第107話 最高のライバル
シンデレラロードという思わぬ刺客が現れ、会場とネットは大波乱となる。
次のスマイリング娘。のメンバーはまさかの事態にかなり委縮し、リーダーの吉原かえでは拳をグッと強く握って震えていた。
去年に卒業した胡桃小春の後を継いで、やっとリーダーになって復活の兆しを見せていただけに大きなプレッシャーになっていたのだ。
そこに川島清美が一呼吸してかえでの肩を叩き、振り向いた瞬間に人差し指を頬にツンと突き刺す。
「清美……。」
「私たちはスマイリング娘。よ。ファンの前ではスマイルを絶やさない、それが私たちの王者としての誇りよ。でも……かえではスマイルになってる?」
「え……?」
「あなたがかつての栄光にこだわって復権を目指しているのは私たちも知っているのよ」
「でもそれってウチららしくないじゃん。いつも時代の先取りをして未来を明るくってのがモットーじゃん」
「たとえ強敵が相手でも問題ありません。リーダーは無責任にファンを楽しませて私たちをも巻き込むことだけを考えてください。あなたをリーダーに任命したのは……《《私たち》》なんですから」
「みんな……うん! 弱気になってごめんね! 私たちのスマイルは世界のスマイル! 政権奪還がなんだ! 私たちは私たちらしくいくよ!」
「「「ゴー! ゴー! スマイリング!」」」
いつもとは違うスマイリング娘。の掛け声に周りは驚き、今までは王政復古、政権奪還という見えないプレッシャーが圧し掛かり、勝利主義に追いやられてしまっていた。
ところが仲間たちはトップに立つより、自分たちらしい笑顔溢れるパフォーマンスをしようというスタイルに変わったことで吹っ切れた。
お姉さんが初期メンバーだった天才の天王寺あかね。
台湾からアイドルにるために来日した料理人のファン・メイユン。
お父さんとカレー屋を経営するインドと日本のハーフの霧島モカ。
日本人で石油王になった父を持つお嬢さまの新川ありさ。
バレーボール女子で全国出場経験のある稲垣奈津美。
清楚美人でまとめ役でサブリーダーの秀才の川島清美。
星のような明るさを持つムードメーカーの月島星乃。
ゆるふわ系のマイペースな不思議ちゃんの花園ゆめ。
韓国から日本に引っ越した帰国子女で韓流アイドル要素のある金子香織。
そして日曜大工が出来るお祭り好きの長谷部梨花という個性的で、一緒にいたら楽しくなりそうなメンバーでファンをスマイルゾーンに入れて盛り上げる。
そこに統率力がありつつも少しだけ心配性な吉原かえでがグループを率いる。
センターこそ未経験だが、みんなの笑顔を前面に押し出していた。
次は月光花の番になり、ミニスカほどの短い浴衣衣装で気合を入れた。
「緊張するね……」
「私たちは花柳先生の厳しい稽古にずっと耐えたではないか。自信を持ってもいいのだぞ」
「そうだよ。私たちは京都のみんなの星だからね。私はこの瞬間に興奮しているよ」
「それにアルコバレーノにも、SBY48さんにも挑めるだなんて光栄なことでございます。私たちローカルアイドルがこの大舞台に立てているのでございますから」
「みんな……」
「さぁ時間です先輩。こんな大舞台では一筋縄ではいかないですが、私たちにはこの世界だけではない方々も応援に来ているのですから期待に応えなければなりません」
「そうだね。でも……その事は秘密だよ?」
「ええ、私たち月光花だけの秘密ね。妖魔界のみんなも見守っているわ」
「みんななら出来るって信じてる。私たち月光花はどのアイドルグループにも負けない。私はまだプロデューサーとしては見習いだから偉そうには言えないけど、私はみんなが優勝することを信じてるからね!」
「ひめぎくも一流プロデューサーみたいなこと言うようになったね!」
「ありがとう、ひめぎくちゃん。それじゃあみんな、掛け声しよう!」
「うん! はなが率先して掛け声出すなら私たちも頑張るよ!」
「日ノ本に咲き誇る花の色! 真夜中に光る美しき月! 月光花!」
「「「いざ参る!」」」
京都のローカルアイドルで和の雰囲気を前面に出し、多くの外国人を虜にした月光花はいつもの和のテイストで勝負に出る。
