第9話 絶対守る
ほむらは喧嘩が元で突然出ていった英雄を必死に探し、モノクロ団にだけは見つからないようにと願う。
近所の人に英雄の行方を聞くも、なかなか情報がない。
ほむらは転んでもすぐに立ち上がり、英雄が拗ねた時によく来る場所を思い出してみる。
「英雄がよく来る場所は――あそこか!」
思い当たった場所を思い出し、ほむらは全力でその公園に向かう。
転んで擦りむいた膝が少し痛むが、そうは言ってられないのがほむらの気持ちだ。
ほむらは転んだ痛みに耐えながらその公園に向かって走った。
「何だよ……一郎兄ちゃんのくせに偉そうに……! ほむら姉ちゃんだって……構ってくれないのに今更何で……!」
公園では英雄がブランコに座り、一人でいじけていた。
一人ぼっちなので寂しくなっても兄妹のことを思い出さないようにしているのだ。
思い出すと喧嘩したことを思い出してしまうからだ。
「君一人かい? 随分悲しそうだねぇ。おじさんのところについていかないかい?」
「学校や家族から知らない人について行くなって言われてるんで……いい」
「そう言わずについて来なよ。おじさんがいい所へ連れてってあげるから」
「離せよ! 誰か! 助けてーっ!」
謎の男性は英雄に声をかけ、自分についていくように促す。
しかし英雄がそれを断ると謎の男性はさらおうとして、英雄は怖くなって大声で助けを呼ぶ。
「英雄! おい! 何しやがるんだてめぇ!」
英雄が助けを呼ぶとほむらが息を切らしながら公園に着き、男性が英雄を誘拐しようとしているところを見つけ男性に体当たりしながら引き離す。
ほむらの体当たりで男性が倒れると、英雄は真っ先にほむらの方へ走る。
「ほむらお姉ちゃん!」
「大丈夫か?」
「う、うん!」
「この野郎……ガキの癖に大人に歯向かうんじゃない!」
「逃げるぞ!」
ほむらは英雄の手を引っ張って逃げようとするも、どこかでミステリアスな謎の少女が男性を見てニヤリと笑みを浮かべる。
「クックック……いい条件の人見つけたよ……。モノクロ心を解き放ち……世界を絶望の黒に染めたまえ…」
「うぐっ……うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
謎の少女が呪文を唱えると、また胸から黒い魔力が解き放たれ男性は魔物へと変身する。
モノクロ団がこっそり男性を利用して魔物に変えたのだ。
魔物になる人は何かしら心の闇を抱えていて何か誘拐しようとした理由があるとすぐに察した。
男性は人間から人狼に変身し、今にも襲い掛かりそうなキバとツメを尖らせて吠えていた。
「ほむら姉ちゃん……! 膝……!」
「こんなの大したことはねぇ。英雄だけでも家まで逃げろ!」
「嫌だっ! せっかく助けてくれたほむら姉ちゃんを置いて逃げられない!」
「英雄……!」
ほむらは先ほどの体当たりで膝をすりむき、走ることが難しいくらいに痛みを感じる。
自分を置いて逃げるように促すも、英雄は助けてくれたほむらに恩があり置いて逃げることはなかった。
「ガルルル……お前ら美味しそうだな……。お前らの肉を食いちぎって売りさばいてやる……!」
魔物となった男性を見てほむらは英雄の前に立って英雄を守ろうとする。
魔物は英雄を目掛けて食べようとし、ほむらは一瞬で何かしらのトラブルが原因でモノクロ団に心の闇を利用されたんだと考察する。
それでも大事な弟である英雄をさらおうとしたことには怒りの感情があったが、それよりも心の闇の原因を取り払って二度と同じことをさせないようしようと決意する。
「随分追い詰められてるんだな……。お前の目を見ればわかるさ。何故英雄を誘拐しようとしたかは知らねぇが、アタシの大切な弟に指一本触れさせやしねぇ! アタシは熱い心を持った赤城ほむらだ! 英雄を……必ず守る!」
ほむらは大切な弟である英雄を絶対に守り抜くと決意を叫ぶとネックレスが赤く光り、空から赤くて心まで熱くなるような光が降り注いだ。
ほむらはついに魔法少女に覚醒する。
「ほむらさん……覚醒したのですね! 早くマジカルチェンジを!」
「英雄くんのことは任せて!」
「おう! 美しい虹色の世界よ、与える愛で私に力を与えたまえ! マジカルチェンジ!」
後から心配になって駆けつけた海美とみどりはほむらに変身するように言い、ほむらはネックレスに願いを込めて変身する。
変身魔法を唱えると身体が赤い炎に包まれ、両手には日本の武将が使っていた十文字槍を手に持ち、衣装は赤いノースリーブのチョリというインドのインナー、下はタヒチの衣装である巻きスカートのパレオが装備された。
露出が多少あるがパレオの下は黒いハーフスパッツが穿かれ、足もアラビアやエジプトのベリーダンサーみたいな黄金のサンダルで足が固定され、腕や腰に黄金のアクセサリーがついた踊り子らしい動きやすいデザインになっていた。
