第32話 雑学王
みどりはテレビ赤坂にて、クイズ番組の出演者として出演することが決まった。
アイドルの中でもインテリアイドルとして売れ始め、勉強を楽しむことが評価されてのオファーだった。
今回の番組では、事務所の先輩であるお笑いコンビの通天閣の二人が司会をし、『お勉強は出来ても、日常にありふれた雑学はどうなのか?』というのを競う番組だ。
その番組にみどりが呼ばれ、今まで学んできた日常を披露する時が訪れる。
「さぁやってまいりました! クイズ、トリビアのオアシス!司会は私、通天閣の有田雄平と――」
「おなじみ島田慎二の実の兄、通天閣の島田慎一でお送りします!」
「しんちゃん、今回のゲストはまた個性的なエリートが集まりましたで!」
「せやなーゆうちゃん、早速やけど登場してもらいましょうか!」
「出演者は全員で4名です! どうぞ!」
日本一の大学である皇京大学に通う勉強王の伊集院昌。
帝応義塾で教授をしながらタレントをしている西園寺光。
覇世田大学出身の国会議員をしている芸人の上八代守というエリートタレントと共に入場し、みどりは大人と雑学力を競う。
クイズでは難関学校では習わないありふれた日常の常識やマイナーな雑学、その他様々な文化がクイズとして出されるもので、アイドルを始める前までみどりが苦手としていたものだった。
今はアルコバレーノのみんなの協力で、雑学を身につける事が出来たのだ。
自己紹介を終え、早速第一問に入る。
「では第一問! 南半球の国、ニュージーランドの◯◯族が戦いの前に踊る儀式を◯◯といいます。その空欄をすべて埋めよ!」
「これはラグビーを見てないとわかりませんて!」
「ゆうちゃんはラガーマンやったしな。ちなみにワイはJリーガーになりたかったんよ」
「でも膝のケガでお笑いに進んだんやったな。今も後悔しとらん?」
「しとらんよ。そのおかげでゆうちゃんに出会えたんやからな」
「しんちゃん……! あ、どうやらみんなの答えがもう決まったようやで! ほな答え合わせや。正解は――」
みどりはラグビーのことはそこまで知らないが、ニュージーランドの人と交流したことがあり、その素晴らしい伝統文化を知る事ができた。
本来はある部族が戦う前に行う儀式で、戦国時代の日本にも似たような儀式があることを思い出す。
今ではラグビーだけでなく、様々な競技でニュージーランド代表が相手を尊敬し、自分たちの士気を高める儀式として存在しているとみどりは聞いたことがあった。
みどりは自信ありげに『マオリ族』による『ハカ』と答え、伊集院だけが答えを外す。
「三人正解! やっぱ日本でワールドカップをやったからか知名度ありますなぁ!」
「けど皇京大学の伊集院さん! 何で知らんかったん!?」
「スポーツに興味が持てず、ずっと勉強してました」
「クールに開き直るなやw! では第二問! 福島県いわき市の川岸で当時高校生だった男の子によって発見された日本の恐竜、◯◯リュウといわれていました。その空欄を埋めよ!」
「恐竜は日本ではあんまおらへんからなぁ。なかなかの難問やでー」
「おっと。葉山さん以外が頭を悩ませているで!」
西暦時代に『日本で恐竜の化石が発見された』ということを歴史の教科書で学んだことを思い出す。
たまたま読んでいた恐竜図鑑で、その見つかった恐竜の名前がみどりはすぐに浮かんだ。
名前の由来は双葉層群にて鈴木さんが見つけたことによるもので、『フタバスズキリュウ』とみどりのみが答える。
他の三人は違う答えだったが正解は――
「あーっと! 葉山さんのみ正解! どうしたエリートたち!?」
「恐竜まではノーマークでした……」
「葉山さん何でも知ってるんだね」
「アイドルデビュー前のわたくしでしたら、答えられませんでした」
「意外やなあ。それでは続いていきましょう!」
他にも鶏肉は何の肉で出来ているかという問題で、答えは『ニワトリ』。
日本では虹色の色は7色ですがアメリカでは何色かという問題で、答えが『6色』。
これから流れる曲の題名を答えよ、というイントロ問題で答えは『シューベルト作曲、魔王』。
