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第29話 暴力に屈しない

 ラップバトルの仲間たちが橙子の応援に駆け付け、危険だとわかってても来たことで橙子は燃え上っていた。


 拳をギュッと握りしめ、戦闘の構えをする。


「ボクは負けない! みんなの応援がある限り、負けたりしない!」


「ならばその応援している人間を殺すまでだ!」


「させないよ! うおぉぉぉぉぉぉぉっ!」


「うぐぅっ……!」


 危険を(かえり)みずに応援に来た仲間たちを守るために、自慢の運動神経でレスリングのタックルを取り入れた体当たりをし、魔物の体勢をようやく崩すことができた。


 魔物を倒してみんなを安全な場所へ避難させ、橙子は高まった魔力で魔物を殴り続ける。


 魔物の胸部にヒビが入ると、とてつもない魔力を感じた。


「あれはもしかしたら……核の部分かな……?」


「おのれ……! もう許さんぞ! 貴様を消して世界を絶望に陥れてやる!」


 激昂(げきこう)した魔物は橙子を狙い始め、攻撃を開始した。


 体操部の助っ人してた時に練習したアクロバットな動きでかわし、魔物の拳にもヒビが入った。


 少し痛そうに手を押さえた隙に、両手に光の波動を溜めて前に放った。


閃光波動弾(せんこうはどうだん)!」


「うぐっ……! 眩しい……っ!」


「目がくらんでいる今がチャンスだ!」


「うん! 必殺! シャイニングバスターっ!」


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 拳から放たれた光の魔法で魔物は消滅し、そのまま浄化されていった。


 空は元の夜になり、壊されたはずの街も魔法で元通りになっていた。


 無事だった仲間たちは橙子に近づき、たくさん労いの言葉をかける。


「オレンジちゃんカッコよかったよ! 俺たちのヒーローって感じだ!」


「さすが俺の先輩ッス! アイドルでヒーローとか神ッス!」


「今日のチャンピオンは俺じゃない。柿沢さん、君が真のチャンピオンだ!」


「えへへ……恥ずかしいな///」


「それにしても、さっきの魔物は一体……?」


「それはオレに聞くんだな!」


「誰だ…!?」


 突然狂暴そうな声が聞こえ、橙子たちは騒然となった。


 橙子は肌がピリピリするほどの殺気を感じ、奇襲に備えて身構える。


 すると後ろからいきなり殴りかかられ、さっきの戦闘の疲労がありながら少林寺拳法(しょうりんじけんぽう)の投げ技で受け流す。


 フードを被った筋肉質な少女が素早く起き上がり、橙子から離れてこう言った。


「テメェが柿沢橙子か! 弱いと思ってナメてたけど、意外とやるじゃん!」


「ボクを知ってて殴りかかるってことは……お前はヘルバトラーか!」


「へっ、よくわかったな! オレがヘルバトラーだ! テメェをぶっ殺しに不意打ちかましたけどバレちまったんじゃあ無意味だな。」


 ヘルバトラーは喧嘩腰で橙子を挑発し、T-Picasso(ティーピカソ)は橙子を馬鹿にしたことに怒鳴る。


「おいテメェ! よくも柿沢先輩に殴りかかったな! いきなり危ねぇだろ!」


「ああ!? 雑魚(ざこ)は黙ってろよ! ぶっ殺されてぇのか?」


「落ち着け! お前が喧嘩してもこいつには勝てないのわかってるだろ!」


「くそっ……!」


 T-Picassoが橙子の事を思ってヘルバトラーを殴りかけるも、スバルがそれを見て勝てないとわかってて押さえてなだめる。


 T-Picassoは喧嘩なら負けなしが自慢だったが、ヘルバトラー相手では勝てないことをすぐに悟って落ち着いた。


 ヘルバトラーは橙子を見るなり不満そうにツバを吐き、怒り気味にこう言った。


「テメェを見ると気に入らねぇくらい殺したくなるんだよな。だが今のテメェを殺しても戦闘の経験にもならねぇ。もっと喧嘩に慣れてからオレに挑むんだな! じゃあな!」


 そう言ってヘルバトラーは去っていき、橙子たちは安心したようにため息を漏らす。


 ヘルバトラーの件を含めたモノクロ団の事情をみんなに話し、事情を説明した。


 理解してくれたZEROーstyle(ゼロスタイル)が橙子の右肩をポンと叩いて励ました。


「オレンジ……いや、柿沢さんはアイドルやりながら頑張ってるんだな。サイファーに来れないのも当然だな」


「ごめんなさい……」


「大丈夫、お前は俺たち川崎駅サイファーの誇りだからな。アイドルとして、ラッパーとして、正義のヒーローとして三つの憧れであり俺たちの希望でもあるんだ。そのまま世界を救ってもっと柿沢さんを自慢させてくれ。それが俺たちの願いだ」


