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第105話 天才の意地

 アイドルオリンピックの決勝ブロック当日になり、ソロ部門がもうすぐ開催される。


 茶山(さやま)と雪子、そして暁子(あきこ)が本選エントリーを終え、ソロアイドル8人が楽屋に集結する。


 そしてこの大会に燃えているのは暁子だった。


「世界中から集まったスーパーアイドルばかりだ……! 全力で頑張るぞ!」


「暁子、燃えてるな」


「高校二年で女子高校野球の全国制覇も成し遂げたんだもん! 今度はアイドルでトップになるよ!」


「兄として全力でサポートしたつもりだ。悔いのないように頑張れよ」


「うんっ!」


白銀(しろがね)さんも茶山さんも悔いを残さないようにね?」


「はい! それにしても夜月さんもここに立てて嬉しいです。同じ二刀流アイドルとしてライバルですから」


「暁子は女子野球部でエースでありながらアイドルもこなす二刀流だからね。白銀さんとはジャンルは違えど二刀流のライバルってところだな」


「はい、ライバルがいると燃えます」


「お兄ちゃん、この子すごい闘志だよ」


「なら暁子もその闘志に応えてやれ。お前なら出来るぞ」


「うん!」


 雪子と茶山、そして暁子の他にも韓国からリュ・ハンナとキム・ソナ、フランスからモナ・ルメール、エジプトからパトラ・ムハンマドが出場する。


 さらに日本からは灰崎(はいざき)きららという謎のアイドルが進出していて、サングラスとマスクをしたままでまだ素顔を出していない。


 それでもソロ部門がもうすぐ始まり、大会の説明が行われる。


「それではソロ部門の説明会を始めます。まず1曲目は新曲のみとなります。2曲目は最も自分が好きな楽曲で、最後の3曲目はファンに最も人気のある楽曲になります。衣装は途中で着替えても大丈夫です。順位は最後の結果発表で公表しますので、途中で諦めないでくださいね。もしも出番なのにステージに時間以内に上がらなかったら即失格になりますのでご了承ください。以上です、質問はございますか?」


「大丈夫です」


「よし、それでは開演しますのでしばらくお待ちください。」


 説明を終えアイドルたちは緊張のあまりにボイストレーニングを始めたり、振り付けの確認をしたりと緊張感が漂う。


 それでも暁子だけはとてもリラックスしていて、兄である晃一郎の腕に抱きついたりとしていた。


 幼い頃からブラコンで、今もそのブラコンは続いてた。


 晃一郎が寮に入るために家を出た時は駄々をこねていたほどで、今も晃一郎のことが大好きなのだ。


 それでも結婚した澄香とはいい関係で、結婚したことを誰よりも喜んだ基本的にはいい子である。


 暁子と雪子は晃一郎の話で盛り上がり、茶山も無言ながら興味津々(きょうみしんしん)で晃一郎の話を聞いていた。


「それでは開演します!トップバッターのリュ・ハンナさん、スタンバイお願いします!」


「皆さんお待たせしました! 第1回アイドルオリンピック、今この武道館で開幕です!」


「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」」」」


「この中継は世界同時中継でお送りします! 司会はわたくし島田慎二(しまだしんじ)でお送りします! 審査員の方々は5人! それがこちらです!」


 審査員にはアイドル評論家の秋葉太郎(あきばたろう)、元スーパーアイドルの愛河(あいかわ)めぐみ、アイドルスカウトの武内健一(たけうちけんいち)、世界的音楽家で東光学園音楽教員の滝川留美(たきがわるみ)、そしてアイドルプロデューサーの花柳小次郎(はなやぎこじろう)と豪華なメンバーになる。


 先頭のリュ・ハンナは日本のカワイイ文化に強い影響を受けた韓流アイドルで、可愛くてポップなアイドルとして世界中にカワイイを見せつける。


 次のパトラ・ムハンマドはアイドル界のクレオパトラと言われるほどの美人で、元々はベリーダンスをやっていたが、日本のアイドルに影響されてベリーダンスを取り入れた幻想的なダンスでファンを魅了する。


