第55話 純子死す……!?
クレナ火山が爆発してからアクマージは弱体化し、ついにアルコバレーノに攻撃のチャンスが訪れた。
アクマージの弱点は体力ということで、長期戦になるほど疲労を見せるだろうとみどりは考える。
みどりは弓から短剣に、千秋も格闘へと切り替えた。
「アクマージ! 覚悟!」
「クックック……。進化の秘宝を破るとは……。だが君たちに勝機はない……。短期決戦なら……負けない……」
「ならば貴様に勝機はないぞ! 貴様の弱点はもう知っている!」
「だったら一気に決めさせてもらうよ……。はぁぁぁぁぁっ!」
「私の魔法で盾が召喚されるのを忘れないで」
さくらはリボンで中距離戦を仕掛け、ほむらの槍でリーチの差を埋める物理攻撃をする。
格闘ができる橙子や千秋は素手による連続攻撃を繰り出し、ゆかりや海美の剣術でアクマージの運動量を増やす。
するとアクマージの表情が徐々に曇っていき、海美の盾による体当たりでバランスを崩した。
「うっ……!」
「今だ! ぶっ飛ばせ!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「甘いよ! はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!」
アクマージは最後の魔力でみどりたちを黒い霧で包み、身体中の痛みで呼吸を荒れさせる。
息苦しさの中に身体の重さ、そしてその状態による精神の苦しみを味わった。
このまま息絶えてしまうのか……と考えていると、千秋とみどりの心に誰かが話しかけてきた。
「あなたはここで諦めてしまうのですか?」
「あなたは……?」
「私はヴェルデ、あなたの先祖です。あなたの事をずっと見守っていました。そしてイエラも黄瀬千秋さんの事を見守っていました」
「私の事も……?」
「まぁね。俺は気まぐれだけどよ、お前の勇気と友情を見て感化されたってわけさ。てなわけで、俺はアンタに力を貸すぜ」
「笑顔を守る美しい心、諦めず仲間を導く知性、そして闇の心に負けない精神をあなた方は持っていました。あなた方に7色の力を与えましょう」
みどりと千秋に不思議な声が聞こえ、二人の先祖だと名乗る男女二人によって力を分けてもらう。
その力は今までの傷を癒し、心身の疲れを解放してくれた。
アクマージは息を切らしながら残心で千秋たちを睨み、無理した笑みで千秋たちを諭しにくる。
「君たちの負けだ……。私は進化の秘宝こそ壊されたが……君たちは私の目の前で死ぬ……。さぁ……地獄の底で私に負けたことを後悔するがいい!」
「そんなのわからないよ……。だって私たちには守りたい人たちがいる……。こんなところで死んじゃったら……みんなの笑顔がなくなっちゃう……。だからあなたに……四天王やモノクローヌに勝って……笑顔を守り抜くっ!」
「諦めが悪いと思うのでしたら……それで結構です……。わたくしたちは今までたくさんの方々に支えられ……背中を押されてこの戦いに挑みました……。そんな方々を裏切らないために……この戦いに勝ちますっ!」
千秋とみどりが覚悟を決めて勝利を叫ぶと、また不思議な声と同じように緑色の光がみどりの、黄色い光が千秋の体中を包み込む。
同時に力が湧いてきて、アクマージと最後の一撃を当てるチャンスも訪れた。
「何だこの力は……!? だがどう足掻いても君たちに勝ち目はない!」
「いくよ! みどりちゃん!」
「はい! 千秋さん!」
アクマージは珍しく感情的に叫び、今まで出したことのないトーンで大声を上げる。
しかしアクマージの動きは次第に鈍っていき、いかに進化の秘宝に頼りきっていたかがわかる。
同時に禁術を犯した代償として身体が腐敗しはじめ、思うように体が動かなくなった。
その隙に千秋とみどりによるダブル遠距離攻撃でとどめをさす。
「くっ……! 禁術を犯した代償か……! 身体が……動かない……!」
「どうやら禁じられた魔法はそれほどのリスクを負うようですね。あなたの負けです。覚悟なさい! タイフーンアロー!」
「力を求めすぎちゃったねアクマージ! もう笑顔を奪わせたりしない! いくよ! サンダーブレイカー!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
