カラスと雪の日
とっても暑い夏の日でした。
真っ黒で大きなカラスが、せっせと雪の形を描いています。
大きな机の上には、色んな六角形の雪の型紙。
クネクネした定規や、角ばった定規。
冬に、たくさんの雪を降らせるために、カラス達は、一年中、雪を作っているんです。
「お父さん、遊ぼうよー!」
子供のカラスはつまらなそう。
「これが終わってからな。」
父さんカラスがそう言うと、子供のカラスは「チェッ」って言いながら、出て行きました。
「あまり遠くへ行かないでよ。」母さんカラスの声。
「ふんっふんっふんっ!」
子ガラスは、森を抜けて、いつもの牧場へ降り立ちました。
羽を休めていると、向こうから、茶色いお馬が走って来ます。
「また来たの⁈ いいなぁ、鳥って! 好きなとこ行けて!」
お馬はニコニコ顔。
「鳥なんて、良いこと無いよ。空の仕事は、大体、鳥がやるんだぞ。」
子ガラスは、少しえらそうに言いました。
それから、子ガラスは、空の色を決める仕事、雲を作る仕事、そして、雪を作るのも鳥の仕事だと、お馬に教えました。
お馬は、空を見上げながら、「へえー、すごいなぁ。鳥さん、すごいよ!」と目をかがやかせました。
「すごくないよ。おれは鳥なんかより、地面を走り回りたかったよ。」
「そうなの? 雪、大好きだよ!」
「え?」
子ガラスは、お馬にほめられて、びっくり。
「冷たくて、ふわふわで、雪って素敵だよね。」
お馬は、雪を思い出して目を細めました。
子ガラスは、なんだかうれしくなって、恥ずかしくなって、ぴょんぴょん飛びはねてしまいました。
「カラスの相手なんてして、変わった子!」
他の馬達にそんなこと言われても、お馬は平気でした。
子ガラスは、お馬の知らないことを、たくさん教えてくれました。
飛べないけど、走れないけど、ふたりはとても仲良しでした。
子ガラスとお馬は、夏の間、昨日みた夢の話をしたり、大きな枝を拾ったり、光るゴミを見つけたりして、遊びました。
その日、子ガラスは、馬になって走ってる夢をみました。
うれしくて、早く話したくて、子ガラスは、いつもより早く牧場へ飛んで行きました。
ところが、お馬は見当たりませんでした。
(早すぎちゃったかな?)
ところが、お馬は、その日、いつまでたっても現れませんでした。
それから子ガラスは、来る日も来る日も、お馬をさがしました。
だけど、お馬はどこにも居ません。
他の馬にききましたが、「知らないわ。」とそっけない返事があるだけでした。
すっかり夏は終わって、子ガラスは出かけなくなりました。
出かける所が無いからです。
母さんカラスが心配そうに、「父さんの仕事、手伝ってみたら?」と子ガラスに言いました。
「父さんみたいに上手くできないよ。」
子ガラスは、寝床へ行って、目をつぶりました。
カタカタと、木枯らしの演奏が聞こえました。
地上の鳥達の準備がすむと、秋から冬の始まります。
そこは、真っ暗でした。
真っ黒だけど、明るい。
子ガラスは、ブルッとふるえました。
雪が降っています。
明るいと思ったのは、雪でした。
風がおきて、吹雪のように雪が舞い上がります。
お馬が、楽しそうにこちらへ走って来るのが見えました。
子ガラスは、うれしくて、大きな声で呼びました。
何度も何度もよびましたが、声は出ません。
お馬のたてがみについた雪が、宝石のようにキラキラとこぼれました。
(父さんの雪だ。)
わずかな光を集めてキラキラと光る雪が、子ガラスをつつみこみます。
お馬は、子ガラスを通りぬけて、暗闇へ消えて行きました。
子ガラスは、泣きながら目を覚ましました。
母さんカラスが、子ガラスの羽を優しく撫でています。
子ガラスは、寝たふりをしていました。
***
あれから、何年もたちました。
子ガラスは、もうりっぱな大人のカラスになりました。
父さんに仕事を教えてもらって、今では父さんといっしょに雪を作っています。
子ガラスは、たくさん勉強して、機械を使って型紙が作れるようにしました。
なかなか評判が良いんですよ。
カラスは、何度も夢の中で、お馬と話をしました。
どんな雪が好きか、ふたりで夢の中で会議をしたのです。
ふわふわで、大好きって、言ってもらいたいから。
雪が降れば、どこに居ても、お馬はきっと、カラスのことを思い出すでしょう。
「パパ、遊んで!」
振り向くと、あの頃のカラスと同じくらいの子ガラスが、プンプンおこっています。
「わかったよ。」
カラスは、仕事の手を止めて、子ガラスの頭を撫でました。
「ちょっとお出かけしようか。」
カラスは、子ガラスを連れて、あの牧場へやって来ました。
あれから、一度も来たことがなかった場所です。
「パパ、お馬さん、いっぱいいるね。」
子ガラスがはしゃいで言いました。
カサカサと、枯れ葉が踊る音がします。
実は、今日は、これから初雪が降るのです。
空では、カケス達が、大急ぎで空の色を変えているところでしょうか。
音の無い、雪の大舞踏会が始まります。
カラスは、自分の雪を誇らしく眺めていました。
子ガラスは、雪に合わせて、羽を動かして遊んでいます。
その時、後ろからなつかしい声。
「これ、君が作った雪でしょ?」
カラスは、びっくりして飛び上がりました。
「ふわふわ! 大好き!」




