第104話 開幕
秋に入りアイドルオリンピックの予選会が行われ、純子は茶山と雪子、そして暁子のソロ部門、アルコバレーノのグループ部門のエントリーをするために協会へ申し込む。
そのイベントは今年から4年に一度行われ、その部門で優勝したアイドルは4年後に代表が審査員として選ばれるルールだ。
エントリーを終え8つに分かれるブロックの発表を待つだけだった。
エントリー後は協会が取材に来た上で今までの歌とダンス、ビジュアル、パフォーマンス、衣装、実績、人気度、知名度で審査され、合否の発表のメールまで待つ。
エントリーから1か月が経ち、アルコバレーノたちの合否と同時にブロックが決定した。
合否の結果は圧倒的人気で合格し、ブロック発表のページを開く。
アルコバレーノのブロックはDブロックで、会場はアメリカのロサンゼルスになった。
ソロ部門とはまた別の場所で、茶山はAブロックのロシアのモスクワで、雪子はFブロックの台湾の台北になった。
グループ部門の会場――
Aブロック アメリカ・ニューヨーク
Bブロック イギリス・ロンドン
Cブロック オーストラリア・シドニー
Dブロック アメリカ・ロサンゼルス
Eブロック 中国・上海
Fブロック インド・ムンバイ
Gブロック ブラジル・リオデジャネイロ
Hブロック 韓国・ソウル
決勝ブロック 日本・東京
――となる
「グループ部門はこんな感じね。アルコバレーノはこれからロサンゼルスに向かうわ。長旅になるけれど、疲れをリフレッシュしましょう。」
「「「はい!」」」
「茶山さんは専属のマネージャーと、白銀さんは水野さんに任せるわ」
「わかりました! 白銀さんの事は任せてください!」
「水野くんは夜月さんがソロ部門に出場する為、一時的に夜月さんのプロデュースやマネージメントをすることになってるわ。でもアルコバレーノのマネージャーは引き続きしてもらうことになってるからみんなは安心していいわ」
「暁子ちゃんかあ」
「確か女子高校野球とアイドルの二刀流だったよね」
「ああ、それも女子プロ野球でもドラフト1位候補だぜ」
「ということは晃一郎さんは暁子ちゃん中心にサポートするんだね!」
「ですが晃一郎さんは妹だからとひいきをしないと仰ってました」
「さすが晃一郎さんだ。私たちも気を引き締めねばな」
晃一郎は兄として妹の暁子のプロデュースとマネージメントを託され、暁子のソロ部門進出に向けてスケジュールを確認する。
ソロ部門の予選会場が茶山がオーストラリアのメルボルン、雪子がドイツのフランクフルト、そして暁子が日本の名古屋となりそれぞれ移動をする。
そしてアルコバレーノもロサンゼルスに向かっていた。
「それじゃあみんな……出発よ!」
「「「おー!」」」
羽田空港は復興し今ではアンゴル・モアとの戦いに勝利した記念の石碑が建てられていて世界中のファンからは聖地と呼ばれている。
飛行機の中でさくらたちはトランプをやったり、少しだけ世間話をしたり、学校の勉強をするなど長旅を満喫する。
ロサンゼルスに着いたさくらたちは、観光する暇もなく会場へ向かう。
すると早速変装がバレてしまったのか、現地の人たちに声をかけられる。
「アルコバレーノだ!」
「俺ファンなんだよ!」
「日本のライブ楽しかったよ! 応援してるよ!」
「スゲェ……! アメリカでもこんなにファンがいるのかよ……!」
「ロサンゼルスも大きな被害を受けたと聞きましたが、大分復興しているみたいですね」
「アメリカは人種も民族も多いから何かしら揉めると思っていたけれど、もう大丈夫みたいね」
「うん、ボクたちもアンゴル・モアに勝った甲斐があったよ」
「それじゃあ会場に着いたらまずリハーサルをするわ。もうみんなは新曲を覚えたかしら?」
「はい、覚えました!」
「わかったわ。それじゃあリハーサルは順番や音源の確認、さらに他のアイドルグループとのコミュニケーションなどあるから、恐らく英語で話すことが多いわ。葉山さんは父が外交官経験者だったわね。通訳をお願いできるかしら?」
「お任せください」
「さすが外交官にも選ばれた葉山議員の子ね。頼りにしているわ」
「やっぱりみどりちゃんってすごいね♪」
「ホントエリートは違えな」
「うふふ、皆さんも英会話を学べばきっと将来お役に立てますよ?」
「うむ……。私も苦手教科の英語を克服するにはみどりに頼ろうか……」
