第100話 決断
アンゴル・モアを倒してしばらくが経ち、アルコバレーノはさらに話題になってオファーも増えた。
中には世界ツアーもやってほしいと、たくさんの海外からのオファーも来ている。
戦いを終えて魔法少女としての役目を果たし、年頃の女の子の生活を送ったりもした。
それでもさくらが気になるのは、自分はたまたまアイドルが夢だったから続けるとして、他のメンバーの本当の夢は何だったのか、戦いのためにアイドルになったことで夢を諦めてしまったのかと考えてしまう。
そんなある日、さくらたちは現場に復帰した純子に呼ばれて社長室に入る。
「はい」
「失礼します。アルコバレーノです」
「どうぞ、入って」
「社長、ご復帰おめでとうございます」
「ええ、ありがとう」
「それで社長、私たちに話って何ですか?」
「ええ。あなたたちにどうしてもその話をしたくて今日ここに呼んだの。これはみんなにとって人生を左右する問題で、そう簡単に答えられないかもしれない。それでも聞いてくれるかしら?」
「社長は今までボクたちをここまで導いて成長させたじゃないですか。どんな話でもどんと来いですよ!」
「わたくしたちは最後までやり遂げました。だからご心配なく申してください」
「みんな……ありがとう。それじゃあ話すわね――」
純子はとても重要な話をするも深く悩んだ顔をし、さくらたちを苦しそうに見つめる。
さくらたちはどんな話なのか気になったのと同時に、何が起こるのかと少しだけ恐怖を感じた。
勇気を出した純子は深呼吸をして、一息ついたところでようやく言葉を交わす。
「あなたたちをスカウトして、アイドルとしてデビューさせ魔法少女の宿命を同時に背負わせてしまったのは私自身の責任。だけどもう戦う相手がいなくなり魔力を補充する必要もなくなった。だけど……私たちの都合でアイドルとして活動させ、あなたたちの叶えたい本当の夢の邪魔をしてしまったのではないか、そんな気がしてずっと悩んだの。だから私はあなたたちの意志や本音を聞きたいの。このままアイドルとして続けるか、本当の夢をかなえるために引退するか……。難しい質問で簡単に決められないのはわかってるわ。だけど……こんな話でごめんなさい。私のせいで、あなたたちの夢の邪魔をしたくないの。あなたたちの本音を聞かせてくれる?」
純子はさくらたちの進路や将来の夢の事で悩み続け、魔法少女として魔力を高めるためのアイドルもする必要がなくなった事で、ずっと宿命を背負わせた自分を責め、さくらたちに本音を聞こうとする。
純子だけでなくスカウトした晃一郎自身もその事をずっと気にしており、晃一郎がさくらたちを見つけて純子がスカウトしたので、二人はずっと自分を責め続けていた。
2年間ずっとその事を気にしていて、気がつけば純子と晃一郎は心に大きな悩みを抱え、そしてアンゴル・モアに晃一郎はその隙に洗脳されかけたのだとさくらたちは悟った。
さくらはアイドルが小さい頃からの夢だったので、アイドルを続けるつもりだ。
しかしほむらたちは究極の選択に悩み、今にも泣き出しそうな表情で下を向いて考え込んでいる。
「アタシは――今までアイドルをやってて楽しかったし、ファンのみんなの熱い応援のおかげで頑張れた。でも……アタシはもっと小さい子どもの将来を担えるような保育士になりたかったんです。だからその事で社長たちは悩んでたんじゃないかって……そう思ってました」
一番先に答えを出したのはほむらだった。
ほむらが質問に答えると次々と自分の考えを純子に言う。
「ボクは空手の選手になってオリンピックで金メダルを取るのが夢でした。でも空手一本だと、正直一生現役ってわけじゃないからスポーツメーカー企業に勤めて、大好きなスポーツそのものを支えられる人間になりたいんです」
「私は……小さい時から警察官をやってるカッコいいお父さんに憧れて、警察官になりたいって思ってました。でも……アイドルとしてみんなの笑顔を見ると、私の本当の夢を諦めた方がいいのかなって……ずっと悩んでました。今もどうしていいのかわからなくて……」
