第14話 それが忍道
ゆかりは魔法少女として魔物になった外国人の女の子を助ける使命を背負う。
刀をギュッと握りしめ、ゆかりは間合いを見ながら魔物の動きを見る。
ゆかりの放った言葉に怒った魔物は、翼を広げて攻撃を仕掛ける。
「アナタに教わる義務はありませんっ! ニッポン人を始末しマス!」
「ならばわからせるまでだ! いざ、参る!」
ゆかりは刀を構えて魔物に接近する。
この刀は偉大な忍、ムラサキしか扱えなかった伝説の刀だとゆかりは思い出した。
この伝説の刀は、自分に負けない勇気がないと扱えないもので、それほどのプラスエネルギーに満ちているのだろう。
ゆかりはその刀を扱えたことを誇りに、魔物の胸元に斬りかかる。
「光があればまた闇もある! だからこそ心の闇をも制す勇気がそなたには必要なり! 秘儀! 隼ノ舞!」
「ぐぬぬ……! 何故デスカ!」
魔物にダメージを負わせると、狂ったように叫びだしゆかりを威嚇する。
睨み合っていると、ジッと見ているしのぶを保護すべく晃一郎が盾になる。
するとゆかりの母まで駆けつけ、それを見てゆかりは紫吹流の心得を叩きこむ。
「ゆかり……!?」
「母上、見ててください! これが紫吹流忍術の勇気です! 紫吹流心得! 壱壱! 厳しい時こそ己を見つめるべし!」
「紫吹流……!」
「弐! 忍びたるもの勇ましくあれ!」
「ええ、間違いなくうちのゆかりよ……!」
「参参! 普段の鍛練を忘れず、己の心技体を鍛えよ!」
「うう……魔物は……?」
「今紫吹さんが覚醒して勇敢に戦ってる。見ろ、あの子の勇姿を――」
「肆! 成長はいつも、己の努力にあり!」
「おのれぇぇぇぇぇっ!」
「最も重要な伍! 決して諦めず、最後までやり遂げよ!」
「ぐはぁっ!」
「そして新たに……六! 自ら人生を決める勇気と決断を持て!」
「ええっ!? 新たに紫吹流の掟を作ったの!?」
「本当にあの子はすごいわ……」
ゆかりは自ら考えた心得を新たに刻み、紫吹家の伝統を書き換える。
勇気が溢れたゆかりは順調に魔物にダメージを負わせ、ついに魔物は空を飛ぶ余裕を失い、激昂して強引に掴もうとする。
それでもゆかりは普段から鍛えているのでスピードに自信があり、そう簡単には捕まれなかった。
そして疲れてきた魔物はついにバランスを崩した。
「くっ……!」
「飛翔して着地の時に足を酷使し過ぎたようだな。これでとどめを刺す! 邪気退散斬!」
「ウワアァァァァァァァ…!」
ゆかりの斬撃に魔物は元の金髪の外国人に戻り、何も記憶がないのか呆然と立ち尽くしていた。
後ろを振り返ると回復したさくらたちがゆかりに歩み寄り、英語が苦手なゆかりの代わりにみどりが通訳をする。
ゆかりは緑を通じて外国人に声をかけた。
「うむ……まずは日本語を話せるか?」
「伝えますね――」
ゆかりの言葉をみどりに伝え、女の子はカタコトながら日本語で話す。
「ハイ、少しダケ……」
「日本語に慣れているようですね」
「そうか。ではなぜ暴れたりしたのだ?」
「えっと……黒い服を来た女の子が、心の闇を解き放てと……。ワタシ、ニッポンに馴染めないだけでこんな事を……!?」
「異国の事情を全て理解しようなど難しい事だ。私もそなたの母国で日本の掟通りにすればおかしな者だと思われるだろう」
「え……?」
「そなたは自分を保ちつつ、日本を理解しようとすればいいのだ。無論慣れというのが必要になる。目的は知らぬがそなたなら出来る」
「ハイ、アリガトウゴザイマス……。ここで留学しようとシマシタが、東光学園はどこデスカ…?」
「ほう、あの名門校か。それならそちらにいるスーツの殿方……男性に話しかけるといい、卒業生だから案内をしてくれるだろう」
「俺か……?」
「わたくしからもお願いいたします」
「わかった、英語は一応俺も話せるし任されたよ。じゃあついて来てくれ」
「アリガトウゴザイマス! ワタシ、頑張りマス!」
