第2話 決意
さくらたちはシロンの案内で虹ヶ丘エンターテイメントの社長室にたどり着いた。
シロンは緊張する素ぶり全くを見せることなく社長室ドアをノックし、中にいる女性の声に応えて返事をする。
『はい』
「シロンです。純子さん、ついに魔法少女候補が見つかりました」
『どうぞ』
「ではこちらへ。あまり緊張しなくても大丈夫だよ。彼女は優しい人だから」
シロンが女性社長に声をかけ、ついにさくらたちは社長である女性と対面をする。
その女性は黒髪ロングで20代半ばくらいの年齢で、机越しなのに威圧感があり仕事が出来る女性という雰囲気だった。
恐る恐る近づいて挨拶すると、そこには信じられない光景があった。
女性社長は車いすに座っていて、足が不自由な状態だった。
隣にいる黒髪ショートの色黒の肌をした筋肉質な体の男性は、女性社長の介護をしているのだろう。
「私が虹ヶ丘エンターテイメントの社長、黒田純子よ。よろしくね。早速だけど、あなたたちの事を知りたいわ。自己紹介をしてくれるかしら?」
黒田純子と名乗る女性社長が歩けない体でありながら自己紹介をする。
しかしさくらたちは状況が理解できず、純子の挨拶を黙って聞くだけになってしまう。
「お、おい待てよ! 何で魔法少女と思いきや急に会社なんだよ?」
「状況がわからないから焦るのはわかるけれど……自己紹介しなさい……!」
「は、はいっ!」
赤い髪のポニーテールの女の子は状況が理解できず焦って女性に説明を求めるも、鋭い目つきと威圧感で自己紹介するように促す。
そしてその威圧感で赤いポニーテールの女の子は黙り込んだ。
「悪いな、ちょっと緊急事態で急ぎの用なんだ。パニックになる気持ちはわかるが、まずは俺から……虹ヶ丘エンターテイメント専務の夜月晃一郎。隣にいる社長は俺の高校の先輩なんだ。まあこんなところかな。俺も自己紹介したし、社長は怖い人だと思ったかもしれないがどうか挨拶と自己紹介をしてほしい」
純子の隣にいる男性は夜月晃一郎と名乗り、専務という重要な役職に就いていた。
晃一郎が純子の誤解を解くために優しく説明し、自己紹介するようにさくらたちにお願いをする。
純子を怖いと思って震えながらさくらたちは勇気を出して自己紹介をする。
「えっと……桃井さくらです。幸中学校3年です。母と叔母がアイドルをやっていました」
「赤城ほむらです。東大師中学校3年、
昔は野球をやってました」
「私は柿沢橙子、百合丘中学校3年です。空手の全国制覇を経験しています」
「高津中央中学校3年の黄瀬千秋です。父が警察をやっています」
「生田女子大付属中学校3年の葉山みどりです。父が国会議員、母が葉山グループの会長をしています」
「小杉中学校3年の青井海美です。生徒会長をやっています」
「鷺沼学園中等部3年の紫吹ゆかりです。実家は忍術の道場をしています」
それぞれ自己紹介を終えると、晃一郎は純子に耳打ちで報告をする。
「社長、どうやら俺たちが欲しがった子たちで間違いないようです」
「そうね、間違いないわ」
「あの……どうして私たちはここに呼ばれたのでしょうか?」
耳打ちで純子と晃一郎が話をしていると、不安に思った千秋が純子に怖がりながら質問をする。
「シロンから魔法少女の話は聞いていると思うわ。でもどうして虹ヶ丘エンターテイメントという芸能事務所なのか、これから説明するわね。長くなるけどいいかしら?」
「「「はい!」」」
「まず魔法少女として話すわね。10年前にモノクロ団は突然現れてこの世界を征服しようとした。そこでかつてたった一人で魔法少女としてモノクロ団と戦って敗れ、足が不自由になった。そして尊いレインボーランドの王女がモノクロ団の封印のために亡くなった。あれから10年が経って封印が解け、またモノクロ団は絶望の黒に染めようとしている。そこで私はある事に気が付いたの。モノクロ団は絶望や怒り、悲しみなどの負の魔力マイナスエネルギーを根源とするなら、笑顔や平和、愛や勇気などの正の魔力プラスエネルギーを魔力にしなければと。そしてそのプラスエネルギーを効率よく集められるのは……芸能界及びアイドル。あなたたちには魔力を集めるためにアイドルも兼任してほしいの」
「アイドルですか……?」
「そうよ。アイドルとしてみんなの前で輝きプラスエネルギーを最も効率よく集められるため、アイドルとして活動をしてほしいの。政治や経済、芸術にスポーツ、文学や宗教でも集められるけど、アイドルと比べて効率が悪いの。あなたたちの歌ってみた動画を見せてもらったわ。そしてシロンの目的と一致したわ。そこであなたたちが必要なの。だからお願い……これ以上の犠牲と絶望で世界を包み込みたくないの……! あなたたちの力を貸して……!」