花柳小次郎は日舞、歌舞伎、茶道、殺陣、そして武道に長けていて日本のあらゆる伝統文化に精通している。
そこに母校である平安館大学に付属している学校の女の子をスカウトし、和の伝統を受け継ぐアイドルとして売り出した。
最初はなかなか売れずに苦戦していたが急激に関西を中心に西日本を席巻している。
月光花のパフォーマンスにさくらたちは、この世界のものとは思えない別の強い闇の魔力を感じた。
それでも不思議と恐怖とかではなく、まるで闇の中に咲いている花を月が照らし、影のような美しいパフォーマンスを魅せた。
SBY48の出番になり、優勝候補で世界一のアイドルグループの番なので、ファンのボルテージは最高を越えている。
「さぁみんな、今までの集大成をここで出そう!」
「ええ、もちろんよ!」
「よーし! オレも興奮してきたよ!」
「うん! 頑張ろうね!」
「エマも頑張るデス!」
「ここまで来たのも、最後までやりましょう!」
「今日はあいつのためだけじゃなく、みんなのために歌うよ!」
「おう! ミューズナイツとしてだけでなく、SBY48として48人でやりきってこい!」
「それに私たちには、エールに選ばれたドリームパワーがある。それじゃあリーダー、いきましょう!」
SBY48で最も売れている派生グループのミューズナイツのリーダーである大島結衣が、SBY48のリーダーでエースである秋山加奈子に掛け声を託す。
「センターじゃないみんなも、総選挙で残念だったみんなも、ここにいない選ばれなかったメンバーの分まで、今日は全員がセンターになってファンのみんなを盛り上げよう! SBY!」
「「「「「48!」」」」」
王者の貫禄溢れる圧倒的人数をリードする加奈子は、あの秋山拓也の娘で加入してすぐにエースとなった天才の一人だ。
それも自分だけでなく、あえて引き立て役に回って他のメンバーをセンターにし魅力を最大限に引き出すために端っこのポジションにいたりし、自分だけでなく他のメンバーの事も見てほしい、だからこそセンターだけでなく端っこで引き立て役を嫌な顔をせずに引き受け、先輩にも認められる天才になった。
そしてミューズナイツを結成するために当時新人だった7人と、中途加入の後輩の一人をミューズナイツにし、渋谷の危機を救ったのだ。
月光花が影のアイドルならSBY48は光のアイドルだ。
ミューズナイツのメンバーからはこの世界のものとは思えない魔力を感じ、さくらたちはあかりたちに何か力があると感じ取る。
そして最後の出場者であるアルコバレーノの番になる。
「みんな凄いよ……! ボクたちこんな凄い子たちと競い合うんだね!」
「私は普段は冷静だって言われるけれど……こんなの見せられて燃えないはずがないわ」
「早くファンのみんなの笑顔が見たい! もう勝ち負けなんてどうでもいいよね♪」
「そうだな! 私たちは希望を導く存在である!」
「よっしゃあ! 燃えてきたぜ!」
「さくらさん! いつものあれ、やりましょう!」
「うん! 希望を導く7つの光! 輝け!」
「「「アルコバレーノ!」」」
「さぁここで最後の出場者になります!」
「「「「「えーーーーー!」」」」」
「ここで審査員にインタビューをします。黒田さん、最後はついにあの子たちですね」
「ええ、私は出来る事は全部あの子たちに教えたつもりよ。手を抜いたりしたら許さないわ」
「秋山さんのSBY48も最高でしたね。」
「ええ。アルコバレーノさんも凄いですが、僕のグループはそう簡単に政権交代させないよ」
「花柳さんも月光花はいかがですか?」
「ふむ、とてもよいパフォーマンスであった。某の弟子もよくぞここまで育て上げたものだ」
「桃井花恋さん、あなたのお子さんが出場しますね。やはりあの魔法を使うでしょうか?」
「いいえ、あの魔法を使ってズルをするのなら、その程度のアイドルという事です」
「おお……母親として厳しいご意見……! では最後の大取り、アルコバレーノです!」
アルコバレーノは天才音楽家の滝川留美などの音楽家に頼らず、自分たちで作った新曲で発表する。
テーマはラブソングで長年淡い恋を抱き、離ればなれになってようやく好きと気づき、大好きな彼に勇気を出してクリスマスに告白する曲になる。