 三番手のキム・ソナはリュ・ハンナとは正反対のクールで完成度の高い振り付けで、電子音楽に乗りながら完璧なパフォーマンスで会場を熱くさせる。


 モナ・ルメールは大人びた雰囲気で、とても女子校生には見えない大人の魅力でセクシーを見せつける。


 そして謎の灰崎きららの出番になった。


「灰崎きららって何者なんでしょうか……?」


「わからない……。でも只者じゃない事は確か……」


「お兄ちゃんは知ってる?」


「灰崎……まさかな……」


「そのまさかですわよ、夜月(やつき)晃一郎さん」


 今までサングラスとマスクをしていた灰崎きららという子が晃一郎に声をかける。


 晃一郎はいきなり名前を呼ばれて驚き、灰崎きららの方へ振り向く。


「は……? 何で俺の前の名前……!?」


「失礼しましたわ、水野晃一郎さん。そして――お久しぶりですわ、皆さま」


 灰崎きららはついにマスクとサングラスを外し、晃一郎だけでなく茶山や雪子にとってもビックリなサプライズとなった。


 その正体はあの高飛車(たかびしゃ)きららで、苗字が変わって再登場したのだ。


「高飛車きらら……!」


「どうしてあなたがここにいるのですか!?」


「二人とも落ち着け。灰崎さん、あの頃と比べて随分丸くなったな。それに灰崎って、灰崎記者と関係があるのか?」


「ええ、私は真奈香(まなか)お姉さまに新たな家族として迎え入れられ、そして生まれ変わりましたわ。あの毒親から離れ自分の力と周りのサポートで灰を被ったわたくしはシンデレラとして這いこれは……過去はもう変えられなくとも、今のわたくしのパフォーマンスで忘れられない思い出を作らせますわ!」


「成長したな、さすが灰崎記者の妹になっただけはあるな」


「そっか、きららちゃんも妹になったんだね。なら私もお兄ちゃんのサポートでここまで来たからライバルだね!」


「夜月暁子、あなたの事はお姉さまから聞きましたわ。女子野球とアイドルの二刀流ですってね。ここまで来るのは簡単ではなかったでしょう? 本当に見事なガッツでしたわ。でも……勝つのはわたくしですわ。生まれ変わったわたくしをとくとご覧あれ!」


 きららは誇らしげにステージに立ち、まさかの再登場に会場は困惑した。


 あの高飛車財閥(たかびしゃざいばつ)騒動の娘であるきららがここにいることでも驚きなのに、パフォーマンスも完璧さは変わらずとも、まだまだ進化していることに世界中で大きな話題となった。


 そしてついに雪子の出番となった。


「皆さん、お久しぶりです! ドイツから帰ってきました白銀雪子です! 皆さんは過去にとらわれてしまった事はありませんか? 私は昨年まで心臓病を患ったまま余命を抱え、全ての事に焦っていました。それが今となっては奇跡的に完治し、こうして歌えることに喜びと幸せを感じています。その生きていることへの感謝を込めて新たに歌わせていただきました。続いては私や皆さんの大好きな曲を歌います」


 雪子は一度は命を落とし、母と再会してエイレーネに才能を与えられて復活をした事もあって、その歌声を聴いた人々は次々と涙を流し、まるで心の闇が払われて抱きしめられたような温かい空気で包み込む。


 審査員もハンカチを手に取って拍手し、聞いた話だと刑務所から団体で来られた方々も自分たちの行いを反省したとネットで話題となった。


 雪子の不思議な歌声で世界中から拍手が沸き起こり、これ以上ない感動に包まれた。


 次の暁子はあまりにも感動的なパフォーマンスに涙を流すも、次は自分の番だと思うと自分の頬を軽く叩き、気合を入れてステージに立つ。


「暁子! お前のアイドル力はあの灰崎さんや白銀さん、茶山さんにも負けてない! お前の全力投球、俺に見せてくれ!」


「うん! お兄ちゃんだけじゃなく、世界中のみんなにやれば出来るってところを見せるね!」


 暁子は晃一郎と言葉を交わし、健康的な衣装で華麗なダンスを見せ、チアダンスを取り入れたスポーティな曲にファンの興奮は冷めなかった。


 さらに運動神経は橙子以上で、アクロバティックなダンス、口とマイクの距離があるほどの声量、さらに鍛え抜かれた体を利用したバランス力で、きららとは違う完璧なパフォーマンスを見せた。


