投票結果発表・完走した感想など
〇投票結果(1位、2位のみ公開)
【1位】東京ダンジョン(鈴本恭一) 12pt
【2位】ダンジョン☆チャンネル(緑黄色野菜) 11pt
〇各作品への感想
【1】ダンジョンのWi-Fi業者~ダンジョン配信のウラ側、全部見せます~
作者:toko_juya
〈他参加者からの感想〉
・ダンジョンマスター側になるのが意外性があった。(鈴本恭一)
・華やかな物の裏には死体の山がある、をきっちりつかんでいました。
最後の展開が少し急だったかなぁと思いますが、怨嗟をしっかりと積み上げて解き放てていたと思います。(緑黄色野菜)
・主人公が表には出さないものの気難しいメンタリティをしていて、いかにも現代っ子という印象。あとバトル脳としては鉄の茨を作る能力で放電の攻撃範囲を広げるシナジーが組まれていてよかったです。
主人公がダンジョンマスター側になる作品自体は以前からハイファンタジーとかでありましたが、「現代社会でのサクセス」と結びつけづらいのか、ダンジョン配信物ではあまり見ないので新鮮でした。オーソドックスな「うだつの上がらない俺がダンジョンで美少女配信者を助けて大バズ」的な作品は既に飽和しつつある印象なので、今後は既存ジャンルのエッセンスを取り入れた作品がもっと出てくるかもしれません。(海雀撃鳥)
〈作者より〉
「ダンジョン配信」について考えたとき、真っ先に突き当たったのが「ダンジョン配信」という題材の特異性、難しさです。そもそも小説自体語り手によるある種の生配信、実況のアーカイブなので「あれ?結局普通の富と名声をめぐる冒険譚にしかならないのでは?」という疑問が湧きました。
しかし撮影「しながら」行っているのがダンジョン配信。「そんな迷宮で機材の電波が繋がるのか?…いやWi-Fiでも繋がっているんじゃないか」とアイディアを思いついたので参戦することにしました。
・「ダンジョン配信の裏側で働いている人」をモチーフにするため、一万文字以内でその世界でのダンジョンや冒険者の事情を盛り込む
・起承転結を作る
自分の中でこの二つの課題を定め、執筆にあたりました。これが達成されているかは、他の方の感想を参考にしたいと思います。また、「小説家になろう」での投稿を踏まえた改行が出来ていなかったのが反省点です。
確実に読んでもらえて、確実に感想がもらえる今回の企画はとても楽しかったです。次回も参加したいと思います。
最後に、拙作を読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。(toko_juya)
◇
【2】東京ダンジョン
作者:鈴本恭一
〈他参加者からの感想〉
・科博は小さい頃から何度も行った大好きな場所なので、見知った展示が敵として登場するのにすごくワクワクしてしまいました。武器の入手方法や運用方法も端的に描写しているのでくどくありませんし、現代の東京を舞台にしているからこそ状況も思い浮かべやすい。まさに「現代ファンタジー」の強みを活かしています。視聴者のコメントも、敵の特徴や戦闘状況の描写に有効活用しているので話を停滞させていません。
ユドもラピも人間ではないことが徐々にわかっていくにつれて、言いようのない緊張感もはしりました。誰もがスリルに夢中になっていく、テーマパークのように狂った世界。でもそこを相棒と軽口叩きながら駆けていくエモさが素晴らしかったです。こういう危険と爽やかさが両立した作品に、私は弱いんです。(toko_juya)
・青空のように透き通る雰囲気を想起させる描写に惹かれました。(七篠狐)
・正直どういう世界観なのかがわかりにくく、いまいちのめり込めませんでした。
とはいえ情景描写はしっかりしており、コメントとの応酬などはこの中で一番配信をしていたと思います。(緑黄色野菜)
・寂寥感が漂う世界観。ダンジョン配信物で「(地名)ダンジョン」と言ったらたいてい「その土地に入口があるダンジョン」みたいな意味になりますが、今作においては東京そのものがダンジョンと化しており、スケールが大きくて新鮮に感じました。
