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第103話 スカウト

 上条が話したアイドルオリンピックの開催を聞き、さくらたちはレッスンと仕事に励む。


 仕事ではほむらはイギリスで世界最大のロックフェス、橙子はアメリカでニンジャウォーリアーの出場、千秋はお笑いの審査員、みどりは年配の歌手とフォークソングのライブ、海美は学園ドラマで不良役で主演、ゆかりは海美の代わりにフランスでファッションショー、そしてさくらは雪子とデュエットを組んで日本ツアーと順調な売り出しだった。


 アルコバレーノとしても夏のアイドルフェスティバルを成功させるなど、アイドルとしてどんどん成長していった。


 ファンの間では『アイドルオリンピックを最後に解散するのではないか』という不安もあったが、アルコバレーノの予定ではアイドルオリンピックを終えてからファイナルライブを行うのでその心配はない。


 そんな中でさくらにある人に電話をかけられる。


「誰だろう……? もしもし? 桃井さくらです」


「桃井さくらさんだね。直接話すのははじめまして、SBY(エスビーワイ)48(フォーティエイト)のプロデューサーをしています、秋山拓也です」


「秋山プロデューサー!? どうして私の連絡先を……?」


「前田あかりさんから教えてもらったんだ。君にどうしても話したいことがあってね。渋谷のSBY48劇場に来てほしいんだ。君にとって悪い話じゃないと思う。どうかな?」


「わかりました、仕事終わり次第すぐ向かいます。では――失礼します。何だろう、話って……。」


 さくらはあのSBY48をたった1年で地下アイドルグループからプロアイドルにのし上げた凄腕プロデューサーだ。


 渋谷では秋山加奈子が率いるミューズナイツが有名で、当時新人ながら加奈子に負けないアイドルの実力を持っているため将来性があるグループでもある。


 さくらもそんなSBY48に強い憧れがあり、もしかしたら共演なのではと期待を膨らませていた。


 仕事を終えてタクシーで渋谷に向かい、劇場に着くとそこには先客の二人がいた。


茶山(さやま)先輩に雪子ちゃん……?」


「あ、さくらさん。こんにちは」


「こんにちは……」


「どうして二人がここに……?」


「実は私も秋山プロデューサーに呼ばれてここに来たのです」


「同じく……」


「そうでしたか。この三人で何か大きな事やるのかな?」


「わからない……。でも彼のことだからきっといい企画立ててると思う……」


「そうですよね。先輩や雪子ちゃんならともかく、グループにいる私も呼ばれるくらいだから何かいい企画だと思います」


「楽しみです」


 茶山と雪子とさくらは三人でどんな企画なんだろうと期待を膨らませ、秋山プロデューサーが来るのを入り口で待っていた。


 きっとアルコバレーノの最後を飾る何かイベントを開くのだろうと思った。


 少し時間が経つと、秋山プロデューサーがさくらたちの元へと来た。


「桃井さんと茶山さん、そして白銀さん、お待たせ」


「「「おはようございます!」」」


「いい挨拶だね。じゃあ早速中に入って」


「先輩、秋山プロデューサーって……」


「明らかに痩せた……」


「ダイエットに成功したのでしょうね」


 秋山プロデューサーに最後に会ったのは去年のことで、当時は太っていて少し汗臭い感じがしたのだが、しばらく見ないうちに体が引き締まっていて別人のようだった。


 黒ぶちメガネに黒髪センター分けは変わらなかったが、痩せてからダンディな雰囲気が漂っていた。


 さくらたちが案内されたのはプロデューサー室で、さくらたちは秋山プロデューサーに続いてプロデューサー室に入る。


 秋山プロデューサーが自分の席に座り、ついにさくらたちに本題を話す。


「君たち三人を呼んだ理由をこれから話すよ。まず君たち三人はアイドルとして本当にトップと言われるほどの実力を持っている。とくに茶山さんはうちの歴代のエースを全員揃えても勝てないほどだ。白銀さんはアイドルと声楽の二刀流で世界に羽ばたくほどの実力がある。桃井さんは世界を救ったアイドルグループのリーダーとしてものすごい力を感じる。それほどのアイドルが何故ここに呼ばれたか、それは――」


