第1話 出会い
もしもあなたがアイドルになったら、どんな歌を歌いたいですか?
もしもあなたが戦う使命を背負ったら、どんな世界を守りたいですか?
もしもあなたが――
「それじゃあお父さん、オフ会行ってくるね!」
「ああ、行ってらっしゃい!」
ピンク色のツインテールの可愛らしい彼女は桃井さくら、幸中学校三年。
彼女はいま、LINEというSNSで繋がった、同い年の6人の溝の口でカラオケオフ会をする。
さくらは矢向駅から電車に乗り武蔵溝ノ口駅に向かった。
形態の音楽アプリで自身の母の桃井花恋と、叔母の桃井花音による曲『恋のチェリー・ブロッサム』を聴く。
オフ会が楽しみなのか、さくらは鼻歌を歌いながら楽しみが溢れる。
「どんな子たちかなぁ……。楽しみだなぁ……♪」
「まもなく武蔵溝ノ口です。お出口は左側です」
武蔵溝ノ口に着いて曲を聴くのをやめ、改札を出たところにある『川崎フロンターズ』の看板の下で待つ。
主催は青井海美という女の子で、溝の口のカラオケの達人にてカラオケで歌うオフ会をするようだ。
待ち合わせ場所で待っていると、不思議なことにさくらの耳から男の子の声が聞こえてきた。
「助けて……!」
「えっ……?」
「助けて……誰か……!」
「誰なの……? 誰か私を呼んだの……?」
「助けて……!」
さくらは声を頼りに駅の北口にあるバス停に急いで向かっていった。
近づいていくと、だんだん声が強く聞こえ、北口のバス停だと確信した。
駅の北口にあるバス停に到着すると、信じられない光景が目に映る。
「はぁ……はぁ……!」
「もう観念なさい。あなたが変装しているのはもうわかってるのよ。ここで死になさい」
そこには白い子犬が傷だらけで倒れていて、怪しげな黒いローブ姿の魔女に襲われていた。
フードを被って顔は隠れて見えなかったが、おそらく40歳前後の女性だろう。
さくらはあまりにも残酷な光景を目にし、すぐに子犬の方へと走っていった。
「その子を渡しなさい。その子は私の野望を阻止する邪魔な存在よ。子犬に化けているけど、その子は変身術で子犬の姿をしているだけよ。その子を渡せばあなたには悪いことはしないわ。さぁ、渡しなさい」
「どうしてそんなことするのかわからないけど……この子は傷ついています!あなたの野望がどんなものかはわかりませんが、この子は私に助けを求めました! どんな理由があっても…この子を傷つけたらダメ!」
「そう……残念だけど力づくで奪うまでよ」
「そんなこと……させないっ!」
「逃げても無駄よ」
黒い魔女はさくらに気づき優しくも恐ろしい表情で微笑んで交渉をする。
しかしさくらは黒い魔女の交渉に応じず、さくらは子犬を守るように抱きかかえながら交番に向かった。
バス停から交番まではさほど遠くないが、黒い魔女は白い子犬を奪おうと黒い炎を放ってさくらに攻撃しながら自分のところへ来るように誘導する。
さくらはその誘導に引っかかってしまい、焦りすぎたかつまづいて転んでしまう。
さくらは逃げたことで白い子犬と一緒に殺されることを覚悟する。
「何っ……!?」
「危ないところであったな。この女からはとてつもない邪悪な気を感じ助けを呼ぶ声がしたのでな。大丈夫か?」
「あ、はい!」
「今日のところは邪魔が入ったからこれくらいにしてあげるわ。だけど次会ったときにはそうはいかないわ。また会えるのを楽しみにしているわね」
小さなクナイが魔女を目掛けて飛んできて、魔女をさくらから引き離すことに成功する。
そこには紫色の一本結びの髪形をした硬派そうな女の子がいて、素早くさくらの元へ駆け寄った。
魔女はこれ以上は無理だと判断し、黒い霧に包まれて消えていった。
安心して子犬の様子を見ると意識はあるが深く傷ついていて弱っていた。
「ひどいケガだ……。紫吹流ではあるが応急処置をしよう」
「ありがとうございます。紫吹って……?」
「……? そなたに会ったことあったか…? それとも――」
紫色の髪をした女の子は傷ついた子犬に気づき、リュックから包帯や薬を出して応急処置をする。
紫吹と名乗る女の子は、さくらに対して何かを感じたのか顔をジッと見る。