黄金に輝く装飾品を多くまとい、アラブのダンサー風の衣装となった。
「燃える炎は赤き鼓動! 情熱なくして未来なし! 赤城ほむら! 何があったか、浄化してから聞いてやる!」
「グルルル……今更覚醒してももう遅い! まずお前から肉を食いちぎってやるよ!」
「やれるもんならやってみやがれ!」
ほむらは槍を魔物に向けて穂先を突き出す。
しかし魔物は狼人間なのでとても素早く、接近戦が弱点の槍ではとてもとらえきれなかった。
正面からであればリーチを活かせるが、街のようなごちゃごちゃした閉所ではなかなか思うように動けなかったのだ。
熱い気持ちで立ち向かっていったが、自分にとって不利な状況となって一気に不利となった。
「この程度か……もうお前に構っている暇はもうない! あの小僧を食いちぎって、売りさばいて借金のカタをつけてやる!」
「借金……? なるほど、そういう事か……」
借金があって何かしら抱えていると考えていると、魔物はほむらに襲い掛かろうとする。
「お待ちなさい! あなたは何故その様な事をしてまで英雄くんを狙うのでしょうか……? 今のあなたは心が荒んでいます。それに……ほむらさんの大切な方の命を奪う事は私が許しません!」
「そうよ! あなた、さっき借金って言ってたわね? その理由が話せないほど余裕がないのなら、私たちがあなたを浄化してからゆっくり話してもらうわ! その声だときっと社会人のようね……。あなたの受けた理不尽を私たちが助けてあげるわ!」
ほむらのピンチに海美とみどりはほむらの目の前に立ち、ほむらをまもる決意と男の事情を知ってしまったので浄化して更生させると叫ぶ。
すると今度は緑色と青色の光が同時に降り注ぎ、みどりには心地のいいそよ風、海美には優しく包むようなさざ波が包み込む。
「アタシの時と同じだ! お前らも変身を!」
「ええ!」
「はい!」
「「美しい虹色の世界よ、与える愛で私に力を与えたまえ! マジカルチェンジ!」」
二人は水と風に包まれ、みどりの両手には中世のイギリス軍が使っていた弓であるロングボウを手に持ち、衣装はフォレストグリーンのフリンジのついたペルーの民族衣装のポンチョ、ミントグリーンの裾にフリンジがついたアメリカ先住民風のワンピースが着られ、靴はキャメルのロガーブーツ、アンデス地域や北米先住民風の服になった。
一方海美は片手でも両手でも使える西洋のバスタードソードが召喚され、剣士の様な金色のエポーレットという肩の装飾がついたロイヤルブルーの裾の短いマタドール風のボレロ、その下には白のブラウス、海をイメージさせるロイヤルブルーのブーツ、下に白い貴族風のミニスカートの衣装で、襟元には水色の巻きリボン、腰には水色の腰巻きとスペインのマタドール風の服となった。
「荒んだあなたの心を癒す! 知性を運ぶ緑のそよ風! 葉山みどり!」
「広い心は海のごとく! クールで優しき青いさざ波! 青井海美!」
「仲間が増えたか……まぁいい。どっちにしろお前らを食いつくしてやるわ!」
「わたくしにいい考えがあります。ほむらさんの槍ももちろん活かすことも出来ます。実は――」
みどりは街並みを見てひらめいたのか、ほむらと海美に作戦を伝える。
「よっしゃ、やってやるぜ!」
「いいわね、賛成よ。」
「いくぜ! これがアタシたちの連携魔法だ! 火柱落とし!」
「ぐっ……! 正面から叩くって正気かお前!」
「狙いを定めて……フォレストアロー!」
「うぐぅっ……!」
「まだこれからよ! オーシャンソード!」
「ぐはぁっ!」
まずはほむらが正面から突破し、家の壁に隠れてみどりが矢を放つ。
そこで背後から海美が剣で斬りかかり魔物の動きを封じる作戦だった。
「頑張れお姉ちゃん!」
「おのれぇっ!」
「英雄っ!」
「一郎兄ちゃん!」
「大丈夫か!?」
「うん! それよりもお姉ちゃんがヒーローになったんだよ!」
「何だって……!?」
魔物を追い詰めると後からついて来た一郎たちが駆けつけ、英雄を必死に守ろうとする。
魔法少女になったことをほむらの兄妹たちに見つかり、ほむらは額に手を当ててため息をつく。
しかし戦闘では連携が上手くいって魔物の足元が不安定になり、ついに動けなくなった。
ほむらは後から駆けつけた一郎たちに気付き、一気に必殺技を決める準備をする。
「お姉ちゃん! あの化け物はもう動けない! チャンスだ!」
「よっしゃぁ! 必殺技を放つぞ! ファイヤーインパクト!」
「タイフーンアロー!」
「ビッグウェーブソード!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
魔物はそのまま浄化して、さっきの40代後半くらいの無精髭が生えたボサボサのロン毛の男性に戻った。
男性はかなりぐったりしていて、もはや抵抗する気も起きない状態だった。
借金関係で一体何が男性をそうさせたのか心配になり、三人で声をかける。
つづく!




