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第39話 運動会・後編

 昼休憩を終えたアルコバレーノは、午後の部に向けて軽めのウォーミングアップをする。


 午後の午後の競技は大縄跳び、1500メートル走、騎馬戦、100メートル×4人リレーになる。


 みどりが大縄跳び、ゆかりが1500メートル、そして橙子がリレーの方に出場する。


 早速大縄跳びの準備が終わり、みどりが笑顔で張り切って入場門に向かう。


「それでは行ってきます」


「いってらっしゃい!」


「いってらっしゃい……」


「さくら、元気ないな。先程の事は気にすることはない。私たちには私たちに出来る事をすればよいのだ」


「うん……。ありがとう……」


 さくらはすっかり気を落としてしまい、少し重い空気になっていた。


 ゆかりはさくらの肩をパンと叩き、さくらは肩を震わせて涙を流した。


 それでも大縄跳びは始まり、白組は回す人と跳ぶ人がうまく噛み合わず、『誰のせいだ』とかで揉め始めた。


 みどりは冷静に大縄や周りを見て、何かひらめいたのか全員を(なだ)めながら集め、チームメイトたちに提案をする。


「皆さんは私と同じアイドルです、ここで揉めていてはファンの皆様に申し訳がありません。それに皆さん、大縄を上手く跳ぶコツがわかりました」


「じゃああなたが先頭に立ってよ!」


「わかりました、その代わりこれから言う事をよく聞いてください。皆さんはアイドルで鍛えたステップとリズム感があるはずです。大縄を回す方をよく見て、そこから大縄の動きをリズムで刻み、1! 2! の2で跳んでみてください。回す人もリズムを刻んで回してみてください。」


