第57話 デスカーン
トパーズストーン荒野でデスカーンと戦う前に、デスカーンは邪魔な服装を脱ぎ捨てた。
その姿は黒髪のミディアムロングヘアで、髪は随分とサラサラだった。
目と口はニコニコとしていて、服装は黒くて禍々しいが、純子の戦闘服と同じエジプトの神官風の服装で、いかにも呪術をしてそうな雰囲気だった。
大鎌を持っていて、死神という通り名の通りだった。
デスカーンは不意打ちを仕掛け、大鎌を大きく振りかざした。
「来るぞ! 奴は何をするかわからねぇ!」
「むっ! そこかっ!」
ゆかりが気配に気づいて振り向くも、デスカーンは別の所から出てきて大鎌を振りかざす。
「残念でした、私はこちらですよ?」
「くっ……! どこから……!?」
「そこぉっ!」
ゆかりの首が大鎌で切られそうになり、千秋が拳銃で牽制してデスカーンから離れさせる。
しかしデスカーンは素早く影に隠れて千秋に一気に近づく。
「そんな弾丸では当たりませんよ」
「きゃっ!」
「千秋! くっ……! こいつ相手ではボクの格闘では不利だ……!」
「ヘルバトラーから聞いたところ、あなたは頭がよくないと聞いていたのですが、どうやら過去のデータのようですね」
「もうボクだってただのバカじゃないからね! でも……諦めるなんて言った覚えはないよ!」
「やはり変わらなかったようですね。頭が悪い格闘家など私のカモなのですよ?」
橙子の無茶な格闘戦にデスカーンは不敵な笑みを浮かべ、余裕の表情でかわす。
しかしかわされた橙子に焦りはなく、デスカーンは不思議に思った。
「そうだね、一見頭の悪い攻撃に見えるよね。でも――」
「はっ……!」
「くらいなさい!」
「くっ……! 回し蹴りは囮でしたか……!」
橙子の素早い動きと動体視力、運動神経で海美の剣を上手く隠し、瞬時にしゃがんで切っ先に当てた。
デスカーンの戦闘スタイルは人の影に隠れて姑息に攻撃を仕掛け、身代わりに使える戦術で攻撃を躊躇わせていた。
橙子はその迷いがなく、隠れる前に息の合ったコンビネーションで翻弄する。
だがその手はもう二度と通用しないだろう。
「油断しましたよ。そこまで仲間を信頼し合っているなんて予想外でした。うふふ、これは呪い甲斐がありそうですね」
「趣味の悪い笑みをするな。貴様の呪いに屈するほど私たちは甘くはない」
「ではこれならどうでしょうか……?」
デスカーンが独り言をつぶやき始めた瞬間、ほむらたちの体が急に重くなる。
まるで重力が何倍にもなったような重さで、立ち上がることも出来ないくらいだった。
「うっ……!」
「何でしょうか……これは……!?」
「身体が重い……!」
「まるで重力が一気に圧し掛かってきたような…!」
「うふふ、私の呪いであなた方の動きを封じました。同時に魔力の消費も多くなるようにしました。無駄撃ちをしたのでしたら体力も減り、いずれは倒れるでしょう」
「これがデスカーンの呪いね……」
「油断しちゃったなぁ。でも……こんなところで諦めないもん!」
「あらあら、諦めの悪い方たちですね。その諦めの悪さが二人を倒したのでしょうが、私は二人とは違います。油断や対策の甘さなど全て切り捨てましたからね。覚悟してくださいっ!」
「「うわぁぁぁぁぁっ!」」
動きが鈍ったアルコバレーノに大鎌を振りながら波動を撃ち、足元と胸部に直撃させた。
デスカーンは心臓を狙いつつ、足を狙って歩けなくするという卑怯なやり方だった。
ほむらはデスカーンの巧みな戦術と頭脳を、少し見習わないといけないのかもしれないと思った。
するとみどりが何かひらめいたのか、矢を上にたくさん放つ。
デスカーンは余裕の笑みで、みどりを見下して微笑む。
「上に数本の矢を無駄撃ちとは、先程の呪いをお忘れなのですか? あなたの魔力は増えつつあっても、限界がありますよね? それとも気でも狂ったのですか?」
「はい、確かに理性を失い、矢を数本ただ撃っただけに見えますね。ですが……あんまり皆さんをナメてもらっては困りますよ?」
「ほう……?」
「伸びろ! アタシの槍!」
「リボンから杖へ! ブロッサムトルネード!」
「ボクが遠距離も出来るって聞いてなかったかな? 閃光波導弾!」
「くっ……! どこからその力が……!?」
「貴様は少々頭がよすぎたな!」
「なっ…!」
「隼ノ舞!」
「ぐはぁっ!」
「そしてひとつ取り消してほしい事があります。わたくしは計算して矢を放ちましたよ」
「えっ……? ぐはぁぁぁぁぁぁっ!?」
先ほど数本放った矢が突然雨として降り注ぎ、デスカーンの身体をたくさん突き刺す。
