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第5話 与える愛

「何なんだよお前……! 僕を救うだと……!? ふざけるな!」


「苦しかったよね……? 寂しかったんだよね……? 今からあなたを助けてあげるから!」


 魔法少女となったさくらは今も苦しんでいる男の子の魔物に愛を与えようとリボンを右手に持って魔物に挑む。


 魔物はどうせ誰も助けてくれないという絶望に(さいな)まれ、さくらの言葉に苛立(いらだ)ちを覚え斬りかかった。


 さくらはリボンを新体操のように振り回し魔物の攻撃を受け流す。


 リボンはしなやかに舞い、それに順応するように躍りながら避け続ける。


 新体操で培ってきた動きで動き回り、魔物の動きも徐々に弱まってくる。


「ブロッサムトルネード!」


「うっ……!」


 さくらは魔法少女もののアニメでおなじみの技を叫び、その技が魔物の胸部に命中する。


「すげぇ……! これが魔法少女か!」


「ええ、私もはじめて見ました……!」


「ああっ! でも魔物がまた攻撃を仕掛けてくるよ!」


「くっ……! この野郎!」


「きゃあっ!」


 魔物の大きな剣の風圧で、さくらは紳士服店まで吹き飛ばされる。


 激しく衝突して背中に強い衝撃が走り、痛みに耐えながら立ち上がる。


 魔物は苦しさのあまりに剣を振り回し、自棄(やけ)になったようにまた暴れ出す。


「もうお前みたいな偽善者は見たくないんだ! ここでお前を殺して楽になってやる! 死ねっ!」


「さくらちゃんっ!」


「くそっ! 俺が守ってやる!」


「大丈夫……! 私に任せて……!」


 さくらのピンチに晃一郎がさくらを守ろうと飛び出す。


 それでもさくらは晃一郎を止め、根性で立ち上がった。


「ハッピーフラワーホール……」


「何ぃっ!」


「ハートシャワー……スピリチュアル!」


「うぐぅっ……!」


 さくらは魔物に受けた攻撃を回復魔法で傷や痛みを回復させ、同時に魔物の心に愛を与える補助魔法で動きを止める。


 魔物は心に愛を感じたのか動きが止まり、剣を振り回すのをやめた。


「さくら、ついに覚醒を! 魔物はもう心が揺らいで動けない! 早く必殺技を出すんだ!」


「わかった!」


 ピンチから逆転の場面でシロンが駆けつけ、必殺技を放つように促す。


「貴様ぁぁぁぁぁぁぁっ!」


「大丈夫だよ……? もうあなたに苦しい思いはさせない……。あなたに本当の愛を与えて、新しい幸せを一緒に探そうね……。いくよ! ラブ&ピース……ハリケーン!」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 さくらの補助魔法に腹が立った魔物は強引に愛を振り払って激しく暴れ回る。


 それでもさくらの愛を感じ取った魔物の動きは鈍く、プラスエネルギーが効いている。


 そこでさくらの必殺技で桜の花びらとハートに包まれたハリケーンが魔物に命中し、しばらく経って元の中性的で焦げ茶色の髪の同い年くらいの男の子に戻った。


 首には縄で絞められた跡があり、ほっといたら今にも死にそうな目をしていた。


 呼吸には覇気(はき)がなく、ここまで耐えるのに限界な状態だった。


 さくらは男の子のそんな状態を見過ごせず、男の子の方へと歩み寄ろうとする。


「あの――」


「どうして僕にここまでするんだよ!? 僕みたいな根暗で弱くて……おまけに醜い……! こんな奴が存在するからいじめられるんだろう……? だったらもうここで――」


「じゃあ、あなたが私の目の前で死んじゃったら……もうお友達になれないの……?」


「何だと……!?」


 さくらが近づこうとすると男の子は振り払い、自分で命を絶とうと必死だった。


 男の子はあらかじめ持っていた小型のナイフを自分の首に突き刺そうとしていて、完全にこの世の現実に絶望をしてしまっていたのだ。


 自殺をする気だと焦ったほむらたちは男の子の方へ走って向かおうとする。


 それでもさくらは右手を横に上げ『私に任せて』という合図を送る。


 ナイフで首を切ろうとする前にさくらは男の子と友達になりたいとこぼし、男の子の心を揺るがしていった。


「今なら思いきり泣いてもいいんだよ……? 今まで頑張ったね……。溜め込まないで全部ここで出してもいいよ?」


「うう……ちくしょう……! 何で僕だけ……! うう……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ…!」