主人公がいかにも機械機械した火力支援マシン(そのくせ喋り方は人間臭い)なのが性癖に合っていました。実在銃火器だけでなく、ビームサムライソードや射出型マニュピレータといった未来的ガジェットも活用して戦闘を進めていたのも好印象。「東京そのものがダンジョン化している」という設定が一発ネタで終わらず戦闘で活用されているのも良かったです。(海雀撃鳥)
〈作者より〉
つらかった…とにかく過去最高につらかった…。
ダンジョン配信とはなんぞや、というところからスタートし、かつここに一万字以内厳守というルールが組み合わされて無茶苦茶きつかったです。
世界観を出そうとするシーンを作ろうとするとそこで字数が消費され、肝心のメインイベントを描けない。
メインイベントを描くために文字数を使うと世界観を描写しきれない。
結果としてパワープレイの連続になり、「いや無理あるだろこれ…」という気持ちとの戦いでした。辛く苦しい戦いでした…
(この作品を書いているときに、国立科学博物館がクラウドファンディングをするというニュースを見て、必ず書かなければと思いました)
最終的には自分の趣味をぶちこんだので、やれることはやったと思います。
皆さまお疲れさまでした。
◇
【3】ダンジョン・トレーサー
作者:七篠狐
〈他参加者からの感想〉
・ダンジョン内をパルクールしていくというゲームのルールを説明させつつ、メンバーのロールや使用する「レリック」の特徴もぎゅっと描く手法が素晴らしいです。攻略に「セッション」という名称をつけているのもセンスがいいです。危険や不確定要素さえも取り込んでパフォーマンスに仕上げていく一連の流れに、これ以上相応しい名前があるでしょうか。
私も視聴者の一人として、すっかり楽しんでしまいました。(toko_juya)
・人数が多くて華やか。設定も多彩。1万字制限とは相性が悪かった(鈴本恭一)
・この中で一番(ゲーム的な)ダンジョン攻略をしていたのはこの作品だと思います。
タイムアタックをしているようなスピード感を感じました。ロールごとの動きや性格の違いもよく描き分けられています。(緑黄色野菜)
・明確なダンジョンマスター(ダンジョンを生み出している存在)がいるタイプの世界観。ダンジョン配信がエクストリームスポーツとして扱われており、主人公たちもYoutuber的な配信者というよりは登山家とか競技者チーム的な振舞いなのが印象的。個人的にダンジョンを踏破すればするほど新しいレリックを入手して強くなっていくという設定が好きです。
もともとダンジョン配信自体がゲーム的に進行するジャンルではありますが、本作は特にアクションゲームをそのまま文章化したようなスタイリッシュアクションを真っ向からやっており挑戦的でした。ただキャラの数と固有名詞が若干過積載気味で、それらの説明に文字数が割かれた結果、アクションがやや減速しているような気もします。最初に各キャラの名前・容姿・ロールをひとりずつ提示するパートが欲しかったかも。(海雀撃鳥)
〈作者より〉
元々はダンジョン攻略に挑む高校生グループの話にする予定でしたが、締め切り一週間前になって「ペルソナって良いよな……」という天啓が舞い降りた結果、一から書き直して出来上がったものがこちらとなります。死ぬかと思った。
今回文字数も上限が設けられたお陰で、直前まで削りに削りを重ねたり、それにあわせて文章を修正したり等々……終わりの見えない中で締め切りが目前に迫る状況。後先無くなると人間って最強になれるんだなあ? と謎の狂気に満ちながら最後まで突き抜けていきました。でもとても楽しかったのでOKです。
改めて、この場を設けていただいた主催の方に感謝を。ありがとうございました。
・余談
今日の献立は去年買った「舞鶴海自カレー」。食い物系のお土産を溜め込み過ぎたせいで対処に追われまくってます。
◇
【4】ダンジョン☆チャンネル
作者:緑黄色野菜
〈他参加者からの感想〉
・ダンジョン配信に使う機材や撮影班の存在等、面白いアイディアが満載でした。私のお気に入りはミニカーです。配信者も視聴者も同じ目線に立って騒げるのが魅力的です。
