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第12話 元気出して

 魔法少女として覚醒した橙子は魔物を浄化するため、拳をギュッと握りしめ構える。


 魔物になった女性は橙子を睨み、(なぐさ)めの言葉など聞きたくないと言わんばかりに叫ぶ。


「あなたに何がわかると言うのよっ!」


「うわっ!」


 イバラは荒れるように殴りかかり、橙子の頭上から攻撃をする。


 橙子は今まで鍛えてきたスピードを駆使し、ギリギリのところで魔物の攻撃を避ける。


橙子(とうこ)! 覚醒したんだ!」


「シロン! 今は感動してる場合じゃないよ! 国技館に避難していない人々の保護を!」


「あそこだね! わかった! みんな、いくよ!」


「「「うん!」」」


 少し遅れてたさくら、シロン、ゆかり、千秋が逃げ遅れた人々を国技館に誘導し、後からかけ駆けつけたみどりとほむら、海美はいつでも戦えるように準備をする。


 そこで橙子は彼女を救うために、一人で考えながら魔物の行動パターンを読もうとする。


「さっきからちょこまかと……いい加減当たりなさい!」


「あの魔物は檄昂(げきこう)すると攻撃をするのか……だったら! あの、あなたは彼氏さんの事を本当に好きだったの? それともあなたの事を愛してくれたからただ受け入れただけ?」


「何が言いたいの……?」


「あなたは愛に飢えているって言ってたよね? どうしてそこまで愛されたいの?」


「わからない……そんなのわからないわ! 今まで私はそんなの教わってない! どうやって愛せばいいかなんて知らない! うわぁぁぁぁぁっ!」


 どうして愛されたいのか橙子は気になり魔物に問いかけると、魔物はどうして愛されたいのかわからず暴れ回る。


「そっか……だったら今から教えてあげる! タイガーストレートパンチ!」


「うっ…!」


 橙子は魔物の過去の生い立ちから、おそらく家族に何かトラウマがあり、自己肯定感(じここうていかん)がなかったのかもしれないと考え早く心の浄化をし、言葉と魔法で魔物の心を揺るがそうとする。


 事務所のレッスンで心理学の先生が言ってたことを思い出す。


 『言いたい事を言いつつ相手を思いやる』というものだ。


 橙子はどんな言葉だったか忘れてしまったが、教わったことを心掛けた。


「痛いよね……? 心も身体も痛いよね……? ボクもあなたを殴っちゃったけど拳も心も痛いよ。他人の痛みを知れば誰だって愛を知る事は出来る。さくらがボクに教えた事なんだ。今からでも遅くない、今から学んで一緒に元気になって、過去の自分を乗り越えようよ」


「ああ……ああ……!」


 魔物は橙子の言葉が響いたのか攻撃をやめ、ついに心が揺らいで立ち尽くした。


 ゆかりが『今だ!』と言わんばかりに刀を抜いて攻撃しようとしたが、橙子は手を横に上げてゆかりを止める。


 そして橙子はありったけの元気を分けるように、拳に魔力を溜めて一気に放出する。


「まさか……柿沢さん……?」


 先ほど収録で空手の組手の相手の千葉選手が外に飛び出し、ついに橙子の正体がバレてしまった。


「あちゃー、バレちゃったかー……。それよりも千葉選手! 逃げてください!」


「いいえ! あなたが戦ってるのに逃げるなんて空手家失格だよ! それよりも柿沢さん! あの魔物はもう動けないはずよ! あなたの必殺技で苦しみから解放してあげて!」


「千葉選手……はい! 大丈夫、この一撃ですぐに楽にしてあげるから。いくぞ! シャイニングバスター!」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 橙子の渾身の一撃が魔物に命中し、無事に浄化されて元の美しい女性に戻った。


 その女性はワンピースを着ていて、左手首には自分で切った傷跡が多く残っていた。


 橙子は女性を包み込むように抱きしめ、優しく声をかける。


「過去に何があったか話せる?」


「ええ……親は要領が悪くてすぐに病む私を『弱虫』と罵って虐待をして……。『誰かに愛されたいなど弱いお前にそんな資格はない』って……。友達にも必死に愛されようとしたけどみんな離れていった……。恋人も最初は愛してくれるのに……すぐにみんな別れようと言って……」


 この女性は家族にも友達にも愛されず、恋人でさえも裏切るんじゃないか、愛してないんじゃないかと不安になり、いつまでも心に余裕がない状態で愛されようと必死だった。


 渡欧子は話を聞いて女性に共感し、自分なりの考えを女性に話す。


「なるほどね……あなたは家族に愛されなかったから、せめて他人に愛されたかったんだね。気持ちはわかるけど、誰かに愛されるなら自分から愛して、みんなの心を受け入れてみよう。自分さえ愛されればそれでいいわけじゃないんだよ?」