「わたくしは将来の逸材のために中学校の教師になり、将来有望な生徒さんを学問だけでなく、人として社会人としての成長を見守り、世界のリーダーになれるように育てていきたいと思っています。社長や皆さんに出会えたから、世間知らずだったわたくしも変わる事が出来ました。本当に感謝致します」
「私は医学の道に進んで身体の難病や伝染病だけでなく、普通の医療では治りにくい心の病気の治療もしていきたいって思ってました。実はアイドルをしながらずっと医学の勉強をしていたんです。ずっと黙っててすみませんでした」
「私は忍術の知識を活かして日本中のアスリートを裏で支えるスポーツトレーナーになり、健康や練習の管理、そして上に行くためのサポートをしていきたいと思っていました故、アイドルも中途半端にやりたくないとも思っていました」
「私はアイドルになる事が小さい時からの夢で、やっとその夢が叶ったんだって思うと嬉しかったです。もしみんながアイドルを引退してやめたとしても……私はアイドルを続け、みんなに愛をいっぱい与えます。だから社長、水野さん……これからもよろしくお願いします」
「さくらさん……」
さくら以外は他に夢があってどうしても諦めたくないのと、ファンを裏切りたくないからアイドルを続けたいという気持ちの板挟み状態だった。
6人なりにずっと考え込み、究極の選択をいつか迫られるのはわかっていた。
それでも6人は、いざその場面になると気持ちの整理がつかず、答えも悩んだままだった。
そんな時にさくらは、6人の方を見てエールを送る。
「だから……これは私からのエールであり、私自身の本当の気持ちを今から伝えます。それじゃあ……言います! 次に行われる3月のライブが終わったら――アルコバレーノ伝説をおしまいにします!」
「さくらちゃん……」
「さっきのみんなの本当の夢を言ってくれた時、私は凄く嬉しかった。本当の夢を持ちつつ一緒に戦い、ずっと一緒に歌ったりしたよね。でも私はみんなの夢を奪ってまでアイドルをしたくない。このみんなとじゃないとアルコバレーノじゃないから。グループをおしまいにして……みんなに夢を叶えてほしい。私たちがファンのみんなの夢を叶えたように。だから――」
「もうよい、さくら。そこまで一人で抱え込むでない。社長やさくらだけでなく、今まで言えなかった私たちの責任でもあるのだからな……」
「ずっと二人は一人で悩んでたんだね。ごめんね。ボクたち、気付かなくて……」
「社長……せっかくアルコバレーノが大きくなったのに、こんな形で裏切ってごめんなさい。私たち6人はアイドルを引退し、それぞれの夢の道へと歩いていきます」
「そう……あなたたちの意志と責任、そして本音を聞けてよかったわ。アルコバレーノ伝説の終わりの全責任は私が取るわ。水野くん、来年3月に行われるライブをファイナルライブとして準備しましょう」
「本当によろしいのですね……? きっと世界中のファンの皆さんが悲しむと思います」
「ええ、わかっているわ。でもこれはこの子たち自身が決めた道であり、私たち大人はそれを支えて責任を持つ義務があるわ。絶対に成功させないといけないの。」
「わかりました。ではファイナルライブの企画を立てさせていただきます。」
「水野さんも彼のサポートをお願いね」
「はい! 私も皆さんのお気持ちを尊重し、私も一生懸命頑張ります!」
「社長! 本当に今まで――」
「「「ありがとうございました!」」」
「こちらこそ感動をありがとう……! と言いたいところだけど、3月の東京ドームでのライブが終わるまで、最後まで完走するわよ! これから今まで以上に忙しくなると思うわ、心の準備はいいかしら?」
「「「はい!」」」
「それじゃあ最後の伝説まで、走りきるわよ!」
「「「おー!」」」
アルコバレーノの将来が決まり、さくらはアイドルを続け、他の6人はアイドルを引退し本来進みたかった進路へ向かう事になった。
アイドルとして離ればなれになるが、さくらたちはアルコバレーノの友情は永遠に不滅だと確信している。
アルコバレーノの解散と、6人の引退の会見はもうすぐ行われることになり、ファイナルライブの準備も始まった。
つづく!