戦い方
一通り書物から情報を得た後に、俺は酒場を訪れて情報収集を行う。カウンターで料理を作る男性店主の話によると、ここから北へ進んだ町で魔物が襲来し、騎士団が撃退したとのことだ。
「魔物はかなりの数いたようだけど、その町は城壁もあったし、騎士団も十分な人数いたから対処できたみたいだ」
「……そうして魔物が襲ってくるケースは今まであったんですか?」
「ないよ。魔王が二体出現してからだ。どっちのせいなのかわからないが、国は防衛計画の見直しをしてるって話だ。この近くにも城壁のある町はあるが、そこに騎士団が派遣されるらしい」
なんだか物々しい状況となっているようだ。ふむ、魔王が現れてからこの国は色々と準備をしている。しかし、敵の動きが早いという状況のようだ。
そして、魔物の動きが活発になっている……場合によってはどこかの町で被害が出るかもしれないな。魔物の矛先が城壁を備えた町だけならいいけど、それ以外……例えば俺が現在いる町にはない。もし襲われたら――
「無作為に襲っているのか、それとも計画的なのか……」
その辺りについてはわからないのでどうとも言えないか――千年前と魔王の思考が同じであれば、俺も動きがわかれば敵の意図とか読めそうだけど、現時点では情報が少なすぎるし厳しいか。
「ま、ひとまず自分の目的を優先しよう――」
翌日、俺は廃墟となった地下研究所へ舞い戻る。散策を行ってみるのだが、予想していた通り過去へ戻れそうな手がかりは一切ない、というか資料などは完全に消え去っている。
「風化してしまったと考えるのが妥当か……むしろ構造物が残っているのは奇跡かな?」
研究所は洞窟を利用して作られているため、壁などが壊れてもその奥にあるむき出しの岩壁が現れるだけなので、ここが崩れることはない。ただ、ここで魔法を研究していた……という事実も、残る瓦礫から調べるのは困難だろう。
「過去へ戻る魔法は一から探さないと無理そうだな……」
そもそも、魔法を使った老齢の魔法使いでさえ、あの状況は予想外だった。よって未来や過去を行き来できるどうかどうかも不明瞭だが……俺は未来へ辿り着いた。諦めずに探すしかなさそうだ。
「研究者だけじゃなくて、エルフとか竜とか、そういう種族と交流を持ってもよさそうだな。むしろ、その方が確率は上がるか?」
――千年という歳月は寿命がたかだか数十年の人間にとっては途方もない歳月だが、エルフや竜は違う。実際、俺が戦っていた時でさえ、千歳を越える竜は存在していた。
エルフも、王様になれるほどの力を持っているなら千年生きる存在もいるらしいので、俺のことを憶えている存在がいるかもしれない。
「名声を高めるより、そちらを先にした方がいいか……? いや、結局情報を集めるには有名になった方が手っ取り早いな。それに、名が知られれば向こうからエルフや竜が干渉してくるかもしれないし……」
ここは当初の目標通り動けばいいだろう……うん、これで良いな。改めて今後の動き方をまとめたところで俺は外に出た。結局収穫はなし。まあじっくり進めよう。
「さて、町へ戻ったら仕事を引き受けて、路銀稼ぎから……」
まだ資金的には余裕があるけど、底をつく前に動いた方がいい……と、思いつつ町へ向かっていると、俺はある音を耳にした。
――ォォォォ。
狼の遠吠えのような声だった。何事か、と疑問に思う間に……俺は町の方角から煙が上がっているのを見て取った。
「あれは、まさか……」
全速力で駆ける。人が見れば跳ぶように――という表現をするであろう速度。一気に町へ近づき、すぐさま状況を理解する。
町の入口に、魔物がたむろしていた。その全てが四足歩行の形態であり、大きさは獅子くらいはあるもの。どうやら魔物は炎を吐くらしく、口から放たれるブレスが建物を焼いて、入口付近の家屋に延焼していた。煙はあれが原因らしい。
そして、町は――襲撃直後だったのか、家屋以外に被害が出ていない。町の入口で兵士や滞在していた冒険者達が敵の攻撃を食い止めていた。
「魔法――放て!」
兵士を統率する騎士が叫び、光弾や火球が放たれた。それらは魔物の群れへと直撃し、爆煙を生み出す。
だが――魔物の一体が吠えると、風を巻き起こして魔法を弾き飛ばし、砂塵を散らす。多数の魔法を受けて数体滅んだみたいだが、魔物の勢いは衰えていない。
それどころか、数が……どうやら魔物は街道を使って町へ襲い掛かっており、後続の魔物が存在している。周辺に魔法などによって魔物が生まれている様子はなく、街道の果て――そこから敵が押し寄せているらしい。
そして肝心の戦況は……常駐している兵士の数は少なく、さらに言えば冒険者の数も決して多くない。俺が顔を合わせた勇者一行がいれば状況は変わったかもしれないが、今のまま放置すれば陥落は時間の問題だった。
そうした状況に対し……俺のやることは一つだった。
「はっ!」
一気に魔物の群れまで到達すると、剣を振った。ヒュン、と一つ風切り音が聞こえたかと思うと、魔物の頭部が切断される。
俺の行動に対し、兵士や冒険者は軒並み目を見開きこちらへ呼び掛けた。内容は下がれとか、危ないとか警告を行うものだ。その反応は当然だが……これに対する返答は、戦いぶりで応じた。
刹那、俺の剣が一閃されると周囲にいた魔物の頭部が綺麗に切断される。それによって声も止まった。どうやら、相当な使い手――魔物の倒し具合からして、そう認識したらしい。
しかし、魔物の数は減らないどころか増える一方……俺は呼吸を整える。魔物の能力については明瞭に理解した。俺なら問題なく倒せるレベルであるため、どう戦うかを決める。
そして――魔物が俺へ狙いを定める。敵はどうやら近くにいる動くものを追う習性があるらしい。突進を仕掛けようとするが――それよりも先に俺の刃が放たれ、魔物を撃破することに成功。
次いで右側から迫る魔物。これも頭部へ斬撃を叩き込んで消滅。次に真正面から来るけど、こちらも同様に。今度は二体同時に来たが、刃の軌跡は正確に魔物の頭部に当たり、例外なく消滅した。
――様々な技法を習得していく中で、俺は自分なりに戦い方を考案した。一つは純粋な攻めの剣。そしてもう一つは、守る剣。端的に言えば味方の盾となって、襲い掛かる敵の猛攻を食い止める役割を担う際の動きだ。
今回の場合は、守る剣を用いた。魔法によって周囲の状況を察知し、敵と味方の状況を把握しながら町を守る――魔物はこちらへ向かってくるが、その全てを一刀の下に斬り伏せる。手の届かなかったり、口を開けブレスを吐こうとする敵には魔力の刃を飛ばして首を切断する。魔物は絶え間なく襲い掛かってくるが……攻め寄せる速度よりも、俺の剣が圧倒的に早く敵を倒し続ける。
その時、俺はふと思い出した――千年前、俺のことを世界が知るきっかけとなった十歳の戦い。あの時も、似たように戦場へ飛び込んで戦った。そして敵も味方も、俺の戦いぶりを見て驚愕した。
それはどうやら同じらしい……味方は驚愕し呆然と立ち尽くし、魔物側も瞬く間に数が減っていることでヤバい敵がいると魔物も認識。その足が、大きく鈍った。