第45話 文化祭・後編
さくらたちは東光学園の文化祭2日目を迎え、ライブ会場であるコンサートホールの楽屋にいる。
楽屋で学園の制服を着てライブをすることになり、制服は女子がセーラーとブレザーの2種類、男子はブレザー固定で、とくに女子はスカートかスラックスかを選べる。
靴は黒か茶色のローファーで、土足ありで学校指定の体操着とジャージはなく、各自動きやすい運動着と室内外用運動靴を持参する。
セーターやカーディガンは無地であれば何色でもよく、髪形が茶髪や金髪、ドレッドにアフロなどでも構わないなど見た目に対しては割と自由だとさくらたちは感じた。
楽屋で準備していると、あるサプライズゲストが現れた。
「アルコバレーノさんいるかしら?」
「あ、はい。ここですけど……ってお母さん!?」
「さくら、成長したあなたを見に来たわよ」
「久しぶりね、さくらちゃん」
「花音叔母さんも!お久しぶりです!」
「この人たちがさくらの……」
「聞いたことある……! 桃井花恋さんと花音さんの……」
「ええ、チェリーブロッサムよ。私の父が彼女たちをプロデュースしてたの」
「人に歴史ありとはこの事を言うのですね」
「あなたたちがお友達のみんなね、うちの子をありがとう」
「とんでもないです! お母さんの事はさくらさんから聞きました! ボク……私もさくらさんのリーダーシップに刺激されています!」
「うちの子は男の子だからアイドルにはなれなかったけれど、さくらちゃんは立派になったわね」
「そんな、私なんてまだまだだよ」
「私たちは客席で見ているから、楽しんでライブをしてね」
「「はい!」」
さくらの母と叔母が応援に駆け付け、さくらたちはライブが待ち遠しくなる。
純子とさくらの母が旧知の仲だったことにさくらたちは驚き、純子の父はどんな人なのか想像を膨らますさくらたちであった。
軽音楽部のバンドの一つであるアニメリズムのライブを終え、さくらたちは舞台袖で待機する。
「アルコバレーノさん、期待していますよ!」
「はい! それじゃあいくよ! 希望を導く七つの光! 輝け!」
「「アルコバレーノ!」」
アルコバレーノはいつもの掛け声と共にステージに上がり、7色のサイリウムに包まれながら最初の曲である『メロディー』を歌う。
次にハロウィンをイメージした新曲を発表し、妖怪たちによるパレードやダンスをアピールする。
MCの時間になり、来てくれた観客たちに声をかける。
「みんなー、来てくれてありがとうー! 桃井さくらでーす! ここの学校で私のお母さんは学びました! 私もこの学校で過ごしたいと思っています!」
「赤城ほむらだぜー! アタシはまだ行きたい高校が決まってないけど、もし同じ高校に入れたらその時はヨロシクー!」
「柿沢橙子でーす! ボクはこの学校で空手部に入り、アイドルと空手の二刀流で頑張るよー! 応援よろしくねー!」
「私もこの学校に入りまーす! 笑顔満点の黄瀬千秋でーす! この学校で大人になっても笑顔を忘れない学校生活を送りたいと思いまーす!」
「ごきげんよう、葉山みどりです! わたくしは残念ながら進学が決まっていましてこの学園には来られませんが、ここでのライブは楽しみにしていました!」
「青井海美です! 私もほむらちゃんと同じでまだ行きたい高校が決まってないけど、この学園にちょっと興味があります! 行く気になったらお知らせします!」
「紫吹ゆかりだ! みどりと同じく既に私立に通っていて進学が決まっているので通えない、本当にすまぬ! だがこの学園でのライブを楽しみ、二度と忘れられぬ思い出にしよう!」
「それじゃあハロウィンでの新曲と同時にね――私たち自身で一から曲作りをしたんだけど、よかったら聞いてくれるかな?」
「「「いえーーーーーーーい!」」」
「これは東京ドリームランドのあるアトラクションでヒントを得た新曲です。聴いてください! 心はひとつ!」
この新曲はバラード調で、クラシックの名曲ボレロを参考に楽器が順番に参加する形式になっている。
ピアノソロからアコースティックギター、そこからストリングス、そしてバンドと金管と木管のオーケストラが順番に入り、最後のサビで2回キーが上がるという難しい曲だった。
