第53話 伝説の経緯
ヘルバトラーとの戦いに勝利してから一日が経った。
橙子は今でも不思議な声の事が気になっているようで、今も思い出す度に誰なのか気になっていた。
もしその不思議な声の人がレインボーランドの伝説に関わっているとすれば、おそらく7人の賢者たちだろう。
その事が気になったアルコバレーノは王さまの部屋に入る。
「失礼します」
「これはアルコバレーノの諸君、どうしたのかね?」
「実は……柿沢橙子さんがヘルバトラーとの戦いで負けそうになった時に、どこからともなく不思議な声が聞こえたとおっしゃっていました。それでもわたくしたちには聞こえなかったのですが……」
「ボクにだけ聞こえて、今までにない魔力を与えられたんです。兵隊さん同士の会話でも『伝説通りかもしれない』って言ってましたけど、何か関係があるんですか?」
「なんと……! もしそれが本当なら伝説は本当になったという事だ……! シロンの報告通りなら秘密の図書室に保管してある。本来なら私の許可がなければ歴史家や研究者でさえ入れないところだ。ついて来たまえ」
王さまに深い地下室へと案内され、誰も入れないように施錠されている秘密の図書館まで案内される。
鍵の開け方は王家の人にしか開けられないらしく、普段は歴史家や研究者しか入る許可が得られないと王さまは話す。
今回は特例で入れてもらい、シロンが大事にとっておいた伝説の古文書が保管されていた。
王さまはその本を手に取り、アルコバレーノにわかるよう説明する。
「この本はレインボーランドの伝説が記載されていてね。1000年前に起こった我が王国とモノクロ族との戦争が書かれているのだ。この古文書……及び賢者の日記の著者は――愛の魔女ローザだ」
「愛の魔女……ローザ……」
「そしてこの日記の最初のページにはこう書かれている。聞いてくれたまえ」
『私は愛の魔女ローザ、レインボーランドの7人の賢者の隊長をしています。
賢者のみんなは個性豊かで最初は7人の意志が合わず、心配されたこともありました。
それでも7人で力を合わせ、どんな闇魔術でも7人の賢者には敵わないと言われるようにもなった。
そんな個性豊かなみんなをこの日記で紹介します。
炎の特攻隊長アハマールは持ち前の熱血と、静かに燃える心でどんな困難をも突破した。
光の格闘家チェンは元々は荒くれ者だったが、野生の勘と優れた身体能力で武器を持たずに戦った。
雷の狙撃兵イエラは気まぐれで自由人だが、銃を使わせれば逃げ切った者はいないと言われるほどの射撃センスだった。
風の司令塔ヴェルデは天才的頭脳で戦術を導くだけでなく、遠くまで見える視力で弓を扱い多くの敵を仕留めた。
水の剣士アズーリンは同じ女性ながら剣術をさせれば右に出る者はなく、美しい心で弱き民を救い続けていた。
闇の参謀ムラサキは武士道精神を通じて敵の情報を持ち込み、いざという時の戦いでは闇魔術を取り入れた剣術で敵の主力を封じた。
そして私、愛の魔女ローザは圧倒的魔力でみんなの士気を高め、苦しむ人々の希望となるためにあらゆる事をしてきた。
そんな私たちの末裔は『1000年後にレインボーランド最大の危機を救うだろう』と預言者は預言を残し、私に日記を記すよう伝えた。
もし末裔の名前が判明すれば、この日記に記して後世に伝えよう。』
「――と書かれてある。これが最初のページだ」
「シロンはそれを知って私たちの世界へ……!」
「そして元々私がスカウト予定だったあなたたちを偶然ながらシロンも探していた……。彼は賢者の末裔を求めてってことね」
「他に何て書いてあるんですか?」
「他はレインボーランドの様子を書かれているが……ふむ、最後のページには預言が書かれているぞ」
「どんなことが書かれているのですか?」
「では読むぞ――」
『私は愛の魔女ローザ、レインボーランドの危機をモノクロ族から守り抜いた賢者の隊長です。
しかしその強大すぎる私たちの魔力はいずれ王国にとって脅威になるという噂が王国に広まり、追放されることがもう決まってしまった。
