第34話 ファッションショー
海美はさいたまスーパーアリーナにて、モデルの小野愛梨と共にファッションショーに出演する。
小野がソロで出演する予定だったが、海美が美川トレーナーとファッションの研究をしていることを知られ、『一緒に出演しよう』と誘われて出演することになった。
日本ガールズコレクションという大きなイベントで、日本中の女の子のためのイベントで、グランプリでは個人のブランド開発が出来る。
そんなファッションショーに呼ばれ、海美と小野は衣装に着替え、ステージの方を見る。
「女の子の皆さん、お待たせしました! 日本ガールズコレクション、これより開演します! 進行役は私、本田綾香でお送りします! 今回はなんと、最多の30人が出演します! みんなー、オシャレに可愛くなりたいかー!?」
「「「いえーーーーーーい!」」」
「こんなに注目されるなんて、小野先輩は凄いですね」
「そう? でもそう思ってくれてありがと。でも私はただファッションが好きなだけだよ。青井さんもオシャレでクールなファッションしてるよね」
「ありがとうございます。小野先輩の背中を追って、そして越します」
「負けないよ」
「さぁ早速参りましょう! まず一番目はスポンサーがキスリサで、そのブランドで固めたファッションでおなじみの山田愛子さんです!」
山田愛子はさくらが大ファンで、彼女がきっかけでキスリサを好むようになった童顔のモデルだ。
山田は笑顔満点で手を振り、歩き方も可愛らしさをアピールしつつ、モデルとしてのカッコよさも備えている。
山田はアルコバレーノのファンで、海美と話した時は嬉しそうで、そこで連絡先を交換してさくらに山田の連絡先を教えた。
次に同じアイドルの藤沢拓海で、元暴走族総長という異色の経歴を持つアイドルが花道に立つ。
「さぁ続いては、暴走族という不良の世界からアイドルデビュー! このファッションで天下統一なるか! 藤沢拓海ちゃんです!」
「っしゃあ! 見とけよオラァ!」
藤沢は同じ時期にデビューし、不良の貫禄を見せるサングラスでカッコよさとロックさをアピールする。
特攻服をアレンジした大人の女性をイメージしたファッションは、特定の女性には大人気だ。
続いて小野の出番になり、笑顔で海美に手を振って花道に立つ。
「じゃあ、いってくるね。私の背中をよく見てってね」
「はい。」
「さぁグランプリ候補の登場です! 見た目は清純なアイドル系、中身はイマドキギャル! ショートヘアのキューティ渋谷系JK! 小野愛梨ちゃんです!」
小野は花道で堂々と歩き、ギャルらしく陽気にポージングをする。
デニムのショートパンツに肩出しのロングTシャツ、ヒールが高めのサンダル、そしてボーイッシュなベースボールキャップと活発な女の子をアピールした。
小野のモデルとしてのパフォーマンスに海美はステージ裏で圧倒された。
「先輩はやっぱりすごいです」
「いや、私以外のモデルさんもすごいよ。よく見て、みんな個性あふれるファッションだから」
他にもサーフィンが趣味で小麦色の肌をした城間美波。
あえてスウェットで勝負を仕掛けた脱力系モデルの双葉杏奈。
間違えて学生服を着てしまったとあざとく制服をアレンジした張本美沙など、読者モデルから活躍しているプロのアピールに会場は盛り上がった。
司会の本田はハイテンションでマイクを取り、観客を大いに盛り上げる。
そしてグランプリ候補で、オシャレ大国イタリアから帰ってきたグランプリ候補の出番が来た。
「さぁお待たせしました! 本日の最高コーデとなるでしょう日本一のカリスマモデル! オシャレの国イタリアで武者修行し、この日本に帰ってきた! 渋谷凛香さんです!」
渋谷は普段は大人びた黒をベースにしたモード系、ワンピースやブラウスを使った清楚系、スポーツウェアを取り入れたスポーティ系など幅広いファッションで活躍していたモデルで、今回はビジネススーツと意外なファッションだった。
渋谷は働く女性も若く可愛く美しくをテーマにし、あえてシンプルイズベストで女の子のハートを掴んだ。
あまりの歓声に海美は委縮し、『このファッションショーに参加したのは間違いだったのでは』と思ってしまった。