ダンジョンの元となった倉庫に関するエピソードは、似た題材でもほっこりした仕上がりになっていましたし「配信」と「観客一人のソロライブ」の対比に唸らされました。(toko_juya)
・攻略法を考えるところや家主の思い出等が良かった(鈴本恭一)
・既存の建物が不意にダンジョン化するタイプの世界観(私の中でダンジョン配信と言えばまずフリーゲームの『ダンジョン・チューバー!!!』なので、個人的には馴染み深い設定でした)。
個人的にこの作品が一番総合点が高かったように思います。ストーリーにきちんと落としどころが設けられているのもそうですが、使うガジェットが改造ラジコンや唐辛子入りの試験管といった素人のDIY品だったり、撮影班との会話が全体的に俗っぽかったりするあたりに「その辺の兄ちゃん姉ちゃんがドタバタやりながら攻略してる」感が出ており、ダンジョン配信物というジャンルの魅力がストレートに表現されていました。(海雀撃鳥)
〈作者より〉
自分の作品の感想としては、説明不足が目立ったなぁと思いました。
投稿された作品として見直してみると描写が不足していることに気づくのが多く、作者として説明できた気になっていたという反省があります。
短くまとめることの難しさを改めて思い知りました。
テーマとしての感想は、創っていてこれ食い合わせがめちゃくちゃ悪いのではと思いました。
ダンジョンとは危険地帯であり、その探索を配信すること自体はゲーム配信の延長になりますが、ゲームと違い移動、イベントが完全に不定期となるので取れ高にはずれがある場合が多い。
現実、現代に出てきてしまった場合、そこから得られる資源を加味しても、場所の封鎖や交通網の変更でお役所仕事が天手古舞になる。
そもそも配信は娯楽を求められるゆとりがあるからできるのであって単純に危険地帯でやってしまうのは迷惑系になる。
などなど、設定を練っている時に、どんどん制約が出てきて、こういう作品が世に少ないわけだと納得しました。
この際俺の世界ではできるんだよ!でもいいとは思いますが、せっかくなので現代にダンジョンが現れたらどうなるか、を前面に押し出せるようにしました。
東京駅がダンジョンだ!ネタもやろうかと思ったのですが、単発でやりきれないことと、交通網への被害がどうあがいても尋常じゃないことと、もうちょっと身近なところにダンジョンがないと配信ジャンルとして成り立たないと思い保留にした経緯があります。
それが少しでも皆様に伝わり、共感していただければ幸いです。
では、またどこかで。
◇
【5】DEBU_DUNGEON 1日目
作者:海雀撃鳥
〈他参加者からの感想〉
・かけあいがメインなので、ダンジョンの事情を描写する際に説明感が少なくすらすらと読めます。「配信していた」ことで、敵に狙われる構成は物語のゴールも分かりやすく、緊張感をもって読めました。
サプライズ荷電粒子砲は卑怯すぎるので、今度の作品でも取り入れようと思います。(toko_juya)
・落ち着いた雰囲気と手慣れたキャラ描写。切り札を持っているのが老獪さを感じさせて良い。(鈴本恭一)
・最初は普通のおじさんものかと思いましたが、最後の描写を見てよく読みかえしてみるとサイバーパンク味を感じられる不思議な作品でした。(七篠狐)
・短い中にも世界観の説明と起承転結がしっかりとあってよくまとまっているなぁと思いました。
DEBUにも理由があるしテンポも軽やかでまさに動けるデブそのものと言えるでしょう。(緑黄色野菜)
〈作者より〉
私見ですが、なろうやカクヨムに存在するダンジョン配信物の基本構造は、VRMMO物から「ゲームである」という前提を外し、「配信」という要素を追加したものです。
VRMMO物の基本となる日常(現代日本)パートと非日常パートを行き来する構造を、ダンジョン配信物は「ゲーム」を「ダンジョン」に置き換える形でほぼそのまま引き継いでいます。