次にさくらたちが大好きな魔法少女としての歌を歌い、武器に模したレプリカの小道具を使って殺陣を披露する。
そして最後は最も人気があり、世界中へのメッセージである『心はひとつ』を歌う。
しかしその曲はいつものフォーメーションがあったが、いつもと違うフォーメーションに会場はざわついた。
「あれ……? この歌って日本語じゃなかった……?」
「それに振付けがいつもと違うわねぇ……?」
「ボレロのように楽器が徐々に加わる演出は私が考えたのですが……どこか違いますね……?」
「黒田殿、何かご存じで?」
「あの子たち……まさか……!」
さくらたちはスクリーンに日本語の歌詞と、世界中の子どもたちや学生たち、大人たちの心が和む写真の映像を映す。
歌はすべて英語で歌われ、振り付けは手話を取り入れたものへと急遽パフォーマンスを変更していた。
元々普通に歌ったらダメだと思っていて『世界中に届けるなら英語と手話にしよう』と話になり、前から準備していた。
本来は三番に入る前にその予定だったが、全出場者のパフォーマンスを見て最初からすることになったのだ。
歌い終えると会場は7色のサイリウムで埋まり、世界中のリアルタイムモニターではしばらくコメントが途絶え、しばらくすると感動と称賛の大嵐が来た。
「「「「「アルコバレーノ! アルコバレーノ! アルコバレーノ!」」」」」
「これは……その……。言葉に出来ないですね……! 審査員の皆さん!」
「まさかここまで世界を見据えているとは……! 某は満足以上のものを味わっている……!」
「これが僕たちが追い求めていたアイドル像……! 負けたよ……アルコバレーノ……!」
「音楽は可能性を無限大にするものです……。そう東光学園の教え子に教えたつもりですが……私もまだまだ学ぶ必要がありますね……!」
「あの子たちのプラスエネルギーがここまで大きくなって……! これが世界中に愛を届けられるほどの魔法……!」
「さくら……成長したわね……。あの子も最高のお友達が出来て幸せよね……。お母さんも年甲斐もなく泣いちゃったわ……!」
「みんな! ありがとう!」
アルコバレーノが退場すると温かい拍手が沸き上がり、SNSはアルコバレーノの話題でいっぱいになった。
結果発表が始まり、審査員による祭典がついにここで公開される。
スマイリング娘。が5位になり、それでもファンを笑顔にしたことに悔いはないのか、誰も悔しそうにはしなかった。
月光花が4位になり、はなたちは悔しそうに涙を流していた。
シンデレラロードが3位になり、きららは満足そうに笑みを浮かべるも目には少しだけ涙が浮かんでいた。
SBY48が2位になり、加奈子は溜息をつきながらも満足そうに微笑み、他のメンバーは悔しさのあまりに泣き出していた。
ということは――
「1位は――アルコバレーノです!」
「やった……! やったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「おめでとうございます、アルコバレーノさん。私たちSBY48をついに越えましたね。悔しいですが、あなた方がトップアイドルです」
「おめでとうアルコバレーノさん。私たちはまだまだ成長出来るって実感したわ。私たち月光花は続けるけど、ラストライブで伝説になってください」
「完敗ですわアルコバレーノ。わたくしたちももっと高みを目指し、今度こそあなた方を越えてみせますわ」
「さくらちゃん、おめでとうございます。私たちは本当にやりきったので悔いはない。さくらちゃんたちも最後のアイドル活動に悔いを残さないでね」
「みんな……! ありがとうございます!」
さくらたちは今まで体験したことのない喜びを爆発させ、優勝トロフィーと金メダルをもらう。
授与式を終えてそれぞれ楽屋に戻り、それぞれのプロデューサーの元へ向かって行く。
アルコバレーノは楽屋で待っていた澄香に思いきり抱きつき、優勝を報告して記念写真を撮る。
隣で晃一郎はさくらたちの頭を強く撫で、優勝のお祝いに自ら『好きな食べ物を俺が奢る!』と言い出し、みんなでお寿司を食べる約束をした。
つづく!