第60話 決闘前夜
アルコバレーノはシロクロガハラに着き、そこには平野とは思えないある光景を目にした。
それはコロシアムのような決闘場が中心に建ててあり、ダークナイトがそこで待ち構えていた。
ゆかりたちは今までのように不意打ちやだまし討ちなどを警戒し武器を構える。
するとダークナイトは、信じられない事を言う。
「やぁ、来ることはわかっていたよ。君たちなら来るって信じてたからね。さてと……どうしてそんなに警戒しているんだい?」
「貴様の殺気……他の四天王と同等の大きさだからな……!」
「あなたも不意打ちやだまし討ちをするのでしょう? だったら警戒するしかないわ!」
「そうか。私の放った殺気が君たちを怯えさせたようだね。確かに私は不意打ちは得意だが、そういうのはあまり好きではない。だから肩の力を抜いてもらいたい、今日は君たちに話しておきたい事がある」
ダークナイトは突然殺気を全て消し、武器を置いて歩み寄る。
不思議な事にダークナイトは今までの四天王とは何かが違っていた。
今まで着ていたローブを優しく脱ぎ捨て、フードを外すと他の四天王と共通する少女姿を現した。
ダークナイトの正体はいつもの黒髪に黒い瞳、そして他とは違う凛々しくて中性的なショートヘアで、顔つきも美しく整った女の子だった。
ダークナイトは座り込んで空を眺め、ゆかりたちに語りかける。
「さて、これから話すのはモノクロ団の野望の真実と、モノクロ族にまつわる話だ。君たちもここに座りたまえ」
「う、うん……」
「何か、調子狂うね……」
「アイツ、何か悪そうな感じじゃねぇな……」
警戒しながらもマイナスエネルギーを感じなかったゆかりたちは、ダークナイトの言う通りに座り込む。
ダークナイトは切ない表情をしながら自分たちのことを語り続ける。
「まずはモノクロ族にまつわる話をしよう。かつてモノクロ族は闇魔術を得意としていて、いつ王国に脅威になるかわからなかった。だから王国から長年マークされていてね。それで本当に召喚してはいけないものを召喚し、その召喚してはいけないもののせいで絶滅した。ここまでは歴史通りだね」
「モノクロ族の日記も同じこと言ってた」
「王国が直接絶滅させたわけではなく、召喚してはいけないものの洗脳によって殺し合い、そして王国に襲いかかった。残された洗脳されなかったモノクロ族は王国と共に協力して召喚してはいけないものを封印された。だが時は既に遅く、皇帝は洗脳される前に自決して民族浄化されてしまった。息子たちを逃がしたうえでね。モノクロ族の真実はこれだが、モノクローヌ様はそれをわかってた上で『王国に絶望を与えて復讐する』と仰っていた」
「わかっているならどうして話さぬのだ?」
「わかっているからこそ、私はモノクローヌ様に協力をしている。おそらく召喚してはいけないものにそそのかされてきたのだろう。その召喚してはいけないものは王国の7人の賢者によって封印されたが、魂と心だけは封印しきれず、モノクローヌ様をそそのかした」
ダークナイトは知っている範囲で歴史の真実を語り、古い日記でさえ書かれていなかったことを知る。
恐怖におびえながらさくらは勇気を出し、召喚してはいけないものの正体を聞く。
「その召喚してはいけないものって何?」
「きっと話さないと言ってもまた聞いてくるだろうから全て話そう。君たちも歴史の教科書で習ったはずだ。それは――絶望の女王『アンゴル・モア』だ」
「それって『西暦時代に世界を滅ぼす』と言われた恐怖の大王……?」
「そうだ。アンゴル・モアによる嘘の洗脳によって王国への恨みがこみ上げ、マイナスエネルギーで王国を侵略しようとした。元々隠居していたのだったが、モノクローヌ様はアンゴル・モアによって洗脳され、モノクロ団として王国に復讐を果たしたんだ。そして私たちはそんなモノクローヌ様によって生み出され、忠誠を誓い今に至るわけだ」
人間界の誰かがモノクロ団の封印を解き、アンゴル・モアというものがモノクロ族を洗脳しただけでなく、モノクローヌをも洗脳したとダークナイトは話した。
過去にも日本革命隊が関わっている日本民主党や、かつて晃一郎と敵対していた今は廃校となった高校の川崎国際と何か関係があるのかもしれないと海美は推理する。
それでも憎しみというものは連鎖し、今に至ることを思い知った。