「わかった!」


「やってみる!」


 みどりのアドバイスが響いたのか、次第に息が合うようになり、紅組の最高だった37回を追い抜こうとしていた。


 そんな紅組は焦り始め、ついに安定した38回目でミスをした。


 一方白組はみどりのアドバイス通りに動き、47回にまで到達した。


 そして――


「時間切れです! 紅組は38回、白組は47回で白組の勝利です!」


「葉山さんすごい! どうやってわかったの?」


「皆さんがご協力してくださったおかげです♪ わたくしは皆さんを信じてましたから♪」


「エリートは格が違うね。ありがとう」


「さすがアルコバレーノさんね」


「さぁ戻りますよ。皆さんが待っています」


 こうして大縄跳びはみどりの活躍で勝利し、次の1500メートル走に入る。


 ゆかりが気合のハチマキを固く絞め、橙子に拳を向けて勝利を誓い合う。


「橙子、私は必ずトップになる」


「うん、信じてるよ!」


「……。」


「……?」


 そう言ってゆかりはスタート地点に立ち、スタートを楽しみに待っていた。


 スタート地点には、少し前髪がカットされたポニーテールの子がゆかりを見つめていた。


 ゆかり以外は『あの子はゆかりのファンで、アイドルになれた子なのかな?』と考えているうちに、スタートの準備が出来る。


「On your mark……」


「さぁスタートしました! 最初のトップは紅組の日野鈴香(ひのすずか)ちゃんだ! 紫吹ゆかりちゃんはまさかの後方です! 調子が悪いのでしょうか?」


「まさかゆかりちゃん、お腹痛いのかな? 結構食べてたから……!」


「違うよ千秋、ゆかりは前方の様子を伺っているんだよ。見てて、400メートル地点で真ん中に行くから」


「橙子ちゃんって意外と頭の回転がいいのね。スポーツ分野が得意なのかしら?」


「あーっ! 海美(うみ)酷いよ! ボクだって得意なジャンルあるもん!」


「うふふ、ごめんなさい」


「でもスポーツ系が得意なのはそうだね。ほら、追い上げてきたよ」


「残り600メートル……このペースならいける!」


 ゆかりが調子を上げていくと、先ほどからゆかりを見ていたポニーテールの女の子が話しかけてくる。


「はじめまして、紫吹ゆかりさん。従姉妹(いとこ)がお世話になりました」


「そなたは一体……?」


「申し遅れました。私は紅葉(あかば)しのぶの従姉妹で、京都でローカルアイドルをしています月光花(げっこうか)の紅葉もみじと申します」


「しのぶの従姉妹か。アイドルをやってるという噂は本当であったか」


「この種目であなたに挑戦します。真の(しのび)を賭けて!」


「いいだろう、私はもう誰にも負けぬ!」


 京都のローカルアイドルグループ月光花に、モノクロ団と戦った時にいた紅葉しのぶの従姉妹である紅葉もみじと出会った。


 ゆかりは身近なところにライバルがいたことに燃え、もみじとトップを競う。


 それでもゆかりはトップを維持し、最後のスパートで全力疾走をした。


 もみじも負けじとスパートをかけるが、わずかな差でゆかりがトップでゴールした。


「はぁ……はぁ……! さすが紫吹流です。しのぶがライバル意識持つのもわかりますね。次は負けませんよ」


「そなたも見事であった。またやり合おう」


 二人は固い握手を交わし、忍者としてだけでなくアイドルとしてライバルと認識し合った。


 握手を交わすと二人は見つめ合い、お互いに特別な力を感じた。


(この力は……? 私たちとは違う力を感じますね……)


(この紅葉もみじとやら……私たちとは何か違う魔力があるのか……?)


 ゆかりはもみじに闇の力を感じるも、どこか優しい気分になり、自分の未熟さを思い知りながらも成長したいと感じた。



 一方のもみじはゆかりに自分の弱さに向き合うこと、そしていざという時には自分で決める勇気を感じ取り、前向きになるためのプラスエネルギーを感じた。


 握手を終えてゆかりは戻り、月光花というローカルアイドルグループを宣伝し、不思議な魔力があることを教える。


「彼女は紅葉もみじだ。前に紫吹流忍術の道場に来た紅葉しのぶの従姉妹で、京都でローカルアイドルグループをやっているそうだ」


「そうなんだ、ここに出てるってことは、きっとすごいアイドルなんだろうね」


「月光花、覚えておきましょう」


「……。」


「どうしたのゆかり?」


「いや、あの紅葉もみじとやらに不思議な魔力を感じてたのだ。何だか……心地よい闇の力を感じた」


「そうなんだ」


「なるほど、もしかしたらプラスエネルギーとはまた違った魔力があるのかもしれないな。そういえば最近京都で神社が大火事に遭い、モノクロ団とは違う何かが暴れてるって聞いたことある。それと関係があるのかはわからないが、あまり詮索しない方が月光花のためだろう」


