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第4話 デビュー会見

 ついにデビュー会見の時が来た。


 場所は高津市民館の近くにある会議室で、灰崎真奈香(はいざきまなか)記者という人とそこで待ち合わせをする。


 純子と澄香は腕時計を確認し、夜月(やつき)は携帯を何度も確認して会見の時間を待っていた。


 すると灰色の短い髪をしたスーツ姿の女性がこっちに向かってきた。


「純子、お待たせ」


「来てくれてありがとう。ここまで来るの大変じゃなかった?」


「上司に許可をもらうのに少し手間取ったわ。それで――やっと見つけたのね、あなたの夢だったプロデュースできるアイドル」


「ええ。ここからが本番よ。記者会見よろしくね」


「こちらこそ。あなたたちがそのアイドルね。申し遅れました、私は灰崎真奈香です。あなたたちも固くならずに笑顔で見守っていてね」


「「「はい!」」」


「先輩、記者会見はよろしくお願いします」


「ふふっ、あの甲子園優勝チームの主将がこの子たちのマネージメントするのね。あなたの純子譲りの人の才能を開花する能力を楽しみにしているわね」


「期待してください。この子たちはきっとトップまで行きますよ」


 灰崎記者は純子と同い年の25歳で、若くして凄腕記者になったという経歴のある人だった。


 夜月と純子は高校の先輩後輩で、灰崎記者も夜月の先輩だった。


 そんな凄腕記者に応援されると思うと、さくらたちは嬉しいと感じた。


 そして記者会見が始まった。


「黒田さん! アイドルプロデュースデビューおめでとうございます!」


「ありがとうございます」


「前の事務所を追い出されてもう2年を経ちますが、どんな心境ですか?」


「そうですね。前の事務所では様々なトラブルがありましたけど、今こうして事務所を立ち上げてみんなが私について来てくれたおかげでここまで大きくなれたことに感謝しています。そしてついに、私にとって念願だったアイドルのプロデュースが叶い、こちらのマネージャーの夜月晃一郎(やつきこういちろう)さんと、秘書である水野澄香(みずのすみか)さんと協力してプロデュースします」


「なるほ。では夜月さん、彼女たちのユニット名は決まってますか?」


「はい。実は黒田社長と話し合った時にすぐ決まりました。ユニット名は――『アルコバレーノ』です。アルコバレーノはイタリア語で虹を意味します。彼女たちは経歴も特技も、性格や生い立ちは非常に個性豊かです。まるで7色の虹のように個性的な色をしていて、そんな彼女たちがひとつの光になった時、世界を希望に照らすでしょう。それが私たちの願いです」


「ユニットのリーダーは桃井花恋(ももいかれん)さんの子であり、桃井花音(ももいかのん)さんの(めい)である桃井さくらさんになります。彼女はアイドルに最も理解があり、まだまだ(つぼみ)の段階ですが、いつか満開の桜のように美しく咲き誇るのを期待しています。そして永遠に散らない桜となり、世界中に明るい何かを与えるでしょう」


