第58話 心の炎
デスカーンが真の姿になり、純子をその姿で殺そうとしたことに激怒した橙子が特攻する。
しかしそれを待っていたかのように橙子を捕まえ、そのまま橙子の胸の中に入っていった。
橙子に憑依していくと、姿は変わらないが魔力がプラスエネルギーからマイナスエネルギーへと変わっていった。
するとデスカーンは橙子の声でほむらたちを挑発する。
「うふふ、柿沢橙子さんの身体はとても軽いですね。今にもあなた方を拳で亡き者に出来そうですね。さてと……あなた方の仲間の身体を攻撃することが出来ますか? 出来ないですよね……?」
「こんな事って……!」
「こんなの……あんまりだよ……!」
「やはり仲間というのは慣れ合ってなんぼのようですね。こちらからいきますよ!」
「きゃぁぁぁぁぁっ!」
「さくら! 卑怯な真似を!」
「どこを見ているんですか? あなたの親友の身体がどうなってもいいんですか?」
「うっ……!」
「今すぐに橙子さんから離れなさい!」
「仲間を気遣う余裕があるのですか?」
「きゃっ!」
「そうやって仲間を庇い続けると……こうなりますよ?」
デスカーンは橙子の身体を利用してさくら、みどり、ゆかりを気絶させ戦えるのがほむら、海美、千秋だけになる。
よく見てみると橙子の拳から大量の血があふれていて、橙子の身体がどうなってもいいというやり方だった。
ほむらはその戦い方に怒りを覚え、同時にデスカーンの卑劣さに絶望しかけた。
しかしほむらはふと考えた。
物理や魔法が効かないなら、あえて憑依させて心のプラスエネルギーで倒せるのではないかという気がしてきた。
ほむらは単独で行動すると誤解を招くと思い、念のために親友で演技力のある海美に説明をする。
(海美、あいつを倒せるかもしれねぇ方法がある)
(何かしら?)
(あいつは魔法も物理も効かねぇとなれば、心のプラスエネルギーを浴びさせればどうなるかなってな)
(なるほどね。心の光って事ね。ということは……あれをやるのね。くれぐれも無茶しないでね)
(もし失敗したら……アタシ諸共デスカーンを倒してほしい。だからちょっと一芝居打つが、付き合ってくれ)
(辛い選択だけど……わかったわ。あなたを信じるわ。絶対に倒して……)
海美とテレパシーで作戦を立て、失敗するかもしれないけれどデスカーンを倒す方法が見つかったと話す。
物理の魔法で倒せないのなら、心のプラスエネルギーでデスカーンを浄化させる作戦で、憑依させてしまうという大きなリスクもある。
それを承知でほむらは危険だが作戦を実行し、一芝居打った。
「おいデスカーン! 今すぐに橙子から離れな!」
「ただで離れると思いますか? あなた方が死ねばすぐに離れますよ?」
「だろうと思ってな。そういやテメェはアタシを気に入ってたな。だったら話は簡単だ。このアタシに憑依して……この世界を絶望の黒へ落としてやろうぜ」
「何それ……!?」
何も知らない千秋は一瞬だけ固まり、敵であるはずのデスカーンですら何を言っているのかわからなかった。
しかし頭脳が冴えるデスカーンはほむらが何か企んでいると感じ、念のためにほむらに質問をする。
「ほう、ハッタリですか? 私を騙そうと企んでいるのですか? それとも……ついに希望を失いましたか?」
「アタシが人を騙せるほど頭がよくねぇ事知ってるだろ? アタシは守る力を……デスカーン様に託したいんだ。力さえあればどんなやつらだって守れる。あなたの力がどうしても必要なんだ。悪い話ではないだろ?」
「なるほど。私と手を組む選択をしたという事ですね。あなたながら賢い選択です。いいでしょう、あなたの身体……お借り致しましょう」
「よろしく頼むぜ、デスカーン様」
ほむらは仲間の危機に絶望したことをデスカーンに話す。
ほむらは持っている武器を捨て、デスカーンに忠誠を誓った。
その行動にデスカーンはほむらのことを信じ、ゆっくりと橙子から離れる。
ほむらはアイドルであることを利用し、デスカーンにバレないように海美に相槌をする。
ほむらはアイドルで鍛えた演技力で『交渉は成功した』とサインを送る。
サインを受け取った海美は演技力がアルコバレーノの中で最も高く、ほむらもそのことを信用しての作戦だろう。
すると海美もスイッチが入り、ほむらと喧嘩をする。
