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最下位魔女の私が、何故か一位の騎士様に選ばれまして  作者: シロヒ
第二部

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第三章 4



「こんなに面白そうな授業があるんだね。楽しみだな」

「はは……」

(護衛、めっちゃ来るんだろうな……)


 騒然とする研修先を想像しつつ、リタはさっそく同じグループのメンバーを探そうとする。するとその視界を遮るかのように、先端を青く塗られた棒がひょいと下りてきた。


「もしかして、これを探してるのかな?」

「ア、アレクシス……」


 おそるおそる顔を上げる。そこにはくじを手にしたアレクシスが立っており、背後にいたローラが「きゃーっ!」と両手を合わせていた。


「リタ! 一緒のグループですよ! 嬉しいー!」

「あ、う、うん」


 ぎこちなく笑うリタの手を取り、ローラはぶんぶんと何度も上下させる。一方リタは、その隣でこちらをにこにこと見つめてくるアレクシスにただならぬ恐怖を感じていた。


(だ、大丈夫かしら……)


 どうかあとは平穏なペアであってくれ、と祈るような気持ちでリタは周囲を見回す。そこに嫌でも目立つ二人組――ランスロットとリーディアがこちらに向かって歩いてくるではないか。


(ま、まさか……)


 嫌な予感は見事にあたり、ランスロットが手にしたくじを持ち上げた。その端にははっきりと青色の塗料が輝いている。


「一グループ六人のようだから、これで揃ったようだな」

「なんだ、ランスロットが一緒か。なんだか普段と代わり映えしないなあ」

「俺も殿下とだけは一緒になりたくありませんでしたけどね」


 からかうようなエドワードにランスロットが真顔で答える。その様子をリタがハラハラと見つめていると、隣からリーディアの特大溜め息が聞こえてきた。


「あらやだ、あなたたちだったの。せいぜい足手まといにならないでちょうだいね?」

「そ、そっちこそ! 今度はなにかあっても助けてあげませんからね!」

「ま、まあまあ、二人とも……」


 むきーと言い返すローラをリタが懸命になだめる。そんな騒がしい光景を横目に、アレクシスがこっそりとリタにささやいた。


「ふふ、一緒のグループになれて良かった。二人で旅行なんて楽しみだね、リタ」

「全然二人じゃないけどね……」


 ぎゃーぎゃーと落ち着かないそれぞれを前に、リタはひそかに頭を抱える。やがて各グループに説明をしていた騎士科担任が、ようやくリタたちのもとに訪れた。


「待たせたな。お前たちが向かうのはアルバ・オウガだ」

「! 北の城塞都市ですか?」

「そうだ。エドワード殿下がおられるなら是非にという先方からの希望だ。出立は今週末。各自それまでに準備をしておくように」


 以上と指示を出し、騎士科担任はすぐ別のグループのもとに走っていく。研修先を聞いたリタはその場で静かに思考を巡らせた。


(アルバ・オウガ……。まさかこんな形で行けるようになるなんて)


 だがこれはチャンスだ。かつての『冥王』の根城を調べれば、『冥王教』や『冥府』について何か分かるかもしれない――とリタはこくりと息を吞む。

 するとその直後、エドワードがそっとリタの両手を取った。


「アルバ・オウガか。あそこは鹿料理が絶品なんだよね。美味しいレストランを予約しておくから一緒に食べに行こうね、リタ」

「えっ? ええっと……」


 それを見たランスロットが、すぐさまエドワードの手首を摑む。


「殿下、我々は遊びで行くのではありません。食事は決められた場所でしかとることができないと分かっているんですか」

「もちろん研修はちゃんとやるさ。でも自由時間くらいはあるだろう?」

「ですから――」


 苛立ちを募らせるランスロットに向かって、今度はリーディアが口を開く。


「ランスロット様、出立前に二人で旅装の準備をいたしませんこと?」

「いや必要ない。それよりリタ、お前は――」

「あーら、リタさんは一人でできますわよね?」

「う、うん……」


 リタが返事に窮していると、その脇でローラがウキウキと目を輝かせていた。


「おやつって持って行っていいんですかね⁉ あとで購買に買いに行きません?」

「おや、購買があるのかい? わたしも行ってみたいな」

「殿下! ですから遊びではないと何度言ったら――」

「…………」


 ぎゃあぎゃあと騒がしい一団を前に、リタはしばし言葉を失う。すると隣にいたアレクシスが、リタにだけ聴こえるような声量でぼそっと口にした。


「あーあ、僕たち以外全員腹痛で倒れないかなー」

「アレクシス……」

「だってそうしたら、ふたりきりになれるし?」

「はは……」


 頬を引きつらせるように微笑み、リタはそうっと視線をそらす。

 気分は完全に引率の先生だった。




 そして迎えた出立の日。

 早朝。集合場所である玄関ホールに到着したリタは、その場で「ふう」と肩を落とした。


(良かった、私が最初みたい)


