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第三章 選ばれた理由



 すべての魔女のパートナーが決まった頃、イザベラが粛々と呼びかけた。


「これで選考会は終了です。明日からは通常授業が始まりますので、けっして遅刻しないように。それからパートナーのいない騎士候補は、このあと私のところに来なさい」


 解散の号令とともに、張りつめていた緊張が一気にほぐれる。

 だがリタは今なお顔を蒼白にした状態で、一人ガタガタと震えていた。


(な、なんか、決まっちゃったけど……。本当にこの人が、私のパートナーなの?)


 顔を確認しようにも、また視線を外されそうで見上げる勇気がない。

 するとそこに、先ほど列の先頭にいた水色の髪の女子が話しかけてきた。リタではなく、隣に立つランスロットにだ。


「ランスロット様、お久しぶりですわ」

「リーディア嬢。あなたも今年入学だったんだな」

「はい。公爵様はお元気?」

「ああ。相変わらず元気に槍やら斧やらを振り回しているよ」

(し、知り合い? なのかな……)


 すぐ傍で交わされる親しげな会話を、ここで聞いていてよいものかとリタは逡巡する。

 やがてリーディアが、ちらっとリタの方を一瞥した。


「……それはそうと、こちらの方は元々のお知り合いですの?」

「いや。今日初めて顔を合わせた」

「まあ、そうなんですの? ……こう言ってはあれですけども、その、いちばん後ろの方におられたから、あまり成績がよろしくない方だったのではと思いまして」

(そうでーす! ビリでーす!)


 こくこくと無言でうなずくリタをよそに、ランスロットはわずかに眉根を寄せた。


「成績?」

「ええ。この学園では毎年、入試成績一位の騎士候補様は、同じくトップで試験をクリアした魔女候補を選ぶのが慣例となっているそうですわ。まあ当然ですわよね。強き者同士が手を取り合う――それこそがもっとも合理的ですもの」

「…………」

「ですからランスロット様は、一位のわたくしを当然選んでくださるのだと――」


 しかしリーディアが言葉を言い終えるより早く、ランスロットが口を開いた。


「俺は、そうした慣習に従う気はない」

「……えっ?」

「魔女にも色々なタイプがいる。大切なのは騎士との相性だ。攻撃に特化した者、補助魔法を得意とする者――単にテストの点を取れた者が優秀、というわけではないだろう」

「それは、そうですけども……」


 ばっさりと断じられ、リーディアは思わず唇を噛みしめる。

 そのまま鋭い目つきで脇にいたリタを睨みつけた。


「でしたらこの方は、さぞかしランスロット様のお役に立てるのでしょうね!」

「えっ⁉ いやあの、私は……」

「今日のところは失礼いたしますわ。……リタさん、これから仲良くしましょうね」

(絶対、仲良くする気ない……)


 強張った笑みを残し、リーディアは二人の前を去っていった。

 周囲がざわつき始めたと感じたのか、ランスロットがリタに話しかける。


「俺たちも行くぞ。ここは騒がしい」

「は、はい……」


 中庭を出て、人気の少ない回廊へと移動する。

 ずんずんと前を歩いていくランスロットを、リタはようやく呼び止めた。


「あ、あの」

「なんだ?」

「さっきの本当なんですか? 慣習に従う気がないって……」

「ああ」

「じゃあ私を選んでくれたのって――」


 沸き起こるわずかな期待を胸に、リタはもじもじと問いかける。

 だがランスロットは、しれっとした顔つきで言い放った。


「いちばん強い俺がいちばん強い魔女と組んで、それの何が面白いんだ?」

「……えっ?」

「そりゃあリーディアの言う通り、一位の奴を選べば間違いはないだろう。だがそれで今後学年トップになったとして、俺の実力が認められると思うか? 『パートナーの魔女が優秀だったから』と言われてしまえばそれまでだ」

「え、えーっと……」

「俺の目標は『最強の騎士』になることだ。その点、成績ビリのお前と組んだうえで学年一位を取れれば、それは『俺自身』が優秀であることの証明になる」

「それはそうでしょうけど……」


 要は、強い騎士と強い魔女が組むのは当たり前。

 弱い魔女と組んでも活躍できるのが、本物の騎士だと言いたいのだろう。


(ストイックと言っていいのか、はたまた身勝手ととるべきか……)


 なんとも複雑な表情を浮かべるリタを、ランスロットはじっと見つめていた。

 やがて片手をすっと差し出す。


「何はともあれ、俺はお前を選んだ。これからよろしくな」

「は、はあ……」


 手を取られ、力強くぎゅっと握られる。

 その包み込むような感触に、リタはふと勇者とのやりとりを思い出した。


(そういえばあの時も、こうして握手したっけ……)


 一緒に冥王を倒したい、とぽろりと口にした時。

 最初はぽかんとした表情で。でもすぐに満面の笑みを浮かべると、勢いよくリタ――ヴィクトリアの手を握りしめた。

 彼が自分を必要としてくれたことが、本当に――本当に嬉しかった。


(まあ、結局最後には選ばれなかったんだけど……)


 苦いものが喉の奥を通り過ぎる。

 リタはそれを呑み込むように、ぐっとランスロットの手を握り返した。



 

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