第59話 純子復活
ほむらの奇策でデスカーンに勝利し、海美とほむらは勝利に酔いしれた。
海美はボロボロになったほむらに肩を貸し、グータッチで友情を誓い合う。
しかし千秋は何が起こったのかわからず、海美とほむらに事情を聞く
「どうして……? ほむらちゃんは裏切ったはずじゃあ……?」
「あー……話せば長くなるんだけどさ。デスカーンが憑依して心を支配するタイプと瞬時に察してな。そこであえて憑依させて心のプラスエネルギーで倒そうってしたんだ」
「そこで単独行動だと誤解を招くという事で、ほむらちゃんが私に作戦に付き合ってと言われたの」
「海美は冷静だし演技力もある。そして何よりアタシが選んだ親友だからな。千秋は演技が苦手って言ってたから心配でさ。だから海美を選んだんだ」
「そしたら心のプラスエネルギーでデスカーンを弱らせて、ご先祖様が力を貸してくれたのよ。敵を騙すにはまず味方からってことね」
ほむらと海美は千秋に今までの作戦を全て話し、千秋はポカンと口を開けたまま聞いていた。
そしてついにすべて理解したのか、千秋は突然泣きだしてほむらと海美を慌てさせる。
「そうだったんだ……! もう二度と…こんな事しないでよ……! 本気で心配しちゃったんだからあ……ぐすっ……!」
「すまなかったな……」
「私からもごめんなさい……。ちゃんと話しておけばよかったわ……」
「でも……よかった……! ほむらちゃんは……私たちを裏切らないよね……?」
「当たり前だ、アタシは絶対に悪には屈しねぇ」
ほむらは絶対に友達を裏切らないと千秋に約束し、永遠の友情を海美と共に誓い合った。
ほむらと海美は演技に興味があり、心理学を元々勉強していたのでデスカーンにも応用することができたのだ。
ドラマなどで鍛えた演技力でアイドルという個性を活かし、策略家のデスカーンに最初こそ疑われたが徐々に心を開かせ、ついにデスカーンを欺くことができたのだ。
代わりに仲間である千秋にも本気にさせてしまい、千秋は二人の名演技には驚くしかなかった。
海美がハンカチを取り出して千秋の涙を拭くと、気を失っていたさくらたちが目を覚ます。
「うう……! 私たちは一体……?」
「あれから気絶していたみたいですね……」
「それよりもデスカーンはどこだ……!? 奴の気が感じないのだが……?」
「あっ、目が覚めた? デスカーンはほむらちゃんが一人で倒したよ!」
「本当!?」
「ええ、ちょっと危なかったけど倒したわ」
「千秋、何故目の下が赤いのだ?」
「えっと、それは――」
「それはアタシが話す。実は――」
ゆかりが千秋の顔を見て泣いていたことを察し、ほむらはこの戦いで何があったのかをさくらたちにすべて話した。
「そんな事があったんだ……。でも本気で裏切ってなくてよかった……!」
「少々無茶が過ぎるぞほむら! 次からは事前に私たちに話さぬか!」
「敵を騙すにはまず味方から、比較的新しいことわざを利用したのですね。仲間を大事にするほむらさんらしいです」
「誤解させて悪かったな。それにアタシは仲間を裏切るくらいなら、自分の胸に槍をぶっ刺して死んだ方がマシだ」
「でも……よかったよぉ……!」
さくらはほむらの作戦に驚きながらも安心し、ゆかりはほむらに誤解を招く作戦をしたことに叱責し、みどりはことわざを使ってほむらの頭脳を称えた。
ほむらは仲間を裏切るくらいなら死を選ぶと言い、千秋はその言葉にまた安心して泣きだした。
すると遅れて橙子が目を覚ます。
「あれ……? ボクは一体……? デスカーンの気が感じないや……。誰かが倒したんだ……よかった――っ……!? 痛っ!」
「橙子ちゃん!」
「目を覚ましたのね!」
「橙子……その右手は……!」
「痛い……! 右手に力が入らない……!」
「その手を見せるんだ!」
「うっ……!」
橙子は右手に激痛が走り、ゆかりは瞬時に橙子の右手を診る。
橙子の右手から大量の血が流れていて、グローブを外すと傷だらけになっていて、動かせないほどの痛みと同時に右手の骨が砕けていることがゆかりにはわかった。
「これは……右手が粉砕骨折を起こしているな……! デスカーンに拳を酷使されたのだろう……!」