すると不安になった海美に気付いた小野は海美の右肩を軽く叩き、振り向いた瞬間に頬を突いて笑顔で励ます。
「ファッションショーは勝つか負けるかだけじゃないよ。ファッションショーはね、来てくれたみんなに自分の個性を服装でアピールする場所だよ。今まで『自分の個性を研究し、美川さんと一緒に自分の服がいろんな人に着てもらえるのが夢だ』って語ってたじゃん。そんなストイックな青井さんだからアタシはスカウトしたんだよ、自信持って自分をさらけ出そう!」
「小野先輩……わかりました。私なりのアピールをします」
「さぁ最後の出演者となりました! アイドル界のクールキューティ! 美しい心は青い海のよう! その笑顔で女の子に希望を与えます! 青井海美ちゃんです!」
海美は自分を知的に見せつつ、年頃の女の子らしく友達と遊びたいという天真爛漫さをアピールする。
パステルカラーの花柄ワンピースを基盤に、秋らしいワインレッドのカーディガンで大人っぽく、ヒールの低い靴で少しの活発さをアピールし、観客を虜にする。
ファッションショーも終わり、ついにグランプリを決める来場者投票が行われる。
海美たちはそれぞれの楽屋に戻り、結果発表の結果を待つ。
ここはさいたま新都心駅、フードを被った凛としたモノクロ団の四天王が人々を見て微笑み、またもや呪文を唱えていた。
「ふむ、なるほど。女の子の憧れか。たとえ見た目が良くても、本来の姿が醜ければ意味はないだろう。その心の醜さをさらけ出させるとしようか。人類の心の中にあるモノクロの心よ……そのマイナスエネルギーを解き放ち、全世界を絶望の淵へ落とすのだ!」
駅周りの人々の胸からマイナスエネルギーが放出され、さいたまスーパーアリーナの広場の真上に集まる。
次第にマイナスエネルギーは魔物を生み出し、ついに姿を現した。
すると魔物はさいたまスーパーアリーナを襲い、大きく揺らした。
アリーナの照明が突然消え、会場が大きな揺れに見舞われる。
観客や出演者の胸からもマイナスエネルギーが出ていて、その様子を見ていた海美と小野は危険を感じた。
外を見ていた警備員が慌てた表情で、息を乱しながら状況を説明する。
司会の本田がそれを聞き、出演者全員に説明をする。
「皆さん大変です! 外に大きな黒いイカのようなものが現れました! 皆さんは安全が確認されるまで動かないでください!」
「大きなイカ……!? これは魔物が来たのね! 小野先輩、いってきます!」
「頼れるのはあなただけだもんね……! 絶対に生きて帰ってきて!」
「はい!」
「青井さん! どこに行くんですか!」
「私は外の様子を見に行きます! 皆さんは避難してください!」
「ちょっと!」
「本田さん、私に説明させてください!」
「小野さん……どういう事ですか?」
緊急事態となった海美は走りながら変身をし、アリーナの外へ向かう。
外に出ると警備員は腰が抜け、魔物の10本の触手が警備員を威嚇していた。
海美は剣を振りかざして振り払い、警備員を中へと避難させる。
「あなたはモノクロ団の魔物ね!」
「いかにも、私はモノクロ団に作られし魔物だ。魔法少女とはいえ、たった一人で戦おうとは愚かなものだ。この地獄の業火の海に焼かれて灰になるといい」
「だったらあなたですら泳ぐことが出来ない心の海に取り込んであげるわ! その絶望に染まった心を、私の希望の海で浄化させるわ!」
海美は剣を両手で構え、左手に何か特別な力を感じながら振りかざす。
魔物は触手を一旦引っ込め、口から黒い炎を吐き出した。
その魔力のこもった左手を無意識に前に出し、手のひらを開いて構える。
「これは……!」
「ほう、攻撃以外にも防御が可能とはな。見くびっていた私のミスだな」
「これさえあれば自分だけでなくみんなを守れるわ……! 守る力を手に入れた私は、あなたに負けない! 覚悟なさい!」
左手を前に出して手のひらを広げると、魔力が強い人にしか見えない青い盾が現れ、海美にも防御をする手段ができた。
そうすることで戦術も変わり、無茶をせずに自分を守ることができる。
海美は気持ちが楽になったが、それでも油断をせず戦闘態勢に入った。
つづく!