そして1000年後のレインボーランドに大きな災いが訪れる事も知ってしまった。
後世に不幸が訪れるのを私は見たくはない、しかし私たちの末裔がレインボーランドを救うであろう。
私たちの末裔は私たちの追放先の世界で出会い、そしてチームとなる。
アハマールの末裔は多数の家族を抱えながらも前に突き進み、熱い心で物事を突破できる少女である。
チェンの末裔は同じ格闘家ならがも普通に過ごし、将来世界的格闘家になる少女である。
イエラの末裔は正義感溢れる職に就いた親を持ち、笑顔溢れる強くて優しい少女である。
ヴェルデの末裔は勉学のみならず世界のあらゆる出来事にも熟知し、少し天然ではあるがおしとやかな少女である。
アズーリンの末裔は学び舎でも他人を導ける立場になり、剣術でも流派は変わるものの文武両道を進む少女である。
ムラサキの末裔はその国の伝統である術使いと結ばれ、その術使いと武士道を受け継いだ家系に生まれる少女である。
そして私、ローザの末裔は魔法から完全に離れたものの、見えない魔法で民を幸せにする存在になる少女である。
その彼女たちの名は――赤城ほむら、柿沢橙子、黄瀬千秋、葉山みどり、青井海美、紫吹ゆかり、そして桃井さくらだ。
彼女たちは同じ時を過ごし、同じ国や地域で育ち、同じ運命を辿ると言われている。
そして私たちの末裔はムラサキの闇魔術と呪術によって必ず全員出会うようになっている。
末裔である彼女たちには、私たち以上の幸運を祈る。』
「これが最後の日記だ」
「だからシロンは私たちの名前を知っていたのね」
「シロン……命がけだっただろうな……」
「モノクロ族との戦争って何があったんですか?」
「モノクロ族は元々闇魔術が得意で、何をするかわからなかったが、そんな侵略する民族ではなかった。だが突然レインボーランドを奇襲し、世界を征服するとモノクロ皇帝を名乗ったキング・ジャークが宣戦布告したのだ。そしてそれに勝利した我々はモノクロ族を根絶やしにした――はずだったが、キング・ジャークの息子3人が生きていたのだ。一人はモノクローヌの先祖であることがわかっている。そしてもう一人は我が王家の先祖と駆け落ちして灰色の髪の家系になっている。」
「真奈香の家系ね……。モノクロ団四天王から聞きました」
「灰崎くんがモノクロ族と王家の血を引いているのはわかった。だが最後の一人がまだわかっていないのだ。それがわかれば何か運命がわかるのだが……」
「クックック……。その運命をここで壊してあげるよ……」
「誰だ……!?」
「その声は……!」
「アクマージ……来たんだね……!」
「クックック……。久しぶりだね……。黄瀬千秋……それに葉山みどり……。そして元気そうだね……黒田純子……」
「ええ、おかげさまで歩けない身体になったわ。でもこの子たちが私の分まで戦うもの、希望は捨てないわ!」
「相変わらず前向きな事だ……。それよりも君たちに告ぐ……。明日の朝にクレナ火山のあるグレン山脈に来るがいい……。もし来なければ……わかっているね……。ではさらばだ……クックック……」
そう言い残してアクマージは黒い霧と共に消え去り、アルコバレーノに宣戦布告する。
罠だとわかっていても、いずれは四天王と戦わなければならない。
千秋たちは王さまを覚悟の目で見つめ、戦う許可をもらう。
「王様、罠だとわかっていても戦います!汽車の準備をお願いします!」
「よかろう、ただし絶対に無事に戻ってきてほしい。汽車なら最寄りだとクリムゾーンの町になるね。あそこは元々砂漠地帯であり火山があったが、最近温泉が掘れるようになって賑わっているんだ。まさかその山脈で戦うとは……アクマージの事は私にもわからないんだ、くれぐれも気を付けてくれたまえ。」
「「「はい!」」」
許可をもらったアルコバレーノは一日中休みを取り、明日のアクマージとの戦いに備える。
これから戦うというのに不思議とぐっすり眠れ、傷や疲れは回復魔法で全部なくなった。
そしてついに、汽車でクリムゾーンの町へ向かった。
つづく!