「そうなのね……。なら私たちはその野望を止めないといけないわね」
「『憎しみはいつか断ち切らなければならねぇ』ってのはそっちでも同じ事なんだな……」
「マイナスな感情がなければ、人間も戦争なんてしないで済んだのに……」
「モノクローヌ様は人間界に来た時にこう言っていた。『この世界は一見美しいが、よく見ると醜いものだらけだ。偽りの美しさに溺れた世界に絶望を招くには丁度いい』と」
「そうでしたか……」
「10年前にはモノクロ族の裏切り者がいる。だからその裏切り者を葬る目的で人間界に来た。それが黒田純子だ。だが彼女はたった一人で我々四天王をピンチに追い込み、葬るのは無理だとわかった。だからデスカーンに二度と歩けない呪いをかけさせた。だがアルコバレーノ、君たちの伝説を知ってもう一度人間界に用が出来たね。灰崎真奈香は王家とのハーフの血だが、何故か全く魔力を感じない。だから葬っても無駄だから人質として利用した。それが10年前の真実だ。」
「マジかよ……」
「社長はやっぱりすごいね……」
ゆかりたちは純子の凄さを改めて実感し、四天王が本気を出すほど追い込んだことに驚く。
そしてモノクローヌの他に黒幕がいる事がわかり、モノクロ団の野望を止めればアンゴル・モアの手がかりが見つかるはずと考えた。
ダークナイトは四天王とは思えない穏やかな表情でいろいろと語り続け、さくらたちに質問する。
「君たちは純子の仇として世界の希望を守るため、王国が復讐されて救うために戦っている。その事はリスペクトしよう。だが何故君たちは今までの戦いで諦めなかったんだい?」
「どうしてって……大切な人たちを守りたいって気持ちと、私たちの愛と平和の願いを背負っているのと、今はモノクロ族による憎しみを断ち切って和解させる事かな」
「なるほど、興味深いね。君たちのプラスエネルギーはこの短期間でここまで伸びてきた。素晴らしい精神力だ。うむ、少々語りすぎてしまったようだ。もう夜も遅いし私と一夜を過ごそう」
「いいの? 大事な決戦の前なのに?」
「大事な決戦の前だからこそ一夜を過ごし、お互いを知り万全な心身で全力を尽くして戦う。それが私にとっての決闘だ。それに君たちは私と違って連戦で長旅をしている。疲れを癒して完璧に挑めるようにしないと私の騎士道に反する」
「うむ。私にも忍だが武士道も受け継いでいる。そなたと同じものだな」
「だが覚えておくといい。翌朝を迎えたら全力で君たちを闇に葬りにいく。もし決闘の時間になっても起きないようなら君たちをそのまま処刑する」
「約束の決闘だもんね、わかった。」
「君たちは物分かりがいいな。さぁもう寝よう、明日に備えてゆっくり休むといい」
ダークナイトの言う通りにゆっくり休み、明日に備えてぐっすり眠る。
命をかけた大事な決闘前夜だというのに不思議と深く眠り、心身共に何故か落ち着いていた。
ダークナイトも装備を脱ぎ捨てて眠りにつく。
そして朝が訪れ、ダークナイトはスッキリした表情で起きた。
しかしそれよりも早く、アルコバレーノは起きていて、準備運動をしていたのだ。
「ふぅ、珍しくいい眠りだった。さてと、アルコバレーノは――どうやら心配いらないようだね」
「「いっちに、さんし! ごーろく、しちはち!」」
「おう、やっと起きたか」
「君たちにはことごとく感心させられるよ。普段から早寝早起きは心得ているようだね」
「早寝早起きは美容や健康、精神面にもいいんですよ。それにわたくしたちはプロのアイドルですから、普段から心得ています」
「アイドル……? それがどんなものかは知らないが、君たちの心意気にはリスペクトするよ。その目と顔つき……どうやら覚悟は出来たようだね」
「私たちはあなたを倒すためにここまで来たもの。逃げたり怯えてたりしないわ」
「そうか。なら私も君たちの全力に応えよう」
「望むところだ! 私たちアルコバレーノは貴様には負けぬ!」
「さぁ、決闘の時間だ! 全力でかかってくるがいい!」
ダークナイトは武器であるレイピアを構え、戦闘開始の意志を見せる。
ゆかりたちも変身をして戦闘体勢に入り、いつ動くかの駆け引きをする。
太陽が昇りきった瞬間、アルコバレーノとダークナイトは一斉に飛び出し、四天王最後の決闘が始まった。
つづく!




