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最下位魔女の私が、何故か一位の騎士様に選ばれまして  作者: シロヒ
第三部

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第一章 4



 食事を終えて教室に戻ると、多くの生徒たちが雑談に花を咲かせていた。

 リタとローラがそれぞれの席に向かっていると、リーディアの取り巻きの中から「ええっ⁉」という驚愕の声が聞こえてくる。


「リーディア様、実行委員会に立候補されないんですか?」

「ええ」

「どうしてですか? 一年生の頃は絶対にやるっておっしゃってたのに」

「だってそんなことしたら、セオドアと過ごす時間が少なく……。い、いえ! なんでもありませんわ‼」

 不自然に頬を赤らめるリーディアを見て、周りにいた女子生徒たちは「あら……」「それは……仕方ありませんわね……」と語気を弱めていた。どうやらリーディアの本命がランスロットではなくセオドアであったことがようやく周知されたようだ。

 そんな初々しい光景をリタが遠くからぼーっと眺めていると、外から授業の始まりを告げる鐘が鳴った。ほどなくして魔女科担任のイザベラが足早に教室を訪れ、教卓から生徒に向かって話しかける。


「今日は皆さんに一つ、話し合っていただきたいことがあります。当学園の学園祭についてはご存じですか?」


 教室内の空気が一気に軽くなり、生徒たちがチラチラと期待を込めた視線を交わしている。そんな和やかな雰囲気をイザベラはばっさり断ち切るように続けた。


「日頃の研究発表というのが主な目的になりますが、それ以外にも屋台、学園演劇への参加など数多くのプログラムが予定されています。まずはその取りまとめ役に当たる『実行委員』を決めておきたいと思いまして」

「具体的にどんな仕事をするんですか?」

「各クラスの展示から材料の買い出し、屋台の衛生管理……。それ以外にも全体の経理や案内係といったいわゆる雑務になります。各クラスから一名を選出し、それぞれの学年をメインとした連絡・調整の役目もありますね」


 クラスメイトたちがいっせいに「なんだか大変そう……」と顔を翳らせる。


「ちなみに実行委員になった者は他のプログラムへの参加が出来なくなります。当日も来賓への接待がありますので、自由に見て回ることは難しくなるかと」

「……どうしましょう、わたし演劇に参加したかったんですけども」

「私も、婚約者と一緒に見て回る約束をしていて……」


 ほんわかとした空気から一転、雨が降る前のどんよりとした雰囲気に変わっていく。三年に一度しかない一大イベントだというのに、事務や案内といった地味な仕事ばかりではたしかに盛り上がらないだろう。

 リタはそんな周囲のざわめきをぼんやりと聞き流していた。


(実行委員……大変そうね)


 本来であればリーディア辺りに白羽の矢が立つのだろうが、昼休み終わりに繰り広げられていた会話を聞く限り、彼女が自ら名乗り出ることはなさそうだ。遠慮がちだったざわめきが次第に大きくなり、生徒たちの顔に焦りが浮かび始める。

 そんな状態を見かね、イザベラが「こほん」と咳払いした。


「それでは、まずは立候補者を募ります。やってみたいと思う人は? ……いいでしょう、希望する人はいないということね」


 するとどこに隠し持っていたのか、イザベラは教卓の上にドン、と木筒を置いた。

 中には細い木の棒がクラスの人数分入れられており、全員がごくりと息を吞むなか、イザベラが眼鏡の位置を正しながら説明する。


「ここは公平にくじで決めましょう。引いた棒の先に赤い印があった人が実行委員です。選ばれた人はその役目を真摯に遂行し、それ以外の人は委員の負担にならないよう協力すること。いいですね?」


 とても異議を唱えられる空気ではなく、前の席に座っていた生徒から教卓に向かい、ひとりずつくじを引いていく。何かの審判でも受けているかのような光景を見つつ、リタは自分の席で「はあーっ」と深い溜め息を吐いた。

 けして学園祭のことに興味がないわけではない。今までであれば何を食べようかとローラと相談したり、ランスロットと当日の予定を合わせたりしていただろう。だが当のランスロットがあの状態では――。


