第106話 思わぬ刺客
ソロ部門で雪子が優勝し、純子は嬉し涙を流し、祝賀会で雪子をお祝いする。
しかし雪子は王者でありながら周りの人々に感謝を示し、謙虚な姿勢を貫いていた。
晃一郎に大泣きした暁子も吹っ切れて雪子と仲良くし、茶山は自分を超えた雪子に後を託そうとアイドル界を引っ張るようにエールを送った。
そして翌日、ついにグループ部門が開幕した。
アルコバレーノは優勝候補と言われていて審査員であるアルコバレーノのプロデューサー黒田純子、月光花のプロデューサー花柳小次郎、SBY48のプロデューサー秋山拓也、スマイリング娘。のプロデューサーるんく、そしてチェリーブロッサムでさくらの母親である桃井花恋だ。
そんな豪華な審査員に審査されるので、各グループは緊張している。
純子が審査員についているので代理で妹の暁子をプロデュースしていた晃一郎がプロデューサーになり、マネージャーに澄香がなる。
「皆さん、心の準備はよろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫です!」
「社長はみんなだけでなく他の方々も厳しく対等に審査をする。もちろん秋山プロデューサーもその一人だ。だからと言って委縮せず、みんならしく最高のライブにしよう!」
「「「はい!」」」
「審査員はそれにしても豪華だね……!」
「うむ。まず社長や秋山プロデューサーを筆頭に――」
「まさかお母さんまで審査員なんて……」
「さくらのお母さんはさすがにプレッシャー大きいな……!」
「ですがここまでわたくしたちは頑張ったのですから、残るはすべてを出し切るだけですね。」
「みどりの言う通りだな! よっしゃあ、全力を出し切ってやるぜ!」
「私たちは大取りを務めるから、みんなのライブを見て吸収しよう!」
「「「うん!」」」
さくらの一声でほむらたちは安心し、緊張も少しだけ解ける。
今回の参加グループは日本を中心に、世界でもかなり売れているグループばかりだ。
アルコバレーノを筆頭に京都のローカルアイドルからプロアイドルになり、京都だけでなく西洋を中心に人気の和物アイドル月光花。
秋山加奈子が率いるミューズナイツというエースグループの母体である今世代最強グループSBY48。
かつてはアイドル界の王者で、もう一度トップを狙うスマイリング娘。。
突如現れた謎のシンデレラで、世界中からメンバーを集めたシンデレラロード。
韓国では知らない人はいないセルフチューブで最多再生数を誇るオトメ少女。
スコットランドで独自のアイドル路線で、ヘヴィメタルな曲調にカワイイを取り入れたメタルアンセム。
そしてアメリカでスポーツチームの応援クラブというアマチュアから始まった全力エールグループのチアボールズだ。
どれも世界中で人気も知名度もあり、知らない人は誰もいないと言われるほど有名なところばかりだ。
そんな中でついに開幕し、先頭のチアボールズがステージに立つ。
「「「ゴー! ファイ! ウィン! ウィー! アー! チアボールズ! レッド! ホワイト! ブルー! いえーーーーーーーーーい!」」」
まるでチアリーディングのようなアクロバットなダンス、聴いている人を元気にさせるエール力の高い明るい声に会場は元気になった。
オトメ少女は韓国では主流のクールで高いパフォーマンスを披露し、会場のボルテージを上げて韓国のレベルの高さを実感する。
メタルアンセムは曲調こそヘヴィメタルではあるが、ヘヴィメタルが盛んな北欧メタルで勝負に出ていて、同時に日本のアイドル文化要素もあってギャップ萌えをアピールした。
そして前半戦ももうすぐ終えようとした時、シンデレラロードの出番が待っていた。
「次はシンデレラロードね。一体どんな子たちなのかしら?」
「今まで姿は未公開で審査員やブロックの共演者しか知らないんだって」
「それでは謎に包まれたグループ、という事ですね」
「そうだね、ボクたちの知らないところで話題になっていたなんて」
「そのシンデレラロード、俺は知ってるぞ」
「そうなんですか!?」
「ああ、そのシンデレラロードの正体は――」
シンデレラロードとは何者なのか、審査員以外誰にも知らされていないアイドルグループの番がもうすぐ回ることでどんなアイドルなのかを想像する。
しかし晃一郎はシンデレラロードについて何かを知っている様子で、その事にさくらたちは驚き、澄香も知らなかったのか首をかしげていた。