『デスカーンに勝つには頭脳戦がいい』と移動中にみどりは言い、その頭脳戦で征することが出来れば追い込むことができるという考えだった。
するとデスカーンは嬉しそうに不気味に微笑み、大鎌をまた大きく振りかざす。
「呪いをも跳ね返すとは、あなた方はやはり特別な存在のようですね。黒田純子さんの時は人質がいましたが、今回はいなさそうですし、あの呪いは使えないのが悔やまれますね。ならば白兵戦といきましょう!」
「上等だ! テメェに一泡吹かせてやるぜ!」
ほむらは槍でデスカーンに特攻を仕掛け、デスカーンも大鎌でほむらの首を狙いに来る。
大鎌は一見扱いにくく効率の悪い武器に見えるが、もし使いこなせれば足を引っかけて動脈を切る事もできるし、後ろから首の脈を切る事も可能だ。
リーチも意外と長く、突いて牽制もできるし、尖った刃先で刺す事もできる。
ほむらは槍の扱いやすさを活かし、振り回したり薙いだりして牽制し、時には足場に突き刺して蹴り技もした。
千秋とみどりの遠距離援護をもらいながら、デスカーン相手に徐々にダメージを負わせる。
頭脳と呪術が恐ろしいが、『戦闘自体はアクマージよりも苦手だ』と社長も言っていた。
槍に魔力をたくさん込めて、必殺技をアタシは繰り出した。
「くらえ! ボルケーノアタック!」
「ぐはぁぁぁぁぁぁっ!」
デスカーンの腹部を穂先が直撃し、吐血をして倒れ込んだ。
ダメージがたくさん通ったが、デスカーンの卑怯な頭とやり方は何をするか本当にわからない。
ほむらたちは油断せずに灰になるまで武器を構える。
するとデスカーンはまだ起き上がり、まだ何かを隠していた。
「アルコバレーノ……あなた方は本当に強くなりましたね……! 呪術も戦術も……白兵戦もダメでした……! 普通なら私の負けですが……あなた方は最悪の運命を辿る事になりましたね……?」
「どういう事……?」
「うふふふ……ついにあれを使う時が来ましたね……! よくも私をここまで追い詰めましたね……! こんなの黒田純子さんにも使わなかったのですが……あの姿は私は好きではないのですよ……? 」
「やっぱりタダでは負けないのね。一体何をするのかしら?」
「死してなお恐ろしいデスカーンの呪いを……じっくりと味わって絶望してもらいます……。もうあなた方のターンは終わりを告げたようです……。さようなら……アルコバレーノっ!」
デスカーンは気でも狂ったのか大鎌で自分の首を引き切り、そのまま首を落として身体が倒れていった。
あまりの光景にさくらは吐き気を催し、千秋はショックのあまりに顔を青ざめた。
次第に倒れた肉体と首は黒い炎で燃え上がり、溢れ出た大量の血は次第に黒いガス状の魔物へと変わっていった。
もしそれがデスカーンの本気だったら、もう物理攻撃は効かないだろう。
デスカーンは真の姿へと変え、ほむらたちを魔力で威圧した。
この威圧は近づいたら最期というプレッシャーで、いかにも邪悪なゴーストって感じだった。
「これは……? ゴースト型の魔物か……?」
「いいえ、あれはマイナスエネルギーをかき集めてゴーストに見せかけた影です。物理魔法では恐らくすり抜けて無効化するでしょう」
「かと言って遠距離魔法でも、あの身体の軽さなら簡単にかわせるわね」
「よく気付きましたね。これが私の真の姿です。近距離や物理はすり抜け、遠距離魔法でも身軽な身体で簡単にかわせますよ。そしてこんな事が出来ます。本当ならその能力で黒田純子をこの能力で亡き者にも出来たのですがね。モノクローヌさまの命令で[死なせず生きる絶望を味合わせろ』との事で、あえて生かしてあげました」
「何だと……!? 社長を人形のように扱うな! デスカーン! お前はボクが真っ先に倒す!」
「待て橙子! 早まるでない!」
橙子はデスカーンの挑発に乗ってしまい、怒りのあまりにデスカーンのところへ飛び出した。
するとデスカーンは表情を変えなくなったが、それ故に罠だということが分かりにくく、橙子はついに罠にかかってしまう。
「うふふふ、かかりましたね♪ それっ!」
「うっ……! 離せ! 離せよ!」
「柿沢橙子さん、あなたのその恵まれた身体能力……いただきますね……♪」
「うぐっ……! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
デスカーンは橙子の身体を縛っては胸から入り込み、橙子に憑依しようとしてきた。
ほむらたちは橙子が傷つかないようにデスカーンに攻撃をする。
しかしあまりの魔力によってすべて弾かれ、攻撃が無効化された。
そのまま橙子は完全に憑依され、デスカーンとして橙子は目覚めてしまった。
つづく!