みどりの父は国会議員で過去に外交官をしていた経歴があり、みどりも英語を話せるレベルになっている。
文武両道ながら英語が苦手なゆかりはみどりを頼ろうとするくらいには頼りになる会話力だった。
「さぁ着いたわ。ここが会場よ。」
会場に到着し見渡すと大きなアリーナで、よくアメリカのプロバスケで試合をしているところだ。
中に入るとたくさんの外国のアイドルから日本のアイドルまで集まっていて、中は既にステージの設置が完成されていた。
本当は日本のみの実施予定だったが、アルコバレーノが出ると知った多くの国から参加表明が届き、今や100グループ以上もエントリーが来るほどにもなった。
その中から選ばれた64グループのうち8グループとアルコバレーノは競うこととなる。
エントリーグループ
1.サンバ・ジャ・ネイロ ブラジル
2.シルバーファーン ニュージーランド
3.パンダガールズ 中国
4.ロマンス フランス
5.アフタースクールズ 日本
6.ローマバケーション イタリア
7.レッドデータガール ロシア
8.アルコバレーノ 日本
――となった。
エントリーグループにはアルコバレーノの同期である全員が幼なじみなアイドルアフタースクールがいたことに驚き、千秋は仲良しの日野に声をかける。
「同じグループだね!」
「だねだね! 千秋とは仲良しだけど私たちアフタースクールが勝つからね!」
「全員幼なじみだもんね! でも私たちだって世界を救ったからって調子に乗らずに勝つよ!」
「ふふっ、やっぱり世界の英雄は心の器が違うね」
「確かにそうですね。私の占いでも彼女たちは決して偉そうにしないと出ています」
「だとしたら、もっと負けられないよねっ!」
「別に、いつも通り全力でやるだけだから」
「とか言って緊張してるのバレバレ」
「う、うるさい! レナは無表情だから緊張して――」
「これでも緊張してる。私だって人間だから」
「僕も緊張しているよ。きっと鈴香だってそうさ」
「だね! でも……私たちだって負ーけなーいぞー!」
大声で張り切っているのは元気いっぱいの諸星ひかる。
クールでボーイッシュな僕っ子の沖田つかさ。
ツンツンしながらも素直なところを見せるツンデレの加藤めぐみ。
今まで無表情がコンプレックスだったが、この日のために顔を出すようになったポーカーフェイスの早乙女レナ。
敬語で話す占いが得意でよく当たると言われている田中さとり。
そしてアイドル業界を何度も開拓してきた革命児のリーダー日野鈴香が組む日本で売れているガールズバンドアイドルだ。
日本でも有名なライバルがいて、とくに千秋はアフタースクールを意識しているので燃えていた。
ついにアイドルオリンピックの予選が開催され、最初のサンバ・ジャ・ネイロはリオデジャネイロのカーニバルをモチーフとしたアイドルグループで、みんなサンバを中心としたダンスで会場を盛り上げる。
シルバーファーンはパフォーマンス前に先住民の儀式であるハカを見せ、圧倒しながらも可愛さのギャップ萌えで勝負する。
パンダガールズは6姉妹で、カンフーと体操、そして京劇のアクロバットな動きを取り入れたダンスで会場をさらに盛り上げる。
ロマンスはフランスらしい美しさを求めたグループで、モデル体型の子たちが動くだけでなく止まる振り付けもピッタリで、まるでファッションショーのようなパフォーマンスをする。
そして最大のライバルであるアフタースクールの番が回る。
「いつもの掛け声、やっちゃおう!」
「「「おー!」」」
「私たちはー!?」
「「「幼なじみ!」」」
「放課後はいつもー!?」
「「「自由!」」」
「元気いっぱいで革命を起こすぞ!」
「「「おー!」」」
その掛け声通りにポップアップ形式で登場し、自分たちで作った花火を打ち上げて盛り上げる。
アフタースクールは『ファンは宝物』を掲げ、勝つことよりもいかにファンを喜ばせるかをモットーとしている。
そのためか会場は今まで以上に盛り上がり、とくに派手さが大好きなアメリカ人には最高のパフォーマンスとなった。
その次のローマバケーションはラテンのノリで突っ走るタイプだったが、アフタースクールのバンドとは思えない派手さに負け、ノリが通用せず、レッドデータガールもコサックダンスやバレエ、フィギュアスケートを取り入れた美しいダンスを見せるも、アメリカ人にはあまり響かなかったのか盛り上がりに欠けてしまう。
しかしそんな中でもさらに上を行ったのはアルコバレーノだった。