今までのアイドル業界には、シンデレラロードの情報がなく、さくらたちはどんなアイドルグループなのかを予想し合っていた。
今も姿を見せない謎のアイドルグループ、それも日本人だけでなく外国人も多くいるという情報しか知られていないので無理もない。
晃一郎がシンデレラロードの事を話そうとした瞬間だった。
「あら、全く知らないなんて事はありませんことよ?」
「……!? その声はまさか……!」
「きららちゃん!?」
「きららって、高飛車きららちゃんの事!?」
聞き覚えのある自信にあふれた声が聞こえたのでその方向を向くと、そこには14人の女の子を連れたきららの姿があった。
見た目は変わってないが、その目はより自信に溢れていて、それでも高圧的なオーラはなくなっていた。
すると晃一郎はきららの方を見て歩み寄る。
「また会ったな」
「ええ、また会いましたわね。水野さん」
「いつの間に出会ったの!?」
「この子は昨日のソロ部門で灰崎きららとして出場し、白銀さんや茶山さんを本気にさせたんだ」
「そうなんですね……」
「この子だけだけじゃない、この子たちは苦難ばかりの生活をしていて、そんな中で彼女がスカウトしたシンデレラとなった子たちばかりだ」
「そうなんですか!?」
「サプライズはアイドルでもよくあることでしてよ? そして彼女たちは、わたくしが世界中を旅して見つけたダイヤの原石、言わばシンデレラ候補の皆さんですわ」
「「「ええっ!?」」」
「わたくしはあなたたちに真っ当なアイドル道を教わり、そして憧れであるあなたたちに挑みに来ましたわ。生まれ変わった――灰崎きららとして!」
「灰崎……?」
「というか何で水野さんは知ってたんですか!?」
「離せば長くなるが実は――」
晃一郎は事前に知らされていて、シンデレラロードの正体は灰崎きららをリーダーとした国際アイドルグループだった。
14人の女の子は国際色豊かで様々な国籍を持つ女の子が集まり、個性豊かな顔ぶれとなっていた。
なぜ晃一郎が知っているのかを話そうとする。
「その必要はないわ。まだ状況が掴めていないようね、アルコバレーノのみんな」
「えっ!? どうして灰崎記者が!?」
晃一郎が話そうとすると、それを遮るように灰崎が説明を始める。
「あら、彼から話を聞いてなかったのね。無理もないわ、彼も純子も意外と仕事に熱中しすぎて忘れやすい子だから」
「うっ……!」
晃一郎は仕事に熱中するあまり、シンデレラロードが結成されていたことをすっかり忘れていたのだ。
晃一郎だけでなく、当然社長である純子にも情報が届いているが二人揃って仕事に夢中だったのだ。
灰崎に図星を突かれた晃一郎は何も言えなくなり、さくらたちは晃一郎が小さくなっているように見えた。
「確かにそういう一面あるかも……」
「あなた……」
「本当にごめん!」
「それよりもどういう事ですか? 灰崎記者がきららちゃんと一緒だなんて」
「あの時わたくしは両親が逮捕されて自由の身になり、全てを失い身寄りをなくしたわたくしを拾って義理の姉妹として灰崎家になり、残された財産できらめきプロジェクトを立ち上げましたわ。そしてアイドルを諦めきれなかったわたくしが、世界中にいるアイドルに憧れてもなお諦めてしまったこの子たちを集めましたわ。それとお姉さまの旦那さまはサラリーマンだったのですが、プロデューサーの夢を捨てきれず、会社から独立してプロデューサーに名乗りを上げたのですわ。灰崎アスカさんのプロデュースの下でシンデレラロードは地道な活動をし、ここまで来ましたわ。」
「そうか。これはまた手強いライバルが増えたようだな」
「自ら灰をかぶり生まれ変わったわたくしを……アイドルに憧れて諦めた中でどん底から成り上がった彼女たちをご堪能くださいまし! 参りますわよ!」
「「「はい! きらら様!」」」
「もう、その堅苦しいのはやめましょうって言ったはずでしたのに」
「仕方ないでしょ、みんなきららに救われたんだからさ」
「ほたる、あなたが落ちぶれたわたくしを立ち直らせてくれて感謝致しますわ。あの時からずっとわたくしを気にかけて、何度親の苦しみから励まされたか……」
「いいんだよ、幼なじみでしょ? それよりも夢見る人たちに、希望を捨ててはいけないことを伝えようよ!」
「そうですわね。それじゃあ行きましてよ!」
「「「はい!」」」
きららの掛け声でシンデレラロードはステージに立ち、きららを中心としたパフォーマンスが行われる。
