裕の笑みで巨人を操り、巨人はさくらに向けて大きな拳を向けさせる。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「きゃっ!」
大きな絶望の魔物の拳の強さは半端じゃなく、ちょっと地面に着いただけで大きな地震が起こる。
ようやく立てるようになった純子は地震にバランスを崩し倒れ込む。
澄香が瞬時に純子を支え、ものすごいパワーだと思い知る。
「くっ……! 何てパワーなの……!? 私以上ね……!」
「社長! 大丈夫ですか!?」
「大丈夫よ水野さん。それにしても……殴っただけでこんなに揺れるなんて……!」
「社長! どうやら一般人は全員避難したみたいです!」
「わかったわ夜月くん! こんな危険な中でよく頑張ったわ!」
晃一郎が戻ってきて、逃げ遅れた人はもう誰もいなくなった。
それでも残されたアルコバレーノは、絶望の魔物たちを倒せずにいた。
「すごいパワー……! こんなに強くて大きいのが相手なんて……! でも負けない!」
一度こん棒で打撃を加え、巨人の注意を引くように動き回る。
空を飛ぶことが出来ないので高くジャンプしながら上から叩き、着地と同時に走り回って目を逸らさせる。
ほむらたちは魔物の群れがさくらや純子たちに近づかないように守りつつ、巨人の注意を引くように牽制をする。
巨人はダメージが通ってないように見えないが少しずつダメージが入り、ついに感情的になって暴れま回った。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「危ないっ! ハッピーフラワーホール!」
「さくら!」
「みんな! 大丈夫だった?」
「あの技で拳を吸収したのね。危なかったわ……!」
「助かったよ! ありがとう!」
ほむらたちが大きな絶望の魔物の攻撃に当たりそうになったので、さくらは咄嗟に防御魔法で防ぐ。
攻撃に当たらずに済んだので安心していると、モノクローヌはまたさくらたちを挑発する。
「やはり仲間想いね、桃井さくら。だけど守ってばかりでは勝てないわよ」
「だとしても負けたりしない! 魔法少女は希望の光だから!」
「やれるものならやってみなさい! 絶望の魔物よ! 最も魔力の高いあの子を集中的に狙いなさい!」
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「今だ! 10万ボルトライフル!」
「ぐうぅっ!」
「やった! ダメージが通じた!」
「一撃必殺のマスケットか! 頼りになるぜ!」
「えへへ♪ 銃によって使い分けているんだ♪」
「なるほどな。拳銃でスピードのある連続射撃とマスケットによる一撃必殺射撃か。千秋は最高の射撃手だ」
「ゆかりちゃん! 後ろ!」
「ふっ、気付かぬと思っていたか! 残念だったな!」
「ぐおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「ゆかり……いつの間に気配を!?」
「奴の気配を読むことなど朝飯前だ。おかげで左腕を切断する事が出来たぞ」
「今度はアタシの番だ! グングニルジャイロスロー!」
「ぐおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「左目に決まったわ!」
「どうだ!」
みんなのたくさんの援護によって巨人は弱ってきて、動きもだんだん鈍くなってくる。
絶望の魔物の中には絶望に抵抗し、もがき苦しむ魔物もいて、まだ人々の中に心の光が残っていることがわかった。
それに気付いたさくらは深呼吸をし、最高の必殺技で巨人の心臓を狙う。
そしてみどりは四つの矢を同時に放ち、巨人の動きを止める。
「動きを止めます! アロマセラピーゾーン!」
「何だろう……。すごくいい香り……」
「そうだね……。こっちからは無駄な力が抜けて楽になるよ……」
「だがみどりのプラスエネルギーの香りを嗅いだ魔物の群れは動きが鈍い上に苦しんでいるぞ! これはチャンスだ!」
「ここで一気に決める! ウルトララブ&ピースハリケーン!」
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおっ……!」
「「「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……!」」」
絶望の魔物の群れも同時に飲み込んださくらの魔法は、巨人に直撃し魔物は全て浄化されて消えていった。
あまりにも過酷な連戦を重ねていたので、浄化しても疲れて体中に力が入らなかった。
少しよろけて倒れると、少し回復した澄香とシロンが駆け寄り、純子が後を追って近づいて抱きしめた。
「あなたたちはこの連戦でよく戦ったわ! 後は私の残った魔力を受け取って少しだけでも回復してちょうだい」
「はい、そうさせていただきます……」
「残るはモノクローヌ一人になったね。最後まで何も出来なくて本当にすまない……」
「何言ってるんだよ。シロンは王国のみんなを勇気づけたり、ボクたちの陰でのサポート、いない間にマイナスエネルギーに抵抗するように戦ってたじゃん」
「シロンの最後の抵抗があったからこそ私たちは勝てたのよ。もっと誇っていいのよ、王子さま」
「ありがとう……。僕の魔力も受け取ってほしい」
「ありがとう、シロン」
シロンたちの残された魔力で回復させ、少しだけ疲れが治る。
モノクローヌだけが残り、少し休んでからモノクローヌに挑もうとすると、モノクローヌはまだ余裕の笑みを浮かべていた。
「ふっふっふ……。まさか人間共のマイナスエネルギーをも倒すなんてね。いいわ、今度は私があなたたちを絶望に落としてあげる。しかしここで戦うには少し狭いわね、私が独自に創った戦場に行きましょう。ついて来なさい」
「モノクローヌ……あなたね!」
「黒田純子、水野澄香、シロン王子、夜月晃一郎、そして……灰崎真奈香。あなたたちもこの世界に招待するわ」
「え……? 真奈香……?」
「灰崎先輩……!?」
「……ごめんなさい。記者としてこの戦いを見届けたかったの。それに……私にもモノクロ族の血がある以上、ここに来る運命だったのかもしれないわ」
「灰崎記者!?」
「ずっと見てたんですか!」
「灰崎真奈香、あなたは記者になったのね。いいわ、あの子たちが絶望の黒に染まって世界が闇に落ちるところをよく見届け記事にしなさい。さぁ案内するわ。ついて来なさい」
激しい戦いで気付かなかったが、灰崎が記者として危険を顧みずにアルコバレーノの戦いぶりをずっと見ていて、僅かな気配でモノクローヌは気付いていたからか、最終決戦に招待する。
灰崎も一緒にモノクローヌの創り上げた戦場に向かうために旅の扉に入り、最後の戦場へ全員で向かった。
本当の最期の戦いが今ここで決着をつけるときが来たのだ。
その様子を見ていた少年が慌てて携帯を取り出す。
「大変だ……! 彼女たちの応援のために避難所から抜け出したけど、アルコバレーノが最後の戦いに……! こうなったら……僕に出来る事をしよう!」
つづく!