「そんな……! もうボク……みんなと一緒に戦えないの……?」
橙子の右手は粉砕骨折をしてしまっていて、空手が二度と出来なくなることよりも、一緒に戦うことが出来なくなることにショックを受けていた。
自分のケガのせいで足を引っ張ってしまった、そんなことを考えてしまった橙子は絶望しかける。
泣きそうになった橙子を見た海美とみどりは立ち上がり、橙子に向かって叫ぶ。
「待って! 諦めるのはまだ早いわ!」
「えっ……?」
「実はわたくしたち、救急治療室で衛生兵さんから戦傷時の回復魔法を習っていたんです」
「その魔法を試してみたいの。さくらちゃんと千秋ちゃん、橙子ちゃんを仰向けにしてあげて」
「う、うん!」
「わかった!」
さくらと千秋は橙子を仰向けにし、両手に力が入らないように寝かせる。
橙子は何が行われるのか少し不安そうに海美とみどりを見つめ、少し怖くなって全身を震わせた。
震える橙子を落ち着かせるように海美は橙子の頭を撫でて安心させ、海美とみどりは天を仰ぎながら優しく呪文をつぶやく。
「母なる海よ……広く優しい海のように、彼女を包みたまえ……。優しきさざ波」
「父なる大地よ……安らぎの風となり、彼女に癒しを与えたまえ……。癒しのそよ風」
「うっ……! これは……!?」
海美の水魔法による優しい波が傷ついた体を包み込んで内部の損傷を治し、みどりの風魔法によるそよ風が外部の流血や傷を塞ぐ。
次第に橙子の表情も元気になっていき、この戦傷時の回復魔法が効いてきた。
そしてついに傷が全て回復し、橙子は試しに拳を動かした。
「凄い! 痛みも痺れも何もない! それにスムーズに動くよ! 凄い! この魔法凄いよ!!」
「この回復魔法は戦傷した人を少ない時間で回復させる究極の回復魔法なの。でもこの魔法でさえたくさんの欠点があるわ」
「欠点? こんなに凄いのに?」
「はい。まずは呪いや病気、心の傷や疲労など物理的な傷でない限り治せないこと。集中力が切れると回復できなくなること。祈りを捧げてる間は動けないこと。死んだ人を生き返らせることが出来ないこと。そして海美さんは外部の傷が、わたくしは内部の傷が治せないことです」
「私は骨折や肉離れ、骨のヒビに打撃や魔法による内部損傷のみで」
「わたくしは切り傷や流血、火傷に打撲など外部的損傷のみです」
「それでも凄いぞ……! 私でさえ応急処置が精いっぱいなのに……! 解毒魔法や病の治療魔法を覚えねば!」
「私も呪いを解く魔法を覚えないと……!」
「私は笑顔を守るために開心術かな?」
「そしてボクは敵に悟られないように閉心術だね!」
「それぞれ課題が出来たな。そしてアタシたちの友情は永遠だよな!」
「もちろん! 裏切ったりなんかしないよ!」
「みんなの笑顔が私も笑顔にさせてくれるもん!」
「ええ、わたくしたちは個性がバラバラでも!」
「心がひとつになればダイヤモンドよりも硬いわ!」
「離ればなれになっても友情は不滅だ!」
「この調子でモノクロ団をやっつけよう!」
「「「おー!」」」
デスカーンに勝利してから不滅の友情を誓い合い、そのまま汽車で王国へと戻った。
汽車に乗っている間は海美とみどりで全員分回復させ、次の戦いの準備を万全にする。
デスカーンが倒されたことで純子にかかっていた呪いが解かれているかどうかアルコバレーノは気になり、急いで王国へと戻った。
王国に着くと全力で走りだし、王宮で大声でデスカーンを倒したことを報告する。
「ビアンコ王! デスカーンを倒しました!」
「何だって!? あの卑怯なデスカーンまで倒したとは! 君たちはやっぱり……いや、これ以上は言うまい。本当によくやった!」
ビアンコ王はデスカーンを倒したことを喜び、アルコバレーノは一瞬だけ気持ちが安らいだ。
残るはダークナイトのみで、四天王最強の実力に怖がりながらも、四天王の三人を倒したことで少しずつ自信がついてきたのか、恐怖を徐々に感じなくなっていた。
ビアンコ王が冷静になって椅子に座ると、今度は衛生兵が駆けつけてビアンコ王にある報告をする。