 秋山プロデューサーは真剣な顔つきでさくらたちを見つめ、さくらたちは緊張のあまりに唾を飲み込む。


 しかし秋山プロデューサーも何やら申し訳なさそうな顔をしていて、何かいい企画を立ててるわけじゃないと一瞬で感じた。


 深呼吸をした秋山プロデューサーは、ついにさくらたちを呼んだ理由を話す。


「君たち三人を、我がSBY48のメンバーに招待しようと思う。茶山さんと白銀さんはソロアイドルにするにはあまりにも惜しいし、桃井さんはアルコバレーノが解散したらソロになるから移籍をすればもっと輝けると思う。だが君たちには虹ヶ丘エンターテイメントという君たちに合っている最高の事務所がある。君たちにとってもっと輝ける環境だから悪い話ではないと思う。だが……義理堅い君たちに断られるのをわかった上で、我がグループに入ってほしい」


 秋山プロデューサーはさくら、茶山、雪子をソロアイドルにするにはどうしても惜しく、三人のエースレベルのアイドルを獲得すればグループはもっと成長すると見越しているが、申し訳なさそうに事務所への恩を強く感じている三人をスカウトする。


 三人にとっては悪い話ではないが、さくらはアルコバレーノの解散後について考えると、誘いに乗るべきかやめておくべきかを迷っていた。


「せっかくの誘いですが、私には尊敬する社長がいます。彼女がいなければ私はただの無口で無愛想なアイドルとして売れなかったでしょう。SBY48のエースが束になっても勝てないと言われるほどになれたのは、社長の個性を活かしたプロデュースによるもので、私自身の力だけでは無理でした。アイドルオリンピックに備えて私たちをスカウトしたことには感謝します。ですが……私はソロアイドルとして、もっとファンの皆さんと交流を深めたい。自分の実力がどこまで通用するのか試してみたいんです。だから申し訳ありません」


「茶山先輩……」


 茶山が真っ先に自分の答えを秋山プロデューサーに話し、続いて雪子も口を開く。


「私も社長だけでなく、スカウトしてくださった専務の方がいます。彼に出会えたからこそ私は二刀流として活動を続けられています。一度は命を落としましたが、今こうして生きているのもさくらさんや専務たちの温かい気持ちがあったからこそです。そんな彼らを裏切ることは、今の私には出来かねます。それに……まだ私は世界を制覇したわけではありません。グループに属すれば、きっとそれに甘えてしまい、二刀流としても中途半端になってしまうでしょう。SBY48ほどの実力者はきっと、私たちがいなくても大丈夫だと思います」


「雪子ちゃん……私は何を迷ってたんだろう……。私はやっぱり……今の事務所や仲間たちが大好きです。みんながいたから今の私がいると思いますし、みんながいたから世界を救うことが出来ました。そんなみんなを裏切ったら、私は一生後悔すると思います。だから私はみんなにありったけのありがとうを伝えるために、最後までアルコバレーノのリーダーとして全うします。だから……秋山プロデューサーの誘いには乗れません。ごめんなさい」


 さくらも茶山や雪子に続いて秋山プロデューサーの誘いを断り、秋山プロデューサーは安心したのかホッと一息つく。


 さくらたちは秋山プロデューサーに頭を下げてプロデューサー室を出ようとすると、秋山プロデューサーは突然拍手を送り、さくらたちは何が起こったのかわからず固まった。


「素晴らしい答えだよ。そうでなくちゃ面白くない。実は君たちの覚悟と仲間意識を試すためにあえてグループに誘ったんだ。試す形でほんとうにごめんね」


「そうだったんですか……」


「でも君たちをスカウトしたいと思ったのは本当だよ。だからこそ本心っぽくするには持ってこいだった。君たちの覚悟と仲間意識は本物だ。僕は君たちが最高のライバルでよかったって本気で思ってる。断られたのは悔しいけど、君たち三人のことをますます気に入ったよ。これで心置きなくアイドルオリンピックで本気で戦える。君たちの健闘を祈るよ」


「「「ありがとうございます……!」」」


「でも君たちを騙して試してしまった事には変わらない。謝罪として事務所まで車で送るよ。そしてクレープでも奢るよ。許されるとは思ってないけど……」


「私は秋山プロデューサーほどの人が認めてくれたって思うと嬉しいです……。きっと桃井さんや白銀さんも同じです……」


「本当に君たちは器が大きいよ。こちらこそありがとう。では君たちを送迎しよう、また仕事場で会おう」


 さくらたちはSBY48のスカウトを断り、改めてソロとして活動する。


 さくらにとってはアルコバレーノを最後まで見届け、そしてリーダーとしての責任を全うする。


 渋谷から出る前にクレープを食べ、そして車で事務所まで送迎してもらう。


 事務所に着いてすぐに秋山プロデューサーと別れ、それぞれ仕事の終わりを報告して帰宅する。


 そこから茶山と雪子はソロ部門、さくらはアルコバレーノとしてグループ部門に向けて活動を続け、ついに10月を迎えて予選の時が来た。


 つづく!

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