「みんな! アフタースクールを越えるには、あれをやろう!」
「あれだね! ボクは待ってたよ!」
「あれなら彼女たちを越えられそうね」
「うむ、では参るぞ!」
「「「おー!」」」
アルコバレーノは事前に話していた戦隊ヒーロー風の衣装から前日に衣装担当が作り上げた魔法少女としての服装をアレンジした衣装に変更し、今までの戦いで培った動きでヒーローが大好きなアメリカ人を興奮させる。
もちろん飛翔の奇跡や属性魔法を一切使わず、自分たちの本来の身体能力を使いアクションをする。
まるでヒーローショーのようなパフォーマンスにアメコミを見ている気分になったアメリカ人のファンは『スーパーガールズ』と叫ぶほどだった。
ロサンゼルスは日本のアイドルが席巻し、他の国のアイドルは日本のレベルの高さを実感し、結果を知る前から負けを悟った。
そして結果発表の時が来る。
「今回の優勝は――会場の満場一致でアルコバレーノです!」
「「「やったー!」」」
「おめでとうございます!」
「ありがとうございます!」
「みんな! 決勝ブロック進出おめでとう! これからもっと厳しいライブになるけれど、いつもの魔法のようなパフォーマンスで魅了しましょう!」
「「「はい!」」」
アルコバレーノの決勝ライブ進出を純子が祝っていると、ライバルだったグループのリーダーたちが歩み寄ってアルコバレーノに握手を交わす。
「おめでとう。命をかけてるつもりだったけど、あなたたちはもっと過酷な戦場で戦ってたから私たちよりもカッコよかった。本当におめでとう」
「私たち姉妹の絆でも勝てなかったのは悔しいけど、あなたたちの絆を見るともっと深まれることを知ったよ。ありがとう」
「君たちの美しいパフォーマンスには負けたよ。私たちの分まで頑張りたまえ」
「ヘーイジャパニーズガール! 私たちの分までトップになってネー! アミーゴ!」
「私たちに勝ったんだからそのノリと勢いで優勝しろよ! 優勝したらパスタ奢るからな!」
「私たちのデータを軽々と超えるそのパフォーマンス、観察させてもらいました。あなた方と戦えたことを誇りに思います」
「みんな、ありがとうございます!」
ライバルグループたちにお祝いされると、千秋は今にも泣きそうな鈴香を見つけ、どうやって声をかけようか迷っていた。
その様子を泣きそうになってた鈴香が気付き、涙を拭いて千秋の方へ歩み寄り、手を差し伸べて握手を求めた。
「千秋、本当におめでとう。ファンを喜ばせるためだけに頑張ったけど、やっぱり負けるのは悔しいなあ……」
「鈴香ちゃん……」
「でも泣くのはもうおしまい。千秋! 絶対優勝してね! 私たち幼なじみの絆を越えたんだから! 頑張ってね!」
「ありがとう! でも実は勝つためだけにこの大会に出てるわけじゃないんだ。」
「え……?」
「私たちはアルコバレーノ伝説を終わらせるってニュースになってたでしょ? でもそれで有終の美を飾ろうとかじゃなく、ファンにありったけの気持ちでありがとうを伝え、アイドル界を世界規模でもっと盛り上げたいんだ。勝つとか最後だからとか全く意識してないし、もっとファンのみんなと一緒に歌って踊って、最高の時間を過ごしたい。だから……アフタースクールだけでなく、ここにいるみんなにも決勝ライブを観に行ってほしいな!」
「千秋……これじゃあ私たちに勝ち目はないか。わかった! 私たちアフタースクールが全力でアルコバレーノを応援する!」
「君たちの健闘を祈るよ」
「まあ頑張りなさい」
「私の占いによると、アルコバレーノは明るい未来が待っているでしょう」
「絶対優勝してよ! 応援してるからね!」
「みんなの分まで頑張るね!」
アフタースクールがアルコバレーノにエールを送り、千秋は笑顔でピースサインを送って優勝を約束する。
「私たちも応援にいきます!」
「イエーイ!」
「あなた方のデータをもっと取らせていただきますよ」
「皆さん……本当に感謝いたします!」
予選ブロックを突破し、会場のファンは帰りたくないという人が出るまでに盛り上がった。
予選を終えてからは一緒に戦ったアイドルたちと一緒にロサンゼルスを観光し、アメリカの旅をいっぱい楽しんだ。
帰国の日にはそれぞれのファンが横断幕で見送りに来てくれて、共演した同じ芸能人も笑顔で握手したりして送ってくれた。
そしてついにアルコバレーノは、武道館で予選を突破したライバルと競い合うのだ。
つづく!