第31話 黒魔術師現る
千秋は無数のハチの魔物を相手に拳銃で何発も撃ち落とし、格闘で戦うのは危険だと判断する。
格闘もあると聞いていた女王バチの魔物は不思議そうに千秋に問いかける。
「射撃だけじゃないと聞いていたけど、格闘はしないのね」
「あなたのような魔物に格闘したら針に刺されるからね」
「状況判断が出来るとはなかなかのものね、褒めてあげるわ。でも……あなたはここで終わるのよ!」
魔物はお尻の針から毒の液体をばら撒き、千秋は何とかかわすものの、当たった建物や道路はドロドロに溶ける。
そしてその液体を絶え間なくばら撒き続け、射撃させる時間を与えてはくれなかった。
千秋は徐々に人が避難しているところへと追いやられ、もう後がない状態だった。
その瞬間だった、たくさんの発砲音が聞こえ、魔物の隙を作る。
「ぐふぅっ……!」
「え……?」
「そこの君! 化け物の隙は我々高津警察署特別部隊が作る! 君はその正義の拳銃で撃ち抜きなさい!」
「お父さん……みんな……! はい!」
千秋は拳銃に六発分の魔力を一発に込め、10万ボルト級の電撃を放つ。
魔物に命中すると、魔物は痺れからか動けなくなり、体の動きも鈍くなった。
すると辛うじて動く羽を振り絞り、針を大きくして千秋に襲いかかる。
「油断していたわ……。あなたには大事な仲間がいるのね……。でも……仲間の目の前であなたがやられればどうなるかしらねぇっ!」
「大丈夫。みんなが私を支えてくれるから。みんなを信じて……この一撃で仕留める!」
「戯言を言うのは死んでからにしなさい!」
「いくよ! サンダーブレイカー!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
変身したマスケットに最大魔力の雷を込めて命中させ、魔物はそのまま燃えて浄化された。
空がさっきのように晴れ、街の平和を守り切る事が出来た。
駆けつけた警察たちは千秋に歩み寄る。
「君強いね! 俺たち警察よりも大活躍だったよ!」
「まさに警察のヒーローってやつね! 私も憧れてたんだ!」
「君のおかげで街の平和は守られた、ありがとう」
「私そこありがとう! おかげで魔物を倒せたよ、お父さん!」
「お父さん……? その声はまさか……!? 千秋なのか!? 噂のヒーローは千秋の事だったのか!」
千秋は興奮のあまりに『関係ない人を巻き込む可能性があるから正体は秘密にした方がいい』と言われたのを忘れ、うっかり千秋の父である正義に正体をバラしてしまった。
千秋はそのことを今になって思い出し、ごまかすこともできないので秘密にしていたことを謝る。
「うん、黙っててごめんなさい……。でもみんなを守るために私は戦ってるの。昔みたいに弱くて泣いてばかりの私じゃ想像できなかったよね……。でも私は必ず平和を取り戻し、お父さんみたいな――」
「いいんだ。お前は警察の私よりも立派な仕事をしているのだから。アイドルの仲間と出会えて強くなったな。お父さんはお前の成長した姿を目の前で見れて嬉しいよ。ありがとう」
「お父さん……」
「さて、そろそろ署に戻ろう。一日署長の最後の仕事はライブですよ。僕がパトカーで送るからね」
「「「はい!」」」」
両津の一声で千秋たちは一度警察署に戻り、一日の平和を取り戻した実感が湧く。
街は平和になり、大きな本屋の隣のライブハウスでライブをし、一日警察の仕事を終える。
着替え終えると署長が千秋に感謝状を送り、魔物を倒したヒーローとして称えられた。
千秋はそのまま事務所に戻ろうと外に出ると、正義と署長が話をしていた。
話を終えると正義が千秋に歩み寄り、優しい声でこんなことを言う。
「千秋、お父さんと一緒に帰ろう。署長が『たまには親子水入らずで一緒にいなさい』と言ったんだ。どうかな?」
「うん! 一緒に帰ろう♪」
「今から着替えてくるからそこで待ってなさい」
「うん!」
正義が着替え終えるまで千秋は街の人に笑顔で手を振り、街の人々の笑顔を見て安心する。
子どもたちの笑い声、学生たちの友達との幸せな表情、家族との癒しの時間、お年寄りの平和な顔、仕事帰りの安心した顔を見て、千秋は平和を守ったんだと実感した。