「わかりました。ありがとうございました」


「「ありがとうございました」」


 こうして灰崎記者と純子によるデビュー会見を終える。


 デビュー会見でここまで期待されていると思うと、さくらたちはやる気になった。


 記者の方々が全員撤退すると、純子と澄香が楽になったのか、こう声をかけた。


「お疲れ様でした♪ 緊張しましたね」


「ええ。はじめてのことだもの。」


「社長、せっかくのデビューなんですから何か奢りましょう。俺が払いますよ」


「いいえ、ここは社長である私に払わせて。デビュー記念にあなたたちにご馳走するわ。何か食べたいもの言ってちょうだい」


「そういうことでしたら、お言葉に甘えます。じゃあみんな、今日は社長の奢りだ。何か食べたいものはあるかな?」


「やったー! 私パフェを食べたい!」


「もう、橙子(とうこ)ちゃん太るわよ」


「アタシも賛成!」


「私も♪」


 こうしてみんなでパフェを食べるためにレストランに行く。


 さくらたちはデビューを迎えて夢が叶うと同時に、大きな責任を背負う事になる。


 近くの喫茶店でアルコバレーノ一行(いっこう)はパフェを食べることになった。



~ドン・キホーゼ前~


 溝の口の百貨店であるドン・キホーゼの前に、前髪で目が隠れている男の子が不審な動きでフラフラしていた。


 この男の子は自分の死に場所を探している様子で、生きていることに絶望をしているようだった。


 そんな中でフードを被った謎の少女が男の子に声をかける。


「もういいや……。学校にも家にも…どこにも居場所なんてない……。やっぱり僕は――いっそ死んだほうが楽になるかな……?」


「君は何か思いつめているようだね。私に話せることはあるかい?」


「今更何だよ……? どうせ僕の事を知りもしないくせに……助ける気なんてないんだろう……?」


「なるほど。君は居場所がなく人間関係に苦しんでるようだね。目を見ればわかる。だが何も『死にたい』と思い詰める事はない。心の闇を解き放ち、怒りと憎しみを全身全霊で吐き出すんだ。君なら出来る。試してごらん――」


「怒りと憎しみ……心の闇――うっ……! うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


「それでいい、君の怒りと憎しみ、そして悲しみを全てこの世界にぶつけ、絶望の黒に染めるといい――」


 謎の少女は男の子の心の闇を解き放たせ、男の子は闇に染まってしまった。


 すると男の子は次第に姿を変え、謎の少女はニヤリと笑みを浮かべながら消えていった。



~喫茶店前~


 パフェを食べ終えて喫茶店から出ると、突然空が黒い雲に覆われ、地震ではありえない揺れが発生した。


 外に出てみると、大勢の人が逃げまどっていた。


 虹のネックレスからマイナスエネルギーが観測され、さくらたちはその場所へ向かう。


「まずい……! モノクロ団がもう出やがったか!」


「もう現れたのね……! 場所は恐らく――ドン・キホーゼの前よ!」


 ドン・キホーゼ前まで走っていくと、そこには金属の(よろい)を着た魔物が大きな剣を持っていて、いかにも暴れまわりそうな雰囲気だった。


 叫び声を聞くと、さくらたちは自分たち年齢がと変わらないくらいの年齢の男の子の声だと判断した。


 魔物は苦しそうに独り言をつぶやいた。


「どうせ僕なんかいたって……みんな僕の事を避けて嫌がらせなどのいじめをする……! 学校の教師も家族も見放して見て見ぬフリ……。それどころか『根暗で弱い僕に原因がある、お前が消えれば解決する』と言いやがって! 許せない……! こんな世界を壊してから死んでやる!」