また、定番である「掲示板回(主人公の行動や作中の情勢についてのネットの反応だけで構成される回)」がダンジョン配信物においても広く見られることからも、これらふたつのジャンルの類似性が見て取れます。
しかしダンジョン配信物の特徴的な点は、「ゲーム感覚だがゲームではない」ということです。
冒険の舞台が現実世界であるため、非日常での活躍と報酬はそのまま現実の生活に反映されます。そこに「配信」という概念まで加わるので、「ゲーム感覚で活躍したら大金貰える上に視聴者からのヨイショと投げ銭まで貰えてハッピーハッピーやんケ」という次第です。もはやカタルシスの波状攻撃です。
ところがその反面、「これはゲームである」という前提を失ったことで、ダンジョン配信物はジャンル自体がドデカい構造的欠陥を抱えています。「ゲームではないのに何故かどいつもこいつもゲーム感覚でいる」ことです。
強敵と戦うことを楽しめるのも、一般人が危険地帯に立ち入れるのも、視聴者がその様子を見ながら気楽にコメントだのスパチャだのを送っていられるのも、それが死の危険がないゲームだからです。何とか現実においてゲーム感覚で活躍できる説明をつけなければ、作中世界のリアリティとか倫理観が根底から崩壊してしまいます。
先行作品はこのジレンマをどうしているのかと思い、いくらか漁って読んでみました。
その結果、大部分が「特に説明しない」という手をとっていることが解りました。
まさかのノーガード戦法です。
「そんなんでいいのかよ」みたいな気持ちがないでもないんですが、ジャンル自体が流行っていれば「よく考えたらおかしいんだけど、このジャンルはこういうもの」という暗黙の了解が形成されるので、具体的に文句をつけられるまではいかないんだと思います。
あとカタルシスの乱れ撃ちが主兵装のジャンルなので、下手に「ダンジョン配信では安全のためのルールがあって…」とか「ダンジョン外でのスキルやアイテムの使用は法律で…」とか理屈をこねて主人公の行動に制約をつけてしまうよりは、細かいところに目がいかなくなるくらいカタルシスを連射した方が強いのかもしれません。フィクションは「破綻のなさ」より「面白さ」の方が重要なので、それもひとつの割り切りだと思います。創作って本当に面白いですね。
それはそれとして過去一難産でした。多分次はもっと上手くやれると思います。
最初は一言もしゃべらない主人公が身長40センチくらいのモチモチしたぬいぐるみみたいな生き物と一緒にダンジョン脇で配信者相手にレストハウスを営む日常物で書いていたのですが、「ダンジョン配信物なのに配信やらないのは”逃げ”じゃないッスか?」と心の中の芹沢あさひちゃんが忌憚のない意見をぶつけてきたので急遽ゼロから書き直しました。
ただ途中で「主人公の身体から突然荷電粒子砲が出てきたら面白いんじゃない?」と思いついたこともあり、結局手癖である殺伐メカニック戦闘に逃げた気もします。
前に知り合いに「ドラゴンよりヒグマの方が好きなタイプ(ヒロイック・ファンタジックな描写より生々しい暴力の方が好きだろの意)」って形容されて悔しかったので、正統派な戦闘描写をもっと研究したいですね。なんかこうかっこいい呪文を唱えたら光とかがバーってなるやつ。あと書けるキャラの幅も増やしたいです。
◇
〇主催者より結びの言葉
再び続いてしまった小説闇鍋企画第3弾、皆様ご参加ありがとうございました。
今回は前回、前々回に比べてテーマを絞り、「ダンジョン配信物」に限定して募集を行いました。
これまでのキーワードだけ提示して解釈は自由とするスタイルだと、各々の得意分野にジャンルが偏りがちだったので、たまにはまったく未経験のジャンルにも挑戦してみようという算段だったのですが、その結果多くの難産を生んだようでちょっと反省しています。ただ実際「新しいことにチャレンジできた」という声も頂くことができたので、その点ではやってみてよかったと思います。
第4回は未定ですが、そのうちやるかもしれません。
参加者の皆様、こうして作品に目を通してくださっている皆様に心より感謝いたします。どうもありがとうございました。あばよ! イェーイ!