第102話 決めたよ
上条と会って話し合う約束をしたさくらはカラオケの達人のパーティルームに入り、彼が来るのを待つ。
さくらたちは指定された部屋に入ると変装を解き、来るまで少しだけカラオケで何曲か歌う。
さくらが歌い終えると上条が到着し、何人か一緒に連れて入る。
「待たせてごめんね。ファンクラブの副会長も連れてきたよ」
「あなたはあの時の!」
「久しぶりね、柿沢さん。山田智恵です」
「あれから彼氏さんとどうなりました?」
「ええ。大学を卒業してすぐに結婚して、お腹には男の子がいるの」
「ご懐妊おめでとうございます。でも今日はどうしてここに?」
「上条くんからアルコバレーノの卒業の話を聞いてね。彼女たちに僕の気持ちを伝えたいから副会長である私にも協力をしてほしいってお願いされたわ」
「本当はもう一人いるんだけど、日ノ本大学付属湘南高校サッカー部の合宿があって来れなかったんだ」
「翔也お兄ちゃんだ!」
「千秋ちゃんが救った男の子だったよね。もう足治ったんだ」
「よかった……!」
「二年間ずっと応援してくれてありがとうごさいました」
二年前にさくらたちが救った人たちが、今度はアルコバレーノを支えてきた人たちだ。
アイドルとしてここまで成長できたのは、彼らのおかげだった。
昔を懐かしみつつ感謝の気持ちを二人に示し頭を深々と下げる。
「僕たちもみんながいなければ、魔物として世界を絶望に陥れてたと思う。助けてくれたことを本当に感謝している。僕たちの方こそありがとう」
「ええ。あなたたちが明るく生きてくれて嬉しいわ」
「桃井さんだけアイドルを続けるんだったわね。他のみんなは卒業って本当なのね?」
「はい。私たちはアイドルになる以前から夢だった道に歩み、『私たちがいなくても、もうみんなは大丈夫』と確信し卒業を決意しました」
「だけど……ファンのみんなは私たちの事をずっと見ていたいってなって……。『卒業しないで、伝説を終わらせないで』って悲しんじゃって……」
「ファンのみんなをアタシたちのわがままで悲しませ、裏切ったんじゃないかって思うようになったんです」
「だから私たちは、ファン代表としてどう思っているのかなって相談したんです」
さくらたちが感謝と悩みを相談し、上条は考え込む。
「なるほど……。確かにみんなが世界に与えた影響はそれほど大きかったわ。最初は日本のみだったけれど、今回は世界規模で救っちゃったもの。ファンのみんなも悲しむのは無理もないわ。でもね……私も彼もこう思ってるの。上条くん、代わりに言えるかしら?」
「はい。僕たちはアルコバレーノに助けられ、アイドルとして応援し続けたいという気持ちはある。だけどみんなの本当に叶えたい夢があるのなら、その夢が叶うように、頑張るみんなを応援で助ける番じゃないかなって思ってるんだ。あの時、生きていて大きすぎる挫折を味わって、絶望に染まって魔物になって暴れながらも助けを求めたら助けてくれたように、今度は僕たちがみんなを助けるって決めたんだ」
「そうでしたか……」
「だからみんなはファンのみんなに謝罪ではなく、感謝と感動を与えるってのはどうかな? ファイナルライブで世界中のファンに、ありったけのありがとうを伝えるんだ」
「ファンのみんなに……ありがとう……っ!」
上条の言葉がさくらたちにヒントを与えたのか、さくらたちは何かを思いついたようにやる気を出し始める。
「そうだな! アタシたちが足踏みしたって仕方ねぇもんな!」
「ええ。ありがとうをキチンと伝えて有終の美を飾りましょう」
「うん! ファイナルライブまで時間はあるけど、みんなで頑張ろう!」
「「「おー!」」」
さくらたちはファイナルライブのことで上条と山田がアドバイスを送り、ファンを裏切ったんじゃないかというネガティブな気持ちは吹っ切れる。
ファン代表としてアルコバレーノをサポートするためにファンクラブ会長となっただけあって上条はいざという時に頼りになるようになる男となった。
次第にそんな上条の事をさくらはいつの間にか好きになっていて、たくましくなった顔つきを見て異性として少し意識しているのかドキドキしている。
上条はさくらの視線に気づいて照れ、さくらも上条のテレ高尾に照れる。
それを千秋と橙子、みどりはさくらたちを見て微笑んで見守る。