「そうだ、どうせなら今度柿沢さんの地元で臨時サイファー開こうよ。俺も横須賀(よこすか)から駆け付けるよ」


「先輩が主催ならみんな駆けつけるッスよ!」


「えっ……!? ヴァニラ・アイスさんが新百合ヶ丘(しんゆりがおか)に!? しかもボクが主催!?」


「それいいわね、でも柿沢さんはまだ中学生だから、マネージャーの夜月(やつき)さんと水野さんを保護者として開きましょう。プロデューサーである私が許可をするわ」


「社長まで……! でも、みんなとまたラップできるならやってみよう!」


 こうして新百合ヶ丘駅サイファーが決まり、その日まで仕事に打ち込んだ。


 サイファー当日になり、晃一郎の車で送られて現地に着き、大勢の参加者が集まった。


 K-PICASSO、川崎駅サイファー主催のZERO-style、横須賀から駆け付けた王者のヴァニラ・アイス、古なじみのスバル、桜木町サイファーで仲良くなったMCマスオ、そして女性でプロのラッパーのASKA(アスカ)など豪華なメンバーになった。


 昼の3時になるとZERO-styleが持ってきたスピーカーで早速ビートを流し、橙子が先頭を切って即興ラップする。


「新百合ヶ丘ボクが一番手、どんな困難も切り開いてく♪ モノクロ団には負けはしないし、どんな絶望も跳ね返すしかないし♪ 命を賭けてくさまるで戦争、みんなの応援で強くなってこう♪ ボクらのチームはアルコバレーノ、その伝説にはラストはねぇぞ♪」


「Fu---------!」


「アルコバレーノ頑張れー!」


 橙子の即興ラップで盛り上がり、合計30人の即興ラップを終えてすぐにバトルに入る。


 澄香がビートを選択し、参加者全員でラップバトルを繰り出す。


 意外だったのは、飛び入り参加させられた晃一郎がラップをするも、即興ラップが苦手で(いん)を踏むどころかリズムに乗ることに苦戦をしていた。


 『高校時代の友達とセルフチューブの投稿でラップを作ったことはある』とは聞いていたけど、あくまでも音源としてのラップが出来るだけで即興で作るのは苦手の様だった。


「すまねえ……! 即興ラップは俺は出来ないようだ……」


「まあまあ、誰にでも特異苦手はあるッスよ! それよりも甲子園のスターであるあなたに会えて嬉しいッス!」


「K-PICASSOくんは高校に進学したら高校生ラップ選手権でも活躍しそうだな。今からでもうちの事務所で契約してほしいくらいだぜ」


「あざっす!」


 晃一郎は橙子たちをスカウトしたかのように、K-PICASSOにもスカウトを始める。


 終了時間の夜の9時半に近づき、楽しかった時間はだんだん過ぎていって、橙子たちは名残惜しそうに撤退の準備をする。


 そろそろ解散だと思われた時、MCマスオは澄香に近づいて案を出す。


「ねぇねぇ、せっかくだし水野さんも即興ラップやってみようぜ!」


「え? 私ですか?」


「お、それいいね! 美人だし盛り上がりそう!」


「いいッスか? 先輩!」


「ボクも聞いてみたいです! 水野さん、やってみましょう!」


「澄香も人気者だな。じゃあ元アイドルとしての即興ラップを見せてやれ」


「はい!」


 参加者たちは元アイドルである澄香のラップが聞きたいと無茶ぶりをし、困りながらも挑戦する気になる。


 晃一郎が澄香の耳元で何かささやき、全員が首をかしげながらビートを流す。


「それじゃあ……お願いします!」


「じゃあ簡単なこのビートで…いってみよう!」


「えっと……はじめまして私が水野澄香、早速私のスキルを繰り出す♪ 今年で私は新成人、次代を担うよ新世紀♪ メガネが大好きオシャレをしちゃいます、ちょっと恥ずかしくて緊張しちゃいます♪ えっと……こんな感じですか……?あう……恥ずかしいです……///」


「可愛いーーーーー!」


「おいマジかよ! めっちゃ上手いじゃん!」


「水野さんにプロポーズされてぇー!」


「よせよ! この人は彼氏いんだぞ!」


「おい……?」


「ほらー!」


「じょ、冗談だって……! 悪かったよ……」


 澄香はナンパされるも、晃一郎は明らかに不機嫌になってナンパしたスバルを睨みつける。


 ヴァニラ・アイスはスバルを注意し、晃一郎は『澄香は渡さない……!』と独り言を言いながら怖いオーラが溢れ出ている。 


 『これ以上はダメだ』と判断した橙子は、参加前に説明した二人の関係をまた話す。


「もう! ダメだよスバルさん! 水野さんはボクたちアルコバレーノの大切な人だからね!」


「わかってるって! さて、水野さんの即興ラップも聞けたし、時間的にも解散だな! また参加してくださいね! 今度は川崎駅で待ってます!」


「オレンジちゃん、アイドルも魔法少女も頑張れよ!」


「今度俺の音源を聴いてくださいッス!」


 久しぶりにサイファーの仲間とラップが出来たことが橙子にとって嬉しかった。


 澄香も貴重な初ラップで恥ずかしがりながら楽しそうで、ラップも上手かった辺り昔は音楽に関わってたのだろう。


 澄香がサイファーの終了を純子に報告し、そのまま自宅に送られる。


 ラップをしてきた仲間たちを守るために、もっとアイドルと魔法少女として強くならないといけないと橙子は感じた


 つづく!

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