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第35話 黒騎士現る

 魔物はアリーナに触手や炎で襲い、海美(うみ)は左手の盾でアリーナを守る。


 盾は魔力が弱い人間には目に見えないが、魔力の強い海美や魔物には青い盾が見え、一般人には何が起こったかわからない。


 そんな中で魔物は余裕の表情を浮かべて海美を挑発する。


「守ってばかりでは我には勝てぬぞ」


「そうね、そんな事はわかっているわ。でも攻めてばかりでも勝てないのよ」


「弱者の戯言(たわごと)とはらしくないな。いいだろう、守る事がいかに愚かなことか教えてやろう」


「くっ……!」


 魔物は2本の触手で支え、残りの8本の触手で海美に襲いかかる。


 魔物は海美を捕まえようとするために、触手をムチの様に叩きつける。


 海美は同時攻撃に対応できず、逃げ切ったと思ったら後ろから奇襲され、背中にダメージを負う。


 追い打ちで2本の触手による同時攻撃によって吹き飛ばされ、息をするのが苦しいくらいのダメージを受けた。


 追い詰められて諦めかけた時、場外アナウンスから司会の本田の声が海美に聞こえた。


「青井さん! 聞こえますか? 今あなたは世界を背負って戦っていますよね! でもプレッシャーを感じないでください! 戦いは出来ませんが……私たちがついています! どうか無事に帰って来てください!」


「本田さん……」


「事情を話したよ! 青井さん一人で背負わせるのも申し訳がないしね! そうでしょ? みんな!」


「頑張って!」


「ファンの女の子たちが青いサイリウム振ってるよ!」


「ファイトー!」


「みんな……! そうね……私は一人じゃない! 今戦っているのは一人だけど……背中には…陰で応援してくれてるみんながいるもの! ここで倒れたら……みんなに顔向け出来ないわ!」


「ならばそのみんなとやらを焼き尽くしてやろうぞ!」


「そうはさせない! はぁぁぁぁぁっ!」


「ぐはぁっ!」


 海美は心から勇気が湧き、魔物の触手を剣で斬る。


 触手を斬られたくらいでは魔物は動じなかったが、それでも海美は触手を斬り続けた。


 海美は左手の盾で守りつつ、チャンスを伺いながら剣術を取り入れたカウンターで一本ずつ触手の触手を斬る。


 しかし魔物はそう簡単に倒れず、斬られたはずの触手が新たに生えてきた。


「お? 絶望したか? 新たな職種が生えて絶望しただろ。貴様の冷や汗が物を言っているようだな」


「そうね、確かに残念だったわ。でも残念ね……あなたは既にプラスエネルギーの海の中よ」


「何だと……!? うっ……!」


 魔物は突然水に包まれ、そして宙に浮く。


 魔物は何が起きたのか理解できず、水の中で暴れるしかなかった。


 海美はあらかじめ魔物の周りを回りながら魔力を込め、水の中に閉じ込めて動きを封じる作戦に出ていたのだ。


「あなたの同時攻撃は広範囲で確かに厄介だったわ。だからこそあなたの周りを動き回って水の陣を作ったわ。これであなたの動きは鈍くなったはずよ」


「おのれぇぇぇぇぇっ……!」


 理性派だった魔物もさすがに激昂(げきこう)し、新たな職種で強引に振り回す。


 しかし魔物は動けば動くほど苦しくなり、ついにプラスエネルギーに溺れ始める。


 本来イカは逆で海水じゃないと動けない生態だ。


 しかし陸上にいるイカの魔物は陸でも海でも呼吸ができるが、海水ではなく淡水ならどうかと考え、本来使える海水型の水魔法を強引に淡水に変える。


 しかし海美の本来の水魔法ではないので体の負担は大きいが、それでも海美はそれを悟らせないように攻撃を仕掛ける。


「言ったでしょ? 攻めてばかりでも勝てないって。攻撃は最大の防御なら、防御は最大の攻撃チャンスでもあるのよ。フェンシングや剣術では当たり前の事よ」


「バカな……! こんな人間ごときに……!」


「覚悟なさい! ビッグウェーブソード!」


「げりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 剣から放たれた大きな波によって魔物は浄化し、そのまま消えていった。