「ビアンコ王! ご報告があります!」
「どうしたのだ?」
「治療室へ大至急向かってください! 黒田様が……!」
「一体何が……? 私と一緒に治療室へ行こう!」
「「はい!」」
衛生兵が息を切らしながらビアンコ王に報告し、もしかして危篤なのではという不安がさくらたちを襲う。
急いで治療室へ向かい、ビアンコ王が呪文を唱えて治療室の扉を開けた。
中に入ると元気な純子が車いすから離れていて、さくらたちが来るのを知っていたかのように立って待っていた。
その光景にさくらたちは驚き、純子は呪いが解けたことで10年分の喜びを爆発させる。
「みんなおかえりなさい! 見て! 10年ぶりに立てるようになったの! 歩くこともこんなに……!」
「社長! 私たち、デスカーンに勝ったんです……!」
「そのおかげでアタシたちの社長は……!」
「歩けるように……なったんだ……!」
「社長ぉぉぉぉぉぉぉっ! おかえりなさぁぁぁぁぁぁいっ!!」
「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」」」
さくらたちは純子の胸元に抱きつき、そのまま溜めこんでいた感情を全部出すように泣き出した。
純子も10年分の喜びの感情が溢れ出していた。
ビアンコ王も嬉しそうに涙ぐみ、近くにいた兵隊たちも嬉しそうに泣いていた。
さくらたちは純子が歩けるようになった記念のパーティを開き、疲れを癒すようにたくさん食べた。
「しかしデスカーンの呪いが解け、黒田くんも元気になった。それだけでも嬉しいことだよ」
「はい、あの子たちには感謝しています。しかし私は10年間も歩けなかった身です。普通に歩けるくらいになるまでもう少しリハビリが必要でしょう」
「そうだな。アルコバレーノの諸君には感謝だな。リハビリ室ならどんどん使ってほしい。黒田くんが元気に動けるならきっと、彼女たちも安心できるだろう」
「ありがとうございます。さあみんな、今日はパーッと食べましょう!」
「「「はいっ!」」」
純子は珍しく食事をたくさん食べ、さくらたちもジュースをたくさん飲んだ。
ビアンコ王は純子の元気な姿を見る度に涙が溢れ出し、ようやく10年の因縁が解けたことに安心していた。
しかしパーティの終了間際、禍々しくも凛々しい声が聞こえてきた。
「ふむ、黒田純子の呪いが完全に解けたようだね。本当におめでとう」
「その声は……!」
「ダークナイト!」
「そういえばまだあいつがいたっけ……!」
「その通りだ。私は君たちに宣戦布告しに来た。明後日の朝にモノクロ決闘場に来るがいい。場所は元々戦場だったシロクロガハラだ。君たちなら心配はないだろうが、万が一来なければ――君たちの故郷の人間を根絶やしにする。本当は私だってこんな事したくはない、だからこそ来ることを信じているよ。では明後日、モノクロ決闘場で会おう」
ダークナイトが宴の後に姿を出し、招待状を投げて宣戦布告をする。
さくらたちはまだ戦いは終わってないと察し、すぐに戦闘態勢に入った。
ビアンコ王は四天王最強であるダークナイトが立ちはだかることに少しだけ嘆く。
「ついに四天王最強のダークナイトと戦いのか……」
「やはり奴との決戦は間逃れぬか……!」
「ええ、彼女が四天王最強だもの……!」
「ビアンコ王……彼女たちはもう……」
「わかっている、君たちはここまでよくやった。明後日にゆっくり備えて休み、戦いに備えなさい」
「「「はい!」」」
「ダークナイトも弱点はないわ。強いて言えば……命を奪うために殺そうとするとき、目を逸らすか瞑るかのどっちかをすることね。どうしてなのかはわからないけど、彼女は命を奪う事が大嫌いなの。もしその気になれば認められたという事になるわ。頑張って……!」
「「「はい!」」」
さくらたちは戦いに備えて眠りにつき、翌日は訓練に力を注いだ。
そしてレインボーランドを支配していた魔物たちの力が弱まり、兵隊たちでも倒せるほどにもなった。
さくらたちは訓練に集中して魔物には手を出さず、決戦の時に備えた。
そして決戦当日になり、汽車でシロクロガハラへ向かった。
つづく!