「待ちなさい! どうして……あなたには大切な家族がいるというのに……。『学校や芸能界にも大切な人がいる』って……あんなに誇らしそうに話したじゃない! どうして……どうして私たちから裏切るの……?」
「うるせぇっ! アタシにはどうしても力が欲しいんだよ! このままだとデスカーン様に負けてどの道死ぬんだ! だったら手を組んだ方がいいだろ!」
「そんな……どうして……! ほむらちゃん……酷いよぉ……!」
演技が苦手と言っていた千秋には話していないので千秋は本気でほむらが裏切ったと思い込み、そのまま座り込んで泣いてしまった。
ほむらは海美とよく演技の練習を一緒にしていたので、お互いの演技方法がわかっているので全力で芝居をする。
あまりの本気の演技に千秋だけでなくデスカーンも騙されていることも知らずに。
海美は辛い決断ではあるが、ほむらを本気で倒そうと剣を構えて突進する。
「そう……。だったらデスカーンと一緒に……あなたを倒すわ!」
「いいぜ、来な!」
「ほむらちゃんなんて……大嫌いっ! はぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「赤城さんを傷つけさせませんよ……?」
「きゃぁぁぁぁっ!」
海美はほむらも驚くほど本気で倒そうとし、それをあざ笑うかのようにデスカーンは魔力で弾き返す。
それでも構わずほむらはデスカーンに委ねるように近づき、忠誠を誓って跪いた。
そしてデスカーンはほむらの身体を拘束し、胸の中へ入って憑依していった。
「では今後ともよろしくお願いしますね、赤城ほむらさん」
「ああ、よろしく頼むぜ……うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
デスカーンはほむらの身体に憑依し、そのまま心の中へと入っていった。
ほむらは胸が焼けるように苦しいと感じたが、作戦は上手くいった。
後は心のプラスエネルギーをバレないように溜めこみ、デスカーンを上手く誘い込むだけだ。
その中で海美は本気で悔しがり、ほむらにただ怒りを露わにするだけだった。
千秋はほむらの急な裏切りで泣きじゃくり、もう戦う気力は残ってなかった。
そんな中でデスカーンはほむらの心に話しかける。
「ほむらさん、聞こえますか? 今私はあなたの心の中に話しかけています」
「ああ、聞こえるぜ。それで完全に憑依するにはどうすればいいんだ?」
「橙子さんの時は心を支配するだけでしたが、あなたは忠誠を誓ったので心だけでなく、魂をも支配して吸いこみ、完全な新しい私の身体として利用させてもらいます」
「なるほどな、魂を消すってやつか。まぁいいさ、力が欲しいから好きにしな。だがひとつ聞きたい事がある。何故テメェはアタシを認めていたんだ? アタシよりも強いやつなんかたくさんいるだろ?」
「そうですね……強いて言えば、羨ましかったんですよ。私と違って真っ直ぐで自分を信じ、仲間に信頼され、おまけに頭の回転もいい。そんなあなたを支配し、私にはなかったパワーを手に入れたかったのです」
「それであえてアタシたちが強くなるのを待ってたのか。最初からそう言えばちゃんと待ってたのによ」
「おや、それは失礼しました。出会った時から憑依すればよかったのでしょうね」
デスカーンとほむらはすっかり心を開き合い、互いの本音を語れるほどに仲良くなった。
魂までデスカーンは向かい、ほむらの本音を聞いて安心し、ほむらのことをますます気に入ったようだ。
そしてついにほむらの魂までたどり着き、デスカーンは手を伸ばして掴み取ろうとする。
「さてと……ついに見つけましたよ。それでは…あなたの魂をいただきます」
「ああ、これからよろしくな――」
デスカーンがほむらの魂を掴み、自分のものにしようとした瞬間、黒く染まった魂が急に赤く燃え始め、デスカーンを包み込んだ。
しかしそうなっているとは知らず、千秋はついに大泣きし始める。
海美はまだその時じゃないと判断し、ほむらに裏切られた演技でほむらを軽蔑をする。
「ほむらちゃんなんて……大嫌いっ!」
「うう……! ぐすっ……うえぇぇぇぇぇん……!」
海美が怒りのあまりに嫌いだと叫んだ瞬間、ほむらの体から赤い炎が燃え上がり、デスカーンのおぞましい悲鳴が聞こえた。
