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最下位魔女の私が、何故か一位の騎士様に選ばれまして  作者: シロヒ
第二部

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第三章 それぞれの恋、それぞれの思い



 午後の授業を終えた放課後。

 オルドリッジ王立学園はいつになく賑やかだった。


「見て! 本当に『三賢人』よ!」

「わたくし初めて見ましたわ。全員お揃いだなんて何かあったのかしら」

「『白の魔女』様、噂じゃとっくに百歳を超えておられるらしいのに、とてもそうは見えませんわ。なんてお美しいのかしら」

「それをいうなら他のお二人もでしょう? 『赤の魔女』様の凛々しさときたら!」

「わたくしは断然『青の魔女』様ですわ。あの聡明な眼差し、稀有なライトブルーの髪、雪のように白い肌……まるで人形が動いていらっしゃるようだわ」

「お三方ともそれぞれ精霊と契約なさっていて、自由に会話できるんですって」

「素敵~! わたしも一度でいいからお話ししてみた~い!」

「…………」


 教室の窓から中庭を眺め、キャッキャッとはしゃいでいる同級生たちの様子を見て、隣にいたローラが興奮気味に口にした。


「リタは見ないんですか⁉ あの『三賢人』ですよ!」

「ああ、いや……私はいいかな」

「?」


 その一方、教室の一角から「ええーっ!」と驚きの声が上がる。


「リーディア様、『三賢人』にお会いしたことがあるんですか⁉」

「ええ、先日のパーティーに来られていてね。少しお話もさせていただいたわ」

「すごーい! さすがリーディア様!」

「もしかして今日お越しになったのって、リーディア様にお会いするためかしら⁉」

「王宮へのスカウトだったりして!」


 キャーッと黄色い歓声が上がる傍ら、リタはこそこそと荷物をまとめて立ち上がる。だが魔女科一年担任であるイザベラが現れたかと思うと、今まさに退室しようとしていたリタを見つけて淡々と告げた。


「リタ・カルヴァン、『三賢人』があなたにお会いしたいと来られています」

「……は、はい」

「荷物を置いたら、至急学園長室に来るように」


 イザベラがいなくなると、教室内はシン……と不気味なほど静まり返った。全員の注目を一身に浴びながら、リタは足早に教室を出る。

 廊下に出てしばらくしたあたりで、背後から「なんで⁉」「どういうこと⁉」という叫び声が聞こえてきて、リタは「あああ」と苦悶の表情で走り出した。


(明日からどんな顔して教室に行けば……!)


 やがて学園長室に到着し、リタは手早くノックする。すぐに返事があり、中から血相を変えた学園長が飛び出してきた。


「リリリ、リタ・カルヴァン! これはいったいどういうことかね⁉」

「えーと、そのー」

「あの、我が国が誇る『三賢人』が! 皆さまお揃いで! 君に会いたいと‼ まさか、何かとんでもないことをしでかしたんじゃないだろうねえ⁉」

「あー大丈夫です。ただ――」


 すると慌てふためく学園長の背後に『赤の魔女』――エヴァンシーがぬっと姿を見せた。


「失礼。少しの間、我々だけで話をしたいので席を外していただけますか」

「は、はひぃ……」


 エヴァンシーにひと睨みされ、学園長は矢も楯もたまらず逃走する。その背中をエヴァンシーはじっと見つめていたが、そのまま視線をリタの方へ向けた。


「…………」

「こ、こないだぶりね、エヴァンシー……元気だった?」


 頭一つどころではない身長差のまま、リタはおどおどと微笑みかける。そんなリタをエヴァンシーは無表情で見下ろしていたが――突然、両目からポロリと涙を零した。


「エヴァンシー⁉」

「お母様……ほんとにお母様だぁ……」


 そのままリタを抱き上げると、腕の中に収めたままさらにめそめそと泣き始める。リタが苦笑しながらその頭を撫でていると、しびれを切らした二人――『青の魔女』ミリアと『白の魔女』シャーロットが部屋の奥から現れた。


「あーあ。やっぱり限界だったか」

「エヴァったら、今日までずっと我慢してたものね」

「ミリアにシャーロット、元気そうね」


 エヴァンシーに捕らえられた体勢のまま、リタは二人に向かって笑いかける。二人もまたそれぞれ嬉しそうに微笑むと、いまだ泣きべそをかいているエヴァンシーの背中をミリアがトントンと叩いた。


