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最下位魔女の私が、何故か一位の騎士様に選ばれまして  作者: シロヒ
第二部

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第六章 3



 リーディアとセオドアがペアに戻った結果、ランスロットがパートナー不在の状態となってしまった。当然、リーディアの後釜に乗ろうと、多くの魔女候補たちが争いを繰り広げる――はずだったのだが、そこにエドワード休学の知らせが入ったのだ。


「本当はまだ、エドワード殿下と組みたかったとか……」

「い、いや、それは大丈夫! というか、私の方からお願いするつもりだったし……」

「お前から?」


 パートナーを解消されたリタは、すぐにランスロットのもとに向かうつもりだった。だがどこでどう聞きつけたのか、ランスロットが怪我だらけの体で「もう一度、俺のパートナーになってくれ!」と病室まで言いに来たのだ。

 部屋にはエヴァンシーとミリアが見舞いに来ており、彼女たちのどこか温かい眼差しに赤面しながらも、リタは「よろしくお願いします」と答えた。


「だってそもそも最初に、私が解消しようって言い出したわけで……。しかもそのせいで、ランスロットに変な誤解させたし……」

「あ、あれはその、俺も悪かったというか……」

「だから……今度こそ、ちゃんと伝えたいなと思って」


 そう言うとリタは手にしていた皿を近くのテーブルに置き、ランスロットにまっすぐ向き直った。衣装こそ違うが、彼に初めて選ばれた入学式のことを思い出す。


(最初は、どうして私を? と思ったけど……)


 ランスロットは単なる成績の良し悪しではなく、あの時いじめられていたアレクシスを勇気をもって助けたという行動を――誰かが一方的な尺度で決めた点数や評価ではない、ありのままのリタを見てくれた。

 それが、すごく嬉しかった。


(……ヴィクトリアだってそう。伝説の魔女だなんだと持ち上げられているけど、本当の私はただ魔法が好きなだけで、冥王を倒したのだって大好きな人の役に立ちたかったから。ダンスだって下手だし、失恋を何百年も引きずっているような……本当はそんな、情けない奴なのよ)


 伝説の魔女・ヴィクトリアも。

 最下位魔女のリタ・カルヴァンも。

 どちらも同じ自分自身。だから――。


「ランスロット・バートレット。私は、あなたをパートナーに指名したい」

「っ……!」


 かつて投げかけられた言葉を、そっくりそのまま彼に伝える。ランスロットは驚いたように目を見張り、すぐ嬉しそうに破顔した。


「ああ。……今度こそ、よろしく頼む」

「うん!」


 それを聞いたリタは、あらためて満面の笑みを浮かべたのだった。




 その後もパーティーは続いたものの、少しずつ参加者の数が減ってきた。終了時間の決まりがないため、疲れたり眠くなったりした生徒はいつでも寮に帰って休んでいいというルールなのだ。


「リタ、まだ帰らなくていいのか?」

「うん。ランスロットこそ大丈夫? まだあの時の傷が残ってるんじゃ……」

「…………」


 するとランスロットはちらっと周囲を確認したあと、どこか複雑な顔になった。


「いや、いい。パートナーとして、お前を寮まで無事に送り届ける義務があるからな」

「子どもじゃないんだし、そこまで心配しなくても」

「お前がそうやって不用心だから、俺が代わりに警戒してるんだろうが……」

「?」


 最後に何かぼそりとつぶやいた気がしたが、近くにいた男子グループの歓声でよく聞こえなかった。リタは近くにあったグラスを手に取ると、今回の事件を思い出しながら口に運ぶ。


(でも結局、シャーロットに手紙を寄こしたのは誰か、分からずじまいなのよね……)


 ミリアとエヴァンシーが調査を進めているが、いまだそれらしき犯人の目星は立っていない。幸い、シャーロットから研究についての詳細が聞き出せたため、今後『冥獣』に対抗するためのなんらかの方法が編み出せるだろう、とミリアが言っていた。

 とはいえ地下研究室があの状態では、犯人の特定も対応策の準備もそれなりに時間がかかりそうだ。


(そもそも、あの時の地震って偶然に起きたものなのかしら? なんだか、シャーロットが来たタイミングを狙って発生したような気もするんだけど……)


 引っかかっていると言えば、例の黒い植物だってそうだ――とリタはグラスに口をつける。おそらく元々は、空間の精霊が口にしていた『冥府の干渉を受けた素体』――『灰の森』に生えていた草だったのだろう。『王族の紋章』を持つ誰かが採取に訪れた、それがシャーロットだと思っていたのだが――。


(シャーロットは『灰の森』には一度も行ったことがないと言っていた。実際、草も手紙の相手から受け取っていたと証言していたし、あの子は指示されてあの植物を作り出しただけ……。じゃあ、『王族の紋章』を持つ人間っていったい誰なの……?)


 そして根底の問題として、いったい誰がシャーロットに力を与えたのか。


(魔法を超越する力……そんなものがあるとすれば、『冥府』からの何かしか考えられない……。もしかしてすでに『冥王』はこの世界に復活している? でもそれならどうして、四百年前のようにすぐにでも侵略を始めないのかしら……)


 攻勢に出られない事情があるのか。

 来たるべき時を待っているのか。

 もしくは――空間の精霊が言っていた『使者』のことが関係あるのだろうか。


 いよいよ頭が混乱し、リタはくいっとグラスの残りを飲み干す。喉に強いアルコールが流れ落ち、かっと痺れるような熱が全身を駆け巡った。

 するとそんなリタに向けて、ランスロットがこそっと話しかける。


「そういえばその、ちょっと確認したかったんだが」

「うん?」

「この前――地下に生き埋めになった時、その……俺が言ったこと、聞こえたか?」

「……?」


 突然の質問に、リタはぼんやりとあの時の状況を思い出す。

 大きな地震が起きて、もうダメだと思ったところにランスロットが来てくれて、しばらくの間二人で抱き合って――最後、ランスロットが何かを口にした。


(ええと、たしか……)


――『……でも違うんだ……。本当はそんな、理由じゃなくて……』

――『俺、ヴィクトリア様より……、――のことを、好きに――』


 それを思い出した途端、リタは「はっ」と目を見張った。


「ちょ、ちょっとよく、覚えてないかも! い、意識も朦朧としてたし……」

「そ……そうか」

「な、何か大事な話だった⁉」

「い、いや! いいんだ、大したことじゃない、忘れてくれ」


 そう言って顔をそむけたランスロットの耳は真っ赤になっており、リタは思わず近くにあった新しいグラスをがしっと摑んだ。そのままあおるようにクイッと喉に流し込む。アルコールが全身に染みわたり、心臓がどくんと大きく跳ねた。


(ど、どういう意味……?)


 生きるか死ぬかの瀬戸際であの時はそれどころではなかったが、要は――ヴィクトリアより好きな相手ができた、という告白だったのだろう。


 あのランスロットに。

 あのヴィクトリアのことしか頭にないランスロットに。

 あのヴィクトリア様至上主義のランスロット・バートレットに。


(他に好きな人が……できた⁉)


 誰⁉ と脳の回路をフル稼働させて推測する。同じ学園の生徒か。さっき綺麗な三年生から話しかけられていたから、あの中の誰かかもしれない。いや、この態度をみるに女子生徒とは限らないのかも。もしくは教師との禁断の恋――。


(わあああ……‼)


 なんだか恥ずかしくなってきて、リタは赤面したまま別のグラスを手に取る。だがそこでふと、ショックを受けている自分に気づいた。


 

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