何も知らなかった千秋は急な出来事に驚いて泣き止み、海美は作戦が成功したことを瞬時にわかって喜んだ。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「え……? 何……!?」
「ついに成功したのね……! ほむらちゃん!」
「赤城ほむら……貴様ぁっ! 最初からこれをしようとしたなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「感謝するぜデスカーン。テメェの本音を聞けて嬉しかったぜ。テメェのような心まで闇に染まった実体のないタイプはな、心の中にある内なるプラスエネルギーに弱いっての憧れだった先生に学んでたもんでよ」
「何故そこまでして……! もし失敗すれば完全に支配されていたはずだ……! どうして……!」
「アタシは自分や仲間だけじゃなく、テメェの事も信じた。それだけの事さ」
「嘘だっ! 普通は敵の事など信じるはずがぁっ……!」
「『進化するには常識に従いつつ、常識を疑い常識はずれになれ』。誰かが言った言葉だ。人間の可能性をナメたテメェの負けだ! そのまま消えて浄化されな!」
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
デスカーンは内なる心の炎に焼かれ、そのままほむらの身体から出ていった。
先ほどまで実体のなかったデスカーンは大きなプラスエネルギーによって元の姿へと戻り、もはや立つのも精一杯の状態だった。
ほむらも魂までたどり着かれ、さすがに心身共に大ダメージを負っていた。
ほむらが倒れ込もうとすると、海未が全力で駆け出してほむらを介抱する。
意識を失いかけると、ほむらの心から不思議な声が聞こえた。
「ほう、心の内なる炎を燃え上がらせるとは大した熱さだな。赤城ほむら」
「誰だ……!? 何でアタシの名前を……!?」
「ふむ、貴様に名乗るのははじめてだな。俺はアハマール、炎の特攻隊長だ」
「マジか……ご先祖様がアタシを認めたってわけか」
「そうだ。貴様は熱く激しく燃えるだけでなく、内なる心で静かに燃える事も出来た。それが本当の正しい炎の使い方だ。そんな貴様に力を貸そう」
「サンキューご先祖様! デスカーン! これでとどめを刺してやる! 温かくも熱く激しい炎で、きっちり浄化しな! ファイヤーインパクトォォォォォォッ!」
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
デスカーンはほむらの激しくも温かくて優しい炎に焼かれ、そのまま灰となって朽ちていった。
しかしリスクの高い作戦の代償で心身共にボロボロになり、もう二度とこの手は使わない方がよさそうだとほむらは反省した。
ほむらの作戦を信じてくれた海美は、また倒れ込もうとしたほむらを抱きしめ、泣きながらほむらを称えた。
「あなたを信じてよかったわ……! あなたは熱いだけじゃなく、信じる気持ちを持っていたのよ! 悪をも信じ、仲間のために自分に負けなかったのよ……!」
「ああ……。海美なら一芝居やってくれるって信じてたからな……。さすが名女優だな……こんな無茶な作戦に付き合わせて悪かったな……」
「あなたも名女優よ、ほむらちゃん……。作戦を知ってたとはいえ、私でも本気で騙されたのかなって不安だったもの……」
「だからこそデスカーンがアタシの身体を欲しがるってのも信じてたさ……。だけどよ……結構無茶し過ぎたぜ……。少し休ませてくれないか……?」
「ええ、ゆっくり休んでちょうだい」
海美は倒れかけたほむらを休ませ、そのまま寝かせるように休ませる。
すると何が起こったのか、どういう状況なのかわからない千秋がほむらと海美に質問をする。
「ねぇ……どういう事……? ほむらちゃんは裏切ったんじゃあ……? 海美ちゃんも何で知ってたの……?」
千秋は泣きながら二人の作戦に疑問を持ち、二人は本気で誤解させたことに罪悪感を感じた。
『敵を騙すにはまず味方から』ということわざがあり、よくある話だが純粋な人を騙すのはやっぱり申し訳がないと反省する。
ほむらと海美は今までの作戦を話し、完全に誤解を解くことにした。
つづく!