 男の子の悲しみを共感したさくらはゆっくり近づいて慰め、愛を知った男の子は今までのことが嘘のように心を介抱して大泣きする。


 さくらはしばらく男の子の背中を抱きしめ、なかなか泣き止まない男の子の頭を撫でる。


 「僕は小学校入学時からクラスでいじめの標的にされ、中学で悪化してしまって先生に相談するも見て見ぬフリで、『自分がいなければいじめは発生しない、学校の名誉のために黙ってて』って言って突っぱねたんだ……。家でも父からも『いじめられる側にも原因がある、お前がダメで暗いから標的にされるんだ』と言われ、母には虐待としてご飯も食べさせてくれなかったし、気に入らなかったら僕を殴ってきたんだ……。児童相談所に相談しても話を聞かれなかった……。そんな時に黒いフードを被った不気味な女の子に声をかけられ、気が付けば魔物になって暴れてたんだ……。笑っちゃうだろ……? 僕なんかこの世に生まれなきゃよかったんだなってずっと考えてたんだから……」


 男の子は今までの壮絶な人生を話し、さくらはその話を聞いて大粒の涙をこぼして泣き出す。


 あまりにも愛を知らない育ち方をしたので、男の子は自殺をしようとしていたのだ。 


「みんな奪う自分への愛に溺れていったんだね……。ずっと一人で戦って、それでも報われなかったんだね……」


「ああ……そうだよ……」


「それなら私の中学校に転校してほしいな」


「お前の学校……?」


 男の子の悲しみを一緒に悲しみ、そしてさくらは今までの環境から離れさせるために大胆な提案をする。


 男の子は突然の提案に少しだけ落ち着いた。


「私ね、自分さえよければいいって思えないんだ。自分だけの自己満足の愛、与えてあげてるという上から目線の愛、欲望だけの薄っぺらい愛、他人から幸せを奪う愛なんていらないって思ってるの。自分が幸せなだけでなく、他人にも幸せが共有しあえるような心を込めて愛を与えられる人間になりたいって思ってる。あなたは心の傷と痛みを知ってるよね? もし私の学校に転校したら、そういう人間を目指してみようよ」


「お前は僕にそこまで……! お前って本当に面白いな……。もっと早くお前に会いたかったよ……」


「私とLINE(リーネ)の連絡先交換しようよ。これでもう私とお友達だよ」


「そうだね……」


「私は桃井さくら、(さいわい)中学三年。よろしくね」


「上条……健太だ……。神木(しぼく)中三年だ……」


「同い年だ……! だったら私のクラスに来てほしいな」


「検討するよ……」


「神木中……!?」


 さくらの提案で男の子とお友達になり、同級生ということで連絡先を交換する関係になる。


 連絡先を交換してようやく男の子の目に希望が見え、男の子はさくらの愛によって立ち直った。


「ありがとう、おかげで目が覚めたよ。僕も君みたいな愛を与えられる人間を目指すよ。それから……デビューおめでとう。アイドル雑誌で新プロジェクトの記事見たよ。アイドル活動頑張ってね」


「うん!」


「それじゃあ、またね。君の学校への転校、目指してみるよ」


 こうして上条はゆっくり立ち上がり、その場を去ろうとした。


「待ってくれ!」


「何ですか……?」


「神木中と言ったな。となると俺の後輩か……だとしたら余計にほっとけないな。なあ、親から離れる気があるならなら俺の兄弟にならないか? 俺には君と同い年の妹がいて家族になれるし、うちの良心には話をしてみる。君さえよければ俺の家族にならないか?」


