第56話 モノクロ族の真実
アルコバレーノがアクマージを倒して2日が経ち、ついにアルコバレーノにとって朗報が入る。
純子が意識を取り戻し、想像以上の回復力で話せるくらいに回復したという報告があった。
さくらたちは急いで救護室へ向かい、純子の元気な姿を見て安心した。
救護室へ入ると包帯こそ巻かれているが、意識も戻っていてある程度動けるほどにまで回復していた。
「みんな……心配かけてごめんなさい。おかげで少し元気になったわ」
「社長……おかえりなさい!」
「社長がいなかったら……アタシらどうなっていたか……!」
「全て社長のおかげです! 本当に無事でよかった……!」
「もう無茶はしないでくださいね……? まだ恩返ししていませんから」
「そうね、少し反省したわ……。あれからアクマージはどうなったの?」
「へへっ、ボクたちの勝利です! 本当は負けかけたんですけど、千秋とみどりが最後まで頑張ったから勝てました!」
「実はわたくしにも千秋さんにも不思議な声が聞こえました。名前を聞いたら伝説の7人の賢者と同じ名前でした」
「柿沢さんもヘルバトラーの時に同じ事を言ってたわね。そう言えばあなたたち、ここに来た時に懐かしく思わなかったかしら?」
「はい、思いました」
純子は突然賢者のことを話し、さくらたちは何が起こったのかわからなかった。
それでも橙子、千秋、そしてみどりが感じた不思議な力は賢者と名乗る人たちが声をかけて来ていて、橙子たちはもしやと感じていた。
純子は橙子たちの返事を聞いて確信した。
「やっぱりね。あなたたちは7人の賢者の血を引いているのよ。もしかしたらあなたたちは本当に伝説の魔法少女かもしれないわ」
「それに……みんなにはじめて会った時も、どこか懐かしくて他人と思えなかったです」
「あなたたちの潜在魔力がそう感じさせたのかもね。実際普通の人間にも魔力が潜在されていて、そこから覚醒して魔法使いになる人もいるの。その魔力で政治、医学、科学、芸術、文学、宗教などあらゆる分野で活躍する人は魔力が高いわ」
「じゃあ歴史上の偉人たちも……?」
「ええ。だから私もシロガネさんに選ばれて魔法少女として覚醒したの。年を取ると強くなる人と弱くなる人に分かれて、私は徐々に弱くなっていったわ。その残った魔力で進化の秘宝を壊したの」
「じゃあ、変身も出来るんですか?」
「ええ、もしかして見たかったりするのかしら?」
「見たいです! 社長の魔法少女姿見たいです!」
「もう少女じゃなく魔女になるわね。それじゃあいくわよ。影よ……漆黒の闇をも支配し、正義の心を奮い立たせたまえ!」
純子はさくらたちの期待に応えて変身し、黒いエジプトの神官風のワンピース衣装になり、金色の装飾がとても大人の風格を感じるものだった。
武器は大きな大斧で、いかにパワーがあるかを感じた。
純子はこの大斧で四天王をたった一人で封印まで追い込み、ずっと戦ってきたのだ。
変身姿で盛り上がるとビアンコ王が治療室へ入り、純子を見ると涙ぐんで震えながら喜んだ。
「おお……黒田くん! 目を覚ましてくれたんだね……! 君の勇敢さは我が国の民にも伝えておこう……!」
「王さま、顔を上げてください。ここまで命がけで戦えたのはこの子たちのおかげです。この子たちが全力で戦ってたから私も一緒に戦えたんです。今はもう一緒に戦う事が出来ないけれど、回復するまでこの子たちの勝利を信じて待ちます。王様は国民のみんなを勇気づけてください」
「その言葉だけでも私は勇気づけられるよ。黒田くんはもう少しゆっくり休んでなさい。アルコバレーノの諸君は王座に来なさい」
ビアンコ王は安心した顔でアルコバレーノを王座へ呼び、何か話したそうにしていた。