「それもそうね。彼の言う通り、あまり詮索するのやめましょう。私たちは私たちでプラスエネルギーを世界中に届けることに集中しましょう」


 晃一郎は京都に起こった事件を知っていて、月光花と関係があると言いつつも、深入りしないように促してやるべきことに集中させる。


 純子も澄香もそれに賛成で、さくらたちは月光花の魔力を考えるのをやめた。


 次に千秋の騎馬戦で、千秋は笑顔で入場門に向かう。


 千秋は小柄な体型で上になり、自信ありげにピースサインをした。


「千秋ー、相手は強いぞー! 大丈夫かー?」


「これでも警察の子だよー! よく見ててねー!」


 騎馬戦では白組の先鋒(せんぽう)が4連勝し、残りの大将へと追い込んだ。


 しかし紅組の大将の藤沢拓海(ふじさわたくみ)が物凄い威圧感と目線で相手を威嚇(いかく)し、そのまま4連勝していった。


 あのポーカーフェイスで有名なアフタースクールズのスピリチュアルアイドル、田中さとりも怯えた表情をしていて、その圧倒的強さがよくわかった。


 そしてついに千秋の番だ。


「おらぁ! 次の相手は誰だ!ぶっ潰してやるぜ!」


「藤沢さんは強いです……。いざとなったらお逃げください……」


「大丈夫、私に任せて。」


「テメェ警察の子らしいじゃんか! 元暴走族長をナメんな!」


「負けないよ!」


 試合が開始され、千秋はあえて何も動こうとしなかった。


 馬は怖がって足が震えていて、藤沢の馬も彼女に従うがまま前進していった。


 すると千秋は全ての力を一瞬で発揮させ、藤沢のハチマキを片手で取っていった。


「なっ……!」


「私の勝ちー♪」


「ちっ……アタイの負けだよ。その……」


「一度本気で戦ったらお友達、そうだよね?」


「あ、ああ! 今度は不良と警察でコラボしようぜ!」


「うん!」


 こうして殺伐(さつばつ)とした騎馬戦は無事に終了し、ついに橙子の出番になる。


 橙子は気合のハチマキを絞め、最後のトリを飾るぞと張り切った。


 すると同じ組でリレーに出る高飛車きららが急に近づき、アルコバレーノに嫌味を吐く。


「あら、そちらは足手まといのぶりっ子ピンクのお仲間ですの? 随分とおめでたいですわね」


「テメェがさくらを泣かせたのか……! よくもさくらを泣かせやがって!」


「落ち着いてほむらちゃん。挑発に乗ったらダメよ」


「まぁ柿沢さんもせいぜい足手まといにならないように。わたくしは負けるのが大嫌いなので。あなた方はお仲間で戯れて馴れ合いをするといいですわ。おーっほっほ!」


「あいつムカつく……!」


「あの子、随分上から目線ね。私もちょっと頭に来ちゃったわ……!」


「彼女は高飛車(たかびしゃ)きららさんで、同じ生田(いくた)女子大付属中学校で同じクラスなんです。彼女の高飛車な態度と他人を蹴落(けお)としてでもトップに立つという性格と家系で評判があまりよろしくありません……」


 ほむらはさくらをバカにしたことに怒り、橙子も拳を強く握って怒りをこらえた。


 千秋がほむらを押さえ、あの優しい海美でさえも怒りを露わにしていた。


 さくらは悲しそうにうつむき、心配したゆかりと千秋で慰める。


 橙子はその怒りをリレーに向けるため、念入りにウォーミングアップする。


 そして一走はきららで、スタートのピストルが鳴った。


「さぁ白組の高飛車きららちゃん! これは安定のスピードです! トップは誰にも渡さない! 紅組頑張れ! 白組はトップを保っている!」


「橙子ちゃん……絶対に勝って!」


「さくらちゃん……橙子ちゃん! 笑顔を忘れないでトップになろう!」


「うん! 任せて!」


「柿沢さん! 後はお願い!」


「あーっと柿沢選手! 今までのアイドルで一番速いぞ! 猛スピードで白組柿沢選手! あっという間にゴール! 桃井選手の無念はボクが晴らしてやるっ! さぁ記録は――今までのを4秒更新の新記録! これは白組圧倒的総合優勝か!?」


「はぁ……はぁ……! どうだ!」


「ふん、あなたはなかなかやりますわね。あの桃色娘にお伝えしてくださる? アイドルやめるなら今のうちと」


「悪いけど絶対に言わない。ボクたちアルコバレーノにとってさくらは大事なリーダーで仲間だからね!」


「せっかく忠告したのに残念ですわ。ではまたお会いしましょう」


 きららは機嫌が悪そうに去っていき、橙子は勝ったはずなのに悔しいのと怒りでいっぱいになった。


 運動会の結果は白組の圧倒的勝利で締めくくり、白組全員で祝賀パーティをした。


 そのパーティにきららの姿はなく、見た人によると一人で黒い車に送られて去っていった。


 純子と晃一郎はきららを知っている様子で、アルコバレーノにとって警戒が必要になった。


 澄香はさくらを慰めるためにジュースを奢り、さくらは澄香の胸に抱きついて涙を流した。


 次はアルコバレーノにとって最初で最後の1週間の休みに入る。


 さくらたちは話し合ってレッスンに励み、もっと強くなろうと誓い合った。


 つづく!

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