第30話 一日署長
ここは高津警察署、千秋は警察署のオファーで高津警察署の一日署長となる。
そこは千秋の父である黄瀬正義の職場で、娘の千秋がアイドルをしているという事で千秋ファンである署長から直々に依頼が来たのだ。
千秋はその仕事を引き受け、一日署長の任命式を行っている。
「黄瀬千秋くん、あなたを一日署長に任命します。高津警察署長、銭形純二。黄瀬君も何か一言をよろしく」
「私の一人娘を一日署長として推してくださったことを感謝しています。一日中は父としてではなく、同じ警察官として街を守っていこうと思います。千秋、よろしくな」
「うん!」
任命式を終え、街の人々にアピールするためにパレードをする。
警官服は千秋の憧れでもあり、この制服を着れたことを誇りに思った。
パレードのために溝の口北口通りを歩き、街の人々に笑顔で手を振る。
「千秋ちゃん可愛いー!」
「似合ってるよー!」
「ああ、千秋ちゃんに逮捕されたい///」
「もう、そんな事言うと逮捕しちゃうよ?」
「きゃー! 握手してもらったー!」
パレードを終えると、今度はパトカーに乗ってパトロールをする。
正義の部下である両津大吉さんがパトカーを運転し、街の様子を伺う。
すると牛丼屋近くの交差点で男性二人が揉めていた。
「テメェ危ねぇだろ! どこ見て運転してんだよ!」
「スピードも緩めたし車の信号は青でしたけど?」
「うるせぇ! こっちは車にぶつかってんだぞ! 賠償しねぇとぶん殴る!」
「お父さん……!」
「彼はもしかして……千秋はよく見ていなさい。警察とはこういう仕事だというところを」
正義と両津はパトカーを降り、揉めている男性二人に近づく。
被害者らしき男性はとても怒っていて、ぶつかった脇腹と右肩を庇うようにしていた。
正義と両津は警察手帳を見せ、男性に声をかける。
「すみません、高津区警察の者ですが、そちらは車にぶつかってケガをした、ということですか?」
「そうだよ! おかげでこっちはケガして痛ぇんだよ! こいつが急に飛び出して俺は轢かれたんだよ!」
「いやいや、急に飛び出したのはそっちだってさっきから……」
「ああ!?」
「黄瀬さん、どうも彼の挙動がおかしいです」
「うむ、君は運転をした人だね?」
「はい。確かに彼を車でぶつけたのは事実ですが、車の信号は青で歩行者は赤でした。そしたら彼が横断歩道外からわざと飛び出して――」
「だから飛び出してねぇよ!」
正義も両津もあの怒っている男性の正体がわかっていた。
被害者を装ってる男性は、指名手配されている当たり屋で、事故に見せかけて恫喝してお金を取り立てる悪質な人だった。
千秋も男性を知っていて、当たり屋としての証拠がないかパトカーの中で考えた。
すると目の前に建っていた牛丼屋の店員が、千秋に何か言いたそうにそわそわしていた。
その事に気付いた千秋はパトカーを降り、店員に話しかける。
「あの、ちょっといいですか?」
「千秋ちゃん!? 一日署長は本当だったんだね!」
「はい! それよりどうしてそんなにそわそわしてたんですか?」
「店の防犯カメラでは、男が挙動不審で車が出るや否や急に飛び出して、わざと当たりに来ている映像がありまして。それを警察に提出しようか迷ってて……」
「その映像をください!」
「わかりました。千秋ちゃんもトラブルに巻き込まれないでね」
千秋は牛丼屋の店員の証言と同時に、防犯カメラに映っていた映像を借りて千秋の父に近づく。
「お父さん! 事故の証拠が見つかったよ!」
「本当かい?」
「はい、こちらが当店の防犯カメラの映像です」
店員は勇気を出して監視カメラの映像を見せ、怒っている男性が当たり屋行動をしていた事がわかった。
同時にこの地域だけで10件も当たり屋として脅迫してお金を取り上げたと街でも有名だ。
すると男性は怒り狂い、千秋に襲い掛かろうとする。
証拠を出されて激昂した男性は千秋を殴ろうとナイフを突き出す。
「貴様……! 欲も俺の完璧な計画を壊しやがったな! 殺してやるっ!」
「千秋っ!」
「大丈夫……。せいやーっ!」
男性は千秋に襲い掛かり、危険と判断した千秋は魔法少女のカウンターを思い出して男性の動きを見て背負い投げをする。
「うわっ!」
「暴力で支配しようだなんて……人から笑顔を奪うなんてしたらダメだよ! ね? お父さん」
「そうだ、君を当たり屋行為並びに脅迫、道路交通法違反、銃刀法違反と殺人未遂で逮捕する。千秋、お手柄だった。ありがとう」
