第61話 ダークナイト
四天王最強であるダークナイトとの決戦が始まり、アルコバレーノは武器を構えて飛び出した。
ダークナイトは素早い動きでレイピアを突き出して威嚇し、今までにない殺気で恐怖を植え付けた。
それにダークナイトは呼吸ひとつ乱れず、表情も全く変わらなかった。
そんな中でダークナイトは余裕の笑みを浮かべて語りかける。
「君たちは私が四天王最強と思っているだろう。確かに四天王のあの三人がかりでも私は倒せない。だが逆を言えば三人ほど個性的で突出した能力がない四天王最弱とも言える」
「それはどういう意味かしら……?」
「まず純粋な戦闘力と身体能力であればヘルバトラー。無限の魔力と遠距離攻撃であればアクマージ。そして知略と心理学であればデスカーンが私より圧倒的に優れている。故に彼女たちはナンバーワンでオンリーワンの存在。私は所詮そんな彼女たちのいいとこ取りの能力に過ぎない。だが私はそのすべてを受け継ぎ、彼女たちをまとめるカリスマ性をも持っている。だからこそ私は全てを上手く利用し、最強に恥じない存在になれたのだ。故に私は四天王最弱であり最強なのだ」
ダークナイトは自分が一つの能力に長けているわけではない最弱だと言い、同時に全てを兼ね備えた上で四天王の三人に打ち勝つほどの最強の戦闘力を持っていると語る。
しかし他の三人は大きな弱点があり、それが目立ってたから弱点を突いてようやく勝てたのかもしれないとみどりは思う。
しかしダークナイトはそんな弱点を持ってもなお、それを補う全ての能力の高さを持っている。
さくらはダークナイトがあまりにも心を開くので、警戒しながらダークナイトに質問をする。
「自分の事を随分話しているけど、何か企んだりしてないかな……?」
「私と一夜を過ごした仲ではないか。私は正々堂々と勝負がしたいのだ。勘違いしては困るが、これは君たちを強者と認めた上での騎士道だ。弱者などにそんな事している暇はない。弱者はおとなしく強者に跪き、絶対服従の生活を強いられるべきだ。それに弱者に構っているなんて時間の無駄だからね」
「それがあなたの本性なんだ……! だったら負けない!」
「いい目をしているね。ならば全力で受け止めてやろう!」
アルコバレーノは弱者を踏みにじるような行為を決して許すことができず、少しだけダークナイトの本性を知って負けられないと感じた。
今までは弱者を踏みにじるやり方としては暴力で支配する、圧倒的な能力で支配する、卑怯なやり方で絶望させるという酷いなやり方だった。
しかしダークナイトの場合は力と恐怖で支配し、世界に絶望を味合わせるという真っ直ぐシンプルな絶望を生きがいとしている。
ダークナイトはレイピアで斬りつけ、そして素早い動きで連続で突き出す。
橙子と千秋、ゆかりは格闘に慣れているので見切って避ける。
橙子はダークナイトの動きを見切ったのか蹴り技を放つ。
「ボクは武器はないけど、こういう事も出来るよ!」
「しまった! カポエイラの蹴り技か!」
「捕まえた! やぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「くっ……!」
「覚悟しろ! ふんっ!」
「うっ……!」
橙子のカポエイラを取り入れた蹴り技で動きを封じ、千秋が柔道で培った投げ技で倒し、ゆかりが刀で斬りつける。
ダークナイトはダメージを与えられてもなお呼吸が乱れなかった。
それでも確実にダメージは入り、ダークナイトも少しずつ焦り始める。
「やった!」
「油断したよ。君たちは連携が見事とは聞いていたが、ここまでとはね……。さて、そろそろ遊びはここまでだ」
ダークナイトはレイピアを右手から左手に持ち替え、何をしているのかアルコバレーノはわからなかった。
頭のいいみどりすら気づかなかったが、海美だけはダークナイトが左利きだとすぐにわかった。
「レイピアを右手から左手に持ち替えましたね……?」
「まさか……!? 彼女は左利きの可能性があるわ! 気を付けて!」
「今頃気付いても遅いっ!」
「きゃぁぁぁぁぁっ!」
ダークナイトは今まで利き腕ではなかった右手でレイピアを操っていた。
本気を出してきたのか利き手の左手でレイピアを操るとスピードとパワーが格段に上がり、コントロールもよくなっていた。
さすがのゆかりでもこの動きを見切る事ができず、ただ後退して避けるのみだった。
攻められている中でさくらは杖でかく乱攻撃を仕掛け、ダークナイトをけん制する。
「ほう、君は棍棒と鞭だけではなかったようだな」
「魔法少女らしくていいと思うよ。リボンとバトン型の棍棒で変幻自在に動けるんだよ」
「本当に君だけは読めない動きをするよ。だけど、地力のパワーが足りないね」
「きゃぁっ!」
「さくら!」