千秋たちは今までにない魔力でアクマージを撃ち抜き、矢と弾丸に飲み込まれたアクマージはそのまま灰となって朽ち果て、アルコバレーノの勝利となった。
千秋たちに力を与えてくれたヴェルデとイエラと名乗る男女は、おそらく千秋たちの先祖で7人の賢者たちだろうと千秋たちはすぐにわかった。
勝利を報告するために純子に報告をしようとするも、近くに純子の姿が見えなくてさくらたちは焦った。
「社長! 勝ちましたよ! ……って、あれ……? 社長……?」
「何でだ……? アタシ、さっきから胸騒ぎがするんだ……!」
「わからない……。さっき山の方で爆発があったよね……?」
「もしかしてあの爆発と何か関係が……!」
「みんな! 大変だ! 社長の姿が見当たらないよ!」
「そう言えば先程から社長の声が聞こえぬな……っ!? もしや……!」
「行きましょう! 社長はおそらくあの山にいるはず!」
純子がいないことと、クレナ火山の突然の爆発、アクマージの急な衰退で悪い予感がした千秋たちは、急いでクレナ火山へ向かう。
その山まではとても遠く、残った魔力で体力を維持し車いすの跡を辿ること一時間が経ち、ようやくたどり着いた。
ふもとの木々が荒れ果てていて、先程の爆発の威力が凄まじいものだとわかった。
山を登っていくと次第に荒れ具合がひどく、山頂付近で悲惨な光景を目にする。
「みんな! 車いすが倒れている!」
「千秋ちゃん! これって……!」
「ああ……! 社長の車いすだ……!」
「てことはあの爆発に巻き込まれたのって……!」
「まさか……!社長っ!」
純子の車いすが焼け焦げた上に大破していて、先ほどの爆発に巻き込まれたものだった。
あまりの焼け具合にさくらたちは胸騒ぎが激しくなり、急いで純子を探すために頂上へ走っていった。
無事でいてくれ、そうさくらたちは純子に祈るばかりだった。
山頂に着くと、そこには純子の変わり果てた姿があった。
「山頂に社長が倒れているわ! 急いで!」
「はぁ……はぁ……! 社長! しっかりしてください!」
「お願い……! 目を覚ましてください……!」
「起きてください……! ボクたちのライブ楽しみにしてたじゃないですか……!」
「ゆかりさん! 応急処置をお願いします!」
「心得た! 社長! 今応急処置をします! どうか意識を取り戻してください!」
「死ぬんじゃねぇよ……! アタシたちはまだ恩返ししてないじゃないですか! 社長!!」
「待っててください! 今から私たちが王宮まで運びます! だからお願い……死なないで……!」
千秋たちは純子が倒れている姿を見て取り乱し、さくらと千秋は泣き出すほどショックを受けていた。
ゆかりの応急処置で傷を塞ぎ、火傷の跡を海美の水魔法で冷やす。
力があるほむらが純子を背負って王宮まで急いで戻る。
王宮に戻ってビアンコ王にアクマージに勝利したことと、純子の容体を報告する。
「黒田くんがまさか自ら危険を……!? 衛生兵! 急いで黒田くんを集中治療室へ! 彼女を絶対に死なせてはならない!」
「ははっ! 黒田さま! しっかりしてください!」
「よくぞアクマージを倒した……。だが犠牲があまりにも……。黒田くんは必ず我々が助けてみせる。だから彼女が回復するのを信じよう」
「はい……! 私たちは社長を……黒田純子さんを……尊敬してます……!」
「うむ、私も同じだ……」
「わたくし、集中治療室へ行きます! 社長がやはり心配です!」
「私も行きます! みんなはここで待ってて!」
「海美ちゃんとみどりちゃんなら、理性を保てるもんね……。お願い……! そばで見守ってあげて……!」
「ええ、任せて」
「行きましょう、皆さんのためにも……」
純子の勇気ある行動は勝利を呼び、自らが犠牲になってでもアルコバレーノのことを想ってくれていた。
さくらと千秋は心配のあまりに泣き出し、ほむらと橙子は落ち着かないのか同じところをウロウロしていた。
ゆかりは純子に感謝を示し、無事でいることを祈るだけだった。
みどりと海美は回復魔法がある程度使えるので、衛生兵と共に回復に励む。
火傷の傷はとても深く激しいもので、回復させるにはかなり時間がかかるのか、衛生兵も回復魔法に苦労をしていた。
このまま純子は死んでしまうのか……?
つづく!




