第27話 死神現る
全ての魔力を槍の穂先に集め、穂先が真っ赤に燃え上がる。
槍の新しい使い方を思い出し、投げる準備をすると十字の形だった穂先が真っ直ぐな穂先になり、投げやすいように少し短くなった。
変形した槍を思い切り握り、魔物を目がけて全力投球する。
「これで決めてやる! グングニルジャイロスロー!」
「血迷って武器を投げるとはな。だが……甘い!」
「彼女一人で戦ってると思ってたのかい?」
「むっ……? 白球を棒に当てただけでここまで飛ばすか!」
「気が散ったようだね、彼女の技の囮にさせてもらったよ!」
「なっ……ぐはぁっ!」
筒井選手が放った打球は魔物の目を引き、ほむらの投げた槍が魔物の胸に直撃する。
すると槍が激しく燃え、魔物の身体を焼き尽くす。
動けなくなった魔物はグラウンドに落下し、燃え尽きた槍は灰になり、深呼吸をすると新たな槍が炎となって復活した。
ほむらはまだ不完全燃焼だとわかり、必殺技でとどめを刺す。
「激しく燃える炎の熱さ、受けてみやがれ! ファイヤーインパクト!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
槍を大きく回して火を付け、魔物に突っ込んで刺突したら火柱が魔物を包み、そのまま浄化して姿を消した。
あれだけ炎を出したのに球場は無傷で、プラスエネルギーの凄さを実感した。
一緒に戦った筒井選手がほむらに歩み寄り、手を差し出した。
「赤城さん、君が変身するところを見たよ。君の勇姿は素晴らしかった。俺たちに隠れて命がけの戦いをしているんだね」
「はい、そうです」
「人気アイドルは華やかなイメージだったけど、君の場合は違うようだ。さっき男のマネージャーさんから聞いたよ、アルコバレーノは魔法少女なんだってね」
「はい。だからこの件は――」
「わかってマス、ユーたちの事はトップシークレット、ということデスネ」
「アレックス監督……! はい、そうなんです!」
ほむらは筒井選手に秘密にしておくように言おうとすると、横浜ハムスターズのアレックス・ゴンザレス監督が拍手をしながら現れ、今の状況やほむらの使命を理解した。
ほむらは監督が話が早いことに驚きながらも、筒井選手が監督のフォローをする。
「確かにファンを巻き込むわけにはいかないからね。それにしても……あれだけ魔物によって壊されたのに、君の炎で球場は何故か元通りになっている。変わった魔法なんだね」
「何故なのかアタシ自身もわからないんです。でもこれでは試合は……」
「ノンプロブレム! さっき安全が確認されたのでゲームは再開されマス! ユーも楽しみにしてくださいネ!」
「そうなんですか!? よっしゃー!!」
こうして警察によって安全が確認され、試合は中断という形で再開する。
ほむらの闘う姿を見た筒井選手がハムスターズのみんなに話し、チームは一丸となった。
そこから一気に8点も取り、抑えの山崎康則が安定のピッチングで締めくくる。
今日のヒーローは筒井選手になり、ほむらはすごく喜んだ。
するとスタッフがほむらを呼び出し、グラウンドに案内される。
そこには筒井選手が待っていて、こっちにおいでと手招きをした。
「彼女が先ほどの魔物と戦い、試合を中断された怒りよりも、『みんなを守りたい』という気持ちで魔物に勝利した。僕自身もその勇姿と言葉に励まされ、こちらの赤城ほむらさんが勝利を呼んだと言っても過言ではありません。彼女に大きな拍手をお願いします!」
「赤城さん、あなたが勝利の女神になったようですね!」
「えっと、ありがとうございます! 憧れの筒井選手に認められて嬉しいです! でもその前に……さっきからアタシを後ろで見ている奴がいるんです。おい、さっさと出てきな……?」
「あらあら、見つかってしまいましたね」
ほむらは自分の命を虎視眈々と狙っている視線を感じ、マイク越しに呼び出す。
狙っている者を見つけると、性格が悪そうな声が聞こえ、振り向いた瞬間には既に隣にいた。
黒いフードとローブを着ていて、一体どんな姿なのかわからないくらい隠していて不気味だった。
ほむらは正体を聞き出し、何者なのか問いだした。
「テメェは何者なんだ? まさかモノクロ団四天王の誰かか……?」
「ええ、そうです。私の名はデスカーン、黒田純子さんに呪いをかけた張本人です」
「そうかよ……! じゃあ社長の仇ってワケか!」
「赤城さん、この人は一体……?」
「モノクロ団っていって、世界中を絶望の黒に染めようとする悪い奴らなんです! 何するかわからないので気を付けてください!」
「なるほど、君が噂のモノクロ団か……!」
「これはこれは筒井選手、今日の試合の大活躍おめでとうございます。私まで野球の虜になりましたよ。ですが…敗者の絶望も虜になっちゃいますね」
「そうか、光栄だね。でも俺たちは野球でみんなの希望になるって決めたんだ。そう簡単に壊させはしないよ」
「おうよ! 今からテメェをぶっ飛ばす! ……と言いたいところだが、今は手を出すわけにはいかねぇ。悔しいが今挑んだら確実に負けてしまうんでな」
「おや、無鉄砲の特攻隊長と思ってましたが、意外と頭はいいのですね。わかりました、では今回の頭の良さに免じてお別れとしましょう。また会う日まで、ごきげんよう……」
不気味な笑顔を浮かばせながらデスカーンは消え、球場は世界の終わりというムードになっていた。
報道陣も恐怖に怯え、記事にも出来ない空気に見舞われた。
ほむらはマイクを報道陣から借り、来てくれた観客に勇気を与える。
「聞いての通り、アタシはさっきのデスカーンがいるモノクロ団と命がけの戦いをしています。世界を絶望の黒に染めるためにこの世界を侵略すると言っていたが、恐れることはありません。このアタシがいる限り、この世界を絶望の黒に染めさせやしない。あいつらを倒してこの世界を救ってやるって約束します! だからみんなは安心して応援してるチームの背中を支えてやってください! そうすればアタシも選手やスタッフたちも安心します! みんなの心の情熱で世界を守ってやろうぜ!」
「赤城さん……ありがとう。僕からもお願いです。彼女が命がけの戦いをしていることは、どうか皆さんの秘密にしてほしい。彼女は『みんなが巻き込まれるところを見たくないし、想像もしたくない』んだ。もし巻き込まれたら彼女は悲しむし、立ち直れないかもしれない。だからみんなは安全な場所に避難し、彼女の勝利を祈ってください」
「筒井選手に赤城さん、ではこの記事はなかったことにしますね。警察や弁護士からも承認を受けました」
「感謝します」
こうして無事に試合も終え、横浜ハムスターズの勝利となった。
一方東京神宮スワローズの試合は、広島カープスに勝利し英雄と秀喜は大喜びだったとほむらの母はメールで送った。
一郎にとっても最高の思い出になり、ほむらの父もファンとして喜んでいた。
デスカーンの物凄いマイナスエネルギーはすぐにでも人を絶望に落としそうで、何を考えているのかわからないとほむらは恐怖を感じた。
純子の仇を討つために倒したかったけれど、今のほむらには敵わない相手だとすぐにわかった。
ほむらはその悔しさをバネに魔力をもっと蓄え、もっと戦闘力を上げなければって思った。
これは余談らしいが、避難中に晃一郎が事情を説明している中で、横浜ハムスターズの関係者は全員説明を聞いていたらしく、通りで話が早いわけだと晃一郎の話でほむらは思ったのだった。
つづく!