リボンでダークナイトを縛り付けるも、ダークナイトは強引にリボンを千切ってさくらにレイピアで切り裂く。
パワーはヘルバトラーよりも劣っているといっても、ヘルバトラーと同じくらいのパワーだったので、力自慢のほむらも珍しく冷静さを失っていた。
「クソッ! あいつに弱点なんてあんのかよ!」
「彼女は命を奪うのが嫌いと言ってましたが、わたくしたちには本気のようですね!」
「ふっ、確かに私は殺人という行為は苦手だ。生きながら絶望を味合わせる事ができない上に、永遠の苦しみではなくなるからね」
「やっぱりそういう事かよ。テメェらしい考えだぜ」
「私に左手を使わせたのは君たちで2回目だ。最初は黒田純子だった。左手にまで追い込んだのは褒めてやろう。だがそれ故に……君たちの希望はここで潰えるのだ!」
「「「きゃぁぁぁぁぁぁっ!」」」
千秋とみどりはレイピアに斬られ、遠距離での攻撃が困難になってしまった。
さくらはこん棒で防ぐことが出来たが、杖での攻撃が難しくなっている。
このまま負けてしまうのかと絶望しかけた時に、海美だけは希望を失ってなかった。
「私にいい考えがあるわ。彼女は左で攻撃し、右で恐らく防御に使うと思うの。そこを利用して一斉に囲みましょう」
「なるほどな! 海美の冷静な判断はやっぱ頼りになるぜ!」
「わたくしも……お手伝いします……!」
「私も……ここで負けたくないから……!」
「みどり、千秋! 大丈夫か?」
「大丈夫です! わたくしたちの魔法はまだまだこんなものではありません!」
「うん! みんなで協力しよう!」
「いくぞダークナイト! 貴様の本気をここで攻略してみせる!」
「面白い! やってみるがいい!」
千秋は連続で拳銃による6連発、みどりは短剣で駆け引きをする。
短剣はリーチこそ短く近づかないと攻撃できないが、そこを利用してあえて攻撃を仕掛けずただ睨み合った。
みどりが気を引いているうちに海美とゆかりが切っ先に魔力を高める。
ほむらは槍で特攻し、橙子は素早く動いて視力を惑わす。
そして魔力が最も高いさくらによる棍棒で一撃必殺の技を繰り出す。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「青井海美、紫吹ゆかり、君たちは私に剣術で挑もうというのか! だが残念だったな、君たちのような両手持ちの刀剣では片手の私にスピードでは勝てぬ!」
「だからこそ、私たちは囮よ……」
「うむ……。だから最後は……さくら!」
「何っ! 私の剣が折れた…!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ! トキメキステッキ!」
「ぐはぁっ!」
海美の丈夫な剣でレイピアを曲がらせ、ゆかりの刀でレイピアの刀身を斬りつける。
斬れたレイピアに気を取られたダークナイトはさくらの気配に気づかず、一撃の重い棍棒で胸部を叩かれてうずくまった。
さくらはこん棒をクルクルと回しながら連続で叩き、最後はバットのスイングのように振り、ダークナイトを後方へと飛ばした。
鎧の胸部はへこみ、ダークナイトの乱れなかった呼吸と表情は次第に乱れていった。
するとダークナイトは嬉しそうに表情を変え、へこんでいる鎧を脱ぎ捨てる。
「君たちは私の誇りと鎧に傷をつけた……。ここまで追い込んだのは君たちがはじめてだ……。そんな君たちに敬意を込めて……全力で君たちを殺す……。さぁ……覚悟はいいかい……? いでよ! 魔剣ヘルカリバー!」
ダークナイトが魔剣を召喚する呪文を唱え、空から黒い雷が降ってきた。
決闘上の中央が雷で割れ、そこから闇に包まれた黒い大剣が現れた。
「何……? この地獄から上がって来たような……!」
「肌がピリピリと焼けそうです……!」
「あれが魔剣ヘルカリバー……!?」
「ふぅ……この魔剣を召喚する時が来るとは思わなかったよ。さてと……よくも私の誇りと身体に傷をつけてくれたね。もう君たちを死刑にするのも躊躇いはない。ここで死ぬがいい!」
「うわっ! たった一振りでこの風圧はなんだ!?」
「上条くんの時以上の風圧だよ……!」
「しかも鎧を地面に落とした瞬間に大きな揺れが……!」
「じゃあ今までも本気じゃないって事……!?」
「その通りだ、この装備は重さがそれぞれ40キログラムある。そして片手でしか剣が使えないと攻撃に不利だ。そして最低限の鎧の装備さえあれば、私は無敵だ。死ぬがいい!」
「うっ……!」
前よりも遥かに大きなマイナスエネルギーで圧倒し、剣を一振りしただけで決闘場が崩れかける。
このダークナイトの本気がどれほどの力なのか、少し様子を見る事にした。
アルコバレーノは全ての魔力を溜めこみ、最後の決戦に挑んだ。
つづく!