「あなたの家族……?」


「ああ、俺なら君を転校させられる。俺に任せてくれないか?」


「でも……迷惑になるんじゃないですか……?」


「夜月さんなら大丈夫だよ。夜月さんも中学時代に可哀想な目に遭って、それでも立ち上がれた経歴があるすごい人なんだ。上条くんの支えになると思うよ?」


「桃井さんがそこまで言うなら……よろしくお願いします」


「はい! よろしくお願いしますね、健太くん♪」


「よし! そうと決まったら行くぞ! 裁判で親権を得て、俺たちの家族になろう」


 晃一郎が上条を呼び止め、上条と同い年の妹がいるということで今までの家族と離れて自分と義理の兄弟になろうと提案する。


 晃一郎自身も中学時代に濡れ衣で学校から煙たがられ、ずっといじめられてきた過去があることをさくらが話す。


 その話によって上条はさくらだけでなく晃一郎にも心を開き、そして晃一郎は家まで一緒に帰った。


 そして翌日――


「やったねさくら! 魔法少女に覚醒したね!」


「ええ、大活躍でした♪」


「く~っ、羨ましいぜ! アタシも覚醒してぇ!」


「えへへ……///」


「あれから彼はどうしてるかしら?」


「実は今日髪を切って転校してきて、私と隣の席になったんだ。夜月さんの協力のおかげで晴れて(さいわい)中学校の生徒になったの。夜月さんのご両親も話を聞いて一緒に悲しんでくれて、上条くんを家族として受け入れてくれたんだ。今じゃすっかり夜月さんを『兄さん』って呼んでるみたい。それで私のクラスに転校して、クラスのみんなも上条くんを受け入れてくれて、今までの過去を話せるようになったの。彼はアイドルが大好きで私たちのデビューも知っててね、『ファンクラブを立ち上げる』って張り切ってたんだ。最初に会った時よりも笑顔が増えて、髪を切ったから顔も見えるようになって嬉しかったなあ」


「すごい! これでさくらちゃんの()()()()()()だね♪」


「うむ、魔法少女としてもアイドルとしても一歩私たちより前進だな」


 上条はさくらの学校に転校し、クラスに馴染めるように自分から頑張るようになる。


 同時に上条は晃一郎を正式に兄と認識し、同い年の妹とも仲良くなった。


 さらに今まで前髪で顔が隠れていたが、勇気を出して髪を切り表情も明るくなったと話す。


 上条のことで盛り上がってると、純子がノックをして休憩室に入る。


「みんな注目! 来週の予定だけど、みんなそれぞれのソロ曲が完成したわ! さすが天才音楽家の滝川瑠美(たきがわるみ)さんね、たった3日で完成させるなんて。それから来週には聖マリア医科大学病院でライブよ! まだ曲はカバー曲になるけど、患者さんの前で歌って病気や怪我で悩んでるみんなの希望になりましょうね!」


「「「はい!」」」


 純子が朗報として新しい仕事を掴み、一歩ずつ前進したことを実感した。


 上条も学校では同じアイドル好きの友達もでき、彼自身も『信じられないくらい学校が楽しい』とさくらに話していたようだ。


 一方の神木中は謝罪会見に追われ、上条の内部報告によってニュースにもなっていた。


 同時に上条家も虐待や育児放棄のことが明るみになり、上条の父が上条を切り捨てたことで本格的に家族の縁を切ることとなった。


 晃一郎はニュースを見て溜息をつきながら『本当にこの中学は()()()()()……』と呆れながら謝罪会見を見ていた。


 『いじめというのはたとえ理由があったとしても、いじめていい理由にはならない。


 人を傷つけることで目に見えない心の傷という病に追われ、悪化すると身体の病気にもなったり、最悪の場合は追い込まれすぎて自殺をすることもある。


 こういった直接手を下さない殺人行為は絶対に許せないし、せっかくの人生が台無しになる瞬間なんて望まない。


 それでも全国にはその事をわかろうとしない人たちがいる。


 そんな被害を受けているみんなのために、愛をたくさん与えて幸せになって、私の歌でみんなの心を救いたい』と思うさくらだった。




 つづく!

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