この黒髪の長めのボブヘアの女の子、神田ほたるはきららの幼なじみで、高飛車財閥騒動をずっと気にかけていて裏できららが親から離れるサポートしていた。
さらにアイドルとして干されてもなお諦めきれなかったきららをもう一度ステージにと誘い、シンデレラロードの結成に至ったのだ。
そこから二人で旅をし、中国で地上げ屋に騙されて実家のラーメン屋を潰されたユウ・リンリン。
韓国でかつて所属していた事務所が不祥事を起こしてユニットまで解散させられ、貧乏生活を送ったチョウ・ハンナ。
アメリカで自身の筋肉質な体質のせいで、家族や学校で夢だったアイドルを否定されたナオミ・キャシー・ハートマン。
イギリスでガールズバンドを組んでいたが、メンバーの違法薬物で活動休止になり、次第に自然消滅した元ギタリスト鷺ノ宮エリス。
ブラジルでスラム街に住んでいて、食べるものに困って餓死しかけた松元エミリ。
エチオピアで先祖がとある王族だったが家柄が廃れ子どものころからお金のために働いていたアベバ・ミユキ。
ドイツの名門音楽大学の首席だったが、信じてた友人に裏切られて退学に追い込まれた音原エリーゼ。
フランスで売れっ子モデルになるために食事制限をした結果、栄養失調で何度も入退院を繰り返した西園寺ロクサーヌ。
ロシアンマフィアで経営していた芸能事務所が破産し、マフィアとしての地位を失って路頭に迷ったアンナ・モルドフスキー。
ドバイで一番の石油王の娘で、大金持ちが故に何度も殺害予告を受けて友達がいなくて孤独だった有川アリーシャ。
キューバで教育ママと喧嘩をして家出をし、ギャングとして名を馳せていたリナ・パチェコ。
元々アイドルだったが震災で両親を亡くし、アイドルを一度引退したニュージーランドのコニー・アンルシア。
そして日本で実家が極道をしていて、その実家のイメージをクリーンにするために自ら加入した佐々木舞子のメンバーだ。
灰崎アスカのプロデュース方針は、実力をひたすら叩き上げるスパルタ式で、弱音を吐くことが一切許されないくらい厳しい指導だった。
それでも彼女たちは、彼女たち自身の夢のため、チャンスをもらって夢を叶えられなかったみんなのために必死にレッスンをこなし、ようやくトップアイドルに近づくチャンスを与えられた。
そんな彼女たちはハングリー精神にあふれていて、人生何が起こるかわからないという不安を持ちつつも期待を抱けると教わった。
きららは前までは両親の圧倒的財産と権力を利用した圧力でトップを維持していた。
しかし両親の力がなくても、そのきらめきはトップアイドルそのものだった。
むしろ自由になった分、本当の実力で苦しみながら這い上がり、トップアイドルになるほどの実力を手に入れていた。
シンデレラロードは同時配信のネット配信にも衝撃を与え、周りに圧倒的プレッシャーをかけた。
「これが生まれ変わったわたくしと……人生のどん底から這い上がった皆さまですわ! これからもシンデレラロードは…必ずや運命のお姫さまになってみせますわ!」
「きららちゃーん!」
「きらら様カッコいいー!」
「みんなも輝いていたぞー!」
「アルコバレーノの皆さん、これが新しいわたくしたちですわ。あなた方が何度世界を救おうと、わたくしたちはファンのために全力を尽くしますわ」
きららは自分がセンターになりつつも全員がセンターになるように振り付けを考え、本当に全員が目立つようになっていた。
前までのきららなら自分さえセンターならそれでいいというスタンスだったが、秋山加奈子の自分だけでなくみんなも引き立てるというスタイルに感化され、シンデレラロードは一曲につき必ず全員が同じ時間でセンターにいるように調整されていた。
そんな完璧なフォーメーションにネットは大反響となり、さくらたちはより燃えていた。
「いいね……! ボクたちだってやるよ!」
「ええ、私たちはいつも応援される側。ファンのみんなを裏切れないわね」
「笑顔だったら私たちも負けないよ♪」
「その前にスマイリング娘。さんですね。彼女たちのパフォーマンスをご覧になりましょう」
こうしてグループ部門は思わぬ刺客が訪れ、4つ巴の予想が5つ巴と噂される。
審査員のも『いい意味で裏切られた』、『こんなアイドルがまだ世にあったなんて思わなかった』など言って心がざわついていた。
灰崎は前の新聞会社を退職し、今やきらめきプロジェクトと虹ヶ丘エンターテイメントの専属フリー記者になっている。
そんなライバルたちに恵まれて、アイドル世界大戦とまで言われるまでになった。
つづく!