アルコバレーノはビアンコ王の言う通りについて行き、一体何があるのか期待と不安につ疲れた。
王座に着くとビアンコ王は真剣な顔をして、ついに解き明かされた謎について話す。
「さて、黒田くんの事なのだが……実は治療中に彼女の遺伝子がこの国の人間の反応があってね。遺伝子を調べて系図を辿ってみたんだ。そしたら私たちはとんでもない事実を知ってしまったんだ」
「社長のご先祖様ですか?」
「そうだ、そのご先祖は――1000年前にモノクロ族を率いたキング・ジャークだ。キング・ジャークには3人の息子がいたと話したね。」
「はい、そのキング・ジャークと何の関係があるんですか?」
純子の先祖がかつてモノクロ族を率いたキング・ジャークという真実を知り、王室は不穏な空気につ疲れた。
それでもビアンコ王は続けて真実を話す。
「キング・ジャークと黒田くんは……血が繋がっているのだ。言わば反逆者の末裔で、今となってはレインボーランドの味方だが、もし運命が変わればモノクロ団に入っていただろう」
「そんな……!」
純子の先祖がかつてレインボーランドに反逆したモノクロ族の皇帝キング・ジャークで、その直系の地であることが判明したと聞いたさくらたちは驚いた。
おそらく晃一郎や澄香ががこの話を知れば、ショックを受けてしまうとみどりたちはうつむいた。
もし純子が一歩間違えてしまえば、モノクロ団と一緒になって絶望の黒に染めていただろう。
純子がアルコバレーノ側にいてくれて安心すると、今度は兵士がまたビアンコ王に報告する。
「国王陛下! モノクロ族の日記を見つけました!」
「何と!? 持って来たのかね?」
「はい! 私の手元にあります!」
「読んでみたまえ!」
「はい!」
兵士が新たにモノクロ族が記した日記を発見し、モノクロ族視点での1000年前の出来事が明らかになる。
その日記にはこう書かれていた――
『我々モノクロ族は代々闇魔術を得意としている民族、それ故に王国から迫害され続け、徐々に不満を感じる者もいた。
そしてあるモノクロ族の魔術師が、『復讐のために地獄から魔王を召喚しようとしていた』という情報を息子から聞いた。
私はその魔王の召喚を止めるために闇魔法で食い止めようと儀式が行われようとしている祭壇に向かった。
しかし着いた時にはもう既に遅く、その魔王にたぶらかされた魔術師は召喚してはいけないものを召喚してしまったのだ。
それから民は徐々に洗脳され、いつしかモノクロ帝国と名乗るようになり、ついに皇帝である私も洗脳されはじめていた。
そして僅かな意思で魔王に抵抗し、ビアンコ王と共に魔王軍と戦ったが、魔王のマイナスエネルギーはすさまじく、あまりにも犠牲が多すぎた。
私はビアンコ王に[洗脳が解けたら民族浄化をしてほしい]と頼み、この禁断の闇魔法を永久に封印することを決めたのだ。
もしこの日記を読んだならばこう伝えてほしい。
この日記を読んだ頃には、もうモノクロ族は絶滅しているだろう。
そしてモノクロ族の意志を受け継いだ誰かが、レインボーランドに復讐を果たしに災いをもたらすであろう。
その未来の出来事を恐れた私は、我が子たちに[遠い未来にモノクロ族による復讐が行われる]と伝え、3人の子に[遠い未来の末裔に託せ]と伝えた。
もしモノクロ族の末裔がこの日記を読んでくれたなら、モノクロ族の誇りにかけて復讐と野望を止めてほしい。
魔王によってモノクロ族は同じ民族同士で殺し合い、最後のモノクロ族である私の命を引き換えに魔王を封印した。
禁断の闇魔法を使ってしまったモノクロ族はこれ以上存在してはならない。
同じ過ちを繰り返さないよう、ここに記す。