「ええ……そうね……」


「まずは自分に自信をつける事かな。自分のいい所をありったけに紙に書いてみる。それがダメなら悪いところをありったけ書いて、その後に逆転の発想でポジティブに書き換える。そんなやり方で自己肯定感を上げるってのもあるんだ。あなたもやってみよう?」


「ええ……そうね。確かに自分が嫌いで愛されようと必死だったわ……」


「ダメな自分に勝つつもりでいれば乗り越えられる。昨日の自分に勝とう、今日はダメでも明日は何かいい事がある、死にたいけど明日までには生きようと思えば、自然と元気が出るんだよ」


「ありがとう、私にそこまでしてくれて……。でも……どうして道着なの? 空手の試合中?」


「ボクはアイドルをやっててね、今この場所で空手の撮影をしていたんだ。よかったら観ていく? ボクから交渉してみるよ」


「ええ、喜んで。私……メンヘラを克服して見せるわ。あなたの事を思い出して元気出していくわ」


「うん!」


 橙子は女性を励ますことに成功し、女性は立ち直ることが出来た。


 女性はしばらく涙を流して泣き出し、橙子は自分が汗くさいのを気にしながらも女性を抱きしめ、頭を撫でながら慰めた。


 泣き出してから気が済んだのか女性は泣き止み、橙子に国技館の中まで送ってもらい、収録の見学に参加した。


 この調子ならもう大丈夫だろうと橙子は思い、女性に自分の雄姿を見せようと張り切った。


「あの、中継の皆さん」


「何ですか?」


「柿沢さんの戦うところや、何かのヒーローやってたところをカットしてくれませんか? 何か《《事情》》がありそうなので」


「わかりました。スタッフ全員に伝えておきます」


 千葉選手が橙子の活躍を見てスタッフに今回の戦いは放送しないようにと頼む。


 そして試合が再開され、橙子はさっきの疲労がありながらも千葉選手に勝利した。


 翌日になり、橙子は一躍話題になる。


「すごいな橙子! あの金メダリストに勝つなんてな!」


「これはオリンピックも夢じゃないよ!」


「えへへ……覚醒してから動きがわかるんだ。何でだろうね」


「魔力が第六感を上げているのだろう。残るはゆかりのみになった。ゆかりにも覚醒のチャンスがある。だから焦らないでほしい」


「わかっている。それより橙子宛に手紙が来ているぞ」


「何だろう? 読んでみよう」


 手紙が届いたと聞き、橙子はその手紙を開けてみる。


 その送り主はなんとあの千葉選手だった。


『柿沢さんへ、あなたの動きと精神力、そして向上心によって私は悔しい敗戦をしました。それでも胸はスッキリしていて、私も『まだまだ成長できる』って実感し、さらに元気が湧いてきました。そしてあの戦いの事だけど、きっと関係ない人々が巻き込まれるところを見たくないのかな、と思ってスタッフさんに全部カットしてもらうように交渉したの。あなたは正義のヒロインとして、アイドルとして、空手選手として頑張ってください。P.S.(ピーエス)勉強苦手だからってサボらないでね? 千葉美咲」


 千葉選手のありがたい言葉に感動し、橙子は元気が湧いてきた。


 魔物になっていたあの女性は山田綾香(やまだあやか)といい、社長の後輩の帝応義塾(ていおうぎじゅく)大学に通っている。


 あれから新しい彼氏ができて今度は自分からはじめて告白して付き合ったそうだ。


 その彼氏の愛に応えようと心を鍛え、今度は自分から愛し、お互いを理解し合う努力をしているそうだ


 橙子は彼女が報われて本当によかったと安心し、次の仕事に励んだ。


 そして橙子は、さくらが言ってた愛について考え始める。


 人に愛されなかったら、『自分は嫌われているから嫌われないように』と心がけてしまい、自分の気持ちを殺してでも愛されようと必死になり、気が付けば相手にとって一方的で疲れることもある。


 そのせいで人に鬱陶しいと思われ、そして愛されなかったと錯覚を起こし、どうせ自分は……と卑屈になりさらに嫌われる原因になる。


 そこから自己肯定感がより低下してしまい、最終的に自分を傷つけてしまうし、他に新しい人を見つけても同じことを繰り返してしまい、自分は人に嫌われるんだと思い込む悪循環になる。


 そうならないようにまずはありのままの自分を受け入れ、そんな自分を好きでいてくれる人を大事にすれば人に愛されるようになるんだと彼女を見て実感した。


 つづく!

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