「それで……みんなにもう一つお知らせがあるんだ」
「む? どうしたのだ?」
「実はファンクラブでイベント企画会社を経営している人がいてね。日本だけでなく世界中のアイドルを集めて、世界一のアイドルを競うライブコンテストが今年の年末に行われるんだ。まずはブロックごとに予選を行い、予選を勝ち取ったアイドルが世界一を競うライブ形式の大会が開催されるんだ。部門は実力がものをいうソロ部門。息の合ったパフォーマンスが要求されるデュエット部門。古き良きアイドルのスタイルで花形のトリオ部門。そして4人以上のメンバーでチームワークが試される最激戦区のグループ部門にわかれているんだ。」
上条はファンクラブのメンバーの一人がアイドルオリンピックを主催しようとしていることを話し、アルコバレーノにとって有益な大会を聞く。
橙子が唾を飲み込み、上条に質問をする。
「その大会の名前は……?」
「アイドルオリンピックっていうんだ。みんなにはグループ部門に出てほしいんだ。どうかな?」
「そうなんだ……! じゃあ私たちがここで優勝すれば……」
「間違いなく伝説になるね。そして永遠に語り継がれると思う。有終の美を飾るにはこれが一番いいんじゃないかな」
「めっちゃ面白そうじゃん! そのコンテストに出て優勝してやろうぜ!」
「よーし! ボクも燃えてきたよ! そのコンクールで輝こう!」
「世界中のアイドルがライバルだけど、最高の笑顔になれるパフォーマンスなら負けないよ!」
「世界を二度も救ったのは過去の話です! 栄光に縋りつかず新たな挑戦をしましょう!」
「私たちはアイドルでもあるもの! ここまで来たらやりましょう!」
「となるとSBY48やスマイリング娘。、月光花が好敵手になるだろう!」
「でも大丈夫! 私たちは最高のパフォーマンスが出来る! 私たちらしく頑張ろう!」
「「「おー!」」」
さくらたちはアイドルオリンピックという大会が開催されることを知り、最後の伝説を残すためにやる気になる。
その様子を見ていた山田と上条はアルコバレーノの姿を見て微笑む。
「これでこそアルコバレーノね。私たちが見てきた最高のアイドルだわ」
「はい。彼女たちが吹っ切れて最後までやり遂げられそうですね。おっと、もうこんな時間か。そろそろ退室しましょう」
「そっか。もう時間なんだね。上条くん、山田さん、ありがとうごさいました」
上条と山田はさくらたちを見て微笑み、アルコバレーノが世界一になるんじゃないかと確信する。
こうしてファンクラブの会長を務める上条と、新婚で懐妊した副会長の山田と別れる。
カラオケの達人を出てすぐにアイドルオリンピックが開催されることを純子に報告しようとさくらが携帯を取る。
「もしもし社長? 実はお話があるんです」
『話って何かしら?』
「実はファンクラブの肩とお話しする機会があって、アイドルオリンピックという世界一のアイドルを競う世界的大会が開催されるんです。それで私たちアルコバレーノも出てほしいと依頼されたんです」
『なるほどね。実は先ほどそのアイドルオリンピック運営委員会が私のところに来たわ。ソロ部門に茶山くるみさん、白銀雪子さん、そして夜月暁子さんが。グループ部門にあなたたちに出てほしいとオファーがあったの。ちょうど私もあなたたちに知らせようと思ってたところよ』
「そうだったんですね! それで私たち……アイドルオリンピックに出場します!」
『そう言うと思ったわ! ならエントリーをしておくわね! ソロ部門の三人にはもう伝えてあって、みんなエントリーをしたわ! 最後の伝説、ここで作ってちょうだい!』
「ありがとうございます! 失礼しました!」
さくらは純子に報告すると主催者から話を聞いていた純子によって茶山と雪子、そして暁子もソロ部門でエントリーしていたことを聞かされる。
同時にアルコバレーノとしてグループ部門のエントリーが決まり、さくらたちは大会に向けてモチベーションが上がる。
アイドルオリンピックで優勝し、会場が東京ドームに決まったファイナルライブで『ありがとう』を伝える事が出来れば、アルコバレーノは本当に伝説になるかもしれない。
さくらたちは今やれることをすべてこなし、それぞれの仕事に入った。
つづく!