表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/81

第四章 5



「あれは騎士側の采配ミスだな」

「えっ?」

「あの魔女候補の使う魔法は、今回の敵と相性が悪かった。敵の周囲を火焔で取り囲むか、剣に炎を付与効果(エンチャント)させればまだ勝機はあったかもしれんが」

「なるほど……」


 さすが、騎士科一位というのは伊達ではないらしい。

 リタがひとしきり感心していると、突然背後から「あの!」と声をかけられる。


「す、すみません、お話し中……」

「アレクシス! どうしたの?」

「こ、この次の次くらいが、僕の番なんだけど、その……良かったらリタに、手伝ってもらえないかって……」


 相変わらずおどおどした様子のアレクシスに苦笑しつつ、リタはすぐに快諾する。


「もちろん。頑張りましょう!」

「う、うん!」


 ランスロットを見学席に残し、アレクシスとともに二回目の開始位置につく。再戦となるリタは、あらためて敵の捕らえ方を考えた。


(さっきは跳躍力を低く見積もっていた。でも最初から上まで覆ってしまうと、剣での攻撃手段がなくなる。なら――)


 担任の野太い「始め!」の合図に合わせ、リタはすばやく杖を構える。


「――土の精霊よ、彼の者を取り囲め」


 一戦目と同様、獣の周囲に分厚い土壁がせり上がる。

 獣もまた慣れた様子で、飛び上がる予備動作を見せた――そのタイミングを見計らって、リタは新たな魔法を重ねる。


「――草の精霊よ、彼の者を縛り上げよ!」


 地面から生えた植物のつたが、みるみるうちに獣の体に絡みつく。跳躍している間はそれ以上移動出来ない――それを狙っての二段階捕獲だ。


「アレクシス!」

「う、うん!」


 リタの叫びに背中を押されるようにして、アレクシスが植物のつたごと獣を叩き切る。獣はあっという間に光の粒となり、背後で「合格!」という声が響いた。


「や……やった! ありがとう、リタ……!」

「どういたしまして。アレクシスも迷いない太刀筋だったと思うわ」

「リタが敵を捕まえてくれたからだよ。やっぱりすごいな……」

「そ、それほどでも……」


 うっとりと尊敬のまなざしを送ってくるアレクシスに、リタは照れたように頬を掻く。そこにイザベラが訪れ、リタの魔法を素直に評価した。


「リタ・カルヴァン。実に素晴らしい魔法構成でした」

「あ、ありがとうございます!」

「その杖はあなたにとても合っているようですね。今後の授業でも期待していますよ」

「は、はい……!」


 珍しくイザベラに褒められ、リタは思わず顔を赤くする。

 意気揚々とランスロットのもとに戻ってきたところで、ローラたちがいなくなっていることに気づいた。


「あれ、あそこにいた二人は?」

「少し前にどこかに移動したぞ。反省会じゃないのか?」

「反省会……」


 確かに、他にも何組か姿を消しているペアはある。

 だが妙な胸騒ぎを覚えたリタは、ランスロットに背を向けた。


「ごめん、ちょっと探してきていい?」

「なぜだ?」

「ちょっと気になって……すぐ戻るから!」


 するとランスロットは、ふむ、と顎に手を添えた。


「なら俺も行こう」

「えっ」

「どうせあとは見ているだけだ。多少席を外していても成績に差はつくまい」

「そりゃそうだろうけど……」


 言い争っている時間も惜しく、リタはランスロットとともにローラたちを探す。

 学習棟、実習棟、学生寮――と回っていたところで、ようやく裏庭にいる彼らを発見した。しかしどこか様子がおかしい。


「――おい、どうしてくれんだよ‼」

「ご、ごめんなさい! 次は……ちゃんと……」

「うるせえ‼」

(――‼)


 その瞬間、男子生徒はローラの頬を平手で殴りつけた。

 ローラはよろめき、近くにあった壁にどんっと叩きつけられる。


「なっ⁉ えっ⁉」

「あれは……ローデル子爵家の次男だな」


 突然のことに取り乱すリタとは対照的に、ランスロットは静かに状況を分析する。物陰から見られているとは気づかないまま、男子生徒はなおもローラを叱り飛ばした。


「まだ殴られ足りないか? あ? 今までにも散々指導してやったのによお!」

(指導って……まさか……)


 毎日のように増えていたローラの傷。

 てっきり魔法の練習で付いたものだと思っていたのだが――もしや彼の暴力で出来たものだったのか。

どうしよう、とリタが動揺していると、隣にいたランスロットが剣の柄に手をかける。


「――よし、ヤるか」

「えっ⁉ さささ、さすがにそれは犯罪では」

「馬鹿、殺すとは言ってない。ちょっと制裁をくわえるだけだ」

(めちゃくちゃ怒ってるー!)


 一見冷静に見えていたランスロットだったが、『騎士』としての逆鱗に触れたのだろう。今にも白手袋を叩きつけ、決闘を申し込みそうな形相で男子生徒を睨んでいる。


(でも確かに、このまま見過ごすわけにはいかない……)


 リタは覚悟を決め、声をかけようと一歩を踏み出す。

 だが次の瞬間――俯いていたローラが突如顔を上げ、男子生徒の手首を摑んだ。


「なっ、何を――いたたたたたっ⁉」

「…………」


 そのまま男子生徒の腕を捻り上げる。

 男子生徒は必死にローラを引き剥がそうとしたが、いっこうに振りほどけない。


「やっ、やめろ! 折れる――」

「…………」

「ローラ⁉ さ、さすがにそれ以上は……」


 慌てて飛び出した二人だったが、ローラはなおも離そうとしない。

 リタが駆け寄り、その腕を摑もうとすると「うるさい!」と乱暴に追い払われた。


「ロ、ローラ……?」

「うるさい、うるさい、うるさいっ……! もうみんな、だいっ嫌い……‼」


 気が動転しているのか、あろうことかローラはリタに向かって拳を振り上げてくる。


(まずい、防御を――)


 しかしリタが呪文を紡ぐより早く、間に入ったランスロットがそれを受け止めた。


「おい。怒りたい気持ちは分かるが、少し落ち着け」

「う……るさいっ!」


 ローラはそのまま足を高く蹴り上げる。

 ランスロットはすぐに対応しようとしたが、わずかに遅れが出てしまった。その隙をついてローラはなおも攻撃を続ける。


(ローラ……本当に魔女⁉)


 蹴り技から、上体を振りかぶっての力強いパンチ。

 しなやかな体の動きは魔女というより、剣を持たずに戦う『武装修道士(モンク)』のようだ。

 そのうえ――


(何あれ……? 全身から、黒い靄みたいな……)


 冥王、冥獣――

 彼らに共通する不自然な黒い霧が、ローラの全身からわずかに立ち上っていた。


(まさか冥獣? でもどうして人の体から――)


 だが迷っている間も、ローラは猛撃の手を止めようとしない。

 防戦一方になっているランスロットの姿を見て、リタは脳内回路をフル稼働させた。


(とりあえずローラを止めないと――)


 しかしリタが迷っている間に、ローラは何ごとかをぶつぶつ唱え始めた。直後、彼女の両手から真っ赤な炎が立ち上る。


(拳に直接炎を⁉ そ、そんなことしたら後で大変なことに――)


 さすがのランスロットも仰天したらしく、「おい!」とリタに向かって叫んだ。



 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
\書籍版1巻発売中です!/
cbxoer2z1mwr9feo66p04rbrda0l_d6t_9s_ef_1ucx.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