 制服の上にローブを羽織り、手には着替えや防寒具が詰まった旅行鞄。だいぶ厳選したのだが、思ったより荷物が増えてしまった。ソファに座ってぼんやり待っていると、次いでランスロットが現れる。


「リタ、早いな」

「うん。なんか目が覚めちゃって」

「…………」

「…………」


 会話が途切れ、リタはなんとなく居心地が悪くなる。


(そういえば二人きりになるの、こないだのパーティー以来だわ……)


 ぎゅっと抱きしめられたことや髪を結んでもらったこと、二人だけでこっそりダンスを踊ったことを思い出し、リタはなんとなく頬を赤くする。

 するとランスロットが突然口を開いた。


「この前は……悪かったな」

「え?」

「パーティー。『三賢人』がいてくれたから良かったものの、もしいなかったら――」


 するとそこに布製の大きな荷物袋を担いだローラが現れた。袋の口からは、今購買で人気のお菓子が大量にのぞいている。


「おはようございまーす! お二人とも早いですねー!」

「あ、うん! おはよ、ローラ」

「…………」


 リタが慌ててそちらを向くと、ランスロットはすぐに口を閉ざす。続きをと話しかけようとしたが、今度は廊下の奥からリーディアがやってきた。背後には四人のメイドを引き連れており、それぞれが両手に巨大な旅行鞄を携えている。


「おはようございます、ランスロット様。ついでにリタさんとローラさんも」

「お、おはようリーディア。ええと、その荷物は……」

「わたくしの着替えですわ。本当はもう三つあったのですけども、イザベラ先生から言われてここまで絞り込んだのです」

「絞り込んだんだ……」


 遅れて小さなリュック一つのアレクシスが合流し、残るはエドワードだけとなる。しかし出立の時間になってもいっこうに姿を見せず、ランスロットがこめかみに血管を浮かべながら毒づいた。


「もう待てん。いい加減出るぞ」

「た、多分、もう来るんじゃないかと……」


 リタがなだめようとしたその時、校舎の外から物々しい蹄の音が聞こえてきた。それらはどんどん近づいてきて、やがて玄関扉を隔てた先で止まる。

 直後、勢いよく扉が開き、まばゆい朝日を背負ったエドワードが立っていた。


「おはようリタ! さあ行こうか!」

「行こうかって……」


 おそるおそるエドワードの背後を見る。

 そこには、これから隣国の晩餐会にでも参加するのかと言わんばかりの立派な箱馬車が停まっており、周囲には馬に乗った護衛騎士たちがずらりと勢ぞろいしていた。


「エドワード殿下……もしかして、これで行く気では……」

「もちろんそうだよ。君との初めての旅行なんだし、これくらいはね」

「いや研修……」


 呆然とするリタの手を取ると、エドワードは流れるようなエスコートで客車に招き入れる。そのまま「うん」と満足げにうなずくと、残る四人に声をかけた。


「君たちは後ろの馬車に乗るといい。それじゃあ行こうか!」

「殿っ――」


 激怒するランスロットの顔がちらっと見えたものの、すぐに外からガコンと扉が閉められる。あっという間の出来事にリタがぽかんとしていると、向かいに座ったエドワードがどこからともなく銀の皿に乗ったフルーツを取り出した。


「朝食はまだだろう? 良かったらこれ」

「あ、はい……。というかあの、この広さなら全員乗れたのでは……?」

「うん。でも君と二人きりになりたかったからね」

「はは……」


 まもなく馬車は静かに動き出し、最初の宿泊地までの街道を駆けていく。技術の進歩か、王族専用馬車の性能か。王宮暮らし時代にも味わったことのない安定した走りを座席越しに感じていると、対面にいたエドワードがにこっと微笑んだ。



 

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