しばらくすると着替え終えた正義が来て、親子水入らずで一緒に帰る。
「久しぶりに千秋と話せる時間が出来て嬉しいよ。アイドルは楽しいかい?」
「とっても楽しいよ♪ ファンのみんなの笑顔を見ると心まで温かくなるんだ♪」
「私が笑顔を心掛けたように、千秋も心掛けてくれてるね。そうしてみんな幸せになるんだ。そうだ、せっかくだし、ポレポレベーカリーに寄ろう。千秋の好きなロールパンとピーナッツクリームを買ってあげよう」
「わーい♪ お父さんありがとう♪」
ポレポレベーカリーで千秋が大好きなロールパンと、お店の名物であるピーナッツクリームを購入して家まで帰る。
帰り道を見渡すと人々は幸せそうに街を歩き、どんな日常を送っているのか少し想像した。
それぞれの日常があり、それぞれの人生を歩んでいるのだろうと千秋は感じた。
すると突然、背後から不気味な声が聞こえる。
「クックック……。美しい親子愛だね……」
「誰……?」
「やっと会えたね……黄瀬千秋……」
「あなたはまさか……!? モノクロ団!?」
「クックック……。そう警戒しなくてもいい……。私はアクマージ……。モノクロ団四天王の一人さ……」
突然黒いフードを被ったアクマージと名乗る女の子が現れ、千秋は不気味な魔力に恐怖を感じた。
街の人々は『不審者ではないか』とざわつき、正義も表情が険しくなった。
そして正義は恐怖で少し後ずさりをするも、勇気を出して声を出す。
「君は千秋の何者なんだ? もし命を奪おうなら私からにしなさい」
「黄瀬正義……。黄瀬千秋の父で警察官をしている……。クックック……。噂通りの勇敢さだね……。でも私の相手はあなたではない……。弱者はそこで見ているがいい……」
「どうして人から笑顔を奪おうとするの……?」
「さぁね……モノクローヌ様は笑顔が大嫌いなのでね……。ただ……この世界は偽の美しさに騙された醜い世界だとも言っていたね……。私にはそのくらいしかわからない……。いずれ君も永遠の絶望に落ちるであろう……。さらばだ……」
そう言い残してアクマージは去っていき、街の人々は恐怖のあまりに動けなくなる。
正義は切羽詰まった顔で千秋を見つめ、落ち着いたのか千秋に質問をする。
「千秋……お前は世界を明日滅ぼすかもしれない奴らと戦っているんだね?」
「うん……」
「世界のために自分の全てを犠牲にする必要はない。だからと言って逃げろとは言わない。世界を守るために命がけで戦いつつ、自分や仲間も全員で生き残って勝ちなさい、それが私の願いだ。仲間もみんなも……もちろん自分自身も無事じゃないと笑顔になれないからね」
「お父さん……ありがとう。私、みんなと一緒に世界を救ってみせるよ! お父さんの分まで頑張るから……見守ってて!」
「千秋はそんな連中と戦っているんだね。私より立派になったよ……。みんなも聞いての通り、私の娘の黄瀬千秋はみんなのために命をかけている。千秋にももちろん恐怖もあるし、年頃の女の子だから遊びたい気持ちもある。それでもこの子は命をかけると約束した。だからこの子のためにみんなは陰で応援し、見守ってあげてください。それが父としての願いです。もし戦ってるところを見かけたら……皆さんは安全な場所へ避難し、この子の事を信じて待ってあげてください」
「アイドルと同時にそんな事を……!」
「千秋ちゃん頑張れ!」
「アクマージに負けないで!」
「わしらも安々と死ぬわけにはいかんのう!」
「本当にありがとうございます……!」
「涙もろいところは変わらないな。でもそれがお前が優しくて繊細な証拠だ。さぁ今日は疲れただろう、家に帰ろう」
「うん!」
正義は街の人々を安心させる言葉を発し、街の人々に笑顔が戻る。
千秋はそんな笑顔を大事にする父を誇りに思い、迷いがありながらも帰宅する。
母にも事情を話し、母は不安そうに反対していたが、正義の説得や千秋の覚悟を見て見守る決意をする。
千秋は信頼できる仲間と共に苦しい戦況になっても信じ続け、過酷な戦いを乗り越えようと決めた。
つづく!