(学園祭……ランスロットは好きな人と回るのかな……)


 再び、見も知らぬ令嬢と学園祭を楽しんでいるランスロットの姿を想像してしまい、リタはひとり頭を抱える。するとイザベラから「リタ・カルヴァン」と突然名指しされた。


「次はあなたです。早くしなさい」

「あっ、はい!」


 いつの間に自分の番が来ていたのだろう。リタは慌てて立ち上がると木筒の置かれている教卓に向かう。中の棒はすでに三分の一まで減っており、ここに来るまでに大きな声が上がらなかったことを考えると、どうやらまだ当たりは出ていないようだ。

 まだくじを引いていない生徒たちのじりじりとした視線を感じ取り、リタは何かを考える余地もなく適当な木の棒をひょいと抜き取る。その先端を見て我が目を疑った。


「うそ……でしょ……」


 何度か見直してみたが間違いない。

 握りしめた木の棒――その先にハッキリとした赤色の印が付いていたのだった。







 快晴となったその日の午後。

 中庭では騎士科の実技訓練が行われていた。数分ごと、もしくは勝敗がついた時点で組む相手を交代し、休憩時間まで戦い続けるというものだ。


「……っ!」


 ランスロットは普段よりも数段険しい表情を浮かべながら、対戦相手に向かって木剣を打ち込んでいた。すると当たり所が悪かったのか、はたまたランスロットの力が強すぎたのか、相手の木剣が根元から折れ、カランカランと地面に転がり落ちる。

 対戦相手がぞっとした顔をしていると、騎士科担任の声が響きわたった。


「そこまで! 十五分後に再開するぞー」

「はいっ!」


 男子生徒たちは揃った返事をしたあと、各々疲れ果てた様子で校舎の日陰や水飲み場へと移動する。すると一部の生徒たちがランスロットの方にチラチラと視線を向け、彼に聞こえないようひそひそと話し始めた。


「なあ、今日のランスロットやばくなかった?」

「分かる。超怖かった」

「鬼気迫るっていうの? オレ剣折れた時、マジで殺られるって思ったし」

「何かあったのかなあ……」


 真面目でちょっと融通が利かないタイプではあるが、座学の分からないところを教えてくれたり、実技でも教師が気づかない細かな癖を教えてくれたりするいい奴だ。それにけして今日のように無茶苦茶な戦い方をする方ではない。

 いったい何が……と他の生徒たちから心配されているとも知らず、当のランスロットは大きな木陰の下にどかっと座り込む。持っていた水筒から水を飲んでいると、アレクシスがニコニコしながら近づいてきた。


「お疲れ。今日はどうしたの?」

「なにがだ」

「すっごい荒れてたからさ。みんな怯えてるよ」


 アレクシスが一角に集まっているクラスメイトたちに視線を向けたのを見て、ランスロットも一瞬そちらに目を向ける。だがすぐに正面を向くと、水筒の残りに口を付けた。


「別に。いつも通りだろ」

「もしかしてさあ、リタとなんかあった?」

「っ!」


 飲んでいた水をぶほっ、と勢いよく噴出する。

 おそるおそるアレクシスの方を見上げると、彼は心底嫌そうな顔で眉根を寄せた。


「あーもー絶対そうだと思った。君、分かりやす過ぎるんだもん」

「なっ、何を根拠にそんな」

「だってあからさまに避けてるでしょ。こないだの合同授業なんてリタのこと意識してるのがバレバレで目も当てられなかったし」

「バッ……」


 必死に反論しようとしたが、その通りなので何も言い返せない。すると沈黙するランスロットにアレクシスが練習用の木剣を突きつけた。


「もしかして、リタに手を出したの?」

「……どういう意味だ?」

「君、僕がリタに対してどういう感情を持っているか知ってるよね」

「…………」


 使い込まれてなめらかになった切っ先がランスロットの鼻先に迫る。

 それとなくアレクシスの表情を窺おうとしたが、木の葉の濃い影がちらついて、微笑んでいるのか怒っているのかすら読み取れない。



 

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