エピローグ 一角獣の正体
時刻は深夜。
月は厚い雲によって覆い隠されている。
王宮の回廊を歩いていたその男は、かつて大ホールがあった場所へと辿り着いた。美しく着飾った貴族たちが集い、踊り、贅を尽くした夢の空間が、今はただ大量の瓦礫が積み重なっただけの廃墟と化している。
「しかしまあ、見事に潰したものだね」
「はい。予定では『白の魔女』ごと証拠を消し去るつもりだったのですが……。余計な邪魔が入ってしまいまして」
男の傍にはもう一人別の男が立っており、そう言いながら恭しく頭を下げる。その襟元には一角獣をモチーフにした王族の紋章が入っていた。
「ヴィクトリアね……三十年近くその姿を見た者がいなかったから、さすがに天命を迎えたと思っていたんだけれど……。まさか、あんな可愛らしい姿になって生きていたとは」
かつてのパーティーで目にした、可憐な少女を思い出す。まさかあんな小さな子どもが、かの冥王を打ち倒し、この世のあらゆる精霊を従えたという伝説の魔女だとは誰も思うまい。
「しかしまさか、ランスロットまで飛び込んでくるとはね。彼には次期公爵として期待しているから、あまり無茶はしないでほしかったんだけど」
「幸い、退院されたと聞いております。またお会いする機会はあるかと」
「そうだね。ま、きっと嫌でも顔を合わせることになるだろうし」
ふふ、と男が微笑み、瓦礫の中から黒い葉っぱをつまみあげた。根元の方を持ち、しばらくくるくると回して遊んでいたものの――やがて手のひらに収め、ぐぐっと力を込める。
次に手を開いた時には、黒い靄となって掻き消えてしまった。
「もうすぐ……もうすぐ『冥王』様が復活する。そうすればこの世界はすべて平等で、争いのない素晴らしい世界になる」
「…………」
やがて風が吹き、夜空に浮かんでいた雲がわずかに動いた。青く輝く月が露わになり、二人の男たちの姿を照らし出す。
背の高い金髪の男と、灰色の髪の男。
「最後までわたしについて来てくれるか? ――レオン」
その問いかけを聞き、レオンと呼ばれた従者が静かに口角を持ち上げた。
「もちろんです。……ジョシュア王太子殿下」
月の光が、ジョシュアの淡い金髪を鮮やかに照らし出す。宝石のような緑色の目を細め、まるで天使のように美しく微笑んだ。
「さあ――我ら、冥王様に栄えあれ」
嵐の訪れを予感させる、湿った夏の風がさあっと彼らの髪を揺らした。
(第二部 了)
第二部お付き合い下さりありがとうございました。
次で完結予定ですので、気長にお待ちいただけたら幸いです。