純子は魔法少女としての使命と、どうしてアイドルもするのかをすべて話すと不自由な足で車いすから立ち上がり、脚を震わせながら頭を下げる。
さくらたちは純子の覚悟と決意を見て心が揺らぎ、お互いの顔を見合わせて引き受けるかどうか迷っていた。
「面白れぇ……! そのモノクロ団の野望を止めるためにアイドルと魔法少女の兼任だろ? だったらアタシたちに任せな!」
「せっかくみんなと出会えたし、私たちもやれることをやろうよ!」
「笑顔のない世界なんて私は嫌! 世界の笑顔は私たちが守るんだ!」
「10年前の無念を晴らすためにも、わたくしたちが頑張ります!」
「社長! アイドルとしても魔法少女としても、ご指導をお願いします!」
「私も覚悟は決めた! それで、さくらはどうするのだ?」
ほむらが先頭を切って使命を受け取り、徐々に指名を受ける覚悟をみんなで決めた。
残るはさくらのみで、さくらは今も自分がどうすべきか迷っていた。
元々アイドルになるのが夢だったが、世界の平和を守る命がけの魔法少女も兼任しないといけないのだから無理もない。
さくらは本気で悩んだ結果、ついに答えを出す。
「私は……。怖いし逃げ出したいけど……私たちにしか出来ない事だったら、最後までやり遂げたい! 私はどんな恐怖でも、このみんなとなら乗り越えられるって信じています!」
「ありがとう……みんな……! もう人前で泣くのはこれで最後にするわ」
「社長……俺からもありがとう」
さくらたちの覚悟をしかと見た純子と晃一郎は感動し、涙を流してお礼を言う。
それでも純子は社長として嬉しさから切り替えて司令塔モードに入り、さくらたちが戦うための準備を始める。
「さて、シロンが持ってきたあれをみんなに渡すわ。夜月くん、秘書の水野さんに伝えてくれるかしら?」
「はい。澄香……水野さんに伝えておきます」
純子は晃一郎に秘書の澄香を呼びに行かせる。
水野澄香はどんな人なんだと考えながらさくらたちはクールで仕事ができるキャリアウーマンをイメージした。
すると水色のツイン三つ編みヘアの赤い眼鏡をかけた女性が社長室に入ってきた。
「皆さんはじめまして。私がこの虹ヶ丘エンターテイメント社長秘書の水野澄香です。こう見えてまだ19歳です。皆さんには虹のネックレスを差し上げます」
「虹のネックレス……?」
澄香が箱からハートの形をしたそれぞれの色がついている虹のネックレスを取り出し、それぞれの色に合わせてさくらたちに配る。
虹のネックレスには付けた人に不思議な力を感じさせ、さくらたちに反応して少しだけまばゆく光りだす。
「このネックレスには、シロンの国の伝説にある7人の賢者の力が宿っています。これを皆さんに装着してもらい、モノクロ団と戦う時にすぐにこの呪文を唱えてください。『美しい虹色の世界よ……与える愛で私に力を与えたまえ! マジカルチェンジ!』と」
澄香が虹のネックレスの使い方を説明し、さくらたちのそれぞれの色に反応するように再び光る。
「装備する色は決まってるみたいね」
「ますます面白れぇ!」
「よーし! 世界を救う魔法少女としてアイドルとしてもトップになるぞ!」
「「「おー!」」」
虹のネックレスを渡されたことで結束され、さくらたちの絆は深くなった。
「本当にありがとう……! やる気になったところ申し訳ないけど、早速あなたたちのアイドルとしての実力を見てみたいわ。地下室にレッスン室があるからトレーナーさんたちに見てもらいなさい。ボーカルとダンス、パフォーマンスの三つの分野よ。プロデューサーは私、マネージャーを夜月くんに任命します。レッスン場には水野さんが案内するわ」
「お任せください♪ では皆さん、レッスン室へ案内します!」
「夜月さんはついていかないんですか?」
「俺は男だ、着替えとかあるだろう。だがレッスンで君たちのプラスエネルギーを俺たちに見せてくれ」
「「「はい!」」」
澄香の案内で更衣室まで行き、晃一郎は直接レッスン室へと向かって行った。
さくらたちはアイドルとしてのデビューも控え、魔法少女としての使命も同時に背負う事になった。
さくらにとっては夢がかなった瞬間でもあり、母と叔母と同じステージに立つことになる。
同時に命をかけた世界を救う戦いに備えることとなる。
果たしてさくらたちは世界を救えるのか――
つづく!