 暁子は野球もアイドルも苦手な勉強にも全力で取り組んだ結果成績も上がり、勉強もコツコツではあるが成果が見え始めている。


 最後に茶山の番になり、いつものポーカーフェイスが武者震いを起こし、目を大きく開いて輝かせ、明るい笑顔を浮かべる。


「茶山先輩……?」


「茶山さんどうした? 体調でも悪いのか?」


「面白い……。こんなにファンを魅了するアイドルが世界中にいる……。だからアイドルはやめられない……。私ももっとみんなの前で歌いたい……。みんなと一緒にステージに立ちたい……。私の夢は……アイドルになりたい世界の女の子たちの目標になる事……。この歌に……私の全部を賭ける!」


「あの天才が武者震(むしゃぶる)いをしている……?」


「これは眠れる獅子を目覚めさせてしまいましたわね」


「そのようですね」


「くるみちゃん! 頑張ってね!」


「ありがとう夜月さん……。行ってきます……」


 茶山はハサミを取り出し、左目を隠していた前髪を自ら切り落とし、今まで見たことのない表情でステージに向かう。


 茶山の新曲は保守的な女の子が決められたレールの上を進むのをやめ、自ら決めて新しい世界へ踏み込み自分を変えようとする進化をテーマにした曲だった。


 15年間アイドルを続け、今までの経験に則ったやり方で、『どんな最高のアイドルが束になっても勝てない』と言われるまでになった。


 そんな天才が『今のままじゃダメだ』というのと、『新しい事への挑戦する事で人気が落ちるのではないか』という不安に悩み続け、スランプに陥ることもあった。


 それがみんなのパフォーマンスを見て『新しい自分を見たい』と思うようになり、保守的だった茶山が殻を破って翼を生やして空高く飛んでいった。


 審査員は驚きを隠せずに拍手をし、気がつけばくるみコールをしていた。


 そしてソロ部門の結果発表の時が来る。


「ではソロ部門の優勝者を発表します! 優勝者は――」


 ドラムロールが流れ、8人は自分が優勝することを祈り続けた。


 スポットライトはランダムに動き、誰が優勝してもおかしくないパフォーマンスだったことは会場がよく知っている。


 そしてついにドラムロールが止まり、スポットライトに当たったのは――


「白銀雪子ちゃんです!」


「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」」」」


「え……!? 私がトップアイドルですか……!?」


「おめでとう……。あなたがトップアイドル……。悔しいけど、あの歌声には敵わない……。私の完敗……。」


「茶山先輩……!」


「白銀さん! 本当におめでとう!」


「わたくしの負けですわ。あなたは本当に世界を制したのですわ。おめでとう」


「皆さん……ありがとうございます…!」


 雪子はトロフィーと金メダルを渡されて感無量になって涙を流し、茶山は自分の全てを出したのに負けてしまった悔しさで涙がこぼれていた。


 それでも先輩らしく雪子を抱きしめて称え、堂々と銀メダルを授与された。


「……。」


「暁子……」


「お兄ちゃん……負けちゃった……!」


「ああ、そうだな。メダルにも届かなかったな。でもよくここまで頑張ったな。世界中に夜月暁子というアイドルはすごいと思わせた。野球とアイドルの二刀流は大変だっただろう? お疲れ様」


「うう……うわぁーーーーーーーんっ!」


 暁子は悔しさを我慢して明るく振る舞ったが、晃一郎の顔を見て悔しさが溢れて大泣きし晃一郎に抱きつく。


 晃一郎は笑顔で暁子の頭を撫でて慰め、暁子は気が済んだのか泣き止んでステージに向かい金メダルの雪子、銀メダルの茶山、そして銅メダルのきららをお祝いする。


 次に行われたデュエット部門では今川あずき、ことりがデュエットする『今川メイドリーミング』が金メダルに輝いた。


 翌日を迎え、グループ部門の前に行われるトリオ部門ではイギリスの『ビートラビッツ』が優勝した。


 そしてついに、大取りで花形のグループ部門が開幕する。


 つづく!

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