クロン・ブラッキー』
キング・ジャークの本名が明かされ、純子の先祖がモノクロ族であることがこの日記で分かった。
ビアンコ王はモノクロ族の真実を知り、悲しそうに嘆く。
「なんてことだ……! 彼らは絶望の魔王を召喚してしまい、自ら責任を取るために民族浄化を選び、魔王を封印したのだな……。民族浄化を王国ではなく、自らその道を選んでいたとは……。モノクロ団はおそらくその魔王にそそのかされて暴れたのだろうな。それに黒田くんがモノクロ族の末裔で、そのモノクロ族の誇りを背負ってたとはな……」
「社長はやっぱりすごいです……。改めて社長は偉大な人だって思えます」
「三人の子の一人がモノクローヌだ、本人がそう言った。もう一人は灰崎真奈香くんで、モノクロ族だけでなく我が王家の血も感じられた。そして歴史を辿れば、民族浄化前に駆け落ちして人間界にいたそうだ。最後の一人は人間界に転生し、その未来を託されたまま遠い未来に黒田くんが生まれてモノクロ団と戦った。彼女は我が国と……無念の絶滅をしたモノクロ族の誇りだ」
純子の偉大さとモノクロ族の本当の歴史を知ったアルコバレーノは、モノクロ団をそそのかした真の黒幕がいることがわかった。
その真の黒幕は何者なのかはわからないが、おそらく西暦の終わり頃である2000年前の第三次世界大戦と深い関係がありそうだと考えた。
その事を考えていると、どこからか不気味な声が聞こえてきた。
「ええ、その事をモノクローヌ様は知っていました。だからこそ彼女を滅ぼしに来たのです」
「どこからその声が……!」
「へぇ、やっぱり盗み聞きするほど姑息なんだな! デスカーン!」
「うふふ、覚えてもらえて光栄です。黒田純子、彼女はモノクロ族の生き残りで裏切り者の末裔。そんな彼女を放っておけばモノクローヌ様の野望を壊されてしまいます。当の本人は自覚がないのですがね」
「そうかよ。だが今日ここに来たのは盗み聞きしに来ただけじゃなさそうだな」
「その通りです赤城ほむらさん。あなた方に宣戦布告しに来ました。伝説が本当になる前にあなた方を絶望の底へ落としてみせましょう。明日の朝の10時にレモニカの町にあるイエロンストーン荒野へ来てください。あなた方の絶望した顔をこの目で見れる事を楽しみにしていますね」
デスカーンは宣戦布告をしていき、そのまま消えていった。
ほむらはいつも以上に熱くなっていて、それでも冷静さを保っていた。
ビアンコ王はもう一度覚悟を確かめるため、アルコバレーノに問いかける。
「四天王も残るは二人だ。やはり君たちは戦いに行くのかね?」
「はい。アタシらにとってあいつは社長の……黒田純子さんの仇でもあります。アタシらで仇を取り、この国も守ってみせます。だから……行かせてください」
「くれぐれも無茶はしないように。明日の朝に汽車を手配しよう。トパーズストーン荒野はレモニカの町から少々はずれている。遠い旅になるだろうからこれを預けよう。疲労回復の薬だ。これを飲んでデスカーンに挑むといい。黒田くんからは私が伝えよう」
「ありがとうございます!」
デスカーンとの戦いに備えて特訓をし、いつものようにぐっすりと眠り休む。
翌朝を迎え、汽車でレモニカの町に着き、そのままトパーズストーン荒野へ向かう。
誰もいないと思いきや、黒い霧と同時にデスカーンが現れ、不敵な笑みを浮かべて戦闘態勢に入る。
「おや、約束を守っていただいて嬉しいですね。あなた方と戦えることを楽しみにしていましたよ。それでは私の本当の姿をとくとご覧ください」
デスカーンは他の四天王と同じく着ていたローブを脱ぎ捨て本当の姿を現す。
その姿は一体何なのか――
つづく!