外国人の女の子は英語が話せる晃一郎を通じて留学することが決まり、晃一郎は英語で女の子を案内する。
「負けましたわ紫吹流。でも……お姉さまは絶対に紫吹流には負けませんわよ。その時は紅葉流が上だという事を証明しますわ」
女の子は明るさを取り戻し、事件は無事に解決した。
晃一郎が英語で案内し、留学手続きもしてくれるそうだ。
しのぶはあれから負けを認め、そのまま鎌倉へと帰還した。
ゆかりの母は新たな心得六条を正式に採用し、紫吹流の新たな伝統を築いた。
そして5月になり、純子からある企画が発表される。
「所属タレントと社員はみんないるわね? 5月のゴールデンウィークに京都の合宿に出るわ。言わば事務所のみんなで修学旅行よ。みんなお仕事でお疲れでしょう? たまにはリフレッシュするのもいいと思うの。どうかしら?」
「賛成!」
「京都懐かしいなぁ!」
「どこまでもついて行きますぜ!」
「僕も同行いいですか?」
「もちろんよシロン! あなたはもう隠れなくていいし、仲間だからついて来ても問題ないわ」
「ありがとうございます。それにしても全員覚醒するとは凄いよ。これで僕もモノクローヌから怯えなくて済む」
「うん! ボクたちは無敵の魔法少女になる!」
「おうよ! アタシたちが世界を守るぜ!」
「ゆかりちゃんが覚醒して百人力ね」
戦闘経験があるゆかりがいてさくらたちはゆかりを頼りにしているが、これでも先に覚醒をした彼女たに隠れて嫉妬していた。
『何故私だけここまで厳しいのか、皆が元々魔力を秘めているのではないか、自分には向いてないのではないか』と葛藤したくらいだ。
それでも覚醒をして、本当の仲間になれたことをゆかりは喜んだ。
魔物になった外国人はケリー・ジョンソンと名乗り、無事に東光学園中等部へと留学が決まった。
その学校では中等部でも多くの留学生が通っており、すぐに学校に馴染んだようだ。
一息ついていると、晃一郎が金髪の外国人の男性を連れて声をかける。
「紫吹さん、うちの所属の芸人コンビ、ジョーカーズの二人だ。君に用があるそうだ」
「私にですか……?」
「紫吹ゆかりサンデスカ?」
「あ、はい。」
「娘のケリーを助けてくれてアリガトウ。ワタシは外国人タレントコンビ、ジョーカーズのマーク・ジョンソン。ワタシたちジョーカーズは……アルコバレーノを応援シマス!」
「ありがとうございます。」
「相方をやっているビリー・マッケンジーデス。同じくアメリカ出身デス。オレもマークも国際ジョークがウリデス。是非ライブにも来てくだサイ。」
「心得ました。」
金髪の口ひげを生やしたダンディな白人がマーク、ドレッドヘアで筋肉質の黒人がビリーで、コンビを組んでいるジョーカーズは去年所属したばかりの外国人タレントだ。
ケリーはマークの影響で日本に留学を決め、家族で同じ家に住むとのことだ。
ゆかりは協調性についてふと考える。
集団がいいか、一人がいいかは自分自身が決める事。
無理に集団に馴染めといわれている日本では時代遅れの予兆が出ているが、それでも社会と学校では同調圧力がされている。
『個性も大事』と言いながら個性を消すような教育しかしていないのも問題で、だからといって個性があるからと言って無法にやりたい放題では嫌われてしまうし意味はない。
自分自身を表現する個性は、しっかりとしたルールを守ったうえで成り立つもので、ルールを破ってまで個性を出すことは個性ではなく、ただのルール違反で無法になる。
集団に所属することでお互いに刺激を与え合い、そして切磋琢磨して個性をさらに磨くのもある。
一人で頑張って成長する者も中にはいる、だからこそ心から成長出来るやり方であればそれぞれ進めばいい。
ゆかりはふとこう思った、『自分ももしみんなと出会わなかったら、孤独な生活を送って、今まで通り自分を鍛えることしか出来ずに孤立をしていたのだろう』と――
つづく!