「クソッ! お前ら後で覚えておけよ! 顔を覚えたからな!」
こうして事件は解決し、犯人はすぐに逮捕された。
車を運転していた男性は千秋たちにお礼を言って、そのまま車で立ち去ろうとした。
すると車はエンジンをかけた瞬間に窓が開き、千秋に声をかける。
「千秋ちゃん、俺助けてくれてありがとう。それと弟が迷惑かけたね。弟に笑顔と希望を与えてくれてありがとう」
「あなたは……?」
「俺は川崎フロンターズ背番号11番、近藤裕也だよ。今の弟はリハビリが順調で回復傾向にあるよ」
「翔也お兄ちゃんのお兄さんで近藤選手!? 会えて嬉しいです!」
「俺も会えて嬉しいよ。まさか兄弟で千秋ちゃんに救われるなんてね。今度等々力競技場においでよ」
「はい!」
こうして近藤選手は車を発車させて去っていった。
正義は千秋の頭を撫でてお礼を言う。
「さっきはありがとう千秋。千秋はこうして笑顔を振りまいているんだね。私は千秋が誇らしいよ」
「えへへ……♪」
「ご立派ですね、黄瀬さんの娘さん」
「元々笑顔が大好きで正義感が強い子だからね。あんなに泣き虫で弱かった千秋が心身ともに強くなったよ」
こうしてパトロールを再開し、千秋は街が少し平和になったかなと安心する。
今のところさっきの一件以外はトラブルはなく、そのまま署に戻ろうとした。
両津の運転は安心できて、千秋は少し寝ちゃいそうになった。
こちらは溝の口の商店街、またフードを被った四天王の一人が現れ、マイナスエネルギーを放出させようとしていた。
「クックック……。平和な街は嫌いだよ……。ならばこうしよう……。人類の心の中にあるモノクロ心のよ……そのマイナスエネルギーを解き放ち……全世界を絶望の淵へ落とすといい……」
寝そうになった途端、空が急に暗くなり、黒い雲が現れてから街の人々の胸からマイナスエネルギーが放出される。
正義と両津は不安そうにパトカーを止め、一旦パトカーから降りて外の様子を見る。
千秋はマイナスエネルギーの行き場所が高津図書館前とわかり、急いで高津図書館に向かった。
「待ちなさい千秋! 今動いたら危険だ! パトカーに戻りなさい!」
「お父さん聞いて! 私にしか解決出来ない事件が今起ころうとしているの! だからお願い……! お父さんは両津さんと一緒に街のみんなを助けてあげて!」
「千秋……わかった、お前を信じよう。その代わり、無理だと思ったらすぐに私のところに来なさい。必ず千秋を守ってみせるから」
「うん! それじゃあ……行ってくるね!」
「いいんですか? 娘さんを危険な場所へ送っても……」
「あの子の目は真っ直ぐだった。あの子にしか出来ない事件があると言っていたが、どうやら本当のようだ。だから千秋を……娘を信じている。我々は区民の安全のために誘導するぞ!」
「はい!」
千秋は走りながら変身をし、高津図書館に到着する。
マイナスエネルギーは禍々しく集まりだし、徐々に魔物を作り上げていた。
魔物が召喚されると、その姿は成人男性とほぼ同じサイズの女王スズメバチが威圧的に飛んでいた。
そしてカラスと同じサイズのスズメバチ型の魔物が大勢で球体を作り、千秋を睨んでいた。
「超大型魔物かなって思ってたけど、大勢の魔物がいる事もあるんだね……」
「怖気づいたかしら魔法少女。私はあなたの絶望する顔が大好きなのよ。あなたの今の顔は愛おしいわね。この毒針で街のみんなが犠牲になるか、私が直々に刺してあなただけ犠牲になるか……二つに一つ選びなさい」
「そんな事はさせない! 街のみんなだけは巻き込ませないよ! 同時に……自己犠牲をせず私自身も守る! 私自身をも守れないで街のみんなの命と笑顔は守れないから!」
「せっかく生きるチャンスを与えたのに…弱い者ほどみんながって言うわね。お前たち、あの子娘をやっておしまい!」
千秋は空を飛ぶ蜂型の魔物では格闘やカウンターは通用しないとわかり、すぐさま拳銃で対抗する。
蜂の魔物たちは千秋を目掛けて飛んでいき、毒針で千秋の命を奪おうとした。
魔法で攻撃すると、6発撃ち終えたらまた魔力ですぐにチャージできるようになり、今までみたいに止まってチャージする必要がなくなった。
同時に格闘もしないと溜まらなかった魔力が、今後は命中さえすれば溜まるようになり、何連発しても大丈夫になった。
そしてついに蜂の魔物を全滅させ、残るは女王蜂のみになった。
つづく!