「あの子はまさか……!? おい、何を暴れている? 俺に何かできることがあったら話して――」


「黙れっ! 大人なんか信用できるか! お前から殺してやるっ!!」


「うわっ!?」


「夜月さんっ!」


「大丈夫だ! 当たってない! これは相当だな……!」


 夜月は何かを感じたのか、魔物の方へ歩み寄ろうとする。


 それでも魔物は夜月を睨みつけ、夜月の動きを止め、夜月に斬りかかった。


 夜月は普段事務所の野球部に所属しており、社会人野球でも強豪に導いた主将でもあるので、反射神経と動体視力には自信があり、ギリギリのところをかわした。


 夜月はさくらたちに魔物の事情を大声で叫ぶ。


「こいつは相当心が追い詰められているぞ! 下手すりゃ自殺するかもしれねえ! 気を付けろ!」


「わかりました! あの……私でよければ力に――」


「今更なんだっ! お前たちのような偽善者に僕の何がわかる!? 人間を全員殺して……僕も死んでやるって決めたんだ! 邪魔をするなっ!!」


「何を言ってんだテメェ! だからって関係のねぇ人を巻き込んでいいわけじゃねぇだろ!」


「怒ってる暇はないよ! まずは素手でもいいから止めよう!」


「そうね……橙子ちゃん、ほむらちゃん、ゆかりちゃんもいくわよ!」


「おう!」


「うむ!」


 橙子とほむら、ゆかりと海美(うみ)は魔物を止めようと素手で飛びかかる。


 それでも魔物は剣で空を斬るように薙ぎ払う。


「邪魔するなぁっ!」


「うわぁっ!」


「きゃぁっ!」


「皆さん! あの……わたくしでよければお話しませんか? お悩みならわたくしが――」


「黙れっ!」


「きゃぁっ!」


「みどりちゃん! どうしよう……!? あの人の顔、苦しそう……!」


 説得しようとしたみどりまで吹き飛ばされ、千秋の笑顔が消えて泣きそうになる。


 さくらはあの魔物の絶望によって、とても不安な雰囲気になった。


 『私に出来る事は何かないのかな……?』と悩んでいると、男の子の魔物はまた独り言をつぶやいた。


「もう何もかも終わりだ……。死ねば楽になれるんだよね……。だったらこの世界をぶっ壊して……死んで楽になってやる!」


 魔物は自暴自棄(じぼうじき)になって、自分の首を剣で斬ろうとする。


 さくらはあの魔物の絶望に胸が痛み、『絶対に助けなきゃ』と思い、涙を流しながら魔物に叫ぶ。


「待って! 待ってよ……あなたが死んじゃったら、新しい可能性がなくなっちゃう……! あなたはいじめられて苦しかったんだよね……? 誰も助けてくれなくて悩んでたんだよね……? 私に出来る事があったら……泣いてもいいから言ってもいいんだよ……?」


「何だと……!?」


「無茶だ桃井さん! 君の魔力はまだ覚醒していない!」


「大丈夫です夜月さん、私に任せてください。それにね……愛は(もら)おうとか(うば)おうと思っちゃダメなんだよ? 愛はね……自分から他人に与えて、はじめて幸せになれるんだよ! あなたは愛されないから愛するのをやめちゃっている……そんなの勿体ないよ! もし愛に飢えているのなら……私があなたに愛を与えて、新しい幸せを与えてあげる!」


 さくらが男の子を助けたいという強い気持ちが溢れた時、さくらの虹のネックレスがまばゆく光った。


「うわっ!?」


「桃井さんに急にピンクの光が……!?」


 さくらは男の子に思いきり気持ちを伝えると、空からピンク色の光が包み込んだ。


 その光はまるで心がポカポカと温まり、抱きしめられたような温もりを感じた。


 虹のネックレスが大きく光り、澄香が私に声をかける。


「今です桃井さんっ! 呪文を唱えてくださいっ!」


「は、はいっ! 美しい虹色の世界よ――与える愛で私に力を与えたまえ! マジカルチェンジ!」


 ついにさくらは魔法少女として覚醒し、私服から魔法少女の衣装へと変身した。


 右手にはピンク色の新体操のリボンを持ち、衣装が白いブラウスにワインレッドのベスト、ローズピンクのフード付きのローブ、そして桜色のややフリフリのスカート、白の二―ソックス、ワインレッドのクロスタイとパンプス、そして左胸には虹のネックレスがバッジとして付けられた。


 そしていつものツインテールに、二つのワインレッドの結びリボンが装着された。


 さくらはふと浮かんだ自分のキャッチフレーズを高らかに叫ぶ。


「ピンクのハートはときめく気持ち! 愛を与えて幸せを! 桃井さくら! 私があなたの心の闇を救ってあげる! だからもう少し頑張って!」


 こうしてさくらは魔法少女として覚醒し、魔物となった男の子を助けるためにプラスエネルギーでマイナスエネルギーを浄化する戦いに挑む。


 さくらは男の子を救うことが出来るのか――?


 つづく!

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