この曲は世界平和を祈る一人の少女が国や言葉、人種に宗教、価値観や性格、見た目など何もかも違っていても、世界はたった一つで心は兄弟のように繋がっているというテーマだ。
最初は明るいマーチングポップス調の予定だったが、キーが上がるという案でオーケストラ編成のバラードに変更した曲だ。
新曲を歌い終えると、客席では聴いてくれた観客が涙を流してスタンディングオベーションをしていた。
「感動したよー!」
「俺たちが平和を築くぞー!」
「みんなの気持ち響いたわー!」
「ありがとうございました! 文化祭はまだまだ前半だから楽しんでってねー!」
ライブは成功し、さくらの母のLINEからは『あまりの輝きに感動して泣いちゃった』と言っていた。
さくらの叔母も一緒に来ていた従兄弟の花道を通じて『男性アイドルになって憧れられるようになる』と意気込んでいたと伝えられる。
純子と澄香が温かく迎え入れ、文化祭のライブはここで終わる。
「お疲れ様! まさか私たちに秘密でこんな素晴らしい曲を作っていたなんて……! あなたたちはどこまで成長するのかしら!」
「私は感動で……メガネが曇っちゃいました……! でも心は晴れ晴れしていて……心はひとつ……まさに神曲です!」
純子たちは作曲や編曲担当の滝川に頼まず、さくらたち以外の人には内緒で作った曲に感動していた。
さくらたちも『作ってよかった』と思えるほどの感動を呼べたことを喜んだ。
するとさくらたちは晃一郎がまたいないことに気付く。
「あれ? 夜月さんは?」
「そういや見かけませんね……」
「彼ならさっき来客が来たからお出迎えしているわ。そろそろ来るはずだけど……あ、帰ってきたわ」
「遅くなりました。アルコバレーノに来客です」
「誰だろう……?」
晃一郎が楽屋に戻り、アルコバレーノに来客が来たという知らせが来る。
晃一郎が楽屋に案内すると、そこには天才作曲家の滝川がいた。
「お疲れ様です、滝川留美です。この学園の音楽系部活の総合顧問をしています」
「滝川さん!? この学校の先生だったんですか!?」
「はい、作曲家としての活動は副業です。あなた方がこの学園に入学して社会貢献できるような生徒になる事を待っています。紫吹さんと葉山さんは残念ですが、転入も待っていますね」
「滝川さんにそう言われて光栄です!」
「では私は失礼します。純子、またお仕事で会いましょう」
「ええ、留美もコンクール頑張って」
純子と滝川はこの学校での同級生で、滝川は吹奏楽部でユーフォニアムをやっていた。
それが指揮者としての才能が開花し、当時の顧問が指揮者に任命して全国金賞どころかオーストリア国立の音大を首席で卒業するほどの世界的音楽家だと話を聞く。
クラシックや吹奏楽、ジャズ、オーケストラ、オルガンと古典音楽だけでなく、伝統邦楽、ロック、演歌、ポップス、ヒップホップ、レゲエ、R&B、ブルース、フォーク、カントリー、へヴィメタル、アイドルなどメジャーな音楽も手掛けていて、『完全無欠の音楽家』、または『現代のモーツァルト』と呼ばれている。
そんな凄い人に認められ、さくらたちは恐縮と喜びでいっぱいになった。
「じゃあ後は自由行動ね。お腹すいたでしょう? よかったら屋台でご飯食べましょう。もちろん私の奢りでね」
「ご馳走いたします♪」
文化祭2日目も終わりに近づき、後夜祭では花火やラグビー部のハカ、音楽系部活のコラボ合唱、そして終演のカウントダウンをして後夜祭を終える。
そしてクライマックスには、学校や各部活のマスコットたちがパレードショーを行い、広場は感動に包まれていた。
このライブ以降、アルコバレーノは多忙の時間を過ごし、徐々に売れてきていることを実感する。
中でも紅白歌合戦候補に上がるほどになり、純子たちも徐々に忙しくなってきた。
それでも純子は『クリスマス当日に事務所でパーティを開く』と言い、事務所の仲間たちでスケジュールを調整する。
クリスマスまでに楽しみが増え、事務所全体は仕事により励むのだった。
つづく!