「ほら、とりあえず入った入った。質実剛健で一騎当千、この国最強と呼ばれる騎士団長様が泣いてるところを見られてもいいのかい?」

「よくない……」

「なら余計にだ。さ、お母様も」


 こうしてリタはエヴァンシーに抱えられたまま、学園長室の奥にある応接間に入る。奥のソファにリタとエヴァンシー、手前のソファにミリアとシャーロットが座った状態で、再度ミリアが口を開いた。


「あらためて。……またお会いできて嬉しいです。お母様」

「ええ。私も嬉しいわ」

「しかしまさか、絶対に不可能だろうと言われていた『肉体再構築の術』を成功させていたとは……。あれには理論上、時の精霊と契約しないと進めない箇所があったはずですが……いったいどうやって成立させたんです?」

「どうやってって、契約したのよ。時の精霊と」

「……はい?」

「ある日偶然知り合って。あ、でももう契約破棄になっちゃった」

「そんな……牛乳の定期購入じゃないんだから……」


 ミリアが額を押さえていると、隣にいたシャーロットがほんわかと笑う。


「すごいわ~。さすがお母様ね!」

「何言ってるのシャーロット。あなたこそ、実に見事な広域治癒魔法だったわよ。私でもあれだけの魔法は使いこなせないわ。たしか光と水、二種類の精霊と契約していたわよね」

「やだ、見てたんですか? 恥ずかしい~」


 はわはわと照れる姿は非常に可愛らしいが、こう見えて彼女は三人の中でいちばん年長の御年百十八歳。ちなみに他の二人も百歳を超えている。そんななか、四百歳になるリタが誇らしげに告げた。


「それにエヴァとミリアも、立派な魔女になったわね」

「お母様……」


 エヴァンシーは再び目のふちいっぱいに涙を浮かべ、ミリアはさりげなく眼鏡を外して目元を拭う。シャーロットが潤んだ瞳のまま、リタに向かってはにかんだ。


「お母様こそ、まさかこんな可愛らしい姿になっているなんて思いもしませんでした!」

「うっ、こ、これは……」


 案の定見た目を指摘され、リタはぎくりと顔をそむける。


「もしかして、国家を揺るがす極秘任務のためですか⁉ 生徒に紛して学園に潜入して、最終的には敵を校舎ごと大爆発! みたいな~」

「なるほど。さすがお母様。そのように壮大な目的があったとは」

「あ、いや、そういうわけじゃ……」

『せっかく若返ったから学園生活してみたかった』などと打ち明けるタイミングがなく、リタは「ははは」と曖昧な笑みを浮かべる。


 するとそれを聞いていたエヴァンシーが、「そういえば」と切り出した。


「この学園、以前冥獣の目撃報告がありましたね」

「えっ?」

「四カ月ほど前でしょうか。主犯らしき女は捕らえられましたが、証拠・証言ともに不十分で現在も拘留中です。そもそも『冥獣』を見たという証言があったにもかかわらず、建物や人的被害がいっさい確認できなかったため、騎士団では集団妄想の可能性を――」

「ごめん、それ私のせいだわ」

「といいますと……」


 この子たちには隠すだけ無駄だろう、とリタは前期の終わりに起きた事件をすべて説明した。三人はしばし熱心に聞いていたが、しばらくしてミリアが眼鏡を押し上げる。


「なるほど……。それはまた、めちゃくちゃなことをしましたね」

「たしかにお母様、治癒魔法はすっごい苦手でしたけど……。まさか、時間自体を戻すことで建物も致命傷も全部直しちゃうだなんて……」

「ですが納得しました。現場でエドワード殿下をお守りくださったこと、騎士団長として心からお礼を申し上げます」


 エヴァンシーがリタに深く頭を下げる。それを見たリタは恐縮しつつ、あらためてミリアの方を振り返った。


「ねえミリア。私が眠っている間に現れた『冥獣』……あれはいったい何だと思う?」

「…………」


 リタの問いかけに、ミリアは眼鏡のふちを再度指先で押し上げた。



 

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