 海美の魔法の水で壊れた物は全て直され、プラスエネルギーの優しさと凄さを知る。


 海美は疲れながら控室に戻り、応援のお礼を言う。


「みんなの応援のおかげで勝てました。本当にありがとうございました」


「これはあなたの勝利ですよ。青井さんは本当によく頑張りました」


「事情を話して本当にごめんね。あなたを守るにはそうするしかなかったんだ」


「小野先輩、大丈夫です。その方がいいかもしれません」


「さて、無事に戻ったことですし、グランプリを発表しましょう! 皆さんはステージに上がってくださいね! 青井さんはここで休んでてください!」


「わかりました」


「小野さんは彼女を見てあげてください」


「わかりました」


 身体がボロボロであることを察した本田は、海美に休むように言い、小野が椅子まで運んで海美を見守る。


 モニターを見ると青いサイリウムの海が映り、海美はこんなに応援されたんだと感動した。


 そして本田がマイクを握り、ついにグランプリ発表となった。


「それではグランプリを発表します! 日本ガールズコレクション、グランプリ受賞者は……渋谷凛香(しぶやりんか)さんです!」


 グランプリは渋谷に決まり、スーツかつ一般の大人女性をターゲットとした発想には敵わなかった。


 渋谷はトロフィーを受け取り、笑顔で観客に手を振る。


 すると今度は照明が本田のみに当たり、突然の発表がされる。


「ここで特別賞がございます。先程外で命をかけて戦い抜き、お客さんの皆さんの合意で発表させていただきます! 特別賞は……さんです! 青井さん、ステージへどうぞ!」


 突然の発表後に小野は海美に肩を貸し、ステージまで連れてく。


 本田が明るい笑顔で海美に抱きつき、観客から温かい拍手が送られた。


 温かい空気の中で海美は背後から感じる殺気を警戒し、喜びたくても喜べなかった。


 その瞬間、細い切っ先をした剣が飛び、海美の髪をかする。


「小野先輩……どいてください!」


「うわっ!?」


「っ……!」


「何!? 今、剣が飛び出してきたんだけど!?」


「なるほど、(あらかじ)め私の殺気を警戒していたみたいだね。読んでいるような動きだったよ」


「あなたはまさか……!? ダークナイト……!」


「どうやら私の名を知っているようだな。おそらく純子あたりから聞いたのだろう。私がダークナイトだ、よろしく頼む」


 フードを被ったダークナイトが現れ、海美は四天王の登場に警戒する。


 小野も純子から話を聞いていたので、海美の後ろに隠れつつも何かあったら助けるつもりで前に出る準備をしていた。


 その光景に何もわからない本田はマイクを取り、海美に質問をする。


「青井さん、この方はお知合いですか?」


 その質問に小野は大声で答えた。


「いいえ、こいつは青井さんの敵です! モノクロ団という世界を絶望の黒に染めようとする悪いやつらです!」


「なるほど、一般人の一部にも話しているようだね。いずれにせよ私たちの存在は知られ、絶望の黒に染まるのだから問題はない」


「今までモノクロ団の四天王は目的を話してくれなかったけど、あなたはどうなのかしら?」


「君たちアルコバレーノが私たちと対等な戦闘力になったら私から話そう。だが今は防ぐかかわすくらいが精一杯みたいだね。ならば今倒しても仕方のない事だ。いずれ戦う時が来るだろう、その時まで魔力を高めるといい。さらばだ」


 そう言ってダークナイトは黒い霧と共に去っていった。


 本田の表情から明るさが消え、観客もダークナイトの存在にざわつきはじめる。


 それでも本田はプロ根性でマイクを握り、海美にマイクを向けてインタビューを続ける。


「あの、何て言えばいいんでしょうか……? 青井さんは怖くないんですか……?」


「怖くないと言えば嘘になります。今後は一人で戦わないといけない時がまた来るでしょう。それでも私は仲間を、応援してくれるみんなを信じ、その想いを背負って勝ちます。そして世界を守り、モノクロ団の野望を止めます」


「青井さん……頑張ってください! 私含め皆さんは青井さんがモノクロ団と戦っているのを見かけたら、安全な場所へすぐに避難してください。巻き込まれるのは青井さんにとって悲しい事ですから」


「はい!」


「青井さん、私からも特別賞おめでとう。私も先輩として支えていくよ。でも芸能界ではライバルであることは変わらない、競い合って輝こう!」


「小野先輩も女の子の希望になってくださいね。誘ってくださってありがとうございます」


 こうしてファッションショーは終わり、女の子の希望はいろんな形で繋がった。


 海美はキスリサ愛好家の山田と連絡先を交換し、同時にさくらの連絡先を教える。


 藤沢も『最高にカッコよかった』とブログで話し、モデルとして第一歩を踏み出した。


 小野は嫉妬(しっと)も嫌味もなく海美を応援し、海美も感謝を込めて小野を応援する。


 特別賞をもらったとはいえ、グランプリを取れなかったことを海美は悔しく思った。


 その向上心の高さで今後もアイドル活動を頑張るだろう。


 つづく!

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