第六章 3
『色々ごめんね、ランスロット』
「謝る必要はない。お前は俺のパートナーなんだから、これくらい当然だ」
『でも、もう充分だよ』
「……?」
『正直、またいつ魔法が使えるようになるか分からないし、やっぱり出来るだけ早く、新しいパートナーを見つけた方がいいと思う』
「…………」
『ランスロットだったら、誰に頼んでも絶対に引き受けてもらえるよ。だから――』
「……お前、俺が嫌いなのか?」
「⁉」
まさかの返答に、リタはぶぶぶんっと激しく首を振る。
『そういうことじゃなくて! このままじゃランスロットの迷惑に』
「前も言ったが、俺のことは心配しなくていい」
『でも――』
書くのが追いつかず、リタはしゃがみこんで必死に手を動かす。
するとランスロットがその手を摑み、リタの膝の上にあったノートをすっと引き抜いた。
「……?」
次の瞬間、両手でつかんでビリビリっと真っ二つに破いてしまう。
「――――‼」
「よし、これでもう話は終わりだ」
「――⁉ ――――‼」
「そんなに怒るな。あとで新しいのを買ってやるから」
なんてことを、とリタはランスロットの背中を両手でぼかすかと叩く。
それを受けてランスロットは珍しく「はははっ」と笑った。
「だってノートがあったら、ずっと言い合いになるだろ」
「…………」
「そう膨れるな。きっとテストまでには良くなるはずだ」
「…………」
リタはその場でしばし押し黙っていたが、もう一度そっと手を伸ばした。
指先で、ランスロットの背中にゆっくりと文字を書く。
『どうして』
「ん?」
『ここまでしてくれるの』
「…………」
俯くリタの顔をちらりと見たあと、ランスロットはいつもの調子で口にした。
「何度も言っているだろう。お前は俺の、パートナーだからだ」
「…………」
「何度言われようとも俺は、お前が本気で俺を嫌いにならない限り、パートナーとして隣に立ち続ける。だからお前も、俺に愛想を尽かすまでは一緒にいてくれないか?」
振り返ったランスロットが小さく微笑む。
それを目の当たりにしたリタは、おずおずと指を動かした。
『わたしで いいの』
「ああ」
『せいせき さいかいだよ』
「知ってる」
『まほう ずっとつかえないかもしれない』
「絶対治る。大丈夫だ」
「…………」
リタはそっと、ランスロットの背から指を離した。
そのまま前に回り込むと、彼の手をとってあらためて一文字ずつ書きつける。
『あ』
『り』
『が』
『と』
『う』
「……ああ」
顔を上げると、嬉しそうに笑うランスロットと目が合った。
勇者様とは全然違う顔。
銀の髪。青い瞳。
それなのに、まるで彼と向き合った時のように妙に胸がざわつく。
(私、どうしちゃったのかしら……)
その不思議な感覚に、リタは一瞬だけ不安を忘れたのだった。