スーパーファミコンとメガドライブの他にどのゲーム機が世に出たか答えよ、という問題で答えは『PCエンジン』など、学校で習うものから日常で知るものまで幅広いクイズとなった。
みどりは今まで全問正解をし、他の出演者とは差をつけた。
そして最後の問題も正解し、結果発表を行う。
「では結果発表です!1位は――葉山みどりさんです! おめでとう!」
「ありがとうございます!」
「葉山さん! やりましたね! 今回勝利した要因は何ですか?」
「人は何かを学ぶことで成長し、新たな知識として人生で役に立ちます。お勉強も大事ですが、日常の常識や出来事も学び、経験として人生に活かしてください」
「まだ中学生やけど凄いなぁ! 貫禄あるで!」
「俺らも見習わなアカンな! では葉山さんには賞金百万円を差し上げます!」
こうして番組は無事に終了し、夕方に優勝祝賀会として共演者と一緒に居酒屋でお食事会を開くことになる。
島田と有田が『未成年であるみどりの分までお代を払う』と言い、みどりはお言葉に甘えてご一緒する事になる。
そしてここは赤坂テレビの屋上、みどりたちがテレビ局から出た直後にフードを被った謎の女の子が、風でマントを揺らしながら呪文を唱える。
「クックック……。何が学習だ……。所詮人間は学んでも失敗するのにね……。いいよ……今から絶望を与えてあげるからね……。人類の心の中にあるモノクロの心よ……そのマイナスエネルギーを解き放ち……全世界を絶望の淵へ落とすといい……」
居酒屋に向かうと雲が急に黒くなり、人々の胸部から大勢のマイナスエネルギーが空へ昇っていく。
この光景にモノクロ団がどこからかマイナスエネルギーを無理矢理放出させているとみどりは感じ、その集まっている場所へと走って向かった。
「葉山さん! もう現れたんか!?」
「はい! 皆さんは居酒屋で避難してください!」
「わかった! 皆さんワイらについて来てください! 焦らず居酒屋で葉山さんを待ちましょ!」
「どういう事なんだ? 葉山さんはどうして……」
「詳しい事は後や! 今は避難しよ!」
みどりは走りながらネックレスに祈りを込め、お店の人に事情を説明して外に出てすぐに変身する。
魔力が集まっているところに着くと、そこには大勢のモンゴル軍風の騎馬隊がいた。
大将らしき魔物がみどりに威圧するように何か語りかけてくる。
「現れたな魔法少女。そなたに最悪の絶望を与え、何を学んでも無力であることを証明させてみせよう」
「最悪の絶望を与えられたとしても、わたくしは皆さんと共に歩んできた希望を抱き続けます! あなたは大勢の方々の心の闇でしたね。でしたらわたくしがあなたの心を癒し、希望の光というのを見せて差し上げます!」
「なるほど、返答に感謝する。では諸君、敵は弓のみで接近戦に弱い。全力で叩きつぶせ!」
「わたくしが弓矢だけとでも思いましたか? 前のわたくしよりも遥かにパワーアップしていることをお忘れのようですね……?」
みどりはパワーアップした魔力を弓に込めて分離させ、少し長めの短剣二つを装備する。
騎馬隊は油断したかのように動きが鈍くなり、みどりは風のように素早く移動し、空を切るように舞いながら短剣で斬る。
魔物の大将は何か試すように様子を伺い、みどりの動きを観察するような目で見ていた。
そしてついに魔物の群れを全て倒し、魔物の大将がみどりを称えるように言う。
「たった一人でこの大軍を破ったことは褒めてやろう。だがそなたはあれだけの数と戦い疲れたであろう。それ故に――」
「え……? きゃあっ!」
「我はそなたに決して負ける事はない。そなたはここで絶望をするのだ」
魔物の大将が手綱を引いた瞬間に馬の魔物は瞬間移動し、みどりはをヒヅメで蹴飛ばし、魔物の大将の剣で叩きつけられた。
矢を放ってリーチの差を埋めたいところだったが、あの素早い馬を攻略するには何か策を考えなければならない。
みどりは一旦その場を離れ、弓矢で牽制して様子を伺う事にする。
つづく!