さくらは少し不思議に思い、紫吹という女の子にどこか懐かしさを感じた。
少し時間が経つと、続々と5人の女の子たちも駆けつけてきた。
「はぁ……はぁ……! どうなってたんだよ!? さっき助けを呼ぶ声がしたから駆けつけたら何にもねぇじゃねぇか!」
「わからないけど、さっき黒い炎と霧が出てたからこっちで間違いないはずだけど……」
「それよりも、あそこに二人の女の子がいるよ!」
「何やら穏やかじゃない雰囲気ですね……」
「あの、あなたたちはどうして傷ついたその子を?」
「それは――」
黄色い髪色のツインおさげの女の子が紫吹という女の子に質問され、どうすればいいかわからず答えるのに戸惑った。
その様子を見ていたさくらは勇気を出し質問に正直に答える。
「さっき黒い魔女がこの子を襲ってきて、私がこの子を守るために交番に向かおうとして魔女に襲われたときに、この紫吹さんが助けてくれました。それに私はこれからカラオケの達人というところで、カラオケのオフ会に行く途中だったんです」
「むっ? そなたもカラオケの達人目的であったか」
「えっ……!? みんなもなの!?」
「それじゃあここにいる方たちは――」
「そうね、今日のオフ会のメンバーね」
さくらが質問に答えると続々と偶然にもオフ会参加者ということがわかり、この状況だとカラオケどころではないと察した。
女の子たちはお互いを見つめると、はじめて会ったはずなのにとても懐かしく、どこかで会ったことがあるような雰囲気を感じた。
今回のオフ会は予約ではなく当日に来店するためキャンセルは発生しないので、急遽白い子犬を病院に連れていこうとすると子犬は意識が戻りゆっくりと起き上がる。
「ありがとう、君たちが助けに来なかったら今頃僕は死んでいただろう。感謝するよ、桃井さくら」
「えっ……!?」
白い子犬が話しかけるといきなりさくらの名前を呼び、さくらはどうして自分の名前を知っているのか困惑する。
「それから応急処置をありがとうおかげで意識を取り戻すことができたよ、紫吹ゆかり」
「なっ……!? 何故私の名を……!」
「それに…赤城ほむら、柿沢橙子、黄瀬千秋、葉山みどり、そして青井海美。全員揃ったね」
今度は7人の女の子の名前を全員言い当て、ただの白い子犬ではないと瞬時にわかる。
「どうして私たちのことを……!?」
「詳しいことはある場所に案内するからそこで話すよ。まず単刀直入に言うね。君たちのことをずっと探していたんだ。この世界を救う魔法少女になってもらうために」
「魔法……少女……?」
白い子犬は魔法少女というワードを出し、名前を当てられて戸惑う女の子たちに世界を救ってほしいと懇願する。
「この世界のことはそれなりに勉強した。あのアニメみたいに詐欺まがいなことはしない。詳しいことは僕が案内するビルに来てから話すよ。僕はシロン・ビアンコ。この世界にとっては異世界に値するレインボーランドの第一王子さ。それじゃあ身分を明かしたことだし、とあるビルに案内するね」
白い子犬はシロンと名乗り、事情を話したところでスーパーマーケットの近くのマンションを通りながら案内先のビルにたどり着く。
そこは小さなビルながらきれいな建物で、おそらく最近建てられたものだろう。
ビルの入り口の前で子犬はさくらの腕から飛び降り、白髪で少し癖のあるストレートショートヘアで小学校低学年くらいの小さな男の子だった。
それでもどこか威厳のある風貌で、只者ではないことはすぐにわかった。
「これが僕の本当の姿さ。改めまして、僕はシロン・ビアンコ。今から案内するのは僕の拠点である虹ヶ丘エンターテイメントだよ。詳しいことはここの社長が話してくれる。社長室までついて来てほしい」
虹ヶ丘エンターテイメントというところへ案内すると言ったシロンは社長室へとさくらたちを案内する。
さくらたちは魔法少女としての運命を背負い、虹ヶ丘エンターテイメントの社長に対面することとなる。
さくらは不安と恐怖に煽られるも、シロンは悪い人じゃないと信じて社長室に向かう。
その社長とはどんな人